近頃一輪の様子がおかしい。
にやにやと口元を緩めていたり普段しないような、それこそ一輪の性格からは考えられないような腑抜け具合だ。
「姐さん姐さん」
「…なにかしら、一輪?」
「いえ、呼んでみただけですよぅ。えへへ」
この有様である。
私としては、もう少し普段の真面目でそれでいて柔軟で明晰で素敵な一輪に戻って欲しい…なんて、こんな感情は甘えてるだけなのだろうけど。
思えば、いつも一輪や星には助けられている。
星は堅物で純情で灰色ジェリーにぞっこんな虎縞トムだが、事務能力も戦闘能力もついでに家事もそこそこ出来る理想のお嫁さん第二号なのだ(私個人の好感度を考慮した場合、勿論一番は一輪である)が、そんな弟子に色々事務作業を押し付けてしまっているような気がする。
正直会計やお財布は、命蓮寺獣組が完全に掌握していると言っても過言ではない。
一輪は言わずもがな、雲山との連携での力仕事、一輪と雲山二人相手で互角なのは恥ずかしい話私とぬえ(マミゾウさんについては保留)ぐらいなのだ。
そんななくてはならない二人…いや、雲山含めて三人のうち一人がおかしい。
上述の会話のようになっている、有体に言えば壊れている。
豊かな胸を弾ませて何をするかと思えばスキップしながら洗濯物の山にこれでもかと体を叩きつけて一種のテロ行為を巻き起こしてみたり、うっかり雲山に支えられることすら忘れて屋根からスカイハイして大怪我して来たり、あろうことか新しい袈裟を仕立てる為に五百円貯金を全て和同開珎に換金しようと星に相談してみたり。
やることなすこととにかく意味が分からない。
お蔭で命蓮寺総員がパニックになっている状態だ、ついでに私の毎夜の御供である事も忘れて大怪我するとはなんたることかと説教した。
泣きじゃくってたから多分私の言いたい事は半分も伝わらなかったろう、あれは恥ずかしい体験だった。
「姐さん、どうかしましたか? 私の顔になにかついてますか?」
大きなガーゼがべったりと。
これは料理中に誤って包丁で傷つけてしまったらしい、どう誤ったらそうなるんだろう。
「…その、一輪」
「なんですか?」
「非常に聞きにくい事なのですが…もしかして、疲れていませんか?」
きょとん、と首を傾げる一輪は今日も凛々しい顔立ちだった。
しかし疲れを隠すのが上手いのか、一輪は爽やかな笑顔で否定する。
「いいえ! むしろ最近の私は調子がいいんですよ…待っててくださいね!」
待つ? 何を待てと言うんだろう。
いや、確かに最近一輪とあんまり触れ合っていないからこれは疑似放置プレイなのかも知れない。
だが解せない。
「一輪、やっぱり休んだ方がいいんじゃない? なんだか最近様子がおかしいわ」
「…おかしい、ですか…」
「ええ、とても浮ついているような…意識が別方向に持っていかれてるようにしか見えないわ。待ってて、今お布団敷きますから今日の修行は中止に…」
「待って下さい!」
怒鳴った。
あまりこういう大声を出すことに慣れていないのか、少し顔が赤くなる一輪。
「全部…全部話しますから、心配しないでください姐さん」
「…わかりました」
一輪はギュッと拳を握る、祈るように。
強く。
「私…し、心綺楼に出ることが決まったんです!」
一輪の顔が真っ赤になる、喜んでるような恥ずかしがってるような…なんとも言えない表情だ。
「姐さんも知ってるでしょう? 雲山と私…このお寺で人気度最下位コンビなのを…」
「わ、私は…」
「姐さんの好きと、私達の好かれ方とは種類が違うんです…」
それから一輪は吐き出すように喋っていった。
地味、一発屋、おまけ、ネタキャラ、いらないこ、それ以外にも沢山。
本当に沢山。
「ずっと思ってたんです、私達は本当にいらないこなんじゃないかって…姐さん達の足を引っ張ってるんじゃないかって、役に立たないんじゃないかって」
「でも、書籍で名前が載って、それだけで少し嬉しくなったんです」
「もしかしたら、もう地味とか言われない…胸を張って姐さんの仲間だって言えるんじゃないかって」
「そして今回の新作に出れると決まった時、本当に本当に…嬉しかったんです」
「だからつい浮かれちゃって、なんだか周りがよく見えなくなってたんですね…御心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「これからはちゃんとこの浮かれた気持ちも整理して、臨みますので…私を、私達を見捨てないでやってください…」
そんなの…、当たり前だった。
「私は…一輪、私は貴女が大好きです! それは変わりません、絶対に…だから…こんな怪我するような事があったら…怒りますっ」
「…はい」
「次にこんな事があって、貴女が怪我して帰ったらおしりぺんぺんの刑です! 泣いたって許しませんからね!」
「はは、…それは怖い」
愛してるからこそすれ違い、愛してるからこそ不安になる。
ええじゃないかと踊ってみても、話し合わなければならないこともある。
私達はそうやって共存していくのだから。
このCMはスキマ運送、河城工業、文々。新聞の提供でお送りしました。
「…」
私は紅魔館の自室にいつの間にか用意されたちゃぶ台に手をかける。
相も変わらず咲夜の仕事は早く、食器類は全て片づけられていた。
それを私は渾身の力でひっくり返す。
「CMが長いッ!!」
