Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

真実を写すモノ

2010/12/26 17:28:23
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 私は、幻想郷の風景が好きだ。
美しい四季に囲まれて、日々変わり行く風景を愛している。
だけど、それは目で見る残像として残す事しかできない、それが残念でたまらなかった。
この風景をいつまでも残しておきたい、そう思い始めたのはいつのことだっただろうか。

 桜の花びらが舞い散る質素な神社も、夏の暑さを紛らわす為に湖で遊ぶ子供達も、秋の紅葉が美しい九天の滝の姿も、雪の色に染められた高く聳える妖怪の山の風景も。
皆に知って欲しくて、たまらなかった。

 新聞記者をしているが、新聞といったらやはりその現場の風景が必要になってくる。
しかし、その風景を保存することができないとなると、自分で絵を描くしかないのだ。
そのため、自然と絵を描く腕はあがり、想像と空想とを混ぜ合わせて絵を書く事があった。
だけど私はやっぱり、真実を、私がみた本当の風景が見せたかったんだ。

 そんな事を思いながら私がふと立ち寄ったのは、様々な外の世界の物を売っているという、香霖堂だった。
もしかしたら、外の世界には私の願いを叶えてくれるものがあるかもしれない、そう思ったのだ。
店主にその旨を伝えると、しばらくして黒っぽくて小さな箱を取り出してきた。

「これがカメラというものだ。ある程度の紙をこの機械の中に入れてね、このボタンを押すと……」

 パシャッ。

眩い光が発せられ、思わず目を閉じた。
なんだよこの野郎と思ったが、そのカメラと呼ばれた機械から一枚の紙が出てくる。
真っ白で何も写っていなかったので、なんだ失敗かと私は思った、その時だった。

「ほら、見てご覧。段々風景が見えてくるだろう。はは、驚いた顔をしているね」

 私は何が起こったかわからなかった。
先ほどまで真っ白だったそれが、今になって風景を切り出していたのだから。
手渡されたそれには、私が間抜けな顔をして驚いているのが写っていた。
紛れも無く、過ぎ去っていったはずの一コマが、そこにはあったのだ。

「あ……」
「ん? どうかしたかな?」
「こ、これください! あ、いや、買います!」
「気に入ってもらえたようだね、嬉しいよ。でも、さっきの言動から見るに、今はお金をもっていないみたいだね」
「え、あ、まぁ……」

 昔いた、覚りのように心が読めるのか。
この者の言うことは事実で、まさかあるとは思っていなかったから今はお金を持ってきていなかったのだ。
嬉しい誤算とはまさにこのことだ。

「そうだね、御代はその写真でいいよ」
「写真?」
「あぁ、その紙のことさ。真実を写したもの、それが写真さ」
「へぇー」

 しゃしん、シャシン、写真。
真実を写したもの、それが写真。
とても良い響きだった。

「じゃあ、その写真を貰おうか」
「え、あ、はいどうぞ」

 私の間抜けな顔の写真が御代だなんて恥ずかしいけど、このカメラと変えられるなら喜んで渡すことを選ぶ。
店主は、優しく微笑んでそれを受け取ると、私にカメラを手渡した。

「これからは君が持ち主だ。自分の思うように世界を写すといい。紙がなくなったらまたおいで。安くしとくから」
「はい、ありがとうございます!」

 自分でも恥ずかしいくらいに大きな声で返事をすると、急いで店を出た。
これからは、私の好きな世界が写せる。
新聞にだって、事実を載せることができる。
その事実が嬉しくて嬉しくて、私は高い高い空へ飛んだ。

幻想郷はとても広くて、私の知らない事もたくさんあった。
だけど、これから長い時を経て知っていけばいいんだ。
そう思うととても気持ちが穏やかになって、期待で胸がいっぱいだった。

くるりと振り返り、幻想郷全体を見つめた。
私が愛して止まない幻想郷。
カメラについた上の小さな窓を覗いて、幻想郷全体に照準を合わせた。

「これが、私の一枚目です」

 誰か周りにいたら言えない、ちょっと恥ずかしい掛け声。
上のボタンを人差し指で優しく丁寧に押す。

 パシャッ。

 静かにカメラから吐き出されたその紙を、期待の眼差しを込めて眺める。
やがて、少しずつ風景が切り出され、真実を写し出した。
綺麗な幻想郷の風景が、そこにはあったのだ。

「あぁ、世界は美しい」

 心の底から、私は思った。
いつまでもこんな美しい世界に囲まれていたいと、願った。









 世界はいつだって美しかった。
誰が何を期待しようとも、誰が何を望もうとも、自由気ままに自然は生きていた。
そう、ファインダー越しに映る世界はいつだって、美しいのだ。
何にも縛られない、そのままの姿。それだけで、美しい。
天を仰げば、レンズには青くて雲一つ無い空が浮かび上がる。
手を止めて、少しの間眺めた後、人差し指でボタンを押す。

