―そういえばさあ、紫。
―なぁに?
―なんでそんなに気怠そうに答えるのよ。まあいいや。あんたって相当人間臭いって言いたかっただけだから。
―えっ!?
―意外そうね。何となくだけど、そう思ったの。妖怪のくせに、矢鱈情に弱いとこあるしね。
―じゃあ、言わせてもらうけど、霊夢の方がよっぽど人間離れしてますわ……。時々、不安になるのよ。いつか、霊夢が私の知らないところへ、勝手にふらふら飛んで行ってしまうんじゃないかって。あなたったら、物事に囚われすぎないから……。
―まあ、あんたよりは短命でしょうからね。
―そういう意味じゃなくて。もう、デリカシーがなさ過ぎるわ。
―そういうこと考えるだけで、充分人間臭いわ。あんた境界弄って、人間になる?
―お断りします。人間になったところで、あなたの私に対する待遇がよくなるわけでもあるまいし。
―よくわかってんじゃん。この煎餅おいしいわよ。
―あら、本当。でも、霊夢。食べ過ぎてお腹出てるわよ。
―なっ。あんたこそデリカシーの欠片もないわね。
―あら、事実を述べたまでよ。
―こいつ……!!もう怒った。退治してやる。
―捕まえられるものなら、捕まえてみなさい。二色蓮花蝶さん。
―待ちなさいよ、こら。隙間使うな。
―痛い、痛い。こら、霊夢。無茶しないで。ひぎいい。
―逃がしはせんぞ。博麗式チョークスリーパー!!
―ちょ、ギブギブ。やめてええええええ。
「という夢を見たの。」
「なにそのバカップル……。末永く爆発しろ。」
いつもの如く、キャンパス内のカフェテラスで蓮子に夢の中身を語ると、蓮子は、ご馳走様でした、と言わんばかりに遠い目をしていた。実際、語っている私自身が、げっぷが出そうなほど、ダイレクトにドタバタを見せつけられていたわけだから、不法行為による損害賠償請求ができそうね。
「しかし、巫女と妖怪とがね。実際、そんなに仲良くしてて大丈夫なの?」
「それは知らないわよ。だって、そこまで深い事情なんて、夢だけでわかると思う?」
「言わずもがな、だったわね。今のは私が悪かったわ。」
「あれが幻想郷だとしたら、本当にファンタジーな世界なのね。」
「寧ろ、エキセントリックというのが相応しいんじゃないかしら。」
蓮子はそう言うと、飲みかけのカップに一口つける。ルージュの一つもつけず、それでいて、瑞々しく、桃色に輝く蓮子の唇。側で見ていると、そのぷるんとした柔肉に悪戯したくなる衝動に駆られる。
「ちょ、ちょっとメリー!!そんなに人の顔見つめないでよ。なに、何か着いてる?」
「うん、蓮子のおいしそうな唇が。」
あ、バカ正直に答えちゃった。みるみるうちに紅潮する蓮子の頬。うわあ、耳まで赤くして、蓮子可愛い。って、違う。同時に空気が固まっちゃってるのよ。どうしよう、この状況。何か話しかけないと。
「れ、蓮子。顔赤いよ。」
うわあ、油注いじゃった。火消しのつもりが、さらに大炎上じゃない。わたしったら、このままじゃ、蓮子に地雷女って誤解されちゃう。
「な、何よ。そう言うメリーだって。」
ええええええ。そう来た。そう来たの?全く予想外の言葉に、完全に取り乱した私は、意識を彼方へ追いやることにした。そう、これはあくまで自己防衛反応。いわゆる逃避って奴よ。精神分析学の初歩の初歩ね。
「メ、メリー?おおい、メリー?もしもし、メリーさん?マエリベリー・ハーンさん、聞こえますか?」
「ワレワレハウチュウジンダ。」
「そんな古典的なギャグ、未来世界じゃ通用しないわよ。」
「バカ、蓮子のバカ。無神経。天然ジゴロ。死んじまえ。」
「なっ!?聞き捨てならないわね。誰が天然ジゴロよ。」
「ふんだ。一昨日、後輩の女の子からファンレターなんてもらってさ。しっかも、眩いくらいの笑顔振りまいてたじゃない。相手の子なんか、一撃でメロメロにされてたわよ。そんなことが今までに、何回あったかしらね。」
