さて、今日も楽しい宴会だ。
「本日は都合により、博麗霊夢と霧雨魔理沙が欠席します」
アリスはケツまくって逃げ出した。
昼真っ盛りの炎天下。
今日も今日とて博麗神社の居間。
博麗霊夢と伊吹萃香は居間でくつろいでいた。
「霊夢~。今日も平和だね~」
「平和なのはいいけど、暇なら掃除でもしたらどう?」
「いいよ~。死体掃除?」
「昨日の宴会の塵を掃除して欲しいのよ。うんざりするわ」
「腐乱死体掃除ね~。了解~」
そこに、アリスが現れた。
「あら、紅白。今日も暇そうね」
「ん? 来たの?」
「来ちゃ悪い? 暇そうなあんたをからかってやろうと思ったのよ」
「あっそ」
霊夢は相手にしなかった。
アリスはムッとしながら霊夢の隣に座った。
萃香がそこで、クスッと笑った。
「あはは。またまた?」
「何よ。小鬼」
「いや~。あんたがまた人間の隣に座るから、可笑しくって」
「悪い?」
「別に。そういえば、昨日は来なかったよね。用事?」
「ええ。そうよ」
そこで、霊夢は眉をひそめた。
「アリス。あんた、昨日の宴会を楽しみにしていたじゃない」
「してないわよ」
「三日前からワインの準備はじめちゃって。来なかったんだ」
「ええ。行かなかったわ。忙しかったもの」
「ふーん」
霊夢はそれ以上、アリスに何も言わなかった。
変わりに、萃香がクスクス笑った。
「へえ。部屋で独り、人形作りが忙しいんだ? それとも、妖怪と騒ぐより人形と静かに過ごす方が良かった?」
「なんで、私が昨日、何をしていたか知ってるのよ?」
「わかるよ。私の能力は疎と密。その力を使えば酒のつまみにあんたの寂しい姿を見るのも簡単」
「プライバシーの侵害じゃない!」
「なら、魔理沙とか霊夢のプライバシーはどうなるの? ストーカーさん?」
「煩い!」
アリスは卓を叩くと立ち上がった。
「不愉快だから、帰る!」
そう言い切って、博麗神社の上空へ飛翔した。
霊夢は見送ることもせずにお茶を一口飲んでから、萃香に言った。
「からかい過ぎよ。萃香」
「だって、あの魔法使いが面白いんだもん」
萃香は神社の居間でゴロゴロしながら言った。
「妖怪の癖に妖怪らしくない。とっても人間っぽい。
見栄っ張りで寂しがり屋で臆病。そういう中途半端なところは嫌いじゃない。
疎と密を操るが故に人無しでは何処にも在り続ける事が出来ない鬼の在り方と似ている。
そして、そんな在り方の鬼にすら成れない私とあの魔法使いは少し似ている」
萃香はそこで、霊夢の膝に頭を乗せた。
「霊夢は私を見ていてくれる?」
霊夢は萃香の頭をかるくなぜた。
「庭の掃除したら、見てあげるわよ」
「まったく。あの小鬼。本当に腹が立つ」
宙を飛翔しながらアリスは独り、叫んだ。
「宴会事件の時も、下らない説教して。私の何がいけないのよ」
と、そこで一つの事に気付いた。
「あ。ここ。紅魔館の空だ」
下界を見下ろすと、紅魔館の屋敷が見えた。
「煩い門番にいちゃもんつけられる前に、撤退しましょう」
アリスが紅魔館から去ろうとすると、背中から声をかけられた。
「あら。寄らずにお帰り? 宴会と同じで仲間に入るのが怖かったから?
それともパチュリー様に会うのが嫌? 煩い門番が嫌い?
