翌、早朝。
まだ薄暗い霧の湖の湖畔では妖精・妖怪連合軍が集結していた。
チルノとスター、ルナの人脈をフルに活用し、大妖精が熱心に勧誘した結果、結構な数が集まった。
ルーミア、リグル、ミスティア、リリーホワイト・ブラックの面々である。
チルノは切り株に立ち満足げに集まった軍勢を見渡し声を上げた。
「あたいたち妖精や妖怪は長らく霊夢と魔理沙に虐げられてきた。今日こそ奴らをこてんぱんにやっつける!ジーク、あたい!」
「おおー!」
「やってやるわ!」
「やっつけるのかー!?」
各々、歓声を上げる。
なかなか士気が高かったが大妖精は浮かない表情をしていた。
(みんな、よく集まってくれたけどあと二人、ほしかった…)
霊夢は交友範囲が広く、なおかつ力の強い者が多い。
大妖精の見立てでは霊夢軍の数は10前後、地の利を生かせるにしても同数程度の戦力は欲しかった。
「あ、大ちゃん、ジークってなんて意味?」
「んー…、ごめん、わからないな~」
「そっかー、多分、最強ってことね!」
「あはは…、そうかもね~」
大妖精の心配とは裏腹にチルノは楽しそうにはしゃいでいた。
わいわいと一同が騒いでいると、
「楽しそうね、みんなお揃いでどうしたの?」
茂みから青い服を着た少女が静かに現れた。
驚き静まる一同だったが大妖精がすぐに声を掛けた。
「レティさん!もう休眠しているとばっかり」
冬の忘れ物、レティ・ホワイトロックである。
例年ならば今頃の時期はすでに休眠に入っているはずだ。
「昨日目覚めたわ。異変かしら?」
「そうなんです、力がおかしなことになってて――」
大妖精は異変のこと、霊夢との戦争、自分の見解など丁寧に話した。
レティは興味深げに聞き入っていた。
「――というわけなんです」
大妖精の話が終り一同がレティに注目する。
レティはちょっと驚いたそぶりを見せたがすぐににやりと笑った。
「ふふ、それならぜひ私も混ぜてほしいわ」
レティもひとかどの妖怪である。
霊夢に負けたままでいるほど日和っている訳ではない。
機会があればいつでもリベンジする、そう考えていた。
「よかった、レティがいれば百人力だ!」
ぱぁっとチルノが明るい表情をみせた。
レティが加わり、再びわいわいと騒ぎ出す一同だったが、
「あー、いたいた。おはよーございます!」
突然、湖中に響き渡るかと思うほどの大きな声。
誰かが飛んできたが霧でよく見えない。
「おっと、来たわね。響子ー、こっちこっちー!」
ミスティアが手を振る。
人影はミスティアの隣に降り立った。
「紹介するわね、この娘は妖怪寺の山彦妖怪、幽谷響子。私が誘ったの」
「一緒に戦うわ。よろしくねー!」
響子はぺこりとお辞儀した。
「よろしくお願いします。お二人はどういう関係なんですか?」
大妖精が尋ねる。
「私達二人でゲリラライブをしていてねー。結構好評なのよねー」
「ねー」
響子が山彦のような相槌を打つ。
聞いていて心地よい。
「ライブって…ああ、あのそう――」
騒音といいかけて思いとどまった。
「…あの爽快な音楽ですか。妖精の間でも話題になってますよ」
「でしょでしょー?今度、お経を使った新曲を歌うから聴きに来てね」
嬉しそうに響子がにっこり笑う。
「お経ですか…、なにやら難しそうですね」
「大丈夫大丈夫、歌ってる私も何のことやらさっぱり分からないわ。何も考えず聴いて感じてもらえればいいのよ」
「ははは…、じゃあ今度お邪魔します」
大妖精は苦笑した。
「私は抑圧された者の心の開放の手助けをしたいのよ。妖怪の敵、博麗の巫女に一泡吹かせるわ」
胸を張る響子にミスティアがこくこくと頷いた。
(10人集まった、これで勝負になる。レティさん、響子さん、ありがとう!)
大妖精はチルノと目が合い力強くうなずく。
腕組みをしてたチルノが眼をカッと見開き右拳を上げた。
「レティに響子まで加わった!勝てる、いや、絶対勝つ!」
「おおー!」
気勢を上げる一同、チルノ軍団の士気は最高潮に達した。
博麗神社。
霊夢とさとりは朝食を終え皆が集まるのを待っていた。
早苗、華扇がすでに到着しており、茶を振舞って早苗のモビルスーツ談義を聞いていた。
「博麗霊夢ー!助太刀に来てあげたわー!」
突如、叫び声と共に上空から巨大な深緑の半球状の機体が旋廻しつつ降下してきた。
よく見るとその機体の上に何者かがちょこんと座っている。
「おおー!アプサラスⅡですかー!!おっきいですねぇ、感動ですっ!!」
目を輝かせ歓喜する早苗。
ピョンピョン飛び跳ねて千切れんばかりに両手をブンブンと振る。
怪訝な表情で様子を伺う霊夢、いくらなんでも降下の速度が速すぎやしないか。
深緑の機体はスピードを緩め、神社正面の鳥居を潜り境内に着陸するようだ―――が
『ガンッ、ガンッ、ズガガガガガガガガガガ』
案の定、スピードを緩めきれずバウンドし境内中央の石の参道を横滑りしていく。
「ちょ、ちょっと総領娘様!?」
「うわわわわわわ、衣玖、止めてー!止めなさい!!」
「無理ですってー!きゃあああああ!」
『ガリガリガリガリ…ガコン!バキィ!』
賽銭箱手前の階段にぶち当たりやっと止まった。
投げ出され賽銭箱奥の格子戸に突き刺さる衣玖。
アプサラスⅡと呼ばれた機体は階段にめり込みピクリとも動かない。
呆気に取られる霊夢達であった。
「痛タタタタ…、あ、霊夢さん、皆さん、おはようございます」
格子から上半身を引き抜いた衣玖がスカートの裾をちょこんと持ち上げ、優雅にお辞儀した。
足元に木片がぼたぼたと落ちる。
いまだ呆気に取られる霊夢たちににっこりと微笑んだ。
額の流血には気が付いていない様子。
「な、なんなのよ?いったい」
「お騒がせしてすみません、お仲間に加えていただきたく参上いたしました」
「仲間って…どういうことなの?」
「はい、実は総領娘様は常日ごろより異変解決ごっこがしたい、と仰られておりまして、
それで今回の異変が起き、昨日一日、解決すべく東奔西走したのですが何も遭遇せず解決の手がかりもなし。
そこで霊夢さんのお手伝いをお勧めしたところ…」
「このザマか…。神社がヒドイ有様だわ」
「ご迷惑をお掛けしました、壊したところは責任をもってお直しいたします。それと…」
衣玖は袖から紙幣を5枚出し賽銭箱に捻じこんだ。
二拍して目を瞑る。
「幻想郷が平和でありますように…」
「あー、わかったわよ。後でちゃんと直しなさいよ。お茶でもいれるわ」
「ありがとうございます」
霊夢は額から血を流しにっこりと微笑みお辞儀する衣玖をみて、コイツも大変なんだな、と同情した。
茶を淹れ、早苗に衣玖の治療をさせていると天子が起き上がってきた。
首をコキコキと鳴らし肩をブンブン回している。
「霊夢、しばらくね。相変わらず貧相な神社だわ」
「あーはいはい、こっちにきてお茶でも飲みなさい」
相変わらずの態度に呆れながらもお茶を勧め現状を聞かせた。
天子は話を聞きながらニ杯のお茶を飲み干した。
一つは衣玖に入れたものだが気にする様子はない。
「薄っすいお茶ね、水かと思ったわ」
「あんたの胸ほどじゃないわ」
「フン、外の世界じゃ貧乳はステータスでジャスティスらしいわ。そうよね?衣玖」
衣玖は返事の代わりににっこりと微笑みゆっくりとうなづいた。
天子の扱い方をよく心得ている。
「あー、はいはい、肩がこらなくていいらしいわね。…で、助太刀っていってたけど?」
「妖精軍団と戦争…面白そうね。どうしても、と言うなら手を貸してあげてもいいわ」
ニヤリと笑い華扇の飲みかけのお茶を飲み干した。
「はいはい、よろしくね」
投げ槍に答えたが霊夢にとって喜ばしい限りである。
地底でのリクルートに失敗した今となっては願ってもない貴重な戦力だ。
お茶を淹れなおし虎の子の茶菓子を振舞った。
そうこうしているうちに文と椛も到着した。
残すは魔理沙とアリスだがなかなか姿を見せない。
「魔理沙達、遅いわねー…ん??」
誰かが参道を上がって来た。
「霊夢、皆さん、ごきげんよう」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が現れた。
霊夢は魔理沙が来たと勘違いして、少し落胆した。
「なんだ、あんたか。何か用?」
ぶっきらぼうに応対する。
咲夜はやれやれと軽く息を吐き大げさに両手を広げた。
「参拝に来たのよ?巫女ならもうちょっと愛想良くしたほうがいいわ」
というとどこからかコインを3枚出し矢のような速さで投げた。
コインは別々の軌道を描き神社の柱や壁を何度か反射し、全て同時に賽銭箱に吸い込まれた。
早苗は目を丸くし小さく拍手したが霊夢は不機嫌そうだ。
「今度からは神社が痛まない紙幣をお願いするわ」
「痛まない、って既にぼろぼろじゃない?」
神社は昨日の戦闘の流れ弾でところどころ破損していた。
先ほど天子と衣玖にも壊された。
「そこの天人にまた直させるわ。だから今度よ」
「そう、じゃあご利益があったら考えるわ」
咲夜は胸の下で腕組みして微笑み言葉を続ける。
「ふふ、お嬢様からのことづけでね。館に来て欲しい、と仰っていたわ」
「用があるならそっちが来なさい、と伝えて」
「それがちょっと立て込んでいてお嬢様は館を離れられないのよ」
「ああ、そうなの?なら生憎だけど時間がないわ。これから妖精軍団と戦争なのよ」
「戦争?どういうこと?」
「いろいろあってね。昨日の朝、チルノ達が――」
霊夢は面倒臭そうに適当に説明する。
見かねた早苗が補足した。
「なるほど、それで地霊殿の主や天人がこんなところにいるのね」
