春一番。春の訪れ。
昨日のような肌に刺す冷気は一体どこへいったのか。
この身にあたるのは生暖かい優しい風。
生きとし生けるものが待ち望む季節に、眉をひそめる氷妖精がいた。
「……なんか最近あったかいなあ」
何気なしにチルノがつぶやく。その心にはとある妖怪、レティホワイトロックの存在を思い浮かべていた。
チルノにとってレティは唯一自分が精一杯甘えることの出来る存在。
ひっついたり、おんぶしてもらってり、一緒にお昼寝したり。
レティはチルノにとって母親の様なものである。
だがレティは冬妖怪。春が訪れる頃には、雪のように知らぬ間に消えてどこかへいってしまうのだ。
チルノにはそれが嫌だった。
だからこの時期になるとチルノから本来の活発さが無くなる。
いなくなるとはいってもまた冬になればどこからともなく現れるのだが、湧いてくる寂しさにはあらがえない。
以前、チルノは暖かくならないように、湖の周りの木々を片っ端から凍らせたことがあった。
そうすることで周りは冷たくなって、レティはいなくならないと考えたのだ。
もちろんそんなことをしても季節の循環に逆らえるはずもなく、春は訪れ、レティもいなくなった。
それだけではなく、他の妖精や動物、植物たちに迷惑をかけたとして、巫女にひどい目を負わされたのである。
あれ以来もう無茶なことはしなくなったが、それでもレティのそばにいたいと思っているのだ。
「どうやったら、レティはいなくならないんだろう……」
チルノはいつも行き当たりばったりなことをして空元気にいるのが主だが、今回は元気がない。
考えることになれていないチルノはうんうん唸りながら、頭を抱えている。
「うーん。まわりを凍らせても意味なかったし、どうしよう。まだ遊び足りないのに。いっそのことレティを凍りづけにしてしまおうかな」
はあ、と溜息をつくチルノ。
チルノは氷妖精であるが故に、他の妖精から嫌われがちだった。
だから一人で遊ぶことが多いのだが、すぐに飽きてしまうのだ。
チルノは氷を作っては湖に投げ入れ、直にいなくなるレティを思っていた。
すると、塞ぎ込むチルノの背後から声がかかる。
「チルノ。あなた何物騒なこと言ってるの」
「あ、レティ」
レティが現れるとチルノの表情は少し明るくなった。
しかしいつもなら飛びついてはしゃぐのだが、今回はおとなしい。
妙だと思ったレティはチルノにどうしたのか聞くことにした。
「元気ないわね、チルノ。どうしたの?」
「……なんか最近暖かいし。もしかしたらレティ、またいなくなるのかなって」
しゅんとした様子で言うチルノにレティは成る程と思った。
今年も目の前の愛らしい妖精が、自分がいなくなるのを寂しいと思ってくれているのだ。
レティもまた、冬妖怪でありその存在が歓迎されることはあまりない。
だから自分を必要としてくれるだけでも心に響くものがある。
しかし自然の流れに逆らうことが出来るはずもない。
レティもチルノを置いていくことになってしまうので心苦しいのだ。
「……そうね。この暖かさだともう数日ぐらいかしら」
「え? もういっちゃうの?」
レティの言葉にチルノは驚く。
暖かいとはいえまさかこんなに早くいなくなるとは思わなかったのだ。
「早くない? 確かに今日は暖かいけど今日だけだよ。また明日からはうんと寒くなるって」
「いいえ。もう春一番も吹いてしまったし、おそらくもうすぐあの春告精も現れるでしょうね」
「そんな……。じゃあまたいなくなっちゃうの? やだよ? まだ遊び足りない!」
チルノはだだをこねるがこればかりはどうしようもない。
レティはそんなチルノを優しく抱いた。
チルノの背中を叩いて、まるで自分の子をあやすように。
「大丈夫よ。また冬になれば会いに来るから。そんなにしんみりしないで」
「でも……寂しいよ」
「ふふ。ありがとう。でもチルノは最強なんでしょう? その最強がこんなんでどうするの」
「……いい。レティといれるなら最強じゃなくていい」
「あらあら、困った子。……さあ、今日は何で遊ぶの?」
チルノはレティから離れて、しばらく黙っていた。
その目には涙が溜まっていたが、チルノはそれを拭ってにぱと笑った。
「雪だるまを作ろう! 大きな大きな雪だるま!」
小さな体を精一杯のばして大きさを表現している様子が実にかわいらしい。
レティはそう思うが、生憎と今はもう雪は少なくなっている。
「雪だるまねぇ……。でもそんなに雪は残ってないから、そんなに大きな雪だるま作れるかしら」
「いいもん。足りなくなったらあたいで雪を作るから!」
「あら? それは骨が折れそうね。」
そう言って二人は笑いながら雪だるま作りに励んだのだった。
桜舞う。春告精リリーホワイトが飛び回るこの季節。