いいえ、もしかしたらわたしの存在が嫌なのかもしれないわね」
そう告げるのは紅魔館のメイド長、十六夜咲夜であった。
「悪魔の狗が何の用?」
「用がなければ、話してはいけないのかしら?」
「私は忙しいの。放っておいて」
「人形と遊ぶので忙しいのかしら?」
「どいつもこいつも、煩いわね! そんなに私が寂しそうに見える?」
「そんな事、誰も言ってないじゃない」
咲夜は軽く苦笑してから告げた。
「ねえ。暇だからお茶でも飲まない?」
「あら。メイドの仕事で忙しいんじゃないのかしら?」
「暇をつくったのよ。あなたの為に」
「私の為?」
「そう」
咲夜は自分の胸を指差して、アリスに告げた。
「わたしは人間よ。あなたの大好きな。だから少しは気を許してくれないかしら?」
アリスは少しだけ戸惑った後、答えた。
「わかったわよ。少しだけよ」
紅魔館のテラスでアリスと咲夜はテーブルを共にした。
「ローズティで良い? 今、わたしの中で流行っているの」
「良いわよ」
アリスは紅茶を一口飲んで、感嘆した。
「美味しいわ」
「悪魔の姫に飲ませている一級品よ。不味いお茶は紅魔館に置いていないわ」
「そう。さすがね。魔理沙は日本茶派閥だから、嬉しいわ」
「魔理沙、ねえ」
と、咲夜が苦笑するとアリスは睨んだ。
「なによ。悪い?」
「いいえ。ウチの知識人も同じ事言うから可笑しくって」
「パチュリーが?」
「ええ。きっと、魔理沙にかまってもらうのが嬉しいんでしょうね」
「なら、外に出ればいいのに」
「あの人はあそこを根城にしているのよ。それに、あの人は多くの友達を望まないわ」
「寂しい生き方ね」
「そうかしら。パチュリー様にはレミリア様がいる。フランドール様がいる。
紅美鈴がいる。小悪魔がいる。紅魔館のメイドがいる。そして、わたしがいる。
あの人は寂しい人ではないわ。とても恵まれた人よ」
アリスは沈黙して咲夜から視線を逸らした。
「あなたには誰がいる? 上海人形? 蓬莱人形?」
「誰もいないわ。独りで十分よ」
「そう。霊夢や魔理沙は違うのかしら?」
「違うわ。二人とも人間よ」
「レミリア様は妖怪よ。だけど、あの方の心には人間の霊夢がいる」
「心?」
「そう。心に誰がいるか。それが孤独か孤独ではないかを判断する要素なのよ」
「心、か」
「多くの妖怪の心の中には誰もいないわ。妖怪も、人間も、心の中にいないの。
だから、多くの妖怪は苦悩も悔恨もなく日々を過ごす。
心に誰もいないから、誰が消えようが、誰が現れようが動じない。
そして、その事にすら気付いていない妖怪は、もっとも寂しい種族なのかもね」
「妖怪こそ、苦悩を抱く人間を愚かしく思っているわ」
「わたしはそう思わない。わたしの周りの妖怪は皆、心の中に大切なものを持っている」
「愚かしい生き方だわ」
「羨ましい生き方よ」
「そうかしら」
アリスはそこで、視線を空に向けた。
咲夜はアリスの横で、まるで視線を逸らす瞬間を待ち詫びていたかのように語り始めた。
「あなたがわたしを避けている理由はわかっているのよ」
「避けていないわ」
「本当? 人間好きのあなたなら真っ先に寄ってくるでしょうに」
「ごめんなさい。本当は避けていた」
「正直に話してくれて嬉しいわ」
「お世辞はやめて」
「お世辞なんていわないわ。嬉しいの。あなたが正直に向き合ってくれることに」
咲夜はそこで、軽く息を吐いた。
「あなたが避けていたのは、わたしが妖怪みたいだったからでしょ」
「ええ。あなたは人間なのに人間らしい部分がなかった」
「自分でもそう思うわ。完璧で清酒。それは機械だから完全なのよ」
「機械? 幻想郷の外の世界の話?」
「外の世界には機械があって、計算だけで動いている。感情はない。妖怪と同様に自動的。
わたしも同じ。物事に対峙した時、常に計算する。感情よりも計算結果を優先する。
そういう自動的な部分をあなたは恐れたんじゃなくって?」
「さすがね。文句のつけどころもない完璧な答えだわ。羨ましい」
「その言葉、そっくり返すわよ。あなたこそ羨ましい」
「どうして?」
