Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

皆の事が、好きだから

2012/10/16 01:00:38
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門番という仕事は、思いのほか暇なものだ。
この幻想郷、今時紅魔館に攻め入ろうなんておかしな妖怪はいない。

季節は秋、遠くに見える妖怪の山場、オレンジ色に色づいている。
どこかの秋の姉妹も、喜んではしゃぎ回っているだろう。

「風が、冷たくなって来たなぁ」

もうすぐ、冬だ。



門番という仕事は、思いのほか暇なものだ。
そろそろ夕方、日が落ちたら妖怪の時間になるし、
紅魔館の周りは湖に森。人間は近づけないだろう。
この時間以降、ここにやって来る者は、大体紅魔館の住人である。

「お疲れ、美鈴」
「お疲れ様です、咲夜さん」

咲夜さんが温かいコーヒーを持ってきてくれた。
私がコーヒーを受け取ると、彼女が私の隣で、壁に背を預けた。
チラチラと私の様子をうかがっている様子だ。
そんな事気にしなくても、咲夜さんの淹れてくれるコーヒーはいつでも格別だ。
お嬢様は紅茶の方がお好みみたいだけど。

「ん、おいしいですよ、とても温まります」
「そう、よかったわ」

なんだか、今日の咲夜さんはみょんによそよそしい、
何かあったのだろうか、相談事なら乗ってあげたい。

「あ、あのね、美鈴」
「どうしました?咲夜さ」
「これ!」

私が振り向く前に、咲夜さんが私の胸に何か袋を押し付けた。
とても驚いたのだけれど、咲夜さんは私が袋を受け取った瞬間消えてしまった。
お嬢様からの呼び出しかな、何か焦っていたような…。

「え、ちょっ」

咲夜さんが消えて、一人門前に取り残された私は、首を傾げつつも咲夜さんから

受け取った袋の中身を覗いてみた。
中には、温かそうなマフラーが入っていた。
咲夜さんも、恥ずかしがり屋さんだなぁ。

「これつけて会いに行っちゃおうかな~」

意地悪な事を考えつつ、マフラーを取り出すと同時に袋の中から紙が1枚地面に落ちた。

「あら...」

咲夜さんに貰ったマフラーを地面に付けないように注意しながら、地面に落ちた紙を拾い、広げてみた。

《 美鈴へ、いつもありがとう、これからもよろしくね。 咲夜 》

と書いていた。


咲夜さんは可愛いなぁ。





門番という仕事は思いのほか暇なものだ。
特に日が落ちて、森は瘴気が強くなる、こんな時にここにやって来るのは大体、
知能・程度の低い妖怪か、よっぽど変な人間か...。
やっぱり、門の内側の住人だ。

「やってるわね、美鈴」
「おはようございます、お嬢様」
「ん、おはよ」

咲夜さんが来て数刻後、完全に日が落ちてから、