ママは私に裁縫と魔法を教えてくれた、不思議な人形を作ったり、それを操ったりする本当に特別な力。
お母さんは私に家事と遊びを教えてくれた、メイドとして生きるための力を授けてくれた。
お母さんは人間だったらしい、だから私が生まれてから50年程で他界した。
ママは魔法使いだからあの頃からあまり変わっていないらしい。
私はお母さんとママの間で生まれたハーフらしい。どうやって生まれたかとか、いまだに誰も教えてくれない。
お母さんとママは結婚しても同棲はしていなかった。いや、正確には結婚はしていないらしい。
私はママの家に住み、お母さんの住む紅魔館に仕事をしに毎日行っている。お母さんは私の仕事が終わると私と一緒にママの家に帰宅して、でも夜遅くになるとまた紅魔館に帰ってしまう。
ママはそれでいいとずっと言っていた。私にはよくわからなかった。
「おはようございます」
「おはよう、今日も可愛いね」
変わった挨拶を毎朝してくれるのは、図書館の管理をしている小悪魔さんだ。
お母さんはいつまで小悪魔なんだとよくつぶやいていた。
「特にこの肌触りが、咲夜さんの面影があるなー」
とにかくこの人は私のことを可愛がってくれる、お母さんの体が弱っていたのを一番最初に気がついたのもこの人だし、数十年と経った今でも多分一番お母さんの墓参りをしている。
「小悪魔さん、お仕事…」
「あ、ごめん」
聞いたところによると、小悪魔さんと門番の美鈴さんが特にお母さんを可愛がって育てていたらしい。
自分が育てた娘が、自分より先に老衰して死んでしまう心境はどういうものだったんだろう、私にはよくわからないが……多分、それは辛いことなんじゃないだろうか。
ママはお母さんの葬式に一番最後に訪れた。
私はずっとママを探していたが、幻想卿あちこちを飛んでも結局見つけられず、諦めて紅魔館に戻ってきた時。
雨に濡れて墓石にうなだれるママを見つけた。
私の存在に気がついていなかったんだろうか、ママは独り言のように、でもそこにいる誰かに話しかけるように呟いていた。
「ほら、だから言ったじゃない」
「どうして好きになったの?」
「自分勝手に好きになって自分勝手に死ぬのね」
今でも忘れない、お母さんへの恨み言。
ママは怒っていたんだろうか、枯れない涙を流し続け、物言わぬ墓石を抱きしめながら。
私が傘をさしてあげると、今まで存在に気がついていなかったのか、驚いた顔をした。
そして涙を拭いながら、帰るわよと小声で呟いた。
私ももちろんお母さんが死んでしまったことは悲しかった、でもママが何を考えているのかわからなくて、その時とても苦しかった。
お母さんとママはそれはそれは、仲がよかった。
目が合えば笑顔を見せ合い、会話を弾ませ、時には喧嘩もしていたがすぐ仲直りしていた。
だが、お母さんが元気がなくなっていく度にママも様子がおかしくなった。まるでお母さんの体調と比例しているかのように。
お母さんのお見舞いにもほとんどいかなかったし、行ってもママのほうから言葉をかけることはなかった。
無言で暗い顔をしているママをみて、お母さんはそれでも優しい笑顔を浮かべていた。そっけない返事しかしないママが相手でも退屈していなかったんだ。
今のママはあの頃のように元気はないけど、落ち着いて、私のことを見守ってくれている。
最近では里帰りをいつしようかと呟いていたようだが、またここにおいて行かれるんだろうか。
「ぼーっとしてるけど」
「…あ、え?」
「らしくないなあ」
庭の手入れをしていたとき、気がついたら綺麗に咲いた花の茎をぽっきりぽっきりとやってしまっていた。
長い考え事をしていて、少しどうかしていたみたいだ。
美鈴さんはたいしたことじゃないと私を励まして、背中を叩いた。
「なんか、悩み事?」
「……美鈴さん、お母さんのことなんですが」
「うん」