「妖怪の癖に、人間らしく生きているような気がするから」
アリスは空を見上げていたはずの視線を下げて、俯いた。
「やめてよ。みっともない」
「そうかしら。わたしからしてみたら自分の方がみっともない」
「あなたは完璧よ。恥ずべきところなんてないわ。近寄りがたいぐらい」
「だからこそ。みっともない」
咲夜はすっと目を細めた。
「あなたに話しかけられたかったの」
「どうして?」
「そうすれば、わたしが人として認められるような気がしたから」
アリスはそこではじめて、十六夜咲夜という人間を真正面から見た。
整った顔立ち、嫌味のない仕草、正に完璧。
だけど、アリスの瞳には劣等感を抱いた幼い少女のように映った。
(本当にみっともない人)
アリスは苦笑する。
いままでこんな事にも気付かなかったなんて。
十六夜咲夜は、アリスの目から見て霊夢や魔理沙と同じ人間だった。
咲夜は微笑んだ。
「はじめて、わたしを見てくれたわね」
アリスは寂しげに視線を落として咲夜に告げた。
「ごめんなさい。今まであなたを人間として見えなかった」
「そう。だけど時々思うのよ」
そこで、咲夜は言葉をとぎらせた。
「ヒトを定義する事って何かしら?」
「それは簡単よ」
アリスは指を立てて笑みを向けた。
「心に誰かを置く事。それが人間なんじゃない?」
咲夜はキョトンと目を見開いた。
アリスはそこで、ウインクをしてみせた。
「あなたの心にはレミリアがいるんでしょ。なら、あなたは人間よ」
咲夜はアリスの言葉に、腹を抱えて笑った。
「ありがとう。嬉しい。誰かにそう言って欲しかったのよ」
咲夜の顔は本当に嬉しそうだった。
そんな咲夜の横顔をいて、アリスは思った。
(寂しいのは私だけじゃないか。きっとヒトなら誰もが寂しいと思うのよ)
そして夕刻。
再び博麗神社、霊夢と萃香がくつろいでいると、ワイン瓶を数本かついだアリスが現れた。
アリスは真っ赤になって居間にあがりこむと、霊夢に向かって叫んだ。
「れれれれれれれれれいむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「な、何よ?」
「昨日、飲まなかったワインが余ったから今日、飲むわよっっっ!」
「それで?」
「付き合いなさい! 独りだと寂しいじゃない!」
アリスらしくない言い方に、霊夢は苦笑した。
「いいわよ。美味しいワイン?」
「ヴィンテージものよ。味わいなさい」
萃香は可笑しかった。
本当に素直ではない人妖だな、と思ってしまったから。
そして、その在り方があまりにも自分に似ていたから。
だから、可笑しかった。
萃香は気を使って霊夢とアリスに言った。
「それじゃあ、私はそろそろ退散するから。二人とも仲良くね~」
そう言い、疎と為り散らばろうとした時。
「待ちなさい」
と、アリスが萃香の手を掴んだ。
「あんたも付き合いなさい」
「なんで? 私は妖怪だよ」
「別に良いわよ。あんたと一度、サシで飲み比べたかったのよ」
萃香は少しだけ俯いた。
そしてしばらくの間、沈黙したまま微動だにしなかった。
けれども、顔をあげると満面の笑みを浮かべた。
「いいよ。でも、人形マニアの人妖が鬼に勝てるかな?」
「来なさい。本気で相手してあげるわ」
霊夢は二人の姿を横目にお茶を啜った。
そして、夕暮れの空を眺めながらひとり、思った。
まったく、面白いほど人間くさいわね、と。
前作も指摘を放置してるし、何かこだわりでもあるのでしょうか?
こんなアリス&咲夜もいいですね。
向こうだったら90~100を付けてますね。
面白かったです、次も期待してます。
次回も期待してます。
これからの活躍に期待だよ!
咲夜さんはレミリアのことを、基本的には「お嬢様」と呼びます。
「レミリア様」とはあまり呼ばなかった気がします。
それはともかく、咲夜に羨ましがられるアリスは珍しいですね。
いいお話でした。
日本語でおk。
そうじゃないなら直してほしい
でも期待してます
次回も期待してます、出だしとか(笑)。
清酒じゃなくて、瀟洒(ぁ