「そ、そんなになかったと思うけど。」
「バカ。今年に入って、もう13回よ。きいいいい、悔しい。蓮子は私だけ見てればいいの。」
「ちょ、ちょっと声が大きい。人が見てるから。ねっ。ねっ。」
オロオロとして私を宥めようとしているけど、逆にその姿がリスかハムスターみたいで愛くるし過ぎる。くそ、こんなに可愛い蓮子を独占できないなんて。
あ、あれ、周りの視線が痛い?気がついて、周りをキョロキョロ見渡してみると、もう、なんかね。さっきの蓮子の目と一緒なの、みんな。
「おい、あそこ見てみろ。またあのふたりがバカップルぶり発揮してるぜ。」
「全くだ。今日で200飛んで7回目だぜ。こっちは毎度毎度、砂どころか、砂糖嚼む思いしてるってのに。」
「末永く爆発していろ。」
「バカジャネエノー。」
ひいい、ひそひそ話まで。しかも、しっかり数読まれてる!?居たたまれず、そそくさと逃げ出す私たちふたり。出て行くときも、しっかり手を繋いでたから、視線がずっとこっちを追いかけてくるの。勘弁して。
カフェから抜け出した私たちは、全速力で駆け抜け、必死の思いで中庭にたどり着くと、肩で息をするほど、くたびれかえっていた。
「今日は厄日かしら。」
「厄払いしてもらいなさい。」
「疫病神が常に側にいるから無理ね。」
「酷い言いぐさね。」
「蓮子なんか知らない。」
「もういい加減、機嫌直してよ。」
困った顔をして、頬を掻いているけど、そんなので誤魔化されないからね。当分、口も利いてやらないんだから。あれ?そういや、なんで喧嘩してたの、私たち?
「メリー。言い出しっぺのあなたが、喧嘩の原因忘れてどうすんの。」
「ど、どういうことなの?!何で蓮子に読まれて……。」
「メリーったら、すぐ表に出るんだから。こっちはわかりやすくて助かるけど。」
なんてこった。私は蓮子の一挙一動を寸分たりとも見逃さない自信があったというのに、蓮子にも同じスキルがあったなんて。
「幼馴染みなんだから、それくらいのことわかるわよ。もう、メリー、私が悪かったから、この件はチャラにしましょう。」
「いいえ、蓮子、まだ終わらないのよ。私はまだ完全にあなたことを許し……うぐっ。」
えっ、蓮子?キ、キスをこのタイミングで!?ば、バカ。そんなに情熱的にされたら、頭溶けちゃう。
「ぷはあ。これでちゃんちゃんね。」
「あ、えと、うん。」
許すしか選べないわよ、こんなの。やだ、まだし足りない。
「蓮子、もっとちゅうして。」
「もう、甘えん坊なんだから。」
二度目の熱い口づけ。ああ、もう、何もかもどうでも良くなる。蓮子とさえ繋がっていれば。
一方その頃
「ごめんごめん。やり過ぎちゃった。」
「……。」
「ちょっと、悪かったって。そんなに拗ねなくても。」
あれええ、これは本格的にまずいわね。このままじゃ、全く埒が明かないじゃない。兎に角、ひたすら謝ってみるしか手だてがないわね。
「ねえ、紫ったら。」
「……ふえっ。」
えっ?!まさか……。泣き出してる!?
「ああああああああん」
「ええ、ちょっと嘘でしょ。やめてよ。紫、ごめん。ホントに悪かったから。」
「ああああああん。霊夢のバカああああああ。ほんとに怖かったんだから。痛かったんだからああああ。」
「いや、その。私もむきになりすぎてたから、加減ができなかったのよ。」
「グスっ、霊夢は、りぇえみゅはゆかりのこときらいなんだ。きらいだから、のけものにしようとするんだ。」
「ちょっと、幼児退行してるわよ。それにあんたのこと一遍も嫌いだなんて……。」
「うそだあ。ほんきでころそうとしてたもん。あれはそういう目だったもん。あああああん」
これには苦笑せざるを得ない。それにこの状況を放っておくと、文に嗅ぎつけられでもしたら。
「もう遅い。」
