「最近はつまんないなぁ。人間はみんな驚いてくれないし～」
彼女、多々良小傘はふよふよと飛んでいた。時間はちょうど逢魔が刻、人間の時間と妖怪の時間が入れ替わる時だ。
彼女は今日も張り切って人間を脅かそうと飛んでいたが、最近ではまともに驚く人間も少なくなってしまい、面白くない。その為、最近ではただ一日中飛んでいる事がすっかり多くなってしまったのだ。
「もうこんな時間だし、人間もいないだろうなぁ。今日はもう帰ろうかな～」
人間を脅かす事が好きな小傘にとって、人間が出歩かない夜は本当に面白くない。
それにここ最近では上手く人間を脅かせずにいて、気が晴れない日が続いているのだ。
彼女は彼女なりに脅かす事については勉強している。しかし、それでもこの幻想郷の人間はちょっとやそっとの事では驚かない。
「なんかいい方法でもないかなぁ……。古典的な脅かし方もいまいちだったしな～」
小傘の口からは思わず溜め息が漏れる。最近では、彼女はすっかり思い悩んでしまっていた。しかし、人間でも妖怪でも思い悩んだ末に出てくる答えは……
「そうだ。別に脅かすんだったら人間じゃなくてもいいじゃない」
必ずと言っていいほどの斜め上を行く考えだ。こうして彼女は妖怪でも妖精でも取り敢えず最初に目に留まった者を脅かすと心に決めたのであった。
◇ ◇ ◇
「あ～、今日も楽しかった。やっぱり地上に出て良かったねぇ」
彼女、火焔猫燐は薄暗い街道を歩いていた。今日は特にする事も無かったので、友人であるお空と博麗神社へと遊びに行っていたのだ。二人は博麗の巫女とは地底の一件以来勝手に友人だと主張し、時々こうやって遊びに行くのである。
特にお空の方は霊夢にべったりで、今日も無理を言って泊まっていく事になった。霊夢もお空に好かれるのは満更でもないらしく、表面では面倒くさがっても内心ではそうでもない事が見て取れる。
あの二人はもう付き合ってもいいんじゃないだろうか、とお燐は思っていたりもする。あの二人が付き合うなら主人であるさとり様もきっと喜ぶだろう。
「でも、あの二人が付き合ったらあたいが独りになっちゃうなぁ。それはそれでいいけど」
この時彼女は気付かなかった。自分の後ろから近付いてくる影を。
「う～ら～め～し～や～」
◇ ◇ ◇
お燐が振り向くと、そこには視界一杯の紫色が広がっていた。余りに突然の出来事にお燐は驚いてその場にへたり込んでしまった。
「にゃっにゃっにゃっ！？」
気が動転してしまったお燐は、状況を把握する事も出来ずにそのまま目の前に広がる紫色を凝縮していた。すると、その紫色を挟んで向こう側から声が聞こえてきた。
「もしかして驚いた？嬉しいわね～」
その声の持ち主、小傘は紫色……手に持った傘を一旦閉じ、驚いて座り込むお燐をじっくりと堪能して余韻に浸っていた。
お燐もようやく自分が驚かされた事に気付き、立ち上がって目の前にいる少女をまじまじと見つめる。
「お見事！あたいを驚かすなんて大したお方だねぇ、水色のお姉さん。あたいはお燐だよ！よろしくね」
お燐は純粋に小傘に対して興味を示した。小傘はと言うと、ここまで上手く行くとは思っていなかった為すこぶる上機嫌になっている。
「私は小傘よぉ。あなた見たところ猫の妖怪みたいね～」
「お、流石だねぇ！如何にも、あたいは地底からやって来た火車だよ」
地底。それは嫌われ者の妖怪達や、地上を見放した鬼が住まう土地。ほんの前の冬まで完全に地上との交流を絶っていたと言う、忘れ去られた旧地獄。そこから来たと言うものだから、小傘は驚いて声も出せなかった。