「こんなところで悪かったわね。天人は勝手に来たわ」
霊夢は悪態をついたが咲夜は微笑みを崩さない。
「じゃあその戦争の後でいいので館に来て頂戴。湖なら近いでしょう?」
「気が向いたらいくわ」
霊夢はそっけなく答えた。
「ふふ、お茶の用意をして待っているわ」
「あんた達も仲間になってくれると助かるんだけど?」
「お嬢様次第よ。伝えてはみるわ」
というと咲夜は静かに去っていった。
咲夜が去った後、早苗のリクエストで衣玖がモビルスーツに変身した。
真っ白なモビルスーツで足を前後に交差しふよふよと空中を漂っている。
「おおー、衣玖さんはベルティゴですかー!私、大好きですよ。ビットは飛ばせますか?」
「ビットってこれですか?操作が難しくてうまく使えないです…」
浮遊しながらありったけのビットを射出し体の周りに展開させたが、てんでバラバラに動き、
あるものはぶつかり合い、あるものはあさっての方向に飛んでいく。
「危ないわね、神社に当てないでよ?」
霊夢が心配そうにいう。
「全部出す必要はないですよ。慣れるまで1、2個でやってみたらどうですか?」
早苗が足元に転がったビットを拾い上げ興味深げに見ている。
「あぁ、そうなんですね。次は減らしてみます…あら?なにか飛んできましたね」
衣玖の指差した森の上空を、青い玉ねぎのような形状の物体に四本の脚が付いた大きな機体がゆったりと飛んできた。
脚を抜かしても天子の機体より一回り程大きい。
「アッザムとは渋いですね…、誰でしょうか?」
早苗がつぶやく。
アッザムの上には魔理沙とアリスが座っていた。
魔理沙は立ち上がり手を振る。
「あー、あれ霖之助さんだわ。遅いわよ、魔理沙ー!」
霊夢が手を振り返す。
程なくアッザムは賽銭箱の前に着陸した。
魔理沙とアリスが飛び降りたのを確認し、アッザムは変身を解いた。
「いやー、悪い悪い。香霖を機体に慣れさせるために飛ばせてきたんだがおっそくてな」
魔理沙の悪びれない様子に霊夢が呆れる。
霖之助は霊夢の前に立ち、すっと右手を差し出した。
「遅くなってすまない、霊夢。事情は聞いたよ。今回は僕も力になれそうだ、よろしく頼むよ」
霊夢は嬉しそうにガッチリと握手を交わした。
「お願いね、霖之助さん」
「ああ、期待しておくれよ」
霖之助はニカッと爽やかに笑った。
初めて顔をあわせる者もいたので互いに挨拶を交わし、モビルスーツ化して姿を見せ合う。
総勢10名、十分な戦力といえよう。
「じゃ、皆さん、集合写真を撮りますので集まってください」
戦力外の天狗が楽しそうに指示を出す。
「写真なんて撮らないわ、とっとといくわよ」
霊夢はそそくさと飛び立ってしまった。
一同もそれに続く。
魔理沙達の到着が遅かったため約束の正午まで時間に余裕がなかった。
「えー、集合写真は見栄えがいいんですがねぇ…」
文は渋々最後尾からついてきた。
程なくして一行は霧の湖のほとりに到着した。
湖は静まり返りいつもどおり霧に包まれていた。
「視界がずいぶん悪いですね…」
早苗が不安げにつぶやいた。
「そうね、でも上空で戦えば関係ないわ」
上空は視界がよかったので少し高度を上げて進むと…いた。
湖の中央付近上空にチルノ軍団は展開していた。
霊夢達は離れた位置で止まり散開する。
ぱっと数えて7名、おもっていたより少ない。
真ん中にいたチルノが霊夢達をみてニヤリと笑った。
「逃げずによく来たな!霊夢」
「フン、逃げるわけないじゃない。私に喧嘩を売ったこと、後悔させてあげるわ!」
霊夢は早々モビルスーツに変身しビームライフルを構えた。
それを見た両軍は慌ててモビルスーツに変身する。
「チルノちゃん、アレを…」
「おっけー、大ちゃん!霊夢、いくよ!戦争開始だ!!」
チルノは背中の翼を放射状に広げ、翼の最上部のプラズマ収束ビーム砲、腰のレール砲、そしてビームライフルを同時に放った。
赤・黄・緑のビームが空を貫く。
「ハイマットフルバースト!綺麗…」
早苗が見惚れる。
チルノのハイマットフルバーストを合図に妖精・妖怪軍団が一斉に射撃を始めた。
霊夢達も距離をとり撃ち合うが双方とも遠く離れていて当たらない。
無駄な打ち合いに魔理沙が苛立つ。
「こりゃ不毛だぜ、近づいて白兵戦をしたほうがいい」
「そうね、こっちのほうが数が多いし…、みんな、前――」
霊夢が指示を出そうとした瞬間、背後の水面付近の霧の中から一条の巨大な閃光が霊夢達の陣を走った。
閃光は霖之助のアッザムを貫き、さとりの先行量産型ボールを消滅させた。
「霖之助さん!?さとり!?」
霊夢は血相を変え呼びかけたがさとりの返事はなかった。
霖之助のアッザムは黒煙をあげ傾き、落下していく。
「霊夢、すまない、ここまでのようだ。健闘を――」
アッザムは空中で爆発、派手に砕け散った。
そして閃光の走った背後、下方の霧の中から巨大な物体が浮上してきた。
座った白い犬のような形だがちょっとした屋敷くらいの大きさがある。
両脇に白と黒の頭部の尖ったモビルスーツもいた。
レティ・ホワイトロックのホワイトベースとリリーホワイト・ブラックのトーラス白・黒である。
「ホワイトベース…、まさか戦艦まで出てくるとは…」
驚愕する早苗、靈夢達に衝撃が走る。
背後のホワイトベースの各砲座から一斉に弾幕が放たれた。
「作戦成功です!弾幕を張りながら少し前進してください」
大妖精が支持を出す。
前後から弾幕が霊夢達を襲う。
奇襲と挟撃に完全に浮き足立つ靈夢達だったが魔理沙が意を決して叫んだ。
「後ろのデカ物は私とアリスで落とす。霊夢たちは前の本隊を叩いてくれ!」
「そ、そうね、分かったわ。お願いね、魔理沙。他は各自散開して前進!」
そういうと霊夢は全速で敵陣に突っ込んでいった。
「霊夢さん、落ち着いて下さい!」
慌てて早苗達も続く。
一機突出した霊夢に正面から弾幕が集中したが紙一重で回避しながらチルノ達に近づく。
「霊夢さんが来ました、ルナさん、スターさん、お願いします!」
「わかったわ、任せて頂戴」
ルナのレイダー、スターのカラミティが霊夢の前に立ち塞がった。
「霊夢、サニーの仇を取らせてもらう!」
「昨日は邪魔が入ったけど今日こそ打ち落とすわ、覚悟!」
気合十分のルナとスター。
ルナは右腕の防盾砲を連射しながら接近、スターは離れて隙を伺う。
「来たわね、昨日の借りを返すわ。いけ、フィン・ファンネル!」
叫び、フィン・ファンネルを3機射出した。
今の霊夢が同時に操れる限界が3機、出し惜しみする気など毛頭ない。
ルナの射撃を避けつつ後方で様子を伺っているスターの周りにフィン・ファンネルを展開させた。
フィン・ファンネルはスターの周りを飛び回り死角から的確に攻撃する。
「な、何よ、これ!きゃあああああああ!」
肩、足、最後に頭と胴体を打ち抜かれスターはあっけなく爆散した。
「スターがやられた!?霊夢、よくも…」
「まず一機、あんたも落ちなさい!」
今度はルナの周りにフィン・ファンネルを展開させる。
ルナは鉄球を振り回し1機破壊したが、残る2機がルナを襲う。
「終りよ、落ちなさい!」
がら空きのルナの足元から胴体を打ち抜こうとしたが、
『ヒュィィィイイイイイイイイン』
突如、怪音が響きルナ押しのけるように黒く全身が平べったいモビルスーツが現れた。
フィン・ファンネルから放たれたビームを分散、無効化させてしまう。
「えぇ!?なによそれ!?」
驚く霊夢。
モビルスーツは小刻みに振動しており、周りの空気を震わせている。
やがてフィン・ファンネルは空気の振動に巻き込まれ制御を失い爆発してしまった。
「ルナ、大丈夫!?」
「響子さん!ありがとうございます!助かりました」
幽谷響子のフラットである。
激しく振動しながらルナを護るように立ちふさがる。
霊夢はすかさずビームライフルを放つが、案の定こちらも分散してしまった。
「…長引きそうだわ。魔理沙、早苗、みんな、頼んだわよ!」
霊夢は速攻を諦めビームライフル構え直した。
前進した早苗達もチルノ軍団に接触しすでに戦闘を始めていた。
霊夢の後に続いた華扇のヴァル・ヴァロは天高く舞い上がりミスティアのヘヴンズソードと交戦、
天子のアプサラスⅡはチルノのフリーダムガンダムに突っ込んでいく。
「あんたが大将ね!我こそは非想非非想天の戦乙女、比那名居天子。いざ勝負!」
天子は叫ぶなり、大型メガ粒子砲をぶっ放した。
「ふん、そんなもん当たるか!あたいは天下無敵の妖精、宇宙最強のチルノだ!死ねい!」
チルノは余裕でかわし素早くビームライフルを撃ち返す。
天子は回避するが機体が大きさゆえ避けきれず側面に被弾、大きく揺らぐ。
「うがっ!あんたやるわね…」
「総領娘様!大丈夫ですか!?」
「はっ!こんなの屁でもないわ、まだまだ!」
被弾したものの損傷は軽微で戦闘に支障ない程度だった。
衣玖のベルティゴは天子をサポートしようと慌てて近づくが、リグルのガブスレイと大妖精のド・ダイYSに行く手を阻まれる。
まだビットがうまく使えない衣玖は2体の攻撃に防戦一方になってしまった。
後方を進んでいた椛と早苗は天子と衣玖の旗色が悪いと見て救援に向かう。
「ガブスレイはZガンダムである私の獲物、椛さんは天子さんのフォローをお願いします!」
「了解です!…えっ?」
突然、椛の頭上から漆黒のモビルスーツが降って来た。
椛の肩に乗り首筋から体に深々とビームサーベルを突き刺す。
「うわああああああああ!?」
何が起こったかわからずパニックに陥る椛、浮力を失い落下し爆散した。