何度か美鈴さんにも相談をしようと思ったんだけど、他界してしまったお母さんのことを聞いてもいいものかと、少し遠慮していた。
「私のママ、どうしてお母さんのこと嫌いになっていったんでしょうか」
「……ああ、そのことか」
なんだ、という感じで美鈴さんは微笑んだ。
近くにあったベンチに腰をかけ、昔を懐かしむように美鈴さんは話し始めた。
「人間ってのは、生きても100年でしょ?」
「はい」
「でも私たちは結構長いこと生きれる」
「そうですね」
「それがわかっていながら、愛を育んだのが君の両親なんだよ」
そうだ、私は生まれたときからお母さんは短命だといわれてきた。
でも健やかに、元気に行き続けて短命だから何も気にすることはないって言われた。
そう言うお母さんの表情に曇りはなくて、それはそういうものなんだと達観していたようだった。
「咲夜さんのほうから告白して、アリスがそれを受け入れた、アリスはその時咲夜さんが老衰で数十年で死ぬことを覚悟していたのかと言うと………まったくそんなことはなかった」
「……」
「今でも多分アリスは咲夜さんが死んだことを受け止めきれてないんだ、気持ちもわかるけど」
「……美鈴さんは?」
「私?そうだなぁ」
少しだけ切なそうに笑って、うんと小さく頷いた。
「してたよ、最初から」
「…そうなんだ」
「でも、育てて、最後の最後までそれを見届けてあげられることがなんとなく私は嬉しかった……小悪魔とは違うかな」
「どういうことですか?」
「小悪魔は……咲夜さんをかなり気に入ってたから、でも咲夜さんがアリスと結ばれて、諦めるしかなくなったんだ」
「気に入ってたって…そういうことだったんですか?」
「そう、何もおかしいことはない、好きだったんだ」
だから、小悪魔さんはお母さんの看病もよくして、葬儀でも人一倍涙を流して……
でも、ママは…
「アリスの心境は私にもちょっとわかりかねるけど……複雑だったろうね、怒ってもいただろうし、悲しんでもいただろうし……」
「でもママは冷たかった、お母さんに」
「勝手に死にやがって、って思ってたんだろうね」
その言葉を聞いてはっとした、同じだ、あの時ママが呟いてた言葉と。
「勝手に溢れんばかりの愛情を注いで、それの虜にしておいて……圧倒的に先に死ぬ……多分これ以上の自分勝手はないね」
「……お母さんは悲しかったのかな」
「悲しかっただろうね、君がもっと成長するところも見たかっただろうし、アリスともっと一緒にいたかっただろうし……でも悲しかっただけで、後悔はしてないんじゃないかな」
「アリスも後悔はしてないよきっと、数十年でお別れしなければならないって知ってても、好きな人と一緒にいることを選び続けたんだから」
「……そうでしょうか」
「それに、忘れちゃいけない君のことだ」
私のほうを向いて、明るい笑顔を浮かべた美鈴さん。私が、どうしたんだろう。
「君が生まれてから、君の両親は今までよりずっと家族でいることを楽しむようになったよ、アリスだってここにちょっと近いところにわざわざ引っ越したんだ」
「……それは聞きました」
「君が生まれた時、咲夜さんとアリスだけじゃなくてみんな大喜びだった、小悪魔は複雑そうだったけど成長する君を見て可愛くてしかたないって思うようになったみたいだし、みんなに歓迎される君を見て、咲夜さんとアリスさんも二人で可能な限り一緒にい続けようって覚悟したんだと思う」
「………はい」
赤ん坊の私はレミリアお嬢様にビンタを繰り出すほど度胸があったらしく、えらく気に入られていた。
「アリスはもうちょっと時間がいると思うよ、でもそれは、それだけ人間の咲夜さんを愛して止まなかったからってことなんだよ、わかってあげてなんて言わないけど、君も誰かを好きになればわかるかもしれないね」
二人で墓参りをして、仕事に戻った。