にやにやと口元を緩めていたり普段しないような、それこそ一輪の性格からは考えられないような腑抜け具合だ。
「姐さん姐さん」
「…なにかしら、一輪?」
「いえ、呼んでみただけですよぅ。えへへ」
この有様である。
私としては、もう少し普段の真面目でそれでいて柔軟で明晰で素敵な一輪に戻って欲しい…なんて、こんな感情は甘えてるだけなのだろうけど。
思えば、いつも一輪や星には助けられている。
星は堅物で純情で灰色ジェリーにぞっこんな虎縞トムだが、事務能力も戦闘能力もついでに家事もそこそこ出来る理想のお嫁さん第二号なのだ(私個人の好感度を考慮した場合、勿論一番は一輪である)が、そんな弟子に色々事務作業を押し付けてしまっているような気がする。
正直会計やお財布は、命蓮寺獣組が完全に掌握していると言っても過言ではない。
一輪は言わずもがな、雲山との連携での力仕事、一輪と雲山二人相手で互角なのは恥ずかしい話私とぬえ(マミゾウさんについては保留)ぐらいなのだ。
そんななくてはならない二人…いや、雲山含めて三人のうち一人がおかしい。
上述の会話のようになっている、有体に言えば壊れている。
豊かな胸を弾ませて何をするかと思えばスキップしながら洗濯物の山にこれでもかと体を叩きつけて一種のテロ行為を巻き起こしてみたり、うっかり雲山に支えられることすら忘れて屋根からスカイハイして大怪我して来たり、あろうことか新しい袈裟を仕立てる為に五百円貯金を全て和同開珎に換金しようと星に相談してみたり。
やることなすこととにかく意味が分からない。
お蔭で命蓮寺総員がパニックになっている状態だ、ついでに私の毎夜の御供である事も忘れて大怪我するとはなんたることかと説教した。
泣きじゃくってたから多分私の言いたい事は半分も伝わらなかったろう、あれは恥ずかしい体験だった。
「姐さん、どうかしましたか? 私の顔になにかついてますか?」
大きなガーゼがべったりと。
これは料理中に誤って包丁で傷つけてしまったらしい、どう誤ったらそうなるんだろう。
「…その、一輪」
「なんですか?」
「非常に聞きにくい事なのですが…もしかして、疲れていませんか?」
きょとん、と首を傾げる一輪は今日も凛々しい顔立ちだった。
しかし疲れを隠すのが上手いのか、一輪は爽やかな笑顔で否定する。
「いいえ! むしろ最近の私は調子がいいんですよ…待っててくださいね!」
待つ? 何を待てと言うんだろう。
いや、確かに最近一輪とあんまり触れ合っていないからこれは疑似放置プレイなのかも知れない。
だが解せない。
「一輪、やっぱり休んだ方がいいんじゃない? なんだか最近様子がおかしいわ」
「…おかしい、ですか…」
「ええ、とても浮ついているような…意識が別方向に持っていかれてるようにしか見えないわ。待ってて、今お布団敷きますから今日の修行は中止に…」
「待って下さい!」
怒鳴った。
あまりこういう大声を出すことに慣れていないのか、少し顔が赤くなる一輪。
「全部…全部話しますから、心配しないでください姐さん」
「…わかりました」
一輪はギュッと拳を握る、祈るように。
強く。
「私…し、心綺楼に出ることが決まったんです!」
一輪の顔が真っ赤になる、喜んでるような恥ずかしがってるような…なんとも言えない表情だ。
「姐さんも知ってるでしょう? 雲山と私…このお寺で人気度最下位コンビなのを…」
「わ、私は…」
「姐さんの好きと、私達の好かれ方とは種類が違うんです…」
それから一輪は吐き出すように喋っていった。
地味、一発屋、おまけ、ネタキャラ、いらないこ、それ以外にも沢山。
本当に沢山。
「ずっと思ってたんです、私達は本当にいらないこなんじゃないかって…姐さん達の足を引っ張ってるんじゃないかって、役に立たないんじゃないかって」
「でも、書籍で名前が載って、それだけで少し嬉しくなったんです」
「もしかしたら、もう地味とか言われない…胸を張って姐さんの仲間だって言えるんじゃないかって」
「そして今回の新作に出れると決まった時、本当に本当に…嬉しかったんです」
「だからつい浮かれちゃって、なんだか周りがよく見えなくなってたんですね…御心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「これからはちゃんとこの浮かれた気持ちも整理して、臨みますので…私を、私達を見捨てないでやってください…」
そんなの…、当たり前だった。
「私は…一輪、私は貴女が大好きです! それは変わりません、絶対に…だから…こんな怪我するような事があったら…怒りますっ」
「…はい」
「次にこんな事があって、貴女が怪我して帰ったらおしりぺんぺんの刑です! 泣いたって許しませんからね!」
「はは、…それは怖い」
愛してるからこそすれ違い、愛してるからこそ不安になる。
ええじゃないかと踊ってみても、話し合わなければならないこともある。
私達はそうやって共存していくのだから。
このCMはスキマ運送、河城工業、文々。新聞の提供でお送りしました。
「…」
私は紅魔館の自室にいつの間にか用意されたちゃぶ台に手をかける。
相も変わらず咲夜の仕事は早く、食器類は全て片づけられていた。
それを私は渾身の力でひっくり返す。
「CMが長いッ!!」
一輪さんおめでとう!