「最近誰かにずっと見られている気がするの」
大学の構内を歩く蓮子は傍らのメリーに深刻な表情で話し始めた。
ふと気が付いたのは、風呂場でシャワーを浴びている最中だったか。ふと視線を感じ、後ろを振り向いたが誰もいなかった。その時はただ、それだけのことだった。だけれど、次の日、目が覚めると誰かが顔をのぞき込んだ気配で目を覚ました。だけど誰もいない。誰かがいたという痕跡すらなかった。
そんなことが続く内に常にかすかな気配を感じるようになってきた。常に誰かに見られている。だけど、誰かは分からない。警察に届けても相手にすらして貰えない。どうせ、思いこみと諭されるだけだろう。実際、蓮子は見ている筈の誰かを視認したことがなく、証拠もないからだ。
「大丈夫よ」
メリーは微笑しつつそう言った。その笑顔は蓮子が悩みをうち明ける前から変化がない。
「どこが大丈夫って言うのよ、今も誰かに見られているのがわかるの。怖いのよ、いつか何らかの行動に出るんじゃないかって」
ああ、可愛い蓮子ちゃんがキズモノになったらどうしよう。蓮子は自分が大好きなのでそう思っていた。深刻さに欠けているとは思わない。蓮子は真剣なのだ。心配の余り満足に睡眠を取ることも出来ない。その為二徹の真っ最中であった。
「大丈夫よ」
だが、重ねてメリーはそういった。見るもの全てを魅了するような微笑みを浮かべながら。
「だって、見ているのは私だから」
良い笑顔だった。だが、鼻から滴り落ちる朱い雫が何もかもを台無しにしていた。
「おまえかーーー!」
叫びつつ蓮子はメリーへとタックルをかます。おおっと、メリーくんふっとばされたー!
「ちょっと何するのよ蓮子」
「いや、ここ一週間悩まされ続けてきた原因に相談をしていたかと思うと思わず」
そう言いながら蓮子はメリーの首に手をかける。
「さあ、吐きなさい。なんでこんな事をした?」
「だって、好きな人のことをもっとよく知りたいと思うのは当然のことでしょう?」
ごちそうさまでした。少し頬を染めながら話すメリーに一瞬蓮子は見とれてしまいそうになりながらも耐える。だめだ、百合は現実では痛い。というかごちそうさまって何よ。
「ごめんなさいメリー。私、そんな趣味は無いの」
「そう、残念ね」
ちっとも残念そうな顔をしないで言うメリー。あれ?もしかして冗談だったのかな?なんて、ちょっと安堵。流石に親友がそんな趣味だったら少し距離を置こうかと考えるところだった。
「これから調教すればいいし」
「なんだと?」
「あら、なんでもないわよ」
これ以上突っ込むとやぶ蛇になりそうだったので蓮子はそれ以上聞くことはやめた。自分のみが可愛いのだ。下手に刺激するのもまずい。そうだ、しばらく月にでも旅行に行こうか。一人で。
そこで、ふと蓮子は気づいた。メリーの発言が本当ならばおかしな事になる。
「でも、ちょっと待って。視線を感じたのはメリーと一緒の時もだったし、今もメリー以外の視線を感じるわ。やっぱりおかしいわよ」
「おかしくないわよ」
そう言うとメリーは手を何回か叩く。
「「「「「「それも全て私だ」」」」」」
突如現れて周りを取り囲んだメリーが言った。
そう、メリー。今二人を取り囲む人は全員がメリーだった。服装から髪型まで全部が同じ。双子といえどここまで似通うことはないだろう。
「えっと、これは夢?メリーが一杯いるなんて夢に決まってるわよね。うん、そうよね。お休み、そして現実よこんにちは」
そう言って、蓮子は目を閉じる。目を覚ませ、目を覚ますのよ私。目が覚めたら自室のベッドの上でこれから秘封倶楽部の活動を始めるのよ。さあ、目を覚まして。
だが、現実は非情で目を覚ますことなどないし、周りを取り囲むメリーの数が減ることもないのだった。ちくしょう。