「ブリッツガンダム!?だ、誰ですか!?」
宵闇の妖怪、ルーミアだが変身してしまっているため早苗には分からなかった。
ルーミアはゆっくりと早苗に向き直り両手を水平に広げた。
周りの空間が揺らぎ姿が消える。
「おっと、簡単に隠れさせませんよ!」
ブリッツガンダムの特性は十分に理解していた。
ここで姿を消されることは敗北を意味する、それだけはなんとしても防がねばならない。
間髪いれずバルカンを撃った。
ルーミアは姿を現しシールドで防御しつつ左腕の有線式クローを飛ばす。
早苗はクローを引きつけビームライフルの銃口から出たロングビームサーベルで切り裂いた。
ルーミアはレーザーライフルを連射しながら左手にビームサーベルを持ち替える。
「当たりませんよ!」
半身になり右へ廻り込みながら回避し、グレネードランチャーを放つ。
ルーミアは少し後退し回避しようとするが追尾してきたため盾で防ぐ。
盾に当たり爆発したが爆煙に紛れて早苗が間合いを詰めた。
「そこです!もらった!!」
ルーミアの盾目掛けてロングビームサーベルを突き刺す。
サーベルは盾を貫通し搭載されていたランサーダートを破壊した。
『ドッゴォォォォン』
ランサーダートが爆発しブリッツの盾と右腕が弾け飛ぶ。
予想外の爆発の大きさに早苗も堪らず後退するがルーミアはその隙を見逃さず姿を消した。
再びバルカンを撃つが時すでに遅く、手応えがなかった。
「しまった…、ですが火器はもうないはず、ならばいける!どこからでも掛かって来なさい!」
早苗は盾を構え直し迎え撃つ体制を取った。
「くそっ、あのデカ物どうやったら落とせるんだ…?。」
後方の魔理沙とアリスはレティのホワイトベースを攻めあぐねていた。
弾幕が厚く、2体のトーラスのカバーも的確で有効な攻撃をさせてもらえない。
なんとかホワイトベースに被弾させても巨大すぎる為かビクともしなかった。
「あの白黒の2体が厄介ね、どうしたものかしら…」
魔理沙とアリスは離れた上空からホワイトベースを見下ろしていた。
「こうなったら一か八か私のハイメガマスタースパークで―」
「やめなさい!この距離じゃ十中八九、避けられるわ。1発しか撃てないんだから確実に当てないと駄目よ」
「じゃあどうすればいいんだ、これじゃジリ貧だぜ」
「…わかったわ、私が囮になる。あんたは隙を見て下に潜り込んで仕留て!いくわよ!」
「あ、待て―」
アリスは魔理沙の静止を聞かず急降下していった。
(危険だけどリスクを恐れていては先がないわ)
ホワイトベースの各砲座がアリスを狙い撃つ。
アリスは降下の軌道を変え、弾幕を縫うようにホワイトベースの後方へ回り込んだ。
何発か体を弾がかすめるが全く怯まない。
(中央部分の高くなっている部分をブラインドに、回り込んで弾幕の薄い後方へ…うっ?)
回り込んだ先に2体のトーラスが待ち構えていた。
アリス目掛けビームライフルを狙い撃つ。
とっさに身をよじり胴体への直撃を避けたが左肩に被弾、左腕が弾け飛んだ。
「うぐっ、やるわね!でもこれからよ!」
アリスは強引に体制を立て直し、腰と右腕からビームを撃ち返すが分が悪い。
(これは…ちょっと不味いわね…)
そこへ魔理沙がビームライフルを乱射しながら急降下してきた。
2体のトーラスはアリスへの攻撃の手を緩め魔理沙を警戒する。
「うおおおおおおおお!アリス、やられるなよぉぉ!?」
魔理沙はそのまま素通りしてホワイトベースの下に潜り込んでいった。
アリスはホワイトベースから少し距離をとりトーラスを牽制する。
(頼んだわよ、魔理沙。この分だとあんまり持たないわ)
ホワイトベースの下に潜り込んだ魔理沙は早速ハイメガキャノン砲を撃とうと身構えた。
(一刻も早くこのデカ物を落とさないとな……いや、待てよ?慌てる泥棒はお縄に掛かる、私が奴らなら…)
危険を感じ、急いでホワイトベースに取り付き身を隠す。
間髪いれずに慌てた様子で白いトーラスが追って来た。
キョロキョロと辺りを見回し魔理沙を探している。
(危なかったぜ…、焦ってハイメガマスタースパークを撃とうとしてたら落とされていたな)
背中を見せ隙だらけのトーラスに照準を合わせ撃ち抜いた。
トーラスはあっけなく爆散した。
「卑怯とか、いうなよ?こっちも必死なんだ。さて…」
魔理沙はホワイトベースから降下し距離をとった。
額に魔力を集める。
「それじゃいくぜ!ハイメガ、マスタァスパァクゥゥゥゥ!」
魔理沙の額に収束したエネルギーは巨大な閃光の柱となりホワイトベースを貫いた。
ホワイトベースの後部が跡形もなく消滅し、ガクンと大きく揺れたあと、黒煙をあげて湖に降下していった。
魔理沙はそれを横目に急いで浮上する。
辺りは黒煙が立ち込めていた。
「アリスゥゥ、無事かぁぁぁ!?」
アリスと黒いトーラスが戦っているのが目に入った。
未だ健在なアリスを見てほっとするが、トーラスに激しく攻め立てられているのを見て焦る。
「お、おい、大丈夫か?今加勢するぜ」
魔理沙は慌ててビームライフルを構えるがアリスは落ち着いて答えた。
「大丈夫よ、今終わらせる」
アリスは黒煙に忍ばせた右腕からビームを放った。
トーラスは頭上から5本のビームに貫かれ爆散した。
「ふぅ、一機ならこんなものね。魔理沙、お疲れ様」
アリスは右腕のワイヤーを延ばし掌を魔理沙の近くで広げた。
魔理沙はポンと軽くアリスの掌を叩いた。
「アリス、まだ戦えるか?」
「たいしたことはないわ。こんなのカスリ傷よ」
魔理沙はボロボロのアリスの機体を見て苦笑いした。
「じゃあ前線に行くぜ、早苗達は当てにならないからな。背中任せた!」
「ふふ、任されたわ」
二人は火線の飛び交う前線に飛んでいった。
前線では霊夢が苦戦をしていた。
ビームライフル、バズーカなどの火器は全て無効化され、またビームサーベルで斬ろうと近づいても振動による空気の壁に阻まれ近づけない。
ルナは動揺から立ち直り激しく攻撃、響子はサポートしながら隙を見ては振動による手刀を繰り出してくる。
猛攻に耐えじっと隙を伺うが攻撃は激しさを増すばかりだった。
「連携がよくなってきてる、まずいわ」
ルナの弾幕を防いだ盾を響子が掴む。
激しい振動が霊夢を襲った。
慌てて響子を蹴りつけ間合いを取るが大きな隙が生じる。
「もらったぁ!抹殺!!」
その隙を見逃さずルナが鉄球を飛ばす。
鉄球は唸りを上げ霊夢の胸を強打する。
「うぐっ!」
霊夢は吹っ飛び、霧の中へ落下していった。
ルナと響子は無言でうなづき合うと霊夢を追って霧の中へ降りていく。
響子が両手を広げ鳥のような姿勢で降下、ルナがその後ろに張り付いた。
上部の霧はそれほど深くなく、下方に人影が見えた。
と、人影の方向からフィン・ファンネルが3機飛んで来た。
「無駄よ、その武器も効かない!」
響子は少し前進して体を振動、ルナは邪魔にならないよう少し後退して距離をとった。
3機のフィン・ファンネルは空気の振動に巻き込まれ次々と爆発していった。
が、3機目が爆発すると同時に響子の頭上へ霊夢が急降下してきた。
「う、上!?いつの間に!!」
霊夢は人型のダミーとフィン・ファンネルを囮に使い下方に注意を向けさせ、その隙に上空へ移動していた。
そしてフィン・ファンネルを犠牲に響子を振動させ位置を特定し動きを止めたところを襲う、一か八かの作戦だった。
「あんだけ振動されれば上が弱いことくらい分かるわ、終りよ!」
頭上からビームサーベルを突き刺した。
響子は振動しながら爆散した。
霊夢はルナには目もくれずさっと上昇してしまった。
残されたルナは呆然としていたが、次第に沸々と怒りがこみ上げてきた。
仲間を次々撃破する霊夢と不甲斐ない自分に。
「ううう…、サニー、スター、響子さん…ごめんなさい」
モビルアーマーに変形し急上昇する。
霧を抜けると霊夢が待ち構えていた。
「来たわね。今更降伏なんてしないわよね?さぁ、かかって来なさい!」
「うわああああああああああああ!!」
ルナは絶叫し霊夢に突進していった。
残された道は勝ち目のない特攻を掛ける、ただそれだけだった。
「ミラージュコロイド…厄介です…」
先程まで優勢に戦っていた早苗だったが一転、追い詰められていた。
隠れた状態から死角へ回り込み斬撃を繰り出すルーミアに対し、回避するだけで精一杯だった。
持ち前の反射神経でなんとか避けれてはいるものの、すでに盾は無残に切り裂かれ、いよいよどうにもならなくなってきた。
ルーミアに火器が残っていたらあっけなく落とされていただろう。
(駄目だ、姿を見てからでは遅すぎる…)
次の攻撃は避けられるだろうか、避けたところでどうやって攻撃を当てればいいのか。
打つ手のない早苗だったがふと、師と仰ぐ八坂神奈子と洩矢諏訪子の顔が浮かんだ。
あの二人ならこんなときどうするのだろうか。
(そうだ、あれはにとりさんのオプティカルカモフラージュの話をしたときだ)
早苗はある日の食卓での会話を思い出した。
「――河童のアレは不完全だが物の怪には姿を隠す物も珍しく無いからね。早苗、あんたは見えない敵とどう戦う?」
「うーん…、居そうな場所に弾幕を厚めに張りますかねぇ?」
「それじゃ15点だな、それで勝てるのは雑魚だけだ」
「早苗、二つの目で見えないなら四つに増やせばいいんだヨ」
「…諏訪子様、人の身の私には無理です」
「あっはっはー、人間は不便だねぇ。神奈子はどうするのサ?」
「目だけに頼らずに五感全てで感じるのさ、姿や気配は消せても存在は消せないからね」
(そうですね、神奈子様、やってみます!)
