「霖之助さん、腕時計の修理終わったよ~」
「ご苦労様」
僕はねぎらいの言葉と共に少女へとお茶を差し出した。
この腕時計を修理してくれている人物の名前は河城 にとり。
山の妖怪、河童の少女である。
彼女と初めて会ったのは、魔理沙の紹介でにとりが香霖堂を訪れた時だった。
外の世界の道具に興味があり、技術者でもある彼女は、それ以降客ではなく修理屋としてたびたび此処を訪ねてくるようになったのだ。
そして、たった今修理されたこの腕時計も彼女の修理品の一つというわけだ。
彼女の腕は確かなようで、そのおかげと言うべきだろうか、にとりが訪れるようになってから非売品がいくつも増え、本当に感謝している。
「それにしても見事な物だね」
しっかりと修理され、コチコチと小さな音を立てて時を刻む腕時計を手に取る。
これは、以前に僕が修理しようと思い、蓋をはずしたところで、あまりの機構の複雑さに手を上げた物だ。
それをこうもあっさりと直してしまうとは、さすがは水の職人妖怪といったところだろう。
「いや~、それほどでもないよ。これくらいの事、河童なら5歳でもできることだよ」
「河童なら……か」
「ん? どうしたの?」
「いや、河童にも君のように話の分かる人物がいる事に今更ながら驚いていたんだよ」
「どういうこと? 河童はみんな気のいい奴ばかりだよ?」
「そうかな? 僕の知っている河童はいきなり相撲を挑んできたり、尻小玉を要求してきたり、宴会でもう飲めないといっているのに酒を勧めてきたりと困った奴が多かったんだ」
にとりの手前、天狗より立ちの悪い妖怪との評価は隠しておく。
「あー、確かに男の河童はそういう所が有るかも。でも誤解しないで、その人たちも決して悪気があったわけじゃないから」
「ああ、そうかもしれないね。君を見ているとそう思えるよ」
にとりは僕の言葉に照れたように頭を掻く。
「えへへへ。そうだ、他にも動かない物とか、使い方が分からない物とかは無い? ジャンジャン修理しちゃうよ」
むん、と気合を入れるようににとり拳を握った。
これが『河童もおだてりゃ木に昇る』、というやつだろうか。
もっとも、僕は本音しか言ってないので、おだてた訳ではない。
「それは有り難いが……良いのかい?」
「もちろん。河童は人間の盟友。半人間も友達みたいな物だよ」
半人間、というのは止して欲しいが、この際目を瞑ろう。
「それじゃあお願いしようかな。大体この辺りに置いてある物は動かなかったり、使い方が分からない物だよ」
僕は店の一角……というよりも店内の半分くらいを示した。
「うわー、いっぱいあるね。こんなに有るのならいくつか持って帰って修理したほうがいいかな……」
にとりは棚を物色しながらあれやこれやと頭を捻っている。
本当にこれらが使える道具として生まれ変わるのなら、非売品を置いてある倉庫を拡張する必要が有るかもしれない。
魔理沙の知り合いとなると、また厄介な奴かと思ったのだが、こんな有益な人物を紹介してくれるとは、またまた魔理沙に頭が上がらなくなるな。
「そうだ!!」
何か思いついたのか、にとりが大きな声をあげた。
「どうしたんだい?」
「良いことを思いついたの。此処にある商品を修理するついでに山で売ってきてあげるよ。河童の里のみんなもこんな道具見た事無いだろうし、きっと飛ぶように売れるよ」
何だって!?
それはまずい。
そんな事をされてはせっかく修理してもらった道具が僕の手元に残らないじゃないか。
そもそも、古道具とはきちんと使い勝手を確かめてから売るべきなのだ。
中でも便利な物……いやいやいや、人を堕落させるような危険な物は非売品にしなければ店の名誉にかかわってしまう。
「いや、修理だけで結構だ。さすがにそこまでしてもらうわけにはいかないよ」
僕は出来るだけ平静を装う。
「え、どうして? 私の事なら気にしなくていいよ。霖之助さんは商品が売れて幸せ。山のみんなは珍しい物が手に入って幸せ。私は一日中道具がいじれて幸せ。みんなが幸せになるナイスアイディアじゃない」
確かに正論だが僕も引く訳にはいかない。
「いやいや、こう見えても僕はこの店の店主なんだ。修理だけならともかく販売までしてもらっては僕の立つ瀬が無くなってしまうよ」
僕の言葉を聞いたにとりは、にっこりと微笑む。
そして、
「立つ瀬が無い? それなら泳げばいいじゃない」
後日、魔法の森の入り口には、香霖堂 河童の里支店に大量の道具を持っていかれ、寂しそうにしている店主の姿があったとか。
結局霖之助にとってはにとりも有益な人物でなく厄介な奴だったわけですね。
それにしても霖之助かわいそうだw
そこは最低限喜ぶべき所だ、非売品増やしてどうするwww
千里眼で漂着物探せるし、烏天狗に頼めばすぐに拾ってきてもらえるし、
本店の存在意義がなくなるなこりゃ。
霖之助は商売したいのかしたくないのかww
これは災難というべきなんだろうか?
支店ってことは本店へ売上献上・・・なんてことはないんでしょうねえ
こういうのかなり好きです