最後まで美鈴さんは笑顔を絶やさなかったけど、お母さんの葬儀の時は信じられないほど表情を落として、やつれた作り笑顔をみんなに見せていた。
あの人は気丈で逞しくて、自分よりも他人を想う人格者だと思う。
私もああいう風に、ママを見れるだろうか。
お母さんのお見舞いをしなかったママを信じられるだろうか。
今の私にはよくわからないけど、いつか、私も誰かを好きになったらそうすることができるだろうか。
仕事が終わりに近づいてきた時、応接間でママがメイドの人達と談笑をしているのが見えた。
珍しく、私を迎えにきてくれたのかな。
「ママ」
「ああ、仕事は終わったの?」
「もうすぐ終わるよ」
「そう……大事なお話があるの」
なんだろう……あまり見たことがない、ママの緊張した表情。
でも私が不安になっているのに気がついてか、表情を緩めた。
「……たいしたことじゃないわ、ママ、しばらく里帰りをすることにしたの」
「…あ、そうなんだ」
「ええ……いろいろ、お話したいことができたから…」
「…わかった、じゃあしばらくはここにお世話になるね」
「……それでね」
「え?」
ママの表情が暗くなった、何が不安なんだろう……そう考えていると、私は気がつくとママに抱きしめられていた。
私も、周りのメイドの人達と同様に唖然として声が出なかった。
ママが泣いていた。
「ごめんね、私は悪いママだわ」
「ええ?」
「ずっと咲夜のことが忘れられなかった、今でもそう、そして貴方にも気を使わせてる」
「……気にしてないよ」
「だから、少し頭を冷やしてくるわ……私、ちゃんとしたママになるから」
「ママ」
ママは、やっぱりお母さんのことを今も昔も大好きだったんだ。
それを少しでも疑った自分が、情けない…
「お母さんのことを忘れないで」
「え…?」
「ママはずっとお母さんを好きでいて、お母さんを愛してずっと想ってくれるだけで私は嬉しい………忘れる必要なんてないし、私のことを気遣う必要なんてないよ」
「…でも」
「お母さんのことを想うママが嫌いなわけないよ、私だってお母さんのこと大好きだったから、ちょっと変わってるけど……世界で一番強くて優しいお母さんだから」
私の言葉を聞いて、ママは今よりもっと涙を流していた。
でも口元は綻んでいて、うんうんと頷きながら話を聞いてくれていた。
「お母さんがいなくてママが寂しいのは当たり前だよ、きっと私より、寂しいんだよね……」
「でもお母さんはずっとここにいるよ、私のために作ってくれたメイド服、私のために研いでくれた特性のナイフ、ママだっていっぱいお母さんからいろいろなものをもらったよね?私よりずっといろいろなもの」
「…うん、貰ったわ、両手で抱えきれない程、大事な物をたくさんもらった……今でも持ってる」
「……だから、お母さんはずっといるよ」
気持ちの整理をしたいからと、ママはやっぱりしばらく帰郷するらしい。
でも今度は自分を改めるためではなく、仲間達といろいろなことを話したいからと、そう言っていた。
私の頭を撫でるママの顔は明るくて、まるでお母さんに向けているように、少し幼いはにかんだ笑顔だった。
お母さん、お母さんが言った通りママは今でも泣き虫です。
すぐカッとなるし、勢いで行動しがちだし……
でも、お母さんがそんなママを好きになった理由ってなんとなくわかる気がします。
私もお母さんの娘だから、そんなだらしないママが可愛くて仕方がなかったんですね。
咲夜お母さん、だらしがないママのおかげで……まだ私は思いっきり泣けないみたいです。
でも大丈夫です、私はお母さんのように強くなります。そしたら、ママのような素敵なパートナーを見つけます。
私も少しだらしないくらいの女性が、好きみたいです。
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お母さんは私に家事と遊びを教えてくれた、メイドとして生きるための力を授けてくれた。