ゆっくりと息を吐き目を閉じた。
不思議と視覚を遮断することに恐怖感は無かった。
心を落ち着け神経を研ぎ澄まし気配を探る。
「我が心 明鏡止水、されどこの掌は烈火の如く……居た!そこです!」
上空から急接近する気配を感じ素早くビームライフルを連射する、手ごたえ有り。
目を見開き、状況を確認する。
早苗の放ったビームライフルはミスティアのヘブンズソードを貫いていた。
空中で爆散するミスティア。
「あ、あれ?ヘブンズソードでしたか…って味方を撃つ可能性もありましたね。」
目を閉じる必要はなかったなぁと反省した。
『ズガアアアア』
間髪いれずに後方から大きな衝撃音がした。
驚き振り向くと高速で飛行する華扇のヴァル・ヴァロ、と大破し吹き飛ぶブリッツ。
どうやらヘブンズソードとドッグファイトを展開していた華扇にブリッツがぶち当たったようだ。
華扇は空中で大きく揺らぐが何とか態勢を立て直す。
「何!?何なの??」
何が起きたか分からず慌てる華扇。
「華扇さん、助かりましたー。ミラージュコロイド中は装甲が紙でしたね…」
「そーなのかー」
ルーミアは気の抜けた断末魔をあげつつ湖に落下し爆発した。
と、激昂したリグルのガブスレイが早苗に向かって突進してきた。
「お前、よくも…よくも二人を!」
「ブリッツは違うんですが…でもガブスレイなら私が全力で沈めないとねっ☆」
殺る気満々な早苗であった。
「さて、もう勝敗は決したと思うが、まだやるかい?」
魔理沙は上空からチルノにビームライフルを撃ちながら挑発していた。
序盤は圧倒していたチルノだったが何発撃ち込んでも落ちない天子に手を焼いているうちに
後方にいた魔理沙とアリスが合流、リグルが去り衣玖も息を吹き返し戦況は一変した。
「チルノちゃん、もう…」
敗色が濃厚なことを悟り大妖精がうろたえる。
「頑張って大ちゃん、まだいけるよ、あたいは最強なんだから!」
相変わらずチルノは勇ましかったが言葉とは裏腹に避けることさえままならなくなっていた。
波状攻撃が一段と激しさを増していく。
たまらず大妖精は霧の中へ一時退避を試みるがすでに退路はなかった。
「これで終りよ!」
下方からのアリスの右手の有線式メガ粒子砲が大妖精を襲う。
大妖精は回避しきれず翼をかすめた。
機体が大きく揺れふらふらと宙を漂う。
「きゃあああああ!」
「トドメだ!」
魔理沙のビームライフルが大妖精を貫く。
『ボォォン』
地味な爆音があがり大妖精は砕け散った。
「え…、大ちゃん?大ちゃん!?大ちゃあああああん!」
返事はなかった。
「大ちゃん!大ちゃん!うわあああああああああああ!!」
悲痛な叫び声を上げ立ち尽くす。
(護れなくてごめん、あたいが弱いから!あたいが最強じゃないから!
本当は闘いたくないこと分かってた。無理やり巻き込んでごめん。大ちゃん、ごめん、ごめん――)
「あなたも落ちなさい!」
棒立ちのチルノをアリスと魔理沙と衣玖の攻撃が襲う。
チルノの周りをオールレンジ攻撃とビーム砲の弾幕が埋め尽くした。
(もうダメ、大ちゃん…。)
無意識にいつか言われた大妖精の言葉が頭に浮かぶ。
『チルノちゃんは誰よりも強い力を秘めているのよ、私の誇りよ。』
雷に打たれたようにハッと我に返る。
大妖精にいわれたとき、胸が熱くなった。
脳が痺れるほど嬉しかった。
今は弱くても、最強じゃなくても――
「あたいは、あたいはまだ、終われない!!」
『パキィィィィィン』
チルノの中で何かが弾けた。
頭が冴え渡り視界が果てしなく広がり弾幕がまるでスローモーションのように見えた。
力がみなぎりどこまでも高く早く飛べるような感覚になった。
棒立ちから一転、弾幕を縫うように電光石火ですり抜ける。
次から次へと放たれる攻撃を高速でかわし続けた。
「よく避けたわね。でも、これで終りよ!」
アリスは右腕のワイヤーを伸ばし足元の死角からチルノを狙い撃つ。
だが、発射するより早く伸ばした右腕が撃ち落とされた。
「嘘…、あれを撃ちおとすの?」
驚愕するアリス、それが致命的な隙になった。
超高速で動くチルノを見失ってしまった。
「ど、どこなの!?…えっ!?」
背後からアリスの胴体をプラズマ収束ビーム砲とビームライフルが貫いた。
浮力を失い急降下するアリス。
湖に落下し爆発した。
「ア、アリィィィィス!!」
激しく動揺し絶叫する魔理沙。
チルノは更にビームライフルを放つが銃口から弱々しい光が放出されるだけだった。
肩のプラズマ収束ビーム砲、腰のレール砲もすでに撃てなくなっていた。
ビームライフルを投げ捨てビームサーベルを両手に構える。
「うおおお、沈めぇぇぇ!」
魔理沙は背中の21連装ミサイルランチャーを放った。
ミサイルが広範囲に広がりチルノを襲う。
チルノは無軌道に動きながら追尾してくるミサイルをかわし、狂気じみたスピードで魔理沙に接近する。
魔理沙はビームライフルを構えるがチルノの動きを追えず、照準が全く定まらない。
「クソッ、なんだよあれは!」
慌てふためく魔理沙にチルノは超スピードで鋭角に回り込み右側面から斬りかかった。
「うおおおおおお、落ちろ!むっ?」
「しっかりなさい、魔理沙!」
そこへ華扇のヴァル・ヴァロがメガ粒子砲を放ちながら割って入ってきた。
火器を乱射しながらチルノに急接近、クローアームを伸ばす。
「邪魔をするな!」
チルノはクローアームをギリギリでかわし左手に持っていたビームサーベルを深々と華扇に突き刺した。
小さい爆発が起こりガクガクと揺れる。
「くっ、ここまでのようね。魔理沙、霊夢をお願――」
華扇は黒煙をあげ落下し爆散した。
「華扇!?馬鹿野郎、私なんかのために…。」
がっくりとうなだれる魔理沙だったがお構いなしにチルノが斬りかかる。
慌ててなりふりかまわず回避する魔理沙だったがチルノの斬撃でビームライフルを破壊されてしまった。
「うおおおおおおおお、終りだ!!うぐっ!?」
衣玖の放ったビームがチルノの背中に突き刺さる。
衣玖も天子も誤射を恐れ手を出せずにいたが、機を待ち何とか被弾させた。
チルノは衣玖を忌々しげに一瞥したが再び魔理沙に切りかかった。
魔理沙はビームサーベルを抜き斬撃を受け止める。
「くそおおおおおお、ん?」
チルノの動きに先ほどの鋭さがなかった。
電光石火の動きは見る影なく魔理沙は難なく攻撃をかわす。
「パワー切れか?それなら…」
魔理沙は叩きつけるように斬撃を放った。
チルノはビームサーベルで辛うじて受け止めたが強く押し込まれ態勢を崩す。
魔理沙は隙を見逃さず力強く踏み込み頭上からビームサーベルを振り下ろし、盾ごとチルノの左腕を切り落とした。
たまらずチルノは少し後退し間合いを取ろうとするが魔理沙が距離を詰める。
「終りだ!落ちな!!」
魔理沙はビームサーベルを振りかぶりチルノの無防備の左側面から急接近した、が、
突然、至近距離でバルカンを撃たれ咄嗟に両腕でガードしてしまう。
「しまった…」
「魔理沙ぁぁぁぁぁぁ!」
チルノは雄たけびをあげ突進した。
魔理沙は苦し紛れにビームサーベルをなぎ払うが間に合わず懐に潜り込まれた。
自分の脇腹に迫るビームサーベルがスローモーションのように見えた。
「ハハ…、情けないな、霊夢にあわせる顔がないぜ…」
魔理沙は胴を真っ二つ切り裂かれ爆散した。
爆発に巻き込まれチルノは吹き飛ばされる。
「やった、やったよ、仇は取ったよ大ちゃん。魔理沙を倒したんだ…。でも、もう体が…動かないよ…。」
チルノは呆然と宙を漂っている。
機体が鮮やかだった色を失い灰色に変わっていく。
そして、天子の放った大型メガ粒子砲に包まれチルノは溶けるように消えていった。
「終わったの?魔理沙?アリスー?」
ルナを落とした霊夢がようやくやってきた。
キョロキョロと辺りを見回し呼びかける。
天子は押し黙っていたが衣玖が重々しく口を開く。
「…魔理沙さんは先ほど落とされました、アリスさん、華扇さんも…です」
「えっ…魔理沙が!?」
絶句する霊夢。
リグルを仕留めた早苗もやってきた。
「椛さんも敵の奇襲でやられてしまいました…。残ったのはこの4人だけだとおもいます…」
「椛はだらしなかったですね、すみません」
どこにいたのか文も合流する。
「魔理沙も落ちちゃったか…まいったわね…」
勝つには勝ったが犠牲が多すぎた。
惨憺たる有様に愕然とする霊夢だった。
つづく
まだ薄暗い霧の湖の湖畔では妖精・妖怪連合軍が集結していた。
チルノとスター、ルナの人脈をフルに活用し、大妖精が熱心に勧誘した結果、結構な数が集まった。
ルーミア、リグル、ミスティア、リリーホワイト・ブラックの面々である。
チルノは切り株に立ち満足げに集まった軍勢を見渡し声を上げた。
「あたいたち妖精や妖怪は長らく霊夢と魔理沙に虐げられてきた。今日こそ奴らをこてんぱんにやっつける!ジーク、あたい!」
「おおー!」
「やってやるわ!」
「やっつけるのかー!?」
各々、歓声を上げる。
なかなか士気が高かったが大妖精は浮かない表情をしていた。
(みんな、よく集まってくれたけどあと二人、ほしかった…)
霊夢は交友範囲が広く、なおかつ力の強い者が多い。
大妖精の見立てでは霊夢軍の数は10前後、地の利を生かせるにしても同数程度の戦力は欲しかった。
