Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

もし、少しでも変化があるなら

2005/01/25 08:58:10
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参加者が殆ど酔いつぶれて宴会は自然にお開きとなった。
夜空を見上げる、随分と長い間騒いでいたようだ。


・・・

『今から家でちょっとした宴会をやるの、それで貴女をそれに招待しようと思って』

そういって輝夜に拉致された時、宴会とは名ばかりで結局私を殺すことが目的なんだと思った。
だから始まっても料理には手をつけなかったし、警戒もした。

『せっかくなんだから、楽しみなさいな』

そう言って輝夜が注いだ酒にも私は一切口をつけなかった。
それを見た輝夜は、杯を奪い

『毒を入れるなんてそんな無粋はしないわ』

そう言って中身を飲み干しにっこり笑った。
それでも私は警戒を解かない。

私とコイツは酒を酌み交わす様な関係では決して無い

宴会は、そんな私に関係なく盛り上がっていった。
歌っている兎達がいた。調子はずれな歌を、楽しそうに歌っていた。
踊っている兎達がいた。決まった動きなど無いめちゃくちゃなものだったが、楽しそうに踊っていた。
輝夜が舞を舞った。非の打ちどころがなかった。その場にいた者全員が彼女に魅入られた。
私だけがそこにいなかった。

同じ場所にいるのに、彼女達と私は、地上と月よりも遠かった

『妹紅。貴女夕食をまだ取っていないでしょう?帰った後で自分で作るの?今、目の前に料理があるのにそれを無視して?
 それって随分と滑稽だと思わない?…安心なさい、さっきも言ったけど毒など入っていないから』

解ってる、この場に悪意は一切存在していない。
彼女達との距離があるのは、私が逃げているから。
                  ―――何から?

…疲れた、もう色々考えたくない。
兎達の常軌を逸した騒ぎ方に比べれば、敵と酒を酌み交わす程度の狂行など可愛いものだろう。
そう自分を納得させ、杯を呷った。
その狂行に輝夜は、まるで童女のように笑い

『こっち。次はこっちを飲みなさい。このお酒の方が美味しいわ』

そう言った。

『なら、最初からそっちを飲ませなさいよ』

そう言うと輝夜は、宴会が始まって初めて声を上げて笑った。



それからは、ただ暖かで【   】い時間だけが存在した


・・・

空から地上へと視線を戻す。
そこには、屋敷内にいるはずの八意永琳がいた。

「随分酔っている様だけどちゃんと帰れる?酔い覚ましの薬が必要なら…」
「不要よ」

最後まで聞かず、答える。

  お祭り騒ぎはもう終わり。私たちはいつも通りの関係へ

「いらない。私に構うな。」

  私は輝夜が憎い、輝夜は私が目障り

「……」

  それでいい。それこそが私たちの正しい関係

何か言いたそうな彼女に背を向けて歩き出す。
コイツは苦手だ、輝夜以上に何を考えているのか解らない。
それに、私の態度に対して一瞬だけ見せたあの顔…
きっと彼女は私にとって不快なことを言うだろう。
だから、逃げる。
しかし

「姫は」

彼女はそれを許さなかった。
声をかけてきた時とは別人のような冷たい声、それが私をその場に縛り付ける。
嫌だ聞きたくない早く逃げなきゃ――

彼女は続ける
私を殺す言葉を続ける


「姫は本当に楽しそうだったわ」
                  ―――あなたはどうだった?

「ねぇ、あなたは永遠をその感情と共に生きるの?」
                  ―――千年の闇に囚われ、これから先の光を探そうとはしないの?

「あなたは知らないでしょうけど、姫はこの間言ったのよ『無限にやってくる過去なんてどうでもいい』って」
                  ―――だからあなたも…


「……私は、違う」

呟く。声が震えている。ダメだ動揺を悟られるな。
                 
「違う!!」

叫んで振り返り、睨みつける。

「違う!私はお前達とは違う!
 私は過去をどうでもいいなんて思わない!
 例え憎しみでも、積み重ねてきたものを無かった事になんてできるか!」
「そこまでは言っていないわ、ただあなたのその感情を、そろそろ『思い出』ってカタチで整理してもいいんじゃないってこと。
 永遠に生きるもの同士の殺し合い、その意味の無さはあなたも解るでしょ?」
「思い出?整理する!?
 そんな事出来るわけがない!アイツのせいで、お前たちのせいで何もかもがおかしくなったんだ!
 千年怨んでもまだ足りない!千回殺してもまだ足りない……!!
 私は永遠にアイツを憎み、殺し続ける!意味なんて無くていい!
 それでいいだろう!今更そんな事言って私を惑わすなぁ!!」

なんてかっこ悪い。
感情の赴くままに叫んで、まるで子供だ。
そんな私とは対照的に、永琳の視線はあくまで冷たく私を射抜く。
やめろ、その目で見るな。
私の心を見ようとするな…!



「…そんな事出来るわけがない?」
                  ―――やめろ

「じゃあ訊くわ妹紅。無言も逃げる事も許さない、必ず答えなさい」
                  ―――やめろ








―――あなたの姫に対する感情は、本当に千年前から少しも変わっていない?

 










もう一度空を見上げる。さっきよりも月が大きく、近く見えた。






少しずつでもいい、ゆっくり変わっていければいい
彼女たちには永遠の時間があるのだから
コメント



1.七死削除
この世の中に、常に変わらぬ常があるとするのであれば、それは常に常では無いと言う事。 永遠とは玉に瑕が付き、しかし玉が転がっているうちに傷は消え、また元に戻る事。

紅妹は初めて輝夜の酒を飲んだ。 でもまたもとの関係に戻る。 しかし彼女はこの後も再び輝夜と酒を飲み、そしてその後も殺しあうのだろう。

瑕は消える、しかし瑕は玉の中に。 二人の永く遠い関係を良く著している良い作品だと思います。
2.noname削除
変わる事って怖いよね。
昔からやってきた事を繰り返すのって本当に楽。
死を恐れる事の無い紅妹にとって、何百年かぶりに味わった恐怖は
とびっきり怖かったんだと思いました。