お母さんは人間だったらしい、だから私が生まれてから50年程で他界した。
ママは魔法使いだからあの頃からあまり変わっていないらしい。
私はお母さんとママの間で生まれたハーフらしい。どうやって生まれたかとか、いまだに誰も教えてくれない。
お母さんとママは結婚しても同棲はしていなかった。いや、正確には結婚はしていないらしい。
私はママの家に住み、お母さんの住む紅魔館に仕事をしに毎日行っている。お母さんは私の仕事が終わると私と一緒にママの家に帰宅して、でも夜遅くになるとまた紅魔館に帰ってしまう。
ママはそれでいいとずっと言っていた。私にはよくわからなかった。
「おはようございます」
「おはよう、今日も可愛いね」
変わった挨拶を毎朝してくれるのは、図書館の管理をしている小悪魔さんだ。
お母さんはいつまで小悪魔なんだとよくつぶやいていた。
「特にこの肌触りが、咲夜さんの面影があるなー」
とにかくこの人は私のことを可愛がってくれる、お母さんの体が弱っていたのを一番最初に気がついたのもこの人だし、数十年と経った今でも多分一番お母さんの墓参りをしている。
「小悪魔さん、お仕事…」
「あ、ごめん」
聞いたところによると、小悪魔さんと門番の美鈴さんが特にお母さんを可愛がって育てていたらしい。
自分が育てた娘が、自分より先に老衰して死んでしまう心境はどういうものだったんだろう、私にはよくわからないが……多分、それは辛いことなんじゃないだろうか。
ママはお母さんの葬式に一番最後に訪れた。
私はずっとママを探していたが、幻想卿あちこちを飛んでも結局見つけられず、諦めて紅魔館に戻ってきた時。
雨に濡れて墓石にうなだれるママを見つけた。
私の存在に気がついていなかったんだろうか、ママは独り言のように、でもそこにいる誰かに話しかけるように呟いていた。
「ほら、だから言ったじゃない」
「どうして好きになったの?」
「自分勝手に好きになって自分勝手に死ぬのね」
今でも忘れない、お母さんへの恨み言。
ママは怒っていたんだろうか、枯れない涙を流し続け、物言わぬ墓石を抱きしめながら。
私が傘をさしてあげると、今まで存在に気がついていなかったのか、驚いた顔をした。
そして涙を拭いながら、帰るわよと小声で呟いた。
私ももちろんお母さんが死んでしまったことは悲しかった、でもママが何を考えているのかわからなくて、その時とても苦しかった。
お母さんとママはそれはそれは、仲がよかった。
目が合えば笑顔を見せ合い、会話を弾ませ、時には喧嘩もしていたがすぐ仲直りしていた。
だが、お母さんが元気がなくなっていく度にママも様子がおかしくなった。まるでお母さんの体調と比例しているかのように。
お母さんのお見舞いにもほとんどいかなかったし、行ってもママのほうから言葉をかけることはなかった。
無言で暗い顔をしているママをみて、お母さんはそれでも優しい笑顔を浮かべていた。そっけない返事しかしないママが相手でも退屈していなかったんだ。
今のママはあの頃のように元気はないけど、落ち着いて、私のことを見守ってくれている。
最近では里帰りをいつしようかと呟いていたようだが、またここにおいて行かれるんだろうか。
「ぼーっとしてるけど」
「…あ、え?」
「らしくないなあ」
庭の手入れをしていたとき、気がついたら綺麗に咲いた花の茎をぽっきりぽっきりとやってしまっていた。
長い考え事をしていて、少しどうかしていたみたいだ。
美鈴さんはたいしたことじゃないと私を励まして、背中を叩いた。
「なんか、悩み事?」
「……美鈴さん、お母さんのことなんですが」
「うん」
何度か美鈴さんにも相談をしようと思ったんだけど、他界してしまったお母さんのことを聞いてもいいものかと、少し遠慮していた。
「私のママ、どうしてお母さんのこと嫌いになっていったんでしょうか」