春の陽気が幻想郷を包んでいた。
チルノはレティがいなくなった時はしばらく塞ぎ込んでいたが今ではもうすっかり元気になっている。
いろいろな所を飛び回り、いたずらをしては巫女や魔法使いに追いかけられ、打ち落とされている。
しかし今回は少し変わったことをしていた。
「あ! リリー! また来たな! ここから先は通さないよ!」
「春ですよー。それは困るですよー」
チルノがリリーに喧嘩を売っていた。
本来ならリリーは春の訪れを示すので、普通は歓迎される。
それに春のリリーは気持ちハイになっているので、そこらの妖精、妖怪では歯が立たない。
そんなリリーに対してチルノは通せんぼをしていたのだ。
「通して欲しいですよー。春が届けられないですよー」
「別に春なんていらないよ! 分かったらさっさとあっち行け!」
そう言ってチルノは弾幕を散らして威嚇する。
そんなチルノの並々ならぬ気迫に、リリーは尻込みしてしまう。
「なんだか怖いですよー。ひとまず後回しにするですよー」
「ふんだっ! もう来るなよ!」
「チッ」
「あれ? あんた今舌打ちしなかった?」
「気のせいですよー。退散するですよー」
チルノはリリーをひとまず追い払うことが出来て安堵した。
だが、一息つく間も無くチルノは自分の住処へ戻っていった。
「いけない。もたもたしてるとあれがとけちゃう。いそいで戻らないと!」
そういってチルノが向かった先には雪だるまが二つ。
大きい方には白い帽子が被せられて、小さい方には青いリボンがつけられていた。
更にそれらには木の枝で作られた腕の先に手袋がはめられていて、あたかも手を繋いでいる様な状態だった。
チルノが家に着くと、大きな声で雪だるまに挨拶をした。
「ただいま! レティ!」
『ねぇ、チルノ? どうせなら雪だるまを二つ作らない?』
『なんで?』
『ほら、こうやって大きな方に私の帽子を被せて、小さな方にチルノのリボンをつけると』
『おお! いいな、これ!』
『でしょう? あなたが寂しくないように、ね?』
『レティ……。うん決めた。あたい、これを次の冬までとかさないようにする!』
『あらあら、それは大変ね。』
『あー! 笑うな! ぜっったいに次の冬まで残しておくんだから!!』
『ふふ。楽しみにしてるわよ、チルノ。』
『うん!!』
昨日のような肌に刺す冷気は一体どこへいったのか。
この身にあたるのは生暖かい優しい風。
生きとし生けるものが待ち望む季節に、眉をひそめる氷妖精がいた。
「……なんか最近あったかいなあ」
何気なしにチルノがつぶやく。その心にはとある妖怪、レティホワイトロックの存在を思い浮かべていた。
チルノにとってレティは唯一自分が精一杯甘えることの出来る存在。
ひっついたり、おんぶしてもらってり、一緒にお昼寝したり。
レティはチルノにとって母親の様なものである。
だがレティは冬妖怪。春が訪れる頃には、雪のように知らぬ間に消えてどこかへいってしまうのだ。
チルノにはそれが嫌だった。
だからこの時期になるとチルノから本来の活発さが無くなる。
いなくなるとはいってもまた冬になればどこからともなく現れるのだが、湧いてくる寂しさにはあらがえない。
以前、チルノは暖かくならないように、湖の周りの木々を片っ端から凍らせたことがあった。
そうすることで周りは冷たくなって、レティはいなくならないと考えたのだ。
もちろんそんなことをしても季節の循環に逆らえるはずもなく、春は訪れ、レティもいなくなった。
それだけではなく、他の妖精や動物、植物たちに迷惑をかけたとして、巫女にひどい目を負わされたのである。
あれ以来もう無茶なことはしなくなったが、それでもレティのそばにいたいと思っているのだ。
「どうやったら、レティはいなくならないんだろう……」
チルノはいつも行き当たりばったりなことをして空元気にいるのが主だが、今回は元気がない。
考えることになれていないチルノはうんうん唸りながら、頭を抱えている。
「うーん。まわりを凍らせても意味なかったし、どうしよう。まだ遊び足りないのに。いっそのことレティを凍りづけにしてしまおうかな」
はあ、と溜息をつくチルノ。
チルノは氷妖精であるが故に、他の妖精から嫌われがちだった。
だから一人で遊ぶことが多いのだが、すぐに飽きてしまうのだ。
チルノは氷を作っては湖に投げ入れ、直にいなくなるレティを思っていた。
すると、塞ぎ込むチルノの背後から声がかかる。
「チルノ。あなた何物騒なこと言ってるの」
「あ、レティ」
レティが現れるとチルノの表情は少し明るくなった。
しかしいつもなら飛びついてはしゃぐのだが、今回はおとなしい。
妙だと思ったレティはチルノにどうしたのか聞くことにした。