「あ、大ちゃん、ジークってなんて意味?」
「んー…、ごめん、わからないな~」
「そっかー、多分、最強ってことね!」
「あはは…、そうかもね~」
大妖精の心配とは裏腹にチルノは楽しそうにはしゃいでいた。
わいわいと一同が騒いでいると、
「楽しそうね、みんなお揃いでどうしたの?」
茂みから青い服を着た少女が静かに現れた。
驚き静まる一同だったが大妖精がすぐに声を掛けた。
「レティさん!もう休眠しているとばっかり」
冬の忘れ物、レティ・ホワイトロックである。
例年ならば今頃の時期はすでに休眠に入っているはずだ。
「昨日目覚めたわ。異変かしら?」
「そうなんです、力がおかしなことになってて――」
大妖精は異変のこと、霊夢との戦争、自分の見解など丁寧に話した。
レティは興味深げに聞き入っていた。
「――というわけなんです」
大妖精の話が終り一同がレティに注目する。
レティはちょっと驚いたそぶりを見せたがすぐににやりと笑った。
「ふふ、それならぜひ私も混ぜてほしいわ」
レティもひとかどの妖怪である。
霊夢に負けたままでいるほど日和っている訳ではない。
機会があればいつでもリベンジする、そう考えていた。
「よかった、レティがいれば百人力だ!」
ぱぁっとチルノが明るい表情をみせた。
レティが加わり、再びわいわいと騒ぎ出す一同だったが、
「あー、いたいた。おはよーございます!」
突然、湖中に響き渡るかと思うほどの大きな声。
誰かが飛んできたが霧でよく見えない。
「おっと、来たわね。響子ー、こっちこっちー!」
ミスティアが手を振る。
人影はミスティアの隣に降り立った。
「紹介するわね、この娘は妖怪寺の山彦妖怪、幽谷響子。私が誘ったの」
「一緒に戦うわ。よろしくねー!」
響子はぺこりとお辞儀した。
「よろしくお願いします。お二人はどういう関係なんですか?」
大妖精が尋ねる。
「私達二人でゲリラライブをしていてねー。結構好評なのよねー」
「ねー」
響子が山彦のような相槌を打つ。
聞いていて心地よい。
「ライブって…ああ、あのそう――」
騒音といいかけて思いとどまった。
「…あの爽快な音楽ですか。妖精の間でも話題になってますよ」
「でしょでしょー?今度、お経を使った新曲を歌うから聴きに来てね」
嬉しそうに響子がにっこり笑う。
「お経ですか…、なにやら難しそうですね」
「大丈夫大丈夫、歌ってる私も何のことやらさっぱり分からないわ。何も考えず聴いて感じてもらえればいいのよ」
「ははは…、じゃあ今度お邪魔します」
大妖精は苦笑した。
「私は抑圧された者の心の開放の手助けをしたいのよ。妖怪の敵、博麗の巫女に一泡吹かせるわ」
胸を張る響子にミスティアがこくこくと頷いた。
(10人集まった、これで勝負になる。レティさん、響子さん、ありがとう!)
大妖精はチルノと目が合い力強くうなずく。
腕組みをしてたチルノが眼をカッと見開き右拳を上げた。
「レティに響子まで加わった!勝てる、いや、絶対勝つ!」
「おおー!」
気勢を上げる一同、チルノ軍団の士気は最高潮に達した。
博麗神社。
霊夢とさとりは朝食を終え皆が集まるのを待っていた。
早苗、華扇がすでに到着しており、茶を振舞って早苗のモビルスーツ談義を聞いていた。
「博麗霊夢ー!助太刀に来てあげたわー!」
突如、叫び声と共に上空から巨大な深緑の半球状の機体が旋廻しつつ降下してきた。
よく見るとその機体の上に何者かがちょこんと座っている。
「おおー!アプサラスⅡですかー!!おっきいですねぇ、感動ですっ!!」
目を輝かせ歓喜する早苗。
ピョンピョン飛び跳ねて千切れんばかりに両手をブンブンと振る。
怪訝な表情で様子を伺う霊夢、いくらなんでも降下の速度が速すぎやしないか。
深緑の機体はスピードを緩め、神社正面の鳥居を潜り境内に着陸するようだ―――が
『ガンッ、ガンッ、ズガガガガガガガガガガ』
案の定、スピードを緩めきれずバウンドし境内中央の石の参道を横滑りしていく。
「ちょ、ちょっと総領娘様!?」
「うわわわわわわ、衣玖、止めてー!止めなさい!!」
「無理ですってー!きゃあああああ!」
『ガリガリガリガリ…ガコン!バキィ!』
賽銭箱手前の階段にぶち当たりやっと止まった。
投げ出され賽銭箱奥の格子戸に突き刺さる衣玖。
アプサラスⅡと呼ばれた機体は階段にめり込みピクリとも動かない。
呆気に取られる霊夢達であった。
「痛タタタタ…、あ、霊夢さん、皆さん、おはようございます」
格子から上半身を引き抜いた衣玖がスカートの裾をちょこんと持ち上げ、優雅にお辞儀した。
足元に木片がぼたぼたと落ちる。
いまだ呆気に取られる霊夢たちににっこりと微笑んだ。
額の流血には気が付いていない様子。
「な、なんなのよ?いったい」
「お騒がせしてすみません、お仲間に加えていただきたく参上いたしました」
「仲間って…どういうことなの?」
「はい、実は総領娘様は常日ごろより異変解決ごっこがしたい、と仰られておりまして、
それで今回の異変が起き、昨日一日、解決すべく東奔西走したのですが何も遭遇せず解決の手がかりもなし。
そこで霊夢さんのお手伝いをお勧めしたところ…」
「このザマか…。神社がヒドイ有様だわ」
「ご迷惑をお掛けしました、壊したところは責任をもってお直しいたします。それと…」
衣玖は袖から紙幣を5枚出し賽銭箱に捻じこんだ。
二拍して目を瞑る。
「幻想郷が平和でありますように…」
「あー、わかったわよ。後でちゃんと直しなさいよ。お茶でもいれるわ」
「ありがとうございます」
霊夢は額から血を流しにっこりと微笑みお辞儀する衣玖をみて、コイツも大変なんだな、と同情した。
茶を淹れ、早苗に衣玖の治療をさせていると天子が起き上がってきた。
首をコキコキと鳴らし肩をブンブン回している。
「霊夢、しばらくね。相変わらず貧相な神社だわ」
「あーはいはい、こっちにきてお茶でも飲みなさい」
相変わらずの態度に呆れながらもお茶を勧め現状を聞かせた。
天子は話を聞きながらニ杯のお茶を飲み干した。
一つは衣玖に入れたものだが気にする様子はない。
「薄っすいお茶ね、水かと思ったわ」
「あんたの胸ほどじゃないわ」
「フン、外の世界じゃ貧乳はステータスでジャスティスらしいわ。そうよね?衣玖」
衣玖は返事の代わりににっこりと微笑みゆっくりとうなづいた。
天子の扱い方をよく心得ている。
「あー、はいはい、肩がこらなくていいらしいわね。…で、助太刀っていってたけど?」
「妖精軍団と戦争…面白そうね。どうしても、と言うなら手を貸してあげてもいいわ」
ニヤリと笑い華扇の飲みかけのお茶を飲み干した。
「はいはい、よろしくね」
投げ槍に答えたが霊夢にとって喜ばしい限りである。
地底でのリクルートに失敗した今となっては願ってもない貴重な戦力だ。
お茶を淹れなおし虎の子の茶菓子を振舞った。
そうこうしているうちに文と椛も到着した。
残すは魔理沙とアリスだがなかなか姿を見せない。
「魔理沙達、遅いわねー…ん??」
誰かが参道を上がって来た。
「霊夢、皆さん、ごきげんよう」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が現れた。
霊夢は魔理沙が来たと勘違いして、少し落胆した。
「なんだ、あんたか。何か用?」
ぶっきらぼうに応対する。
咲夜はやれやれと軽く息を吐き大げさに両手を広げた。
「参拝に来たのよ?巫女ならもうちょっと愛想良くしたほうがいいわ」
というとどこからかコインを3枚出し矢のような速さで投げた。
コインは別々の軌道を描き神社の柱や壁を何度か反射し、全て同時に賽銭箱に吸い込まれた。
早苗は目を丸くし小さく拍手したが霊夢は不機嫌そうだ。
「今度からは神社が痛まない紙幣をお願いするわ」
「痛まない、って既にぼろぼろじゃない?」
神社は昨日の戦闘の流れ弾でところどころ破損していた。
先ほど天子と衣玖にも壊された。
「そこの天人にまた直させるわ。だから今度よ」
「そう、じゃあご利益があったら考えるわ」
咲夜は胸の下で腕組みして微笑み言葉を続ける。
「ふふ、お嬢様からのことづけでね。館に来て欲しい、と仰っていたわ」
「用があるならそっちが来なさい、と伝えて」
「それがちょっと立て込んでいてお嬢様は館を離れられないのよ」
「ああ、そうなの?なら生憎だけど時間がないわ。これから妖精軍団と戦争なのよ」
「戦争?どういうこと?」
「いろいろあってね。昨日の朝、チルノ達が――」
霊夢は面倒臭そうに適当に説明する。
見かねた早苗が補足した。
「なるほど、それで地霊殿の主や天人がこんなところにいるのね」
「こんなところで悪かったわね。天人は勝手に来たわ」
霊夢は悪態をついたが咲夜は微笑みを崩さない。
「じゃあその戦争の後でいいので館に来て頂戴。湖なら近いでしょう?」
「気が向いたらいくわ」
霊夢はそっけなく答えた。
「ふふ、お茶の用意をして待っているわ」
「あんた達も仲間になってくれると助かるんだけど?」
「お嬢様次第よ。伝えてはみるわ」
というと咲夜は静かに去っていった。
咲夜が去った後、早苗のリクエストで衣玖がモビルスーツに変身した。
真っ白なモビルスーツで足を前後に交差しふよふよと空中を漂っている。