パシャッ。

そこに虚しく響くのは、風景を切り取る無機質な音。
私は、一人だった。そう、共にあるのは、写真だけだった。

 私がカメラを手にしたその日から、幻想郷は短い時間でかなり変わった。
スペルカードルールという決闘ルールが作られ、美しい弾幕で競う合う素晴らしいものができた。
弾幕を写すだけで幸せになれるので、この決闘ルールができて本当によかったと思う。
他にも様々な異変が次々と起こり、幻想郷は以前にも増してより騒がしくなった。
新聞のネタが増えて、新聞記者の私としては嬉しかった。

 しかし、良い変化ばかりではなかった。
鬼は山から去り、天狗だけで山を守るべく組織の体制が一層厳しくなった。
許可無く侵入する者は山から出すために、担当になった天狗は駆り出される。
また、天狗の中でも上下関係が厳しくなり、昔は仲良くやっていたのに今じゃ余所余所しい雰囲気になってしまった。
今まで自由に、好きなだけ写真を取っていたあの日が、懐かしいと思うくらいだった。

 いろんな変化があったせいか、私の目には幻想郷が少し色あせて見えてきた。
あんなに広く感じた幻想郷も、今はとても狭く感じる。
あの頃の感動は、どこへやら。何とも言えない感情の濁流が私を飲みこんでいった。


 そんな私の気の休まる場所は、香霖堂だった。
何故かはわからないけど、あの店の雰囲気は私の心を穏やかにしてくれた。
毎回笑顔で、店主は私を迎え入れてくれたからかもしれない。
いつだって、ここはかわらなかったからかもしれない。

「いらっしゃい。今日はどういったご用かな?」
「カメラの紙がなくなったんで補充しに来ました」
「そうか、じゃあちょっと待っててくれるかな?」
「はい」

 待っている間、店内の商品を見て回ることにしようと脳内会議で決めたその時だった。

「あぁ、そういえば君の誕生日はいつだったかな?」
「え? いやぁ、恥ずかしながら自分自身でも覚えてないのですよ」
「まぁ、そうだろうと思ったよ。じゃあ、今日は何の日だかわかるかい?」

 私は考えた。
もしかして店主の誕生日? いや、今日ではなかった筈である。
私は胸のポケットに入れたメモ帳を開き、カレンダーで今日の日を見る。
いや、何も書いてはいなかった。

「はは、流石の君でもあれだけたくさんの物事があれば忘れてしまったかな」
「すみません、わかりません。一体何の日なのでしょう?」
「これを渡せば分かるかな?」

 店主は胸元から一枚の写真を取り出し、私に見せた。
若干色あせたその写真には、驚いた顔をした自分が写っていた。
……そうか、今日はこのカメラと出会った日だったのか。

「誕生日がわからないなら、そのカメラが君に渡ったその日を誕生日にすればいい。ろくな誕生日プレゼントも用意できないから、この写真と、紙代を無料にするくらいで勘弁してくれないかな?」
「えっと、いや……そのぉー」

 余りに突然の事過ぎて私は迷った。
いきなり今日は私の誕生日だと言われて、簡単だけどプレゼントも貰えて……。

「受け取れないかな?」
「い、いえ。ありがたく頂きます。そ、その、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「そ、それじゃあ失礼します!!」

 優しく微笑む店主を尻目に、私は小走りで香霖堂から出た。
ピシャリと戸を閉めると、ため息をついた。
この時期は寒く、白い息が自由を求めて霧散した。

 私は咄嗟にカメラを覗きこむ。
あの時は遥か上空から見下ろすように写真を撮ったのを覚えている。
だけどそれは、限られた範囲の幻想郷でしかなかったのだ。
こうして、上空をファインダー越しに見上げてみると、そこには限りない幻想郷の空が写っていた。
どこまでも広がる、大きくて自由な空。
ものの見方で、幻想郷は小さくも大きくもなることに、私は今になって気付いた。
幻想郷は狭くなんか無い、とてつもなく大きかったのだ。

 ふと後ろを振り返る。
汚れたガラス越しに、店主がこちらを覗きこんでいた。
それに私は微笑を返し、青空を見上げて写真を撮った。

「また、今日から新しい私の始まりです」

 ぼそっと呟いて、光溢れる希望の先へと飛んでいった。
何かいろいろと吹き飛ばして書いた気がします。
とある方のために書いた作品ですが、リミットは今日中で用事もあって時間が全然ありませんでしたが、なんとか書けました。
真実を写すモノ。物はカメラ、者は文です。
こんな雑な作品ですが、楽しんでいただけたなら幸いです。
ひわまり
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
何だかスッキリした感じがして良かったです
2.名前が無い程度の能力削除
素朴な美しさが感じられました。
店主は相変わらずイケメンだなあ。