※とある落語のネタです
昔だかなんだかの冥界。白玉楼のお嬢さんは自分の庭師を溺愛しておったそうな。
「妖夢ったらとっても足が速くってねぇ♪」
人前で小脇に庭師を抱え上げ、藻掻く手足を胸で押さえて頭を撫でつつ自慢話。これがこのお嬢さんの習い性。
「お庭で用事をしている時なんか姿も見えないくらい遠くに居るんだけれども、私が呼んだら二言目の前にはもう目の前に来てるのよ」
抱えられている方は恥ずかしいやら柔らかいやら、しかし主人から跳ねて逃げるわけにもいかない。
「お料理も上手でね、煮物は奥まで味が染みるし焼き物も焦がさないし、飾り切りもとっても綺麗に出来るの」
満面の笑みで白い頭をかいぐりかいぐり言われても、言われる側は反応に困るにも程がある。
竹林の中で見かけたからと庵に呼んで茶を出した妹紅は、呼ぶんじゃなかったと頭を抱えていた。
「こうやって撫でると髪の毛もやわらかくってね?とっても気持ちいいのー♪」
向き合う二人は自分の頭を抱えるか、他人の頭を抱えるか、であった。
「は、放してください幽々子さまぁぁぁぁぁ!!」
「まったく幽々子さまは誉めすぎなんです!誉め殺しですよあれじゃ!もう!」
ぷりぷりと膨れる庭師に言われ、お嬢さんはでも、と抗議の声を上げかける。
「でももへちまもありません!幽々子さま、こういう話をご存じですか!?」
その声を遮った彼女は、白玉楼の畳をだだんと踏みしめ見得を切りつつ口を開いた。
「昔、富士山の見える宿に泊まった人が、朝起きて富士山を見られるなんてここは良いところだ、富士山はやっぱり世界一立派な山だと誉めたそうです」
「ふむふむ」
「するとその土地育ちだった女将さんは、毎日見てると大した物じゃありません、立派と言ってもあんなの半分雪です、と答えたそうです」
「ふーん」
「身内の人間はこういう風に遠慮して紹介するのが慎みというものなんです!慎みを持って紹介すればこそそれを素直に見られる物、誉めさえすれば良いという物ではないんです!今後は人前で私を誉めないで下さい!」
どーん、と突きつけられた指先の前で、お嬢さんはうなりつつも渋々首を縦に振ったそうな。
「いやいやこの子ったら鈍くってねぇ」
とは囲炉裏の前でお嬢さん。道で出会った里の半獣にお茶でも一杯と誘われて来たところ、庭師の話を振られてのこと。
「はぁ……しかし妹紅からは足が速いだのと聞いていたが……」
友人から聞いた話との食い違いに首をかしげるのは家主の方。あんまり直で卑下するもんだから脇の庭師は小さくなっている。
「そんなことないわよー、呼んで駆けてきたと思ったら木の根に転んでドロワーズが丸見えになるし」
そんな言葉に要領得ぬ相槌を返す向かいで、庭師は顔を真っ赤に染める。
「お料理だって酢の物を作らせたら酸っぱいのは苦手ですってお酢を控えすぎちゃうし、カレーを作れば甘口しか作れないし」
「ゆ、ゆゆこさまぁ!?」
子供舌を暴露されて半泣きの庭師を余所に、聞かされた方は困った表情で言葉を返した。
「しかし、髪の毛が柔らかく触り心地がいい、とも自慢していたと聞いたが、それは確かそうだな」
するとお嬢さんはふわふわとした子供らしい細い髪の頭を今にも掻きむしりだしそうに抱える庭師を小脇に掴み、片手をパタパタと振ってこう言った。
「いえ、柔らかい柔らかいと言っても半分霊ですからー」
「そりゃぁ柔らかいだろうな」
オチそこねた。
昔だかなんだかの冥界。白玉楼のお嬢さんは自分の庭師を溺愛しておったそうな。
「妖夢ったらとっても足が速くってねぇ♪」
人前で小脇に庭師を抱え上げ、藻掻く手足を胸で押さえて頭を撫でつつ自慢話。これがこのお嬢さんの習い性。
「お庭で用事をしている時なんか姿も見えないくらい遠くに居るんだけれども、私が呼んだら二言目の前にはもう目の前に来てるのよ」
抱えられている方は恥ずかしいやら柔らかいやら、しかし主人から跳ねて逃げるわけにもいかない。
「お料理も上手でね、煮物は奥まで味が染みるし焼き物も焦がさないし、飾り切りもとっても綺麗に出来るの」
満面の笑みで白い頭をかいぐりかいぐり言われても、言われる側は反応に困るにも程がある。
竹林の中で見かけたからと庵に呼んで茶を出した妹紅は、呼ぶんじゃなかったと頭を抱えていた。
「こうやって撫でると髪の毛もやわらかくってね?とっても気持ちいいのー♪」
向き合う二人は自分の頭を抱えるか、他人の頭を抱えるか、であった。
「は、放してください幽々子さまぁぁぁぁぁ!!」
「まったく幽々子さまは誉めすぎなんです!誉め殺しですよあれじゃ!もう!」
ぷりぷりと膨れる庭師に言われ、お嬢さんはでも、と抗議の声を上げかける。
「でももへちまもありません!幽々子さま、こういう話をご存じですか!?」
その声を遮った彼女は、白玉楼の畳をだだんと踏みしめ見得を切りつつ口を開いた。
「昔、富士山の見える宿に泊まった人が、朝起きて富士山を見られるなんてここは良いところだ、富士山はやっぱり世界一立派な山だと誉めたそうです」
「ふむふむ」
「するとその土地育ちだった女将さんは、毎日見てると大した物じゃありません、立派と言ってもあんなの半分雪です、と答えたそうです」
「ふーん」
「身内の人間はこういう風に遠慮して紹介するのが慎みというものなんです!慎みを持って紹介すればこそそれを素直に見られる物、誉めさえすれば良いという物ではないんです!今後は人前で私を誉めないで下さい!」
どーん、と突きつけられた指先の前で、お嬢さんはうなりつつも渋々首を縦に振ったそうな。
「いやいやこの子ったら鈍くってねぇ」
とは囲炉裏の前でお嬢さん。道で出会った里の半獣にお茶でも一杯と誘われて来たところ、庭師の話を振られてのこと。
「はぁ……しかし妹紅からは足が速いだのと聞いていたが……」
友人から聞いた話との食い違いに首をかしげるのは家主の方。あんまり直で卑下するもんだから脇の庭師は小さくなっている。
「そんなことないわよー、呼んで駆けてきたと思ったら木の根に転んでドロワーズが丸見えになるし」
そんな言葉に要領得ぬ相槌を返す向かいで、庭師は顔を真っ赤に染める。
「お料理だって酢の物を作らせたら酸っぱいのは苦手ですってお酢を控えすぎちゃうし、カレーを作れば甘口しか作れないし」
「ゆ、ゆゆこさまぁ!?」
子供舌を暴露されて半泣きの庭師を余所に、聞かされた方は困った表情で言葉を返した。
「しかし、髪の毛が柔らかく触り心地がいい、とも自慢していたと聞いたが、それは確かそうだな」
するとお嬢さんはふわふわとした子供らしい細い髪の頭を今にも掻きむしりだしそうに抱える庭師を小脇に掴み、片手をパタパタと振ってこう言った。
「いえ、柔らかい柔らかいと言っても半分霊ですからー」
「そりゃぁ柔らかいだろうな」
オチそこねた。
普通に和んでしまう。