「はぁ~」
天界と下界の境の雲を泳ぐは緋色の衣を持つ私、永江衣玖。
「総領主様にお話を通して他の人に・・・いえ、ここで挫けてはこの私を選んで下さった総領主様の面を汚してしまいます。ですがこのままでは・・・」
あれこれと考えながら天界を目指す私。ある人物の世話係を始めてから苦労が絶えないのです。
雲を抜けるとこちらに向かって手を振る人物が見えました。
「お~い、衣~玖~」
何か嫌な予感がしたので聞こえなかったふりをしようかと考えましたが、後が厄介なので手を振る人物の方に近づいて行きます。
「どうかなさいましたか?総領娘様」
「衣玖、2人の時はその呼び方はしない約束でしょ!」
「そうでしたね、失礼しました。それでどうかしましたか?天子様」
比那名居天子。天界を統括する比那名居家の総領主の娘様。天界の生活に飽きを感じ刺激を求め、比那名居家の秘宝『緋想の剣』を持ち出され下界に地震を起こされた。その結果、博麗の巫女の逆鱗に触れた天子様はズタボロにのされてしまいました。もちろん私も天子様に加担した者と勘違いをされ、あられもない姿にされてしまいました・・・
そして、そのことが総領主様の耳に入り、こっ酷く叱られましたが天子様は気にもとめず下界に出向かれています。今までに無い刺激を覚えた子供がそう易々と諦めるはずがないのです。
天子様が下界に下りられる度にあちらこちらに頭を下げに回る私。これまでも、吸血鬼の屋敷に行かれ「何か暗いわね」と言われ天井を破壊され、吸血鬼を灰に変えたり、人形遣いの家に無断で侵入し、人形達の四肢をバラバラにされたり、紅白と青緑の神社の賽銭箱の中身を入れ換えてみたり(翌日、喜声を上げながら気絶する巫女の姿を写真機に納める天狗の姿が見られたとか・・・)と、様々な異変?(悪戯)を起こしているのです。
その中で1番死を感じたのは、あの向日葵畑に手を出したときです。向日葵畑に異変を起こしに行かれましたが、主が不在でした。その事に腹を立てられた天子様は前回起こした地震とは比べモノにならない大地震を起こしてしまいました。気分の晴れた天子様は途中で出会った私を引き連れ紅白の神社に行き、(お賽銭さえ入れれば出る)お茶を飲んでいると鳥居周辺から神社一帯が四季の花で満たされ、鳥居の向こうから現れたのは幻想郷最強と謳われる妖怪『風見幽香』。日傘から現れた笑みを見て私は死を覚悟しました。それから色々とあり、また神社が倒壊しましたがそんな事はどうでもいい話です。瓦礫から現れた紅白によって天子様が一命を取り留めたとだけ言っておきます。
閑話休題
「衣玖には何時も迷惑を掛けているから・・・」
「(自覚はあったんですね・・・)」
「何か言ったかしら?」
「いえ、別に」
「(?)だからね、これ」
「これは?」
両手で抱えるには少し大きい白い箱を渡されました。
「衣玖は可愛いモノが好きだから下界で探して来たのよ」
「私の為に?」
「大変だったんだからね!た、大切にしてよね///」
顔を背けられる天子様。今までこのような事が無かった為、突然のプレゼントに私は顔が熱くなる。
「・・・開けて見てもいいですか?」
「いいわよ。中身を見て驚かないでよ」
箱の重量はそれなりにあり、ほのかに温かい。
(子犬でしょうか?それとも子猫でしょうか?)
期待に胸を膨らませ、箱の蓋を開けると・・・
「・・・あの、天子様?」
中には緑色の髪を持った少女(幼女?)が涙を零しそうな瞳でこちらを見つめていました。
「どう?気に入ったかしら」
「この方をどちらからお連れになさったんですか?」
「霊夢ん家の近くにある、地底に続く穴に少し潜ったとこだけど?」
「先程、『大変だった』と言われた気がしましたが・・・」
「そうなのよ。その妖怪を連れて行こうとしたら蜘蛛の妖怪に邪魔されたのよ。ま、私の敵じゃなかったけどね!」
無い胸(禁句)を張られる天子様。私は胃が荒れていくのが手に取る様に分かりました。
「どうしたの衣玖?」
「い、いえ、なんでも・・・」
「そう?なら渡すモノ渡したし、あのバカ妖精でもからかいに行こうかな」
要石に腰掛け下りて行かれる天子様。天界に残された私と緑髪の少女。取り敢えず箱を取り除くと桶が現れ、その中に少女が入っていました。
「・・・」
「・・・」
「(と、とにかくこの空気を何とかしないと・・・)私は永江衣玖と申します。貴方は?」
桶から上半身を出す少女。
「・・・キスメ」
「キスメさんですね?この度は天子様が大変ご迷惑をお掛けしてしまいまして・・・」
「あなたは悪くない・・・」
「いえ、天子様は私の為にこの様な事をなさったのですから少なからず私にも非があります。ですので何かお詫びをさせて下さい」
しばらく視線を外されるキスメさん。そして、
「・・・案内」
「案内?」
「私、地底から出た事が無い。だから地上案内して」
「その様な事で宜しければ喜んでご案内いたしますよ」
キスメさんを抱え、雲を抜け下界に下りて行く私。
そして、幻想郷の様々な場所に足を運んだ私達でした。
「ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ楽しんで頂けたなら幸いです。そろそろ神社の方に向かいましょうか。お友達も心配されていると思いますから」
「(こくこく)」
キスメさんの案内にて地下へ通じる場所に向かいました。紅白の神社から少し離れた場所に穴がありました。
「本当に本日はご迷惑をお掛けしました。」
「気にしないで。楽しかったから・・・」
キスメさんを穴の横に置き、
「お気をつけて」
「・・・バイバイ、衣玖」
「はい、また一緒に回りましょうね」
「(コクコク)」
地下を目指して帰って(落ちて)行かれるキスメさん。そして、その場に私1人が残されました。
「・・・私も帰りましょう。天子様にお礼を言わないといけませんし」
私はキスメさんが帰られた穴に背を向け、天子様の待つ天界を目指し飛んで行きました。
いいと思います
衣玖さん、苦労してるなぁ……でもキスメと衣玖さんのやり取りは和んだ。
ナイスてんこ。
最初、歓喜かと思ったら違ってたw読みは「きせい」で良いんですよね?
斬新な組み合わせですね!
ぜひ地上案内の部分も!