朝起きた妖夢のすることといえば、まず刀を身につけること。
まだ日が昇る前の薄暗い部屋の中、着替えの手もそこそこに楼観剣の鞘を掴もうとし、しかしその手は空を切った。
何事かと思って楼観剣が置いてあった場所を見てびっくりたまてばこ。そこには茄子が置いてあった。
だが、まだ完全に頭が覚めていなかった妖夢はその茄子を楼観剣だと思い込み、「ああっ短くなってる!」などと素っ頓狂な声を上げたのだ。
それならばと白楼剣に手を伸ばせば、なまこのような感触があり、ぎょっとしてそちらに目を向けてみれば、そこには何故かタコがいた。
ナマコの感触をもったタコである。
(珍味!)という思考も一瞬の事。着替えを終えた妖夢は腰にタコ、背中に茄子を差し、何事もなかったように主人を起こしに行く。
幽々子は山と積まれた布団の上で逆立ちをしたまま寝ていたのだが、妖夢が障子を開けた衝撃で全てのバランスが崩れ、布団の山は崩れ落ち、ついでに幽々子も崩れ落ち、ついでに寝巻きもはだけ落ちそうになった時、幽々子は自らが布団になると同時に枕にもなる事によって、第二形態へと進化したのだ。
かの西行法師が開眼したこの高次元進化により、みるみる大きくなっていく幽々子の前に、妖夢は無言のままに腰のタコを抜き意気を込めた。
驚くべき事に八足が鋼にも似た鋭さを持ち、まるで幾重にも刃を重ねた手裏剣のようになったではないか。
これぞ魂魄秘技「在物即刀」。
たとえタコであろうと業物にしてしまうこの技は、かつて先代に当たる妖忌がコンニャクで妖物千匹を切り倒した折、右腕を失ったため封印されていたのだが、あまりにも起きない幽々子に業を煮やした妖夢が相棒であるタコで切り起こそうと抜いてしまった。
巨大化する幽々子につられて同じように巨大化していくタコ。
やがて一人と一匹は一本の茄子に跨り勇々しく幽々子に向かっていくのであった。
天馬の如き優雅さで幽々子の元へと翔けていく茄子の上、妖夢の背から荒々しい翼が一対生まれる。
天上へ翔け上がっていくそれは正に鷹のよう。
妖夢はそのまま必殺の一撃を幽々子の頭頂部に叩きつけ、一気迅雷に貫いた。
するとどうだろうか、二つに分かれた幽々子の中からたくさんの幽々子が零れ落ち始めたのだ。
滝が落ちるような轟音と共に、部屋の中はミニ幽々子で埋められて妖夢は押し潰される。
床がぬけ、冥界の底がぬけ、幻想郷にまで到達したミニ幽々子は、突然目覚めたかと思うとおもむろに天地魔境の構えを取って全生物を死に誘ったのだ。
数多の人妖がそれに抵抗しようとするも、幽々子の圧倒的パワーにおされて霊化し、残った数少ない生者は最後の望みを一人の少女に託した。博麗の巫女、アメリカ合衆国大統領、リチャード霊夢である。
「待っていたわ、この時を! 今こそ秘密裏に開発を進めていたアレの出番よ!」
霊夢は流暢な日本語でそう叫ぶと、それを合図にしたかのようにデスクに出てきたボタンをなんの躊躇いもなく押した。
その瞬間、白い建物が激しく揺れ動いたかと思うと、左右対称に作られた建物の真ん中を中心に左右へスライドしていき、その下から何かが地上へと姿を現したのだ。
それは、巨大だった。
それは、白くて黒かった。
それは、妙に直線的だった。
そしてそれが完全に地上へと姿を表した時、霊夢は遠く西の方角を指し、叫んだ。
「さぁいけメカマリサ! ファイナルホワイトビーム、発射ああああああぁぁぁぁぁっ!」
何故マスタースパークじゃないのか。そんな疑問は瑣末なものだった。
メカマリサから放たれた白くて太くて色々と形容しがたいビームは海を越え、霊山富士を吹き飛ばし、そして――
「なんてのが、今年の初夢だったわ」
「幽々子、私には貴女が何を考えているのかがそろそろ解らなくなってきたわ」
そう言って、紫は心底疲れ果てたように肩を落とした。
その際に、少し残念そうに「私は出てこなかったのね」などと呟いたのだが、幽々子はといえば、満面の笑みで雑煮を食べる始末。
「今年も何も変わらず、か」
「? 何か言った?」
「今年もよろしくって言ったのよ」
「あぁ……よろしくね、紫」
初夢は人に話すと正夢にならないそうです。さすがにこれは話して欲しいですねw
一富士・二鷹・三茄子と揃っているので、内容はともかく今年は良い年になりますね。
このトンデモナイ夢に紫が出てきたら、どういう配役になっていたか気になりますけど。
あと、リチャード霊夢には吹いた。どこからこんな発想が出てきますか(www
憑かれて?いやいや。
ゆかりんかわいいよ。ゆゆ様もかわいいよ。
【近藤氏】
※使用上の注意:混ぜるな危険