「プロ阿求チームを作ろうぜ!」
稗田家の軒先に突如現れた魔理沙さんを迎えた私にかけられたのはそんな言葉だった。
『プロ』『阿求』『チーム』。何一つ単語が繋がらない。もしかしてあれだろうか。私の聴覚だけ次代御阿礼の子のところまですっ飛んでいってしまったのだろうか。
念のために私は聞き返してみることにした。
「すみません、耳が遠くなったようで。もう一度お願いできますか?」
「プロ阿求チームを作ろうぜ!」
なるほど。どうやら私の耳が悪いわけではないらしい。となると、『プロ』『阿求』『チーム』の間には阿礼乙女たるこの稗田阿求にすらわからない相関関係があるというか。
まずは言葉の意味から考えてみるとしよう。
『プロ』……プロフェッショナルの略語。何かしらのことがらを職業として行うさま。または何かしらのことがらに長けていること。
例文:「俺はプロフェッショナルだ」 ボクサーがかっこつける時に使う。ただしその後で陸奥に右腕をヘシ折られてリングに沈む。
『阿求』……九代目御阿礼の子たる稗田阿求、つまりこの私のこと。
例文:「あ、急にアイス食いたくなった。ちょっと取ってく――ナニィ!?」「桑原くーーん!?」 海籐のテリトリーで使う。魂を吸い取られる。
『チーム』……共同で仕事をする人々の集まり。団。 仲間。
例文:「よーしお前等五人一組でチームを作れー。なんだ稗田、また一人残っちゃったのか。おーい誰か稗田を入れてくれるところは…… もうやめよう。悲しくなってきた。
これら三つから推測するに、プロ阿求チームとは『職業として阿求をする団』ということだ。
職業として~~をする団、というのはいい。しかし阿求をする、というのがわからない。
阿求。別の言葉に言い換えるなら『可愛い』『可憐』『乙女』といったところか。うるさいそこつっこむな。
『職業として乙女をする団』、言い換えれば『職業として乙女らしいことをする団』ということか。
「魔理沙さん」
「うん?」
「魔理沙さんはそんな団で活動しなくても十分乙女ティックだと思いますよ」
恋符とかミルキーウェイとか。HAHAHA。
殴られた。いくらなんでも理不尽すぎると思う。
次の日、起きたら横に布団が八つ程並んでいた。
はて。使用人がこんなところで寝るわけはないし。一体どういうことだろう。
お気に入りのくまさんパジャマの袖で眠いまぶたを擦りあげ、意識の覚醒を促す。
あぁ起きてきた。起きてきたけどさっぱりわからない。
見渡してみれば、布団は私のものと合わせて九つ。あぁ嫌な予感がする。九は縁起の悪い数字だ。そうやってワキガ臭いスタンド使いも言ってた。
私は恐る恐る一番端の布団へと向かう。一番端からなのは、何かあったらすぐに隣の部屋へ逃げれるからだ。
そろりそろりと布団をめくり上げてみると『な…………中にいたのは…………私だったァーーーーーーー!?今布団を開けていたのにィ~~』などということもなく、一人の男が寝ていた。とても、見覚えのある顔の。
「やぁ」
男が爽やかに挨拶をした。
私はそっと布団をかけ直した。
いやぁ。いい朝だ。
「やぁ」
まずは日記のラジオ体操から始めよう。体にいいと聞いて始めたのにいまだに第一の半分までしかできない。まったくこの体力の無さがうらめしい。
「やぁ」
「……やぁ」
現実逃避しても八つの布団は消えてくれないようで、私は仕方なく顔を向けた。かつて私がしていた顔。初代御阿礼の子、稗田阿一の顔に。
「一体全体何がどういうことなってるのかお聞きしたいのですが」
「ふむ、それなら彼女の説明を聞くといい」
そういって初代は隣の部屋を指差した。何かあったら私が逃げようとしていた部屋だ。どうでもいいけれど初代っていうとやっぱり白いモビルスーツしか出てこないと思う。
襖がシュルリと音を立てて滑ってゆき、現れたのは予想通り魔理沙さんだった。
「プロ阿求チームと言うからにはまずはメンバー集めが重要だからな。閻魔にも協力してもらったぜ」
あの閻魔、今度あっちに行ったら三途の渡し守にあること無いこと言いふらしてやる。寝室の枕元に置いてある電動マッサージ機のことを私は忘れてはいない。
「まぁそんなわけで、まずはここにおわすが九代目御阿礼の子、稗田阿求さんだぜー」
わー、だのやー、だの歓声が沸き起こる。いつの間に布団から這い出たんだお前等。
「特技はボトルシップ製作、趣味はポエム。友達は少ない彼女だが仲良くしてやってくれなー」
なんという公開処刑だ。正月に集まった親戚一同に『お宅の○○ちゃん、最近はどう?』とニートを心配されている時の気分だ。死にたい。今すぐ次代にバトンを渡してやりたい。
しかしそんな願いも空しくメンバー紹介は続いていき、私がかつて鏡で見た覚えのある顔ぶれが次々と口を開いてゆく。
「稗田阿弥。趣味はベイブレード……」
「稗田阿七です。友達はファービーです」
「稗田阿夢だ。ポケステをずっとやっている」
「稗田阿梧っす。ハイパーヨーヨーなら誰にも負けねっす」
「稗田阿余!たまごっち育ててます!」
「稗田阿未なの。宝物はセーラームーン変身スティックなの」
「稗田阿爾だぜ!走れ俺のエンペラー!」