「な、なんだと。」
幻想郷最速は伊達ではなかった。音も無く私の目の前に現れたのは、まさしく射命丸文。これはまずいところを見られたとしか言いようがないわ。
「はあ。これは、貴重なスクープだけど、本人の名誉のために、捨て置くわ。でも、霊夢、一言言わせて頂戴。あなた外道ね。」
「外道でなけりゃ、巫女なんて務まるか。」
「はっきり言うわね。でもね、ちゃんと責任とりなさいよ。妖怪の賢者をマジ泣きさせるなんて、鬼よ、鬼。いえ、鬼以上ね。」
「はいはい、用が済んだんなら、早く帰って。紫宥めるの大変なんだから。」
「ひとつだけ言い残しておくわ。この天然ジゴロ。」
「うるさい、パパラッチ。」
「それじゃあね。」
文はたちまち空の彼方へ消えていった。二度と来な。それよりも、紫だ。まだ泣いてる。元々はこいつが挑発してきたのだから、自業自得といえるが、罪悪感に苛まれる。
頭をひとつ大きく掻き、紫の正面に座る。そして、頭を垂れて、手を床につける。
「ごめんなさい。」
紫に対し、ここまでしてきた覚えは後にも先にもない。正真正銘、私は紫に土下座ついて謝っている。
「紫のこと、嫌いなわけない。まして、紫を本気で排除しようなんてこれっぽちも思っていない。それだけはわかって。後は殴るなり、蹴るなり、気の済むようにやってくれて構わないわ。」
「ヒクッ……キスしてくれなきゃやだ……。」
紫はしゃっくりをつきながら、徐に口を開いた。おい、ハードルが急に高くなったぞ。暴力くらい振るわれてもおかしくないってのに、それで済むならっていう気持ちと、余計ダメージでかいという気持ちがせめぎ合っている。
でも、腹を括ろう。その、あの、なんていうか、紫とはちゅう以上の仲なんだし。
「わかった。あんたの気の済むまで、何度だってしてあげる。」
そう答えた瞬間だった。
ズギューン
いきなり来た。涙の味でしょっぱいけど、それすら甘く感じられる。しばらく舌を入れて、お互いの口の中を貪り合ってたけど、流石に苦しくなって離れた。
「もう、いきなりなんてずるい。」
「ふん。意地悪な霊夢にはおしおきよ。」
「あらそう。じゃあ、今度は私の番ね。」
「ひゃあ、霊……うむ。」
「紫、ゆかり。ごめんね。ゆかりんのこと、本当はだいすきだから。」
「あん、霊夢。れーむ。私も好き。大好き。」
濃厚な時間を過ごした後、すっかり仲直りした私たち。その次の朝が互いに寝不足でしんどかったことは言うまでもない。
―なぁに?
―なんでそんなに気怠そうに答えるのよ。まあいいや。あんたって相当人間臭いって言いたかっただけだから。
―えっ!?
―意外そうね。何となくだけど、そう思ったの。妖怪のくせに、矢鱈情に弱いとこあるしね。
―じゃあ、言わせてもらうけど、霊夢の方がよっぽど人間離れしてますわ……。時々、不安になるのよ。いつか、霊夢が私の知らないところへ、勝手にふらふら飛んで行ってしまうんじゃないかって。あなたったら、物事に囚われすぎないから……。
―まあ、あんたよりは短命でしょうからね。
―そういう意味じゃなくて。もう、デリカシーがなさ過ぎるわ。
―そういうこと考えるだけで、充分人間臭いわ。あんた境界弄って、人間になる?
―お断りします。人間になったところで、あなたの私に対する待遇がよくなるわけでもあるまいし。
―よくわかってんじゃん。この煎餅おいしいわよ。
―あら、本当。でも、霊夢。食べ過ぎてお腹出てるわよ。
―なっ。あんたこそデリカシーの欠片もないわね。
―あら、事実を述べたまでよ。
―こいつ……!!もう怒った。退治してやる。
―捕まえられるものなら、捕まえてみなさい。二色蓮花蝶さん。
―待ちなさいよ、こら。隙間使うな。
―痛い、痛い。こら、霊夢。無茶しないで。ひぎいい。
―逃がしはせんぞ。博麗式チョークスリーパー!!