「おおー、衣玖さんはベルティゴですかー!私、大好きですよ。ビットは飛ばせますか?」
「ビットってこれですか?操作が難しくてうまく使えないです…」
浮遊しながらありったけのビットを射出し体の周りに展開させたが、てんでバラバラに動き、
あるものはぶつかり合い、あるものはあさっての方向に飛んでいく。
「危ないわね、神社に当てないでよ?」
霊夢が心配そうにいう。
「全部出す必要はないですよ。慣れるまで1、2個でやってみたらどうですか?」
早苗が足元に転がったビットを拾い上げ興味深げに見ている。
「あぁ、そうなんですね。次は減らしてみます…あら?なにか飛んできましたね」
衣玖の指差した森の上空を、青い玉ねぎのような形状の物体に四本の脚が付いた大きな機体がゆったりと飛んできた。
脚を抜かしても天子の機体より一回り程大きい。
「アッザムとは渋いですね…、誰でしょうか?」
早苗がつぶやく。
アッザムの上には魔理沙とアリスが座っていた。
魔理沙は立ち上がり手を振る。
「あー、あれ霖之助さんだわ。遅いわよ、魔理沙ー!」
霊夢が手を振り返す。
程なくアッザムは賽銭箱の前に着陸した。
魔理沙とアリスが飛び降りたのを確認し、アッザムは変身を解いた。
「いやー、悪い悪い。香霖を機体に慣れさせるために飛ばせてきたんだがおっそくてな」
魔理沙の悪びれない様子に霊夢が呆れる。
霖之助は霊夢の前に立ち、すっと右手を差し出した。
「遅くなってすまない、霊夢。事情は聞いたよ。今回は僕も力になれそうだ、よろしく頼むよ」
霊夢は嬉しそうにガッチリと握手を交わした。
「お願いね、霖之助さん」
「ああ、期待しておくれよ」
霖之助はニカッと爽やかに笑った。
初めて顔をあわせる者もいたので互いに挨拶を交わし、モビルスーツ化して姿を見せ合う。
総勢10名、十分な戦力といえよう。
「じゃ、皆さん、集合写真を撮りますので集まってください」
戦力外の天狗が楽しそうに指示を出す。
「写真なんて撮らないわ、とっとといくわよ」
霊夢はそそくさと飛び立ってしまった。
一同もそれに続く。
魔理沙達の到着が遅かったため約束の正午まで時間に余裕がなかった。
「えー、集合写真は見栄えがいいんですがねぇ…」
文は渋々最後尾からついてきた。
程なくして一行は霧の湖のほとりに到着した。
湖は静まり返りいつもどおり霧に包まれていた。
「視界がずいぶん悪いですね…」
早苗が不安げにつぶやいた。
「そうね、でも上空で戦えば関係ないわ」
上空は視界がよかったので少し高度を上げて進むと…いた。
湖の中央付近上空にチルノ軍団は展開していた。
霊夢達は離れた位置で止まり散開する。
ぱっと数えて7名、おもっていたより少ない。
真ん中にいたチルノが霊夢達をみてニヤリと笑った。
「逃げずによく来たな!霊夢」
「フン、逃げるわけないじゃない。私に喧嘩を売ったこと、後悔させてあげるわ!」
霊夢は早々モビルスーツに変身しビームライフルを構えた。
それを見た両軍は慌ててモビルスーツに変身する。
「チルノちゃん、アレを…」
「おっけー、大ちゃん!霊夢、いくよ!戦争開始だ!!」
チルノは背中の翼を放射状に広げ、翼の最上部のプラズマ収束ビーム砲、腰のレール砲、そしてビームライフルを同時に放った。
赤・黄・緑のビームが空を貫く。
「ハイマットフルバースト!綺麗…」
早苗が見惚れる。
チルノのハイマットフルバーストを合図に妖精・妖怪軍団が一斉に射撃を始めた。
霊夢達も距離をとり撃ち合うが双方とも遠く離れていて当たらない。
無駄な打ち合いに魔理沙が苛立つ。
「こりゃ不毛だぜ、近づいて白兵戦をしたほうがいい」
「そうね、こっちのほうが数が多いし…、みんな、前――」
霊夢が指示を出そうとした瞬間、背後の水面付近の霧の中から一条の巨大な閃光が霊夢達の陣を走った。
閃光は霖之助のアッザムを貫き、さとりの先行量産型ボールを消滅させた。
「霖之助さん!?さとり!?」
霊夢は血相を変え呼びかけたがさとりの返事はなかった。
霖之助のアッザムは黒煙をあげ傾き、落下していく。
「霊夢、すまない、ここまでのようだ。健闘を――」
アッザムは空中で爆発、派手に砕け散った。
そして閃光の走った背後、下方の霧の中から巨大な物体が浮上してきた。
座った白い犬のような形だがちょっとした屋敷くらいの大きさがある。
両脇に白と黒の頭部の尖ったモビルスーツもいた。
レティ・ホワイトロックのホワイトベースとリリーホワイト・ブラックのトーラス白・黒である。
「ホワイトベース…、まさか戦艦まで出てくるとは…」
驚愕する早苗、靈夢達に衝撃が走る。
背後のホワイトベースの各砲座から一斉に弾幕が放たれた。
「作戦成功です!弾幕を張りながら少し前進してください」
大妖精が支持を出す。
前後から弾幕が霊夢達を襲う。
奇襲と挟撃に完全に浮き足立つ靈夢達だったが魔理沙が意を決して叫んだ。
「後ろのデカ物は私とアリスで落とす。霊夢たちは前の本隊を叩いてくれ!」
「そ、そうね、分かったわ。お願いね、魔理沙。他は各自散開して前進!」
そういうと霊夢は全速で敵陣に突っ込んでいった。
「霊夢さん、落ち着いて下さい!」
慌てて早苗達も続く。
一機突出した霊夢に正面から弾幕が集中したが紙一重で回避しながらチルノ達に近づく。
「霊夢さんが来ました、ルナさん、スターさん、お願いします!」
「わかったわ、任せて頂戴」
ルナのレイダー、スターのカラミティが霊夢の前に立ち塞がった。
「霊夢、サニーの仇を取らせてもらう!」
「昨日は邪魔が入ったけど今日こそ打ち落とすわ、覚悟!」
気合十分のルナとスター。
ルナは右腕の防盾砲を連射しながら接近、スターは離れて隙を伺う。
「来たわね、昨日の借りを返すわ。いけ、フィン・ファンネル!」
叫び、フィン・ファンネルを3機射出した。
今の霊夢が同時に操れる限界が3機、出し惜しみする気など毛頭ない。
ルナの射撃を避けつつ後方で様子を伺っているスターの周りにフィン・ファンネルを展開させた。
フィン・ファンネルはスターの周りを飛び回り死角から的確に攻撃する。
「な、何よ、これ!きゃあああああああ!」
肩、足、最後に頭と胴体を打ち抜かれスターはあっけなく爆散した。
「スターがやられた!?霊夢、よくも…」
「まず一機、あんたも落ちなさい!」
今度はルナの周りにフィン・ファンネルを展開させる。
ルナは鉄球を振り回し1機破壊したが、残る2機がルナを襲う。
「終りよ、落ちなさい!」
がら空きのルナの足元から胴体を打ち抜こうとしたが、
『ヒュィィィイイイイイイイイン』
突如、怪音が響きルナ押しのけるように黒く全身が平べったいモビルスーツが現れた。
フィン・ファンネルから放たれたビームを分散、無効化させてしまう。
「えぇ!?なによそれ!?」
驚く霊夢。
モビルスーツは小刻みに振動しており、周りの空気を震わせている。
やがてフィン・ファンネルは空気の振動に巻き込まれ制御を失い爆発してしまった。
「ルナ、大丈夫!?」
「響子さん!ありがとうございます!助かりました」
幽谷響子のフラットである。
激しく振動しながらルナを護るように立ちふさがる。
霊夢はすかさずビームライフルを放つが、案の定こちらも分散してしまった。
「…長引きそうだわ。魔理沙、早苗、みんな、頼んだわよ!」
霊夢は速攻を諦めビームライフル構え直した。
前進した早苗達もチルノ軍団に接触しすでに戦闘を始めていた。
霊夢の後に続いた華扇のヴァル・ヴァロは天高く舞い上がりミスティアのヘヴンズソードと交戦、
天子のアプサラスⅡはチルノのフリーダムガンダムに突っ込んでいく。
「あんたが大将ね!我こそは非想非非想天の戦乙女、比那名居天子。いざ勝負!」
天子は叫ぶなり、大型メガ粒子砲をぶっ放した。
「ふん、そんなもん当たるか!あたいは天下無敵の妖精、宇宙最強のチルノだ!死ねい!」
チルノは余裕でかわし素早くビームライフルを撃ち返す。
天子は回避するが機体が大きさゆえ避けきれず側面に被弾、大きく揺らぐ。
「うがっ!あんたやるわね…」
「総領娘様!大丈夫ですか!?」
「はっ!こんなの屁でもないわ、まだまだ!」
被弾したものの損傷は軽微で戦闘に支障ない程度だった。
衣玖のベルティゴは天子をサポートしようと慌てて近づくが、リグルのガブスレイと大妖精のド・ダイYSに行く手を阻まれる。
まだビットがうまく使えない衣玖は2体の攻撃に防戦一方になってしまった。
後方を進んでいた椛と早苗は天子と衣玖の旗色が悪いと見て救援に向かう。
「ガブスレイはZガンダムである私の獲物、椛さんは天子さんのフォローをお願いします!」
「了解です!…えっ?」
突然、椛の頭上から漆黒のモビルスーツが降って来た。
椛の肩に乗り首筋から体に深々とビームサーベルを突き刺す。
「うわああああああああ!?」
何が起こったかわからずパニックに陥る椛、浮力を失い落下し爆散した。
「ブリッツガンダム!?だ、誰ですか!?」
宵闇の妖怪、ルーミアだが変身してしまっているため早苗には分からなかった。
ルーミアはゆっくりと早苗に向き直り両手を水平に広げた。
周りの空間が揺らぎ姿が消える。
「おっと、簡単に隠れさせませんよ!」