「というか、増えてるし!」
周りを取り囲むメリーの数は二桁に達していた。ここはメリーの展示場か。メリーを売るのか。
もう嫌。蓮子はしゃがみ込んだ。現実から逃げたかった。その肩をそっとメリー(面倒なので最初に蓮子といたメリーをこう称し、それ以外をメリー2以降連番と呼称する)が包み込むように抱きしめる。
「何も心配要らないのよ蓮子。これはとても自然なことなのだから」
「どう見ても不自然だから。何よ、メリーは細胞分裂で増えますとでもいうわけ?今なら信じるわよ」
「いいえ、簡単な証明よ」
そういってメリーは地面になにやら書き始める。その内容はこうだ。
メリーは蓮子が好き=蓮子を好きなのはメリー一人でなければならない=蓮子が好きならばメリーである
「どう?」
そうメリーはどこか誇らしげに言った。周りのメリー2以下略達も満足げに頷いている。
「どうって何もかもおかしすぎるでしょ!というか何で私はメリー以外に好かれちゃいけないのよ!」
「だって、私NTRって好きじゃないし」
「意味わかんないわよ」
さっさと逃げたい。そう思って蓮子は周りを見渡す。だめだ隙間が見あたらない。しかも段々と包囲が狭まってきている。そして、がっちりと肩をつかんで離さないメリーの手。
これは駄目かもわからんね。
そうして、蓮子は目を閉じた。ああ、お父さんお母さんごめんなさい。どうやら蓮子の貞操はここで散ることになりそうです。
目を開けるとメリーが覆い被さってくるところだった。まるで鏡のように透き通った瞳。その瞳に吸い込まれるように蓮子の意識は薄れていった。
最後に見えたのは果たして何番目のメリーだったのか。
そうして蓮子は目を覚ました
「………夢かよっ!」
ああ、もうこの鬱憤どうしたものか。そうだ、メリーのせいなんだからメリーで晴らせば良いんだ。
そう決めると蓮子の行動は早い。手早く身支度を整え、顔を洗いに洗面台まで行く。
「…え?」
そこにはメリーがいた。鏡に映ったメリーが。パサリと前髪が垂れる。見慣れた黒髪ではなく、メリーの金髪が。
「い、嫌ぁあああああああああああ!」
大学の構内を歩く蓮子は傍らのメリーに深刻な表情で話し始めた。
ふと気が付いたのは、風呂場でシャワーを浴びている最中だったか。ふと視線を感じ、後ろを振り向いたが誰もいなかった。その時はただ、それだけのことだった。だけれど、次の日、目が覚めると誰かが顔をのぞき込んだ気配で目を覚ました。だけど誰もいない。誰かがいたという痕跡すらなかった。
そんなことが続く内に常にかすかな気配を感じるようになってきた。常に誰かに見られている。だけど、誰かは分からない。警察に届けても相手にすらして貰えない。どうせ、思いこみと諭されるだけだろう。実際、蓮子は見ている筈の誰かを視認したことがなく、証拠もないからだ。
「大丈夫よ」
メリーは微笑しつつそう言った。その笑顔は蓮子が悩みをうち明ける前から変化がない。
「どこが大丈夫って言うのよ、今も誰かに見られているのがわかるの。怖いのよ、いつか何らかの行動に出るんじゃないかって」
ああ、可愛い蓮子ちゃんがキズモノになったらどうしよう。蓮子は自分が大好きなのでそう思っていた。深刻さに欠けているとは思わない。蓮子は真剣なのだ。心配の余り満足に睡眠を取ることも出来ない。その為二徹の真っ最中であった。
「大丈夫よ」
だが、重ねてメリーはそういった。見るもの全てを魅了するような微笑みを浮かべながら。
「だって、見ているのは私だから」
良い笑顔だった。だが、鼻から滴り落ちる朱い雫が何もかもを台無しにしていた。
「おまえかーーー!」
叫びつつ蓮子はメリーへとタックルをかます。おおっと、メリーくんふっとばされたー!