「……ああ、そのことか」
なんだ、という感じで美鈴さんは微笑んだ。
近くにあったベンチに腰をかけ、昔を懐かしむように美鈴さんは話し始めた。
「人間ってのは、生きても100年でしょ?」
「はい」
「でも私たちは結構長いこと生きれる」
「そうですね」
「それがわかっていながら、愛を育んだのが君の両親なんだよ」
そうだ、私は生まれたときからお母さんは短命だといわれてきた。
でも健やかに、元気に行き続けて短命だから何も気にすることはないって言われた。
そう言うお母さんの表情に曇りはなくて、それはそういうものなんだと達観していたようだった。
「咲夜さんのほうから告白して、アリスがそれを受け入れた、アリスはその時咲夜さんが老衰で数十年で死ぬことを覚悟していたのかと言うと………まったくそんなことはなかった」
「……」
「今でも多分アリスは咲夜さんが死んだことを受け止めきれてないんだ、気持ちもわかるけど」
「……美鈴さんは?」
「私?そうだなぁ」
少しだけ切なそうに笑って、うんと小さく頷いた。
「してたよ、最初から」
「…そうなんだ」
「でも、育てて、最後の最後までそれを見届けてあげられることがなんとなく私は嬉しかった……小悪魔とは違うかな」
「どういうことですか?」
「小悪魔は……咲夜さんをかなり気に入ってたから、でも咲夜さんがアリスと結ばれて、諦めるしかなくなったんだ」
「気に入ってたって…そういうことだったんですか?」
「そう、何もおかしいことはない、好きだったんだ」
だから、小悪魔さんはお母さんの看病もよくして、葬儀でも人一倍涙を流して……
でも、ママは…
「アリスの心境は私にもちょっとわかりかねるけど……複雑だったろうね、怒ってもいただろうし、悲しんでもいただろうし……」
「でもママは冷たかった、お母さんに」
「勝手に死にやがって、って思ってたんだろうね」
その言葉を聞いてはっとした、同じだ、あの時ママが呟いてた言葉と。
「勝手に溢れんばかりの愛情を注いで、それの虜にしておいて……圧倒的に先に死ぬ……多分これ以上の自分勝手はないね」
「……お母さんは悲しかったのかな」
「悲しかっただろうね、君がもっと成長するところも見たかっただろうし、アリスともっと一緒にいたかっただろうし……でも悲しかっただけで、後悔はしてないんじゃないかな」
「アリスも後悔はしてないよきっと、数十年でお別れしなければならないって知ってても、好きな人と一緒にいることを選び続けたんだから」
「……そうでしょうか」
「それに、忘れちゃいけない君のことだ」
私のほうを向いて、明るい笑顔を浮かべた美鈴さん。私が、どうしたんだろう。
「君が生まれてから、君の両親は今までよりずっと家族でいることを楽しむようになったよ、アリスだってここにちょっと近いところにわざわざ引っ越したんだ」
「……それは聞きました」
「君が生まれた時、咲夜さんとアリスだけじゃなくてみんな大喜びだった、小悪魔は複雑そうだったけど成長する君を見て可愛くてしかたないって思うようになったみたいだし、みんなに歓迎される君を見て、咲夜さんとアリスさんも二人で可能な限り一緒にい続けようって覚悟したんだと思う」
「………はい」
赤ん坊の私はレミリアお嬢様にビンタを繰り出すほど度胸があったらしく、えらく気に入られていた。
「アリスはもうちょっと時間がいると思うよ、でもそれは、それだけ人間の咲夜さんを愛して止まなかったからってことなんだよ、わかってあげてなんて言わないけど、君も誰かを好きになればわかるかもしれないね」
二人で墓参りをして、仕事に戻った。
最後まで美鈴さんは笑顔を絶やさなかったけど、お母さんの葬儀の時は信じられないほど表情を落として、やつれた作り笑顔をみんなに見せていた。
あの人は気丈で逞しくて、自分よりも他人を想う人格者だと思う。
私もああいう風に、ママを見れるだろうか。
