Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

雨降り

2010/06/30 20:15:58
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しとり、と身体に纏わり付く湿気が鬱陶しく感じられる。
 梅雨の時期に突入し、十日は経ったであろう。この時期になると店の物に黴が生えてしまうのではと心配してしまうのだ。


「あ~めあ~め、ふ~れふ~れ。もぉ~っとふれ~」
「こんなに湿度が高いというのに、よくはしゃげるなぁ」


 傍で騒いでいる少女を見ていると、室内の気温と湿度が増していく気がして鬱屈とした心持ちになってしまう。
 此方に期待を込めた眼差しを向ける。唐傘の妖怪だということは承知だが、こう蒸し暑くては一歩も動く気にはなれない。


「ね~え~」
「ああ、残念だけど動く心算はないよ」


 一度外した視線を読みかけの本に戻す。
 湿度の所為か頁を読み進めていても内容が頭に入ってこない。


「むぅ~」
「止せ、苦しい。離れろ小傘」


 不意に小傘が後ろから首に腕を絡めてきた。
 小傘の背は低い部類に当て嵌まるので、絡めるというより引っ掛けてぶら下がるといった方が的確は表現と云えるだろう。


「はぁ~…」
「おや、中々素直だねぇ」


 抵抗しようと身を動かす前に小傘はするりと絡めた腕を解いた。


「霖ちゃんが、霖ちゃんが初めてわちきの名前、呼んだ」
「待てよ。誰が霖ちゃんなんだよ?」


 小傘の表情の明るさに疑問符を浮かべる他なかった。
 それよりも霖之助としては小傘の名前の呼び方が気に食わなかった。
 霖之助はまだ小傘に名前を伝えていない。それにも関らず何故、彼女は名前を知っているのだろうか。


「えぇとね、魔理沙がそう呼んでたよ。あれ?何か足りてないような…」
「よくもまあ彼奴の云う事信じたねぇ。因みに彼女は香霖と呼ぶけど足りないと思うのは香の字だろうね」
「そう、それだよ。喉の小骨が取れたみたい」


 笑う小傘を見て、先程まで心の内で蟠っていた憤りも如何でも良いと思えた。
 結局、甘いな。とふっと溜息を付いてしまう。


「溜息なんかついて。外に出ようよ~、雨が嫌な事洗い流してくれるよ」
「うーん、そうだなぁ。この本を読み終えたら考えるよ」


 はらり、と本の頁を捲る。
 雨が洗い流してくれる、か。悩みなど今はこれといって在りはしないが心の洗浄という意味で外に出るのも悪くない。
 はらり、気付けば本も大分読み進めた。
 小傘も後ろから先程と同じように腕を絡め覗き込む。
 はらり、パタリ。
 漸く読み終え、重い腰を上げる。

 扉を開け木々に遮られた曇り空を見上げるとポツリ、ポツリと粒の小さい雨が隙間なく地に降り注いでいる光景が広がった。
五作目です。
短くて何だか申し訳ない気がします。
夢先案内猫
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
霖こが、とっても良かったです!
2.こじろー削除
ほんわりとした雰囲気、好きだなぁ
3.ぺ・四潤削除
このあと小傘ちゃんが離れないままおんぶ状態で傘を差してる光景を思うと和みますなー。
相合傘って肩が濡れちゃいますからね。
4.sk005499削除
そうそう、横に並ぶとはみ出しちゃうんだよね~
こー前後にベッタリとくっつけば問題無し!w