ブリッツガンダムの特性は十分に理解していた。
ここで姿を消されることは敗北を意味する、それだけはなんとしても防がねばならない。
間髪いれずバルカンを撃った。
ルーミアは姿を現しシールドで防御しつつ左腕の有線式クローを飛ばす。
早苗はクローを引きつけビームライフルの銃口から出たロングビームサーベルで切り裂いた。
ルーミアはレーザーライフルを連射しながら左手にビームサーベルを持ち替える。
「当たりませんよ!」
半身になり右へ廻り込みながら回避し、グレネードランチャーを放つ。
ルーミアは少し後退し回避しようとするが追尾してきたため盾で防ぐ。
盾に当たり爆発したが爆煙に紛れて早苗が間合いを詰めた。
「そこです!もらった!!」
ルーミアの盾目掛けてロングビームサーベルを突き刺す。
サーベルは盾を貫通し搭載されていたランサーダートを破壊した。
『ドッゴォォォォン』
ランサーダートが爆発しブリッツの盾と右腕が弾け飛ぶ。
予想外の爆発の大きさに早苗も堪らず後退するがルーミアはその隙を見逃さず姿を消した。
再びバルカンを撃つが時すでに遅く、手応えがなかった。
「しまった…、ですが火器はもうないはず、ならばいける!どこからでも掛かって来なさい!」
早苗は盾を構え直し迎え撃つ体制を取った。
「くそっ、あのデカ物どうやったら落とせるんだ…?。」
後方の魔理沙とアリスはレティのホワイトベースを攻めあぐねていた。
弾幕が厚く、2体のトーラスのカバーも的確で有効な攻撃をさせてもらえない。
なんとかホワイトベースに被弾させても巨大すぎる為かビクともしなかった。
「あの白黒の2体が厄介ね、どうしたものかしら…」
魔理沙とアリスは離れた上空からホワイトベースを見下ろしていた。
「こうなったら一か八か私のハイメガマスタースパークで―」
「やめなさい!この距離じゃ十中八九、避けられるわ。1発しか撃てないんだから確実に当てないと駄目よ」
「じゃあどうすればいいんだ、これじゃジリ貧だぜ」
「…わかったわ、私が囮になる。あんたは隙を見て下に潜り込んで仕留て!いくわよ!」
「あ、待て―」
アリスは魔理沙の静止を聞かず急降下していった。
(危険だけどリスクを恐れていては先がないわ)
ホワイトベースの各砲座がアリスを狙い撃つ。
アリスは降下の軌道を変え、弾幕を縫うようにホワイトベースの後方へ回り込んだ。
何発か体を弾がかすめるが全く怯まない。
(中央部分の高くなっている部分をブラインドに、回り込んで弾幕の薄い後方へ…うっ?)
回り込んだ先に2体のトーラスが待ち構えていた。
アリス目掛けビームライフルを狙い撃つ。
とっさに身をよじり胴体への直撃を避けたが左肩に被弾、左腕が弾け飛んだ。
「うぐっ、やるわね!でもこれからよ!」
アリスは強引に体制を立て直し、腰と右腕からビームを撃ち返すが分が悪い。
(これは…ちょっと不味いわね…)
そこへ魔理沙がビームライフルを乱射しながら急降下してきた。
2体のトーラスはアリスへの攻撃の手を緩め魔理沙を警戒する。
「うおおおおおおおお!アリス、やられるなよぉぉ!?」
魔理沙はそのまま素通りしてホワイトベースの下に潜り込んでいった。
アリスはホワイトベースから少し距離をとりトーラスを牽制する。
(頼んだわよ、魔理沙。この分だとあんまり持たないわ)
ホワイトベースの下に潜り込んだ魔理沙は早速ハイメガキャノン砲を撃とうと身構えた。
(一刻も早くこのデカ物を落とさないとな……いや、待てよ?慌てる泥棒はお縄に掛かる、私が奴らなら…)
危険を感じ、急いでホワイトベースに取り付き身を隠す。
間髪いれずに慌てた様子で白いトーラスが追って来た。
キョロキョロと辺りを見回し魔理沙を探している。
(危なかったぜ…、焦ってハイメガマスタースパークを撃とうとしてたら落とされていたな)
背中を見せ隙だらけのトーラスに照準を合わせ撃ち抜いた。
トーラスはあっけなく爆散した。
「卑怯とか、いうなよ?こっちも必死なんだ。さて…」
魔理沙はホワイトベースから降下し距離をとった。
額に魔力を集める。
「それじゃいくぜ!ハイメガ、マスタァスパァクゥゥゥゥ!」
魔理沙の額に収束したエネルギーは巨大な閃光の柱となりホワイトベースを貫いた。
ホワイトベースの後部が跡形もなく消滅し、ガクンと大きく揺れたあと、黒煙をあげて湖に降下していった。
魔理沙はそれを横目に急いで浮上する。
辺りは黒煙が立ち込めていた。
「アリスゥゥ、無事かぁぁぁ!?」
アリスと黒いトーラスが戦っているのが目に入った。
未だ健在なアリスを見てほっとするが、トーラスに激しく攻め立てられているのを見て焦る。
「お、おい、大丈夫か?今加勢するぜ」
魔理沙は慌ててビームライフルを構えるがアリスは落ち着いて答えた。
「大丈夫よ、今終わらせる」
アリスは黒煙に忍ばせた右腕からビームを放った。
トーラスは頭上から5本のビームに貫かれ爆散した。
「ふぅ、一機ならこんなものね。魔理沙、お疲れ様」
アリスは右腕のワイヤーを延ばし掌を魔理沙の近くで広げた。
魔理沙はポンと軽くアリスの掌を叩いた。
「アリス、まだ戦えるか?」
「たいしたことはないわ。こんなのカスリ傷よ」
魔理沙はボロボロのアリスの機体を見て苦笑いした。
「じゃあ前線に行くぜ、早苗達は当てにならないからな。背中任せた!」
「ふふ、任されたわ」
二人は火線の飛び交う前線に飛んでいった。
前線では霊夢が苦戦をしていた。
ビームライフル、バズーカなどの火器は全て無効化され、またビームサーベルで斬ろうと近づいても振動による空気の壁に阻まれ近づけない。
ルナは動揺から立ち直り激しく攻撃、響子はサポートしながら隙を見ては振動による手刀を繰り出してくる。
猛攻に耐えじっと隙を伺うが攻撃は激しさを増すばかりだった。
「連携がよくなってきてる、まずいわ」
ルナの弾幕を防いだ盾を響子が掴む。
激しい振動が霊夢を襲った。
慌てて響子を蹴りつけ間合いを取るが大きな隙が生じる。
「もらったぁ!抹殺!!」
その隙を見逃さずルナが鉄球を飛ばす。
鉄球は唸りを上げ霊夢の胸を強打する。
「うぐっ!」
霊夢は吹っ飛び、霧の中へ落下していった。
ルナと響子は無言でうなづき合うと霊夢を追って霧の中へ降りていく。
響子が両手を広げ鳥のような姿勢で降下、ルナがその後ろに張り付いた。
上部の霧はそれほど深くなく、下方に人影が見えた。
と、人影の方向からフィン・ファンネルが3機飛んで来た。
「無駄よ、その武器も効かない!」
響子は少し前進して体を振動、ルナは邪魔にならないよう少し後退して距離をとった。
3機のフィン・ファンネルは空気の振動に巻き込まれ次々と爆発していった。
が、3機目が爆発すると同時に響子の頭上へ霊夢が急降下してきた。
「う、上!?いつの間に!!」
霊夢は人型のダミーとフィン・ファンネルを囮に使い下方に注意を向けさせ、その隙に上空へ移動していた。
そしてフィン・ファンネルを犠牲に響子を振動させ位置を特定し動きを止めたところを襲う、一か八かの作戦だった。
「あんだけ振動されれば上が弱いことくらい分かるわ、終りよ!」
頭上からビームサーベルを突き刺した。
響子は振動しながら爆散した。
霊夢はルナには目もくれずさっと上昇してしまった。
残されたルナは呆然としていたが、次第に沸々と怒りがこみ上げてきた。
仲間を次々撃破する霊夢と不甲斐ない自分に。
「ううう…、サニー、スター、響子さん…ごめんなさい」
モビルアーマーに変形し急上昇する。
霧を抜けると霊夢が待ち構えていた。
「来たわね。今更降伏なんてしないわよね?さぁ、かかって来なさい!」
「うわああああああああああああ!!」
ルナは絶叫し霊夢に突進していった。
残された道は勝ち目のない特攻を掛ける、ただそれだけだった。
「ミラージュコロイド…厄介です…」
先程まで優勢に戦っていた早苗だったが一転、追い詰められていた。
隠れた状態から死角へ回り込み斬撃を繰り出すルーミアに対し、回避するだけで精一杯だった。
持ち前の反射神経でなんとか避けれてはいるものの、すでに盾は無残に切り裂かれ、いよいよどうにもならなくなってきた。
ルーミアに火器が残っていたらあっけなく落とされていただろう。
(駄目だ、姿を見てからでは遅すぎる…)
次の攻撃は避けられるだろうか、避けたところでどうやって攻撃を当てればいいのか。
打つ手のない早苗だったがふと、師と仰ぐ八坂神奈子と洩矢諏訪子の顔が浮かんだ。
あの二人ならこんなときどうするのだろうか。
(そうだ、あれはにとりさんのオプティカルカモフラージュの話をしたときだ)
早苗はある日の食卓での会話を思い出した。
「――河童のアレは不完全だが物の怪には姿を隠す物も珍しく無いからね。早苗、あんたは見えない敵とどう戦う?」
「うーん…、居そうな場所に弾幕を厚めに張りますかねぇ?」
「それじゃ15点だな、それで勝てるのは雑魚だけだ」
「早苗、二つの目で見えないなら四つに増やせばいいんだヨ」
「…諏訪子様、人の身の私には無理です」
「あっはっはー、人間は不便だねぇ。神奈子はどうするのサ?」
「目だけに頼らずに五感全てで感じるのさ、姿や気配は消せても存在は消せないからね」
(そうですね、神奈子様、やってみます!)