「元気ないわね、チルノ。どうしたの?」
「……なんか最近暖かいし。もしかしたらレティ、またいなくなるのかなって」
しゅんとした様子で言うチルノにレティは成る程と思った。
今年も目の前の愛らしい妖精が、自分がいなくなるのを寂しいと思ってくれているのだ。
レティもまた、冬妖怪でありその存在が歓迎されることはあまりない。
だから自分を必要としてくれるだけでも心に響くものがある。
しかし自然の流れに逆らうことが出来るはずもない。
レティもチルノを置いていくことになってしまうので心苦しいのだ。
「……そうね。この暖かさだともう数日ぐらいかしら」
「え? もういっちゃうの?」
レティの言葉にチルノは驚く。
暖かいとはいえまさかこんなに早くいなくなるとは思わなかったのだ。
「早くない? 確かに今日は暖かいけど今日だけだよ。また明日からはうんと寒くなるって」
「いいえ。もう春一番も吹いてしまったし、おそらくもうすぐあの春告精も現れるでしょうね」
「そんな……。じゃあまたいなくなっちゃうの? やだよ? まだ遊び足りない!」
チルノはだだをこねるがこればかりはどうしようもない。
レティはそんなチルノを優しく抱いた。
チルノの背中を叩いて、まるで自分の子をあやすように。
「大丈夫よ。また冬になれば会いに来るから。そんなにしんみりしないで」
「でも……寂しいよ」
「ふふ。ありがとう。でもチルノは最強なんでしょう? その最強がこんなんでどうするの」
「……いい。レティといれるなら最強じゃなくていい」
「あらあら、困った子。……さあ、今日は何で遊ぶの?」
チルノはレティから離れて、しばらく黙っていた。
その目には涙が溜まっていたが、チルノはそれを拭ってにぱと笑った。
「雪だるまを作ろう! 大きな大きな雪だるま!」
小さな体を精一杯のばして大きさを表現している様子が実にかわいらしい。
レティはそう思うが、生憎と今はもう雪は少なくなっている。
「雪だるまねぇ……。でもそんなに雪は残ってないから、そんなに大きな雪だるま作れるかしら」
「いいもん。足りなくなったらあたいで雪を作るから!」
「あら? それは骨が折れそうね。」
そう言って二人は笑いながら雪だるま作りに励んだのだった。
桜舞う。春告精リリーホワイトが飛び回るこの季節。
春の陽気が幻想郷を包んでいた。
チルノはレティがいなくなった時はしばらく塞ぎ込んでいたが今ではもうすっかり元気になっている。
いろいろな所を飛び回り、いたずらをしては巫女や魔法使いに追いかけられ、打ち落とされている。
しかし今回は少し変わったことをしていた。
「あ! リリー! また来たな! ここから先は通さないよ!」
「春ですよー。それは困るですよー」
チルノがリリーに喧嘩を売っていた。
本来ならリリーは春の訪れを示すので、普通は歓迎される。
それに春のリリーは気持ちハイになっているので、そこらの妖精、妖怪では歯が立たない。
そんなリリーに対してチルノは通せんぼをしていたのだ。
「通して欲しいですよー。春が届けられないですよー」
「別に春なんていらないよ! 分かったらさっさとあっち行け!」
そう言ってチルノは弾幕を散らして威嚇する。
そんなチルノの並々ならぬ気迫に、リリーは尻込みしてしまう。
「なんだか怖いですよー。ひとまず後回しにするですよー」
「ふんだっ! もう来るなよ!」
「チッ」
「あれ? あんた今舌打ちしなかった?」
「気のせいですよー。退散するですよー」
チルノはリリーをひとまず追い払うことが出来て安堵した。
だが、一息つく間も無くチルノは自分の住処へ戻っていった。
「いけない。もたもたしてるとあれがとけちゃう。いそいで戻らないと!」
そういってチルノが向かった先には雪だるまが二つ。
大きい方には白い帽子が被せられて、小さい方には青いリボンがつけられていた。
更にそれらには木の枝で作られた腕の先に手袋がはめられていて、あたかも手を繋いでいる様な状態だった。
チルノが家に着くと、大きな声で雪だるまに挨拶をした。
「ただいま! レティ!」
『ねぇ、チルノ? どうせなら雪だるまを二つ作らない?』
『なんで?』
『ほら、こうやって大きな方に私の帽子を被せて、小さな方にチルノのリボンをつけると』
『おお! いいな、これ!』
『でしょう? あなたが寂しくないように、ね?』
『レティ……。うん決めた。あたい、これを次の冬までとかさないようにする!』
『あらあら、それは大変ね。』
『あー! 笑うな! ぜっったいに次の冬まで残しておくんだから!!』
『ふふ。楽しみにしてるわよ、チルノ。』
『うん!!』
私はいつまでも待ってます!
リリーの舌打ちww