最近になって地上と交流を持ち始めたとは聞いていたが、小傘は自分には関係ない事だと深く気にも止めなかった。しかし、今こうしてついさっき脅かした相手が地底から来たと言うのだから狐にでも化かされたような気分になる。
「ところでお姉さん、さっきのはどうやったの？あたい驚いて声も出なかったよ」
お燐の声に小傘は意識をお燐に集中させる。幸いな事にお燐に敵意はなく、あるのは好奇心だけのようだ。それならばいつものように振る舞えばいい、と小傘はペースを取り戻した。
「あれはねぇ、ただこのお化け傘を開いてあなたに向けただけよ～。前に本で読んだ方法なのよ」
「へぇ、こりゃたまげたよ！たったそれだけの事であたいを此処まで脅かすなんて、あたい尊敬しちゃうねぇ」
動物は、目の前の視界を傘などで急に遮られるとその目の前で起きた事が把握出来ずに驚いてしまう。と言うことを小傘はこの前外から流れ着いた本を読んだ時に書いてあるのを見ていたのだ。その時は動物なんて脅かしても意味はないと流し読みしていたが、案外使ってみる物である。
「で、あたいはどうすればいいんだい？」
お燐は期待に満ちた眼差しで小傘を見つめる。お燐にとっては、これから取るであろう小傘の行動に興味が沸いて仕方がない様子だ。
「どうするって……これで終わりよぉ？私は脅かしたらそれで終わりだからこれといってないわね～。この所上手くいかなかったから嬉しいだけだし」
「えぇ！？じゃああたいは脅かされただけだってのかい！こりゃまた一本取られたねぇ」
お燐はケラケラと笑いながら自分の頭を小突いた。小傘も脅かしてこれほど楽しそうに笑う相手は初めてで、なんだか脅かしたというより脅かされた気分である。だが、小傘にとってそれは『楽しい』とはっきりと感じていた。
いままで忘れ去られた傘だった小傘にとって、これだけ他人と会話するというのは珍しい。それ故にお燐は最早小傘にとって、ただの脅かした相手ではなくなっていた。
「ねぇ、今度あなたのいる地底に行ってもいいかしら？あなたみたいな妖怪が居るならぜひ行ってみたいわ～」
会話がこんなに楽しかったなんて。長い間置き傘として忘れ去られていた小傘は、もっとお燐と話したい、地底に行ってみたい。そんな感情が自分の内から生まれていくのを感じた。
「嬉しい事を言ってくれるねぇ。お姉さんなら大歓迎だよ。来たときはあたいが地霊殿を案内してあげる！約束だよ」
「本当～？それは頼もしいわぁ。ふふふ、約束ね。それじゃあ、私はもう行くね～」
お燐も小傘を快く思い、安易ではあるが小傘と約束を交わした。だが、小傘にとってもお燐にとっても、それは大切な約束に変わりない。
「うん、バイバイお姉さん！約束絶対だよ！」
小傘はお燐に手を振りながらゆっくりと飛んでいく。やがてお燐の姿が見えなくなった頃、先ほどの事を思い返した。久しぶりに脅かすことが出来て嬉しかった事、脅かした相手がお燐だった事、お燐と話すのが楽しかった事、また……お燐と会いたいと思った事。
「こんな私でも、もう一度信じていいのかな……」
◇ ◇ ◇
幾日後の地底――――
地上と地底を結ぶ橋を超え、小傘はこの鬼や嫌われた妖怪が住まう旧都へ来ていた。ここへ来る途中、土蜘蛛の少女に色んな事を教えてもらい無事辿り着くことが出来た。更には土蜘蛛の少女は小傘にお燐の居場所なども話し、おかげで小傘は迷うことなくここに来られたのである。
「お久しぶり～。元気だったかしらぁ？約束、果たしに来たわよ。どこに連れて行ってくれるのかしら？」
「お姉さん！本当に来てくれたの！？あたい嬉しいよぉ。じゃあ早く行こうかい、あたいの家に！」
彼女、多々良小傘はふよふよと飛んでいた。時間はちょうど逢魔が刻、人間の時間と妖怪の時間が入れ替わる時だ。
