自分の妹の好みさえわからなくなってしまったのは、いつからだろうか。
棚にならべた色とりどりのガラス瓶を指で弾きながら、さとりはひとり溜息を落とした。
ぴぃんと清涼な音を響かせるこのガラス瓶の中には日持ちする菓子が詰まっていて、そのどれもが気まぐれに家を空ける妹のために用意したものだ。
腹をすかせたのなら、すぐにでも何かを食べられるように。それから、飽きが来ないように。
あちらの瓶にはクッキーを、こちらの瓶にはチョコレートを。
色々な種類の菓子を取り揃え、また、折を見て、減った菓子を補充するのもさとりの習慣だった。
(いつからあの子はレーズンを好きになったのかしら)
ひときわ量が減っている瓶をしげしげと見詰めながら、さとりは思案する。
記憶の底をさらっても、そんな情報は探し当てられなかった。
さとりの知るこいしが、最も好んでいた菓子はクッキーだったはずなのに。
紫色の髪に手を添えて、さとりはちいさく頭を振る。
「お姉ちゃん、ただいま」
気持ちを沈み込ませたさとりの耳に、話題の当事者の声が聞こえてきた。
楽しそうに告げる妹の姿に、さとりも気を取り直して笑いかける。
「おかえりなさい。こいし」
「ねぇ、お腹すいちゃった。何かない?」
さとりは横目でちらりとガラス瓶を確認しながら、
「お菓子でもいい?」
「うん」
ちょうどあと少しでなくなるのだし、このレーズンを出しましょう、とさとりは思う。
喉の潤いも必要だろうから、紅茶を淹れる支度も開始した。
紅茶と茶請けのレーズンをトレイに揃えて現れたさとりを待っていたのは、妹のすねた眼差しだった。
「どうしたの?」
「ねぇ、お姉ちゃん。私が好きなお菓子がクッキーだってこと、知ってるでしょう? どうしてレーズンを出すの?」
「…………え?」
ぷくぅ、とこいしが頬を膨らます。
「もしかして忘れてたの?」
さとりは慌てる。
「でも、こいし。貴方、レーズンが好きでしょう?」
「なんで? 違うよ」
「でもお菓子の瓶のなかでレーズンを一番食べているじゃない」
「ええー、そんなことないよー」
心外だ、と言わんばかりにこいしが口を尖らせた。
「お空とかお燐がこっそり食べちゃったんじゃない?」
「そうかしら…」
そんな心は読み取れなかったけれど。
「まあどっちでもいいよ。ねぇ、クッキー頂戴?」
「ええ、そうね」
レーズンを乗せた皿を手に取り、さとりは台所に向かう。
腑に落ちない何かを抱えながら。
「……やっぱりレーズンの瓶が一番減っているわ」
棚を確認して、さとりがつぶやく。
レーズンのガラス瓶を手に取ってみて眺めても、事実はもちろん変わらなかった。
ではやはり、ペットの誰かが摘み食いでもしていたのだろうか。ここにある瓶はこいしの為のものだから、手をつけるなと厳命していたはずなのに。
(今度きつく叱ってやりましょう)
さとりは心に決めながら、その『紫色』のガラス瓶を棚に戻した。
こいさとは素晴らしい
こいしちゃん可愛い!
いい姉妹愛でした
色に関する伏線が有ればすんなり理解できて良かったかもしれません
だから『紫色』を選ぶんですね。なにこの可愛い生物w
レーズンを食べる理由が姉の髪の色とはww
なんて可愛らしいこいしちゃんなんだ。
こいさと素晴らしい!