どこの黒歴史大公開パーティーだ。ていうか阿七に関しては私よりも厳しい人生を送っている気がする。友達がファービーて。ブルスコファーしか喋らないじゃないか。
しかしいつか私のボトルシップ作りも黒歴史となって、この先の御阿礼の子に笑われるのだろうか。
ていうかこの先の御阿礼の子って言っても私なのか。いやむしろ目の前に並んでいるのもかつての自分なわけで、考えれば考えるほどわけがわからない。
「そして僕が稗田阿一です。キン消し集めてます。王位争奪編のホークマンBを持っている方がいたら交換してください」
誰も持ってねーよ、と全員が思った。
最後のメンバーが紹介を終えたところで、魔理沙さんが部屋の中央へ進み出た。
「さぁ、メンバー紹介もすんだところでだな」
あぁ、出てきちゃったよ。魔理沙さん出てきちゃった。
「プロ阿求チームを作ろうぜ!」
「よし寝よう」
「プロ阿求チームを!作ろう!ぜ!!」
あーはいはい。もういいですよ。とりあえずやらないと納得しないんですよね。もうそうしてください。あぁ、字体だけ見て妄想はしないように。
「んじゃ試合は明日だからな!各自練習に励むように!以上!」
そう言って魔理沙さんは野球道具一式を置いて帰っていった。
はぁ。まったくもう魔理沙さんはいつも強引なんだから。
とは言っても彼女がこうやって無理やり私を連れ出す時は、たいてい私が根を詰めすぎな時だ。
ずっと家から出てこない私を心配して宴会だったりハイキングだったりに連れ出してくれる。
それをわかっているからこそ、私もこれまで魔理沙さんに感謝こそすれ、恨んだことなどない。
明日もきっと私は盛大に疲れることになるだろう。
でもきっと、それ以上に楽しむことができるだろう。
だんだんと楽しみな気持ちになってくるのを私は感じていた。
次の日、起きたら布団が一つになっていた。
……はい?
次の日、起きたら布団が一つになっていた。
うん。モノローグをもう一回入れても変わらない。
いつの間にかみんないなくなっている。まさか夢だったのだろうか。
いや。それはない。昨日『ジャニーズと言ったらどのグループよ御阿礼内会議』で破れた障子がそのままになっている。
少年隊だのたのきんトリオだの言っていたが、私はジャニーズには興味がない。やはり御阿礼たるもの一斉風靡セピアだろう。まぁ男塾の曲しか知らないけど。
「阿求!」
「あぁ、ちょうどいいところに魔理沙さん。落としたーたからものをー?」
「拾い、拾いまーくれー!」
流石は魔理沙さんだ。違いのわかる女、霧雨魔理沙。だばだーーだーば、だばだーだばだー。昔は21時直前はどのチャンネルもこのCMだったなぁ。
我に返って周りを見渡すと、魔理沙さん達はもうグラウンドで準備を始めているようだった。対戦相手の顔ぶれはもう揃っているようだが、こちらのチームは私一人。せっかく野球もやる気になったというのにこれではどうしようもない。
魔理沙さんに事情を聞いたところ、どうやら御阿礼の子達は占いババに一日しか下界に戻してもらえなかったらしい。なんて役に立たない。ファービーとでも話してろ。
まったくこれでは一体昨日は何のためにチームワークを養っていたというのか。
「すまんすまん。まぁ代わりにアリスの人形でチームを埋めるってことで許してくれ」
まぁ仕方ない。こちらとしても乗り気にはなっていたところだし、今更止めようとは思えない。ファービーと違ってブルスコファー以外にも喋れるし。
野球なら攻撃時はベンチで座ってられるし、守備時もボールが飛んでこない時は休んでいられる。
私のような体力不足の人間でもできるスポーツなど、めったにやれる機会はないのだ。
「人形ですね。どうやって操作を?」
「あぁ、アリスみたいに糸では動かせないだろうから素人用に改造されてる。まぁでやってみればすぐわかるはずだ」
あのアリスさんの人形だ、さぞや精巧に動くのだろう。見たことはあっても触ったことはないし、これは貴重な体験になるかもしれない。
私は逸る気持ちのまま、グラウンドへと駆け出した。
1回表、私達は守備だ。私はなるべくボールの飛んでこないライトを守ることにした。
素人野球だし、そうそう外野へボールが飛んでくることは無いだろう。
爽やかな風が吹き、太陽が燦々と輝く。あぁ、美しい日だ。こんな美しい日にこうして魔理沙さん達と野球をする。なんてすばらしいことだろう。
さぁ、プレイボールの掛け声がかかった。まずは第一球だ。人形が投げ――投げ――投げない。
ふむ。そういえば動かし方はすぐわかると言っていたが、どの人形も動かない。
ちょっと動かし方をチェックしてみようか。
私が右に動く。人形達が右に動く。
私が左に動く。人形達が左に動く。
私が投げるフリをする。人形達がボールを投げる。
これ、は……まさか……
初代ファミスタ方式だぜー、という相手ベンチからの声が酷く遠く聞こえた。
ゲームは始まった。レフトへ大きなフライがあがった。私はレフト方向へ思い切り走って、そして泣いた。
魔理沙ひでぇwww
あえて一つに絞れば、閻魔様の寝室に電マがあること。
すごく面白かったけど、一つだけミスがあります。
まんゆうきのヒロインの名前は娘々(にゃんにゃん)ですよ!
萬々はあのでっかいババアですぜ!