彼女は今日も張り切って人間を脅かそうと飛んでいたが、最近ではまともに驚く人間も少なくなってしまい、面白くない。その為、最近ではただ一日中飛んでいる事がすっかり多くなってしまったのだ。
「もうこんな時間だし、人間もいないだろうなぁ。今日はもう帰ろうかな～」
人間を脅かす事が好きな小傘にとって、人間が出歩かない夜は本当に面白くない。
それにここ最近では上手く人間を脅かせずにいて、気が晴れない日が続いているのだ。
彼女は彼女なりに脅かす事については勉強している。しかし、それでもこの幻想郷の人間はちょっとやそっとの事では驚かない。
「なんかいい方法でもないかなぁ……。古典的な脅かし方もいまいちだったしな～」
小傘の口からは思わず溜め息が漏れる。最近では、彼女はすっかり思い悩んでしまっていた。しかし、人間でも妖怪でも思い悩んだ末に出てくる答えは……
「そうだ。別に脅かすんだったら人間じゃなくてもいいじゃない」
必ずと言っていいほどの斜め上を行く考えだ。こうして彼女は妖怪でも妖精でも取り敢えず最初に目に留まった者を脅かすと心に決めたのであった。
◇ ◇ ◇
「あ～、今日も楽しかった。やっぱり地上に出て良かったねぇ」
彼女、火焔猫燐は薄暗い街道を歩いていた。今日は特にする事も無かったので、友人であるお空と博麗神社へと遊びに行っていたのだ。二人は博麗の巫女とは地底の一件以来勝手に友人だと主張し、時々こうやって遊びに行くのである。
特にお空の方は霊夢にべったりで、今日も無理を言って泊まっていく事になった。霊夢もお空に好かれるのは満更でもないらしく、表面では面倒くさがっても内心ではそうでもない事が見て取れる。
あの二人はもう付き合ってもいいんじゃないだろうか、とお燐は思っていたりもする。あの二人が付き合うなら主人であるさとり様もきっと喜ぶだろう。
「でも、あの二人が付き合ったらあたいが独りになっちゃうなぁ。それはそれでいいけど」
この時彼女は気付かなかった。自分の後ろから近付いてくる影を。
「う～ら～め～し～や～」
◇ ◇ ◇
お燐が振り向くと、そこには視界一杯の紫色が広がっていた。余りに突然の出来事にお燐は驚いてその場にへたり込んでしまった。
「にゃっにゃっにゃっ！？」
気が動転してしまったお燐は、状況を把握する事も出来ずにそのまま目の前に広がる紫色を凝縮していた。すると、その紫色を挟んで向こう側から声が聞こえてきた。
「もしかして驚いた？嬉しいわね～」
その声の持ち主、小傘は紫色……手に持った傘を一旦閉じ、驚いて座り込むお燐をじっくりと堪能して余韻に浸っていた。
お燐もようやく自分が驚かされた事に気付き、立ち上がって目の前にいる少女をまじまじと見つめる。
「お見事！あたいを驚かすなんて大したお方だねぇ、水色のお姉さん。あたいはお燐だよ！よろしくね」
お燐は純粋に小傘に対して興味を示した。小傘はと言うと、ここまで上手く行くとは思っていなかった為すこぶる上機嫌になっている。
「私は小傘よぉ。あなた見たところ猫の妖怪みたいね～」
「お、流石だねぇ！如何にも、あたいは地底からやって来た火車だよ」
地底。それは嫌われ者の妖怪達や、地上を見放した鬼が住まう土地。ほんの前の冬まで完全に地上との交流を絶っていたと言う、忘れ去られた旧地獄。そこから来たと言うものだから、小傘は驚いて声も出せなかった。
最近になって地上と交流を持ち始めたとは聞いていたが、小傘は自分には関係ない事だと深く気にも止めなかった。しかし、今こうしてついさっき脅かした相手が地底から来たと言うのだから狐にでも化かされたような気分になる。