ゆっくりと息を吐き目を閉じた。
不思議と視覚を遮断することに恐怖感は無かった。
心を落ち着け神経を研ぎ澄まし気配を探る。
「我が心 明鏡止水、されどこの掌は烈火の如く……居た!そこです!」
上空から急接近する気配を感じ素早くビームライフルを連射する、手ごたえ有り。
目を見開き、状況を確認する。
早苗の放ったビームライフルはミスティアのヘブンズソードを貫いていた。
空中で爆散するミスティア。
「あ、あれ?ヘブンズソードでしたか…って味方を撃つ可能性もありましたね。」
目を閉じる必要はなかったなぁと反省した。
『ズガアアアア』
間髪いれずに後方から大きな衝撃音がした。
驚き振り向くと高速で飛行する華扇のヴァル・ヴァロ、と大破し吹き飛ぶブリッツ。
どうやらヘブンズソードとドッグファイトを展開していた華扇にブリッツがぶち当たったようだ。
華扇は空中で大きく揺らぐが何とか態勢を立て直す。
「何!?何なの??」
何が起きたか分からず慌てる華扇。
「華扇さん、助かりましたー。ミラージュコロイド中は装甲が紙でしたね…」
「そーなのかー」
ルーミアは気の抜けた断末魔をあげつつ湖に落下し爆発した。
と、激昂したリグルのガブスレイが早苗に向かって突進してきた。
「お前、よくも…よくも二人を!」
「ブリッツは違うんですが…でもガブスレイなら私が全力で沈めないとねっ☆」
殺る気満々な早苗であった。
「さて、もう勝敗は決したと思うが、まだやるかい?」
魔理沙は上空からチルノにビームライフルを撃ちながら挑発していた。
序盤は圧倒していたチルノだったが何発撃ち込んでも落ちない天子に手を焼いているうちに
後方にいた魔理沙とアリスが合流、リグルが去り衣玖も息を吹き返し戦況は一変した。
「チルノちゃん、もう…」
敗色が濃厚なことを悟り大妖精がうろたえる。
「頑張って大ちゃん、まだいけるよ、あたいは最強なんだから!」
相変わらずチルノは勇ましかったが言葉とは裏腹に避けることさえままならなくなっていた。
波状攻撃が一段と激しさを増していく。
たまらず大妖精は霧の中へ一時退避を試みるがすでに退路はなかった。
「これで終りよ!」
下方からのアリスの右手の有線式メガ粒子砲が大妖精を襲う。
大妖精は回避しきれず翼をかすめた。
機体が大きく揺れふらふらと宙を漂う。
「きゃあああああ!」
「トドメだ!」
魔理沙のビームライフルが大妖精を貫く。
『ボォォン』
地味な爆音があがり大妖精は砕け散った。
「え…、大ちゃん?大ちゃん!?大ちゃあああああん!」
返事はなかった。
「大ちゃん!大ちゃん!うわあああああああああああ!!」
悲痛な叫び声を上げ立ち尽くす。
(護れなくてごめん、あたいが弱いから!あたいが最強じゃないから!
本当は闘いたくないこと分かってた。無理やり巻き込んでごめん。大ちゃん、ごめん、ごめん――)
「あなたも落ちなさい!」
棒立ちのチルノをアリスと魔理沙と衣玖の攻撃が襲う。
チルノの周りをオールレンジ攻撃とビーム砲の弾幕が埋め尽くした。
(もうダメ、大ちゃん…。)
無意識にいつか言われた大妖精の言葉が頭に浮かぶ。
『チルノちゃんは誰よりも強い力を秘めているのよ、私の誇りよ。』
雷に打たれたようにハッと我に返る。
大妖精にいわれたとき、胸が熱くなった。
脳が痺れるほど嬉しかった。
今は弱くても、最強じゃなくても――
「あたいは、あたいはまだ、終われない!!」
『パキィィィィィン』
チルノの中で何かが弾けた。
頭が冴え渡り視界が果てしなく広がり弾幕がまるでスローモーションのように見えた。
力がみなぎりどこまでも高く早く飛べるような感覚になった。
棒立ちから一転、弾幕を縫うように電光石火ですり抜ける。
次から次へと放たれる攻撃を高速でかわし続けた。
「よく避けたわね。でも、これで終りよ!」
アリスは右腕のワイヤーを伸ばし足元の死角からチルノを狙い撃つ。
だが、発射するより早く伸ばした右腕が撃ち落とされた。
「嘘…、あれを撃ちおとすの?」
驚愕するアリス、それが致命的な隙になった。
超高速で動くチルノを見失ってしまった。
「ど、どこなの!?…えっ!?」
背後からアリスの胴体をプラズマ収束ビーム砲とビームライフルが貫いた。
浮力を失い急降下するアリス。
湖に落下し爆発した。
「ア、アリィィィィス!!」
激しく動揺し絶叫する魔理沙。
チルノは更にビームライフルを放つが銃口から弱々しい光が放出されるだけだった。
肩のプラズマ収束ビーム砲、腰のレール砲もすでに撃てなくなっていた。
ビームライフルを投げ捨てビームサーベルを両手に構える。
「うおおお、沈めぇぇぇ!」
魔理沙は背中の21連装ミサイルランチャーを放った。
ミサイルが広範囲に広がりチルノを襲う。
チルノは無軌道に動きながら追尾してくるミサイルをかわし、狂気じみたスピードで魔理沙に接近する。
魔理沙はビームライフルを構えるがチルノの動きを追えず、照準が全く定まらない。
「クソッ、なんだよあれは!」
慌てふためく魔理沙にチルノは超スピードで鋭角に回り込み右側面から斬りかかった。
「うおおおおおお、落ちろ!むっ?」
「しっかりなさい、魔理沙!」
そこへ華扇のヴァル・ヴァロがメガ粒子砲を放ちながら割って入ってきた。
火器を乱射しながらチルノに急接近、クローアームを伸ばす。
「邪魔をするな!」
チルノはクローアームをギリギリでかわし左手に持っていたビームサーベルを深々と華扇に突き刺した。
小さい爆発が起こりガクガクと揺れる。
「くっ、ここまでのようね。魔理沙、霊夢をお願――」
華扇は黒煙をあげ落下し爆散した。
「華扇!?馬鹿野郎、私なんかのために…。」
がっくりとうなだれる魔理沙だったがお構いなしにチルノが斬りかかる。
慌ててなりふりかまわず回避する魔理沙だったがチルノの斬撃でビームライフルを破壊されてしまった。
「うおおおおおおおお、終りだ!!うぐっ!?」
衣玖の放ったビームがチルノの背中に突き刺さる。
衣玖も天子も誤射を恐れ手を出せずにいたが、機を待ち何とか被弾させた。
チルノは衣玖を忌々しげに一瞥したが再び魔理沙に切りかかった。
魔理沙はビームサーベルを抜き斬撃を受け止める。
「くそおおおおおお、ん?」
チルノの動きに先ほどの鋭さがなかった。
電光石火の動きは見る影なく魔理沙は難なく攻撃をかわす。
「パワー切れか?それなら…」
魔理沙は叩きつけるように斬撃を放った。
チルノはビームサーベルで辛うじて受け止めたが強く押し込まれ態勢を崩す。
魔理沙は隙を見逃さず力強く踏み込み頭上からビームサーベルを振り下ろし、盾ごとチルノの左腕を切り落とした。
たまらずチルノは少し後退し間合いを取ろうとするが魔理沙が距離を詰める。
「終りだ!落ちな!!」
魔理沙はビームサーベルを振りかぶりチルノの無防備の左側面から急接近した、が、
突然、至近距離でバルカンを撃たれ咄嗟に両腕でガードしてしまう。
「しまった…」
「魔理沙ぁぁぁぁぁぁ!」
チルノは雄たけびをあげ突進した。
魔理沙は苦し紛れにビームサーベルをなぎ払うが間に合わず懐に潜り込まれた。
自分の脇腹に迫るビームサーベルがスローモーションのように見えた。
「ハハ…、情けないな、霊夢にあわせる顔がないぜ…」
魔理沙は胴を真っ二つ切り裂かれ爆散した。
爆発に巻き込まれチルノは吹き飛ばされる。
「やった、やったよ、仇は取ったよ大ちゃん。魔理沙を倒したんだ…。でも、もう体が…動かないよ…。」
チルノは呆然と宙を漂っている。
機体が鮮やかだった色を失い灰色に変わっていく。
そして、天子の放った大型メガ粒子砲に包まれチルノは溶けるように消えていった。
「終わったの?魔理沙?アリスー?」
ルナを落とした霊夢がようやくやってきた。
キョロキョロと辺りを見回し呼びかける。
天子は押し黙っていたが衣玖が重々しく口を開く。
「…魔理沙さんは先ほど落とされました、アリスさん、華扇さんも…です」
「えっ…魔理沙が!?」
絶句する霊夢。
リグルを仕留めた早苗もやってきた。
「椛さんも敵の奇襲でやられてしまいました…。残ったのはこの4人だけだとおもいます…」
「椛はだらしなかったですね、すみません」
どこにいたのか文も合流する。
「魔理沙も落ちちゃったか…まいったわね…」
勝つには勝ったが犠牲が多すぎた。
惨憺たる有様に愕然とする霊夢だった。
つづく
レスありがとうございます。
大ちゃんはド・ダイYSです。書き方が悪くわかりづらかったですね…。
申し訳ありません。