「ちょっと何するのよ蓮子」
「いや、ここ一週間悩まされ続けてきた原因に相談をしていたかと思うと思わず」
そう言いながら蓮子はメリーの首に手をかける。
「さあ、吐きなさい。なんでこんな事をした?」
「だって、好きな人のことをもっとよく知りたいと思うのは当然のことでしょう?」
ごちそうさまでした。少し頬を染めながら話すメリーに一瞬蓮子は見とれてしまいそうになりながらも耐える。だめだ、百合は現実では痛い。というかごちそうさまって何よ。
「ごめんなさいメリー。私、そんな趣味は無いの」
「そう、残念ね」
ちっとも残念そうな顔をしないで言うメリー。あれ?もしかして冗談だったのかな?なんて、ちょっと安堵。流石に親友がそんな趣味だったら少し距離を置こうかと考えるところだった。
「これから調教すればいいし」
「なんだと?」
「あら、なんでもないわよ」
これ以上突っ込むとやぶ蛇になりそうだったので蓮子はそれ以上聞くことはやめた。自分のみが可愛いのだ。下手に刺激するのもまずい。そうだ、しばらく月にでも旅行に行こうか。一人で。
そこで、ふと蓮子は気づいた。メリーの発言が本当ならばおかしな事になる。
「でも、ちょっと待って。視線を感じたのはメリーと一緒の時もだったし、今もメリー以外の視線を感じるわ。やっぱりおかしいわよ」
「おかしくないわよ」
そう言うとメリーは手を何回か叩く。
「「「「「「それも全て私だ」」」」」」
突如現れて周りを取り囲んだメリーが言った。
そう、メリー。今二人を取り囲む人は全員がメリーだった。服装から髪型まで全部が同じ。双子といえどここまで似通うことはないだろう。
「えっと、これは夢?メリーが一杯いるなんて夢に決まってるわよね。うん、そうよね。お休み、そして現実よこんにちは」
そう言って、蓮子は目を閉じる。目を覚ませ、目を覚ますのよ私。目が覚めたら自室のベッドの上でこれから秘封倶楽部の活動を始めるのよ。さあ、目を覚まして。
だが、現実は非情で目を覚ますことなどないし、周りを取り囲むメリーの数が減ることもないのだった。ちくしょう。
「というか、増えてるし!」
周りを取り囲むメリーの数は二桁に達していた。ここはメリーの展示場か。メリーを売るのか。
もう嫌。蓮子はしゃがみ込んだ。現実から逃げたかった。その肩をそっとメリー(面倒なので最初に蓮子といたメリーをこう称し、それ以外をメリー2以降連番と呼称する)が包み込むように抱きしめる。
「何も心配要らないのよ蓮子。これはとても自然なことなのだから」
「どう見ても不自然だから。何よ、メリーは細胞分裂で増えますとでもいうわけ?今なら信じるわよ」
「いいえ、簡単な証明よ」
そういってメリーは地面になにやら書き始める。その内容はこうだ。
メリーは蓮子が好き=蓮子を好きなのはメリー一人でなければならない=蓮子が好きならばメリーである
「どう?」
そうメリーはどこか誇らしげに言った。周りのメリー2以下略達も満足げに頷いている。
「どうって何もかもおかしすぎるでしょ!というか何で私はメリー以外に好かれちゃいけないのよ!」
「だって、私NTRって好きじゃないし」
「意味わかんないわよ」
さっさと逃げたい。そう思って蓮子は周りを見渡す。だめだ隙間が見あたらない。しかも段々と包囲が狭まってきている。そして、がっちりと肩をつかんで離さないメリーの手。
これは駄目かもわからんね。
そうして、蓮子は目を閉じた。ああ、お父さんお母さんごめんなさい。どうやら蓮子の貞操はここで散ることになりそうです。
目を開けるとメリーが覆い被さってくるところだった。まるで鏡のように透き通った瞳。その瞳に吸い込まれるように蓮子の意識は薄れていった。
最後に見えたのは果たして何番目のメリーだったのか。
そうして蓮子は目を覚ました
「………夢かよっ!」
ああ、もうこの鬱憤どうしたものか。そうだ、メリーのせいなんだからメリーで晴らせば良いんだ。
そう決めると蓮子の行動は早い。手早く身支度を整え、顔を洗いに洗面台まで行く。
「…え?」
そこにはメリーがいた。鏡に映ったメリーが。パサリと前髪が垂れる。見慣れた黒髪ではなく、メリーの金髪が。
「い、嫌ぁあああああああああああ!」
世にも奇妙な物語風のオチ、見事です
わかります