「ところでお姉さん、さっきのはどうやったの？あたい驚いて声も出なかったよ」
お燐の声に小傘は意識をお燐に集中させる。幸いな事にお燐に敵意はなく、あるのは好奇心だけのようだ。それならばいつものように振る舞えばいい、と小傘はペースを取り戻した。
「あれはねぇ、ただこのお化け傘を開いてあなたに向けただけよ～。前に本で読んだ方法なのよ」
「へぇ、こりゃたまげたよ！たったそれだけの事であたいを此処まで脅かすなんて、あたい尊敬しちゃうねぇ」
動物は、目の前の視界を傘などで急に遮られるとその目の前で起きた事が把握出来ずに驚いてしまう。と言うことを小傘はこの前外から流れ着いた本を読んだ時に書いてあるのを見ていたのだ。その時は動物なんて脅かしても意味はないと流し読みしていたが、案外使ってみる物である。
「で、あたいはどうすればいいんだい？」
お燐は期待に満ちた眼差しで小傘を見つめる。お燐にとっては、これから取るであろう小傘の行動に興味が沸いて仕方がない様子だ。
「どうするって……これで終わりよぉ？私は脅かしたらそれで終わりだからこれといってないわね～。この所上手くいかなかったから嬉しいだけだし」
「えぇ！？じゃああたいは脅かされただけだってのかい！こりゃまた一本取られたねぇ」
お燐はケラケラと笑いながら自分の頭を小突いた。小傘も脅かしてこれほど楽しそうに笑う相手は初めてで、なんだか脅かしたというより脅かされた気分である。だが、小傘にとってそれは『楽しい』とはっきりと感じていた。
いままで忘れ去られた傘だった小傘にとって、これだけ他人と会話するというのは珍しい。それ故にお燐は最早小傘にとって、ただの脅かした相手ではなくなっていた。
「ねぇ、今度あなたのいる地底に行ってもいいかしら？あなたみたいな妖怪が居るならぜひ行ってみたいわ～」
会話がこんなに楽しかったなんて。長い間置き傘として忘れ去られていた小傘は、もっとお燐と話したい、地底に行ってみたい。そんな感情が自分の内から生まれていくのを感じた。
「嬉しい事を言ってくれるねぇ。お姉さんなら大歓迎だよ。来たときはあたいが地霊殿を案内してあげる！約束だよ」
「本当～？それは頼もしいわぁ。ふふふ、約束ね。それじゃあ、私はもう行くね～」
お燐も小傘を快く思い、安易ではあるが小傘と約束を交わした。だが、小傘にとってもお燐にとっても、それは大切な約束に変わりない。
「うん、バイバイお姉さん！約束絶対だよ！」
小傘はお燐に手を振りながらゆっくりと飛んでいく。やがてお燐の姿が見えなくなった頃、先ほどの事を思い返した。久しぶりに脅かすことが出来て嬉しかった事、脅かした相手がお燐だった事、お燐と話すのが楽しかった事、また……お燐と会いたいと思った事。
「こんな私でも、もう一度信じていいのかな……」
◇ ◇ ◇
幾日後の地底――――
地上と地底を結ぶ橋を超え、小傘はこの鬼や嫌われた妖怪が住まう旧都へ来ていた。ここへ来る途中、土蜘蛛の少女に色んな事を教えてもらい無事辿り着くことが出来た。更には土蜘蛛の少女は小傘にお燐の居場所なども話し、おかげで小傘は迷うことなくここに来られたのである。
「お久しぶり～。元気だったかしらぁ？約束、果たしに来たわよ。どこに連れて行ってくれるのかしら？」
「お姉さん！本当に来てくれたの！？あたい嬉しいよぉ。じゃあ早く行こうかい、あたいの家に！」
萌えた
こが燐とは珍しいですね、二次創作の幅広さが東方の魅力の一つだと思うのでどんどんやっちゃって下さいw
この二人でカップリングを組むとは。
微笑ましくて良かったですｗ
いいぞもっとやれｗ