お母さんのお見舞いをしなかったママを信じられるだろうか。
今の私にはよくわからないけど、いつか、私も誰かを好きになったらそうすることができるだろうか。
仕事が終わりに近づいてきた時、応接間でママがメイドの人達と談笑をしているのが見えた。
珍しく、私を迎えにきてくれたのかな。
「ママ」
「ああ、仕事は終わったの?」
「もうすぐ終わるよ」
「そう……大事なお話があるの」
なんだろう……あまり見たことがない、ママの緊張した表情。
でも私が不安になっているのに気がついてか、表情を緩めた。
「……たいしたことじゃないわ、ママ、しばらく里帰りをすることにしたの」
「…あ、そうなんだ」
「ええ……いろいろ、お話したいことができたから…」
「…わかった、じゃあしばらくはここにお世話になるね」
「……それでね」
「え?」
ママの表情が暗くなった、何が不安なんだろう……そう考えていると、私は気がつくとママに抱きしめられていた。
私も、周りのメイドの人達と同様に唖然として声が出なかった。
ママが泣いていた。
「ごめんね、私は悪いママだわ」
「ええ?」
「ずっと咲夜のことが忘れられなかった、今でもそう、そして貴方にも気を使わせてる」
「……気にしてないよ」
「だから、少し頭を冷やしてくるわ……私、ちゃんとしたママになるから」
「ママ」
ママは、やっぱりお母さんのことを今も昔も大好きだったんだ。
それを少しでも疑った自分が、情けない…
「お母さんのことを忘れないで」
「え…?」
「ママはずっとお母さんを好きでいて、お母さんを愛してずっと想ってくれるだけで私は嬉しい………忘れる必要なんてないし、私のことを気遣う必要なんてないよ」
「…でも」
「お母さんのことを想うママが嫌いなわけないよ、私だってお母さんのこと大好きだったから、ちょっと変わってるけど……世界で一番強くて優しいお母さんだから」
私の言葉を聞いて、ママは今よりもっと涙を流していた。
でも口元は綻んでいて、うんうんと頷きながら話を聞いてくれていた。
「お母さんがいなくてママが寂しいのは当たり前だよ、きっと私より、寂しいんだよね……」
「でもお母さんはずっとここにいるよ、私のために作ってくれたメイド服、私のために研いでくれた特性のナイフ、ママだっていっぱいお母さんからいろいろなものをもらったよね?私よりずっといろいろなもの」
「…うん、貰ったわ、両手で抱えきれない程、大事な物をたくさんもらった……今でも持ってる」
「……だから、お母さんはずっといるよ」
気持ちの整理をしたいからと、ママはやっぱりしばらく帰郷するらしい。
でも今度は自分を改めるためではなく、仲間達といろいろなことを話したいからと、そう言っていた。
私の頭を撫でるママの顔は明るくて、まるでお母さんに向けているように、少し幼いはにかんだ笑顔だった。
お母さん、お母さんが言った通りママは今でも泣き虫です。
すぐカッとなるし、勢いで行動しがちだし……
でも、お母さんがそんなママを好きになった理由ってなんとなくわかる気がします。
私もお母さんの娘だから、そんなだらしないママが可愛くて仕方がなかったんですね。
咲夜お母さん、だらしがないママのおかげで……まだ私は思いっきり泣けないみたいです。
でも大丈夫です、私はお母さんのように強くなります。そしたら、ママのような素敵なパートナーを見つけます。
私も少しだらしないくらいの女性が、好きみたいです。
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でも御都合主義なエンドの方が大好き。
あえて娘の特徴をつけないとのことですが、なんとも歯がゆい……内容の方も。
ぜひ3人一緒で一番幸せだった時の話も見てみたいですね。
※幻想卿→幻想「郷」
このお話はとても素敵だと思った。
というかタグが卑怯。