―ちょ、ギブギブ。やめてええええええ。
「という夢を見たの。」
「なにそのバカップル……。末永く爆発しろ。」
いつもの如く、キャンパス内のカフェテラスで蓮子に夢の中身を語ると、蓮子は、ご馳走様でした、と言わんばかりに遠い目をしていた。実際、語っている私自身が、げっぷが出そうなほど、ダイレクトにドタバタを見せつけられていたわけだから、不法行為による損害賠償請求ができそうね。
「しかし、巫女と妖怪とがね。実際、そんなに仲良くしてて大丈夫なの?」
「それは知らないわよ。だって、そこまで深い事情なんて、夢だけでわかると思う?」
「言わずもがな、だったわね。今のは私が悪かったわ。」
「あれが幻想郷だとしたら、本当にファンタジーな世界なのね。」
「寧ろ、エキセントリックというのが相応しいんじゃないかしら。」
蓮子はそう言うと、飲みかけのカップに一口つける。ルージュの一つもつけず、それでいて、瑞々しく、桃色に輝く蓮子の唇。側で見ていると、そのぷるんとした柔肉に悪戯したくなる衝動に駆られる。
「ちょ、ちょっとメリー!!そんなに人の顔見つめないでよ。なに、何か着いてる?」
「うん、蓮子のおいしそうな唇が。」
あ、バカ正直に答えちゃった。みるみるうちに紅潮する蓮子の頬。うわあ、耳まで赤くして、蓮子可愛い。って、違う。同時に空気が固まっちゃってるのよ。どうしよう、この状況。何か話しかけないと。
「れ、蓮子。顔赤いよ。」
うわあ、油注いじゃった。火消しのつもりが、さらに大炎上じゃない。わたしったら、このままじゃ、蓮子に地雷女って誤解されちゃう。
「な、何よ。そう言うメリーだって。」
ええええええ。そう来た。そう来たの?全く予想外の言葉に、完全に取り乱した私は、意識を彼方へ追いやることにした。そう、これはあくまで自己防衛反応。いわゆる逃避って奴よ。精神分析学の初歩の初歩ね。
「メ、メリー?おおい、メリー?もしもし、メリーさん?マエリベリー・ハーンさん、聞こえますか?」
「ワレワレハウチュウジンダ。」
「そんな古典的なギャグ、未来世界じゃ通用しないわよ。」
「バカ、蓮子のバカ。無神経。天然ジゴロ。死んじまえ。」
「なっ!?聞き捨てならないわね。誰が天然ジゴロよ。」
「ふんだ。一昨日、後輩の女の子からファンレターなんてもらってさ。しっかも、眩いくらいの笑顔振りまいてたじゃない。相手の子なんか、一撃でメロメロにされてたわよ。そんなことが今までに、何回あったかしらね。」
「そ、そんなになかったと思うけど。」
「バカ。今年に入って、もう13回よ。きいいいい、悔しい。蓮子は私だけ見てればいいの。」
「ちょ、ちょっと声が大きい。人が見てるから。ねっ。ねっ。」
オロオロとして私を宥めようとしているけど、逆にその姿がリスかハムスターみたいで愛くるし過ぎる。くそ、こんなに可愛い蓮子を独占できないなんて。
あ、あれ、周りの視線が痛い?気がついて、周りをキョロキョロ見渡してみると、もう、なんかね。さっきの蓮子の目と一緒なの、みんな。
「おい、あそこ見てみろ。またあのふたりがバカップルぶり発揮してるぜ。」
「全くだ。今日で200飛んで7回目だぜ。こっちは毎度毎度、砂どころか、砂糖嚼む思いしてるってのに。」
「末永く爆発していろ。」
「バカジャネエノー。」
ひいい、ひそひそ話まで。しかも、しっかり数読まれてる!?居たたまれず、そそくさと逃げ出す私たちふたり。出て行くときも、しっかり手を繋いでたから、視線がずっとこっちを追いかけてくるの。勘弁して。
カフェから抜け出した私たちは、全速力で駆け抜け、必死の思いで中庭にたどり着くと、肩で息をするほど、くたびれかえっていた。
「今日は厄日かしら。」
「厄払いしてもらいなさい。」
「疫病神が常に側にいるから無理ね。」
「酷い言いぐさね。」
「蓮子なんか知らない。」
「もういい加減、機嫌直してよ。」
困った顔をして、頬を掻いているけど、そんなので誤魔化されないからね。当分、口も利いてやらないんだから。あれ?そういや、なんで喧嘩してたの、私たち?
「メリー。言い出しっぺのあなたが、喧嘩の原因忘れてどうすんの。」
「ど、どういうことなの?!何で蓮子に読まれて……。」
「メリーったら、すぐ表に出るんだから。こっちはわかりやすくて助かるけど。」
なんてこった。私は蓮子の一挙一動を寸分たりとも見逃さない自信があったというのに、蓮子にも同じスキルがあったなんて。
「幼馴染みなんだから、それくらいのことわかるわよ。もう、メリー、私が悪かったから、この件はチャラにしましょう。」
「いいえ、蓮子、まだ終わらないのよ。私はまだ完全にあなたことを許し……うぐっ。」
えっ、蓮子?キ、キスをこのタイミングで!?ば、バカ。そんなに情熱的にされたら、頭溶けちゃう。
「ぷはあ。これでちゃんちゃんね。」
「あ、えと、うん。」
許すしか選べないわよ、こんなの。やだ、まだし足りない。
「蓮子、もっとちゅうして。」
「もう、甘えん坊なんだから。」
二度目の熱い口づけ。ああ、もう、何もかもどうでも良くなる。蓮子とさえ繋がっていれば。
一方その頃
「ごめんごめん。やり過ぎちゃった。」
「……。」
「ちょっと、悪かったって。そんなに拗ねなくても。」
あれええ、これは本格的にまずいわね。このままじゃ、全く埒が明かないじゃない。兎に角、ひたすら謝ってみるしか手だてがないわね。
「ねえ、紫ったら。」
「……ふえっ。」
えっ?!まさか……。泣き出してる!?
「ああああああああん」
「ええ、ちょっと嘘でしょ。やめてよ。紫、ごめん。ホントに悪かったから。」
「ああああああん。霊夢のバカああああああ。ほんとに怖かったんだから。痛かったんだからああああ。」
「いや、その。私もむきになりすぎてたから、加減ができなかったのよ。」
「グスっ、霊夢は、りぇえみゅはゆかりのこときらいなんだ。きらいだから、のけものにしようとするんだ。」
「ちょっと、幼児退行してるわよ。それにあんたのこと一遍も嫌いだなんて……。」
「うそだあ。ほんきでころそうとしてたもん。あれはそういう目だったもん。あああああん」
これには苦笑せざるを得ない。それにこの状況を放っておくと、文に嗅ぎつけられでもしたら。
「もう遅い。」
「な、なんだと。」
幻想郷最速は伊達ではなかった。音も無く私の目の前に現れたのは、まさしく射命丸文。これはまずいところを見られたとしか言いようがないわ。
「はあ。これは、貴重なスクープだけど、本人の名誉のために、捨て置くわ。でも、霊夢、一言言わせて頂戴。あなた外道ね。」
「外道でなけりゃ、巫女なんて務まるか。」
「はっきり言うわね。でもね、ちゃんと責任とりなさいよ。妖怪の賢者をマジ泣きさせるなんて、鬼よ、鬼。いえ、鬼以上ね。」
「はいはい、用が済んだんなら、早く帰って。紫宥めるの大変なんだから。」
「ひとつだけ言い残しておくわ。この天然ジゴロ。」
「うるさい、パパラッチ。」
「それじゃあね。」
文はたちまち空の彼方へ消えていった。二度と来な。それよりも、紫だ。まだ泣いてる。元々はこいつが挑発してきたのだから、自業自得といえるが、罪悪感に苛まれる。
頭をひとつ大きく掻き、紫の正面に座る。そして、頭を垂れて、手を床につける。
「ごめんなさい。」
紫に対し、ここまでしてきた覚えは後にも先にもない。正真正銘、私は紫に土下座ついて謝っている。
「紫のこと、嫌いなわけない。まして、紫を本気で排除しようなんてこれっぽちも思っていない。それだけはわかって。後は殴るなり、蹴るなり、気の済むようにやってくれて構わないわ。」
「ヒクッ……キスしてくれなきゃやだ……。」
紫はしゃっくりをつきながら、徐に口を開いた。おい、ハードルが急に高くなったぞ。暴力くらい振るわれてもおかしくないってのに、それで済むならっていう気持ちと、余計ダメージでかいという気持ちがせめぎ合っている。
でも、腹を括ろう。その、あの、なんていうか、紫とはちゅう以上の仲なんだし。
「わかった。あんたの気の済むまで、何度だってしてあげる。」
そう答えた瞬間だった。
ズギューン
いきなり来た。涙の味でしょっぱいけど、それすら甘く感じられる。しばらく舌を入れて、お互いの口の中を貪り合ってたけど、流石に苦しくなって離れた。
「もう、いきなりなんてずるい。」
「ふん。意地悪な霊夢にはおしおきよ。」
「あらそう。じゃあ、今度は私の番ね。」
「ひゃあ、霊……うむ。」
「紫、ゆかり。ごめんね。ゆかりんのこと、本当はだいすきだから。」
「あん、霊夢。れーむ。私も好き。大好き。」
濃厚な時間を過ごした後、すっかり仲直りした私たち。その次の朝が互いに寝不足でしんどかったことは言うまでもない。
時代を越えて甘い甘い。
こんな幻想郷なら、争いもないかもね。馬鹿すぎて。
……ちゅっちゅ。
ダブルバカップルのせいで部屋が砂糖壺の様…
つまり最高、もっとやれって意味だぜ。
まあ雰囲気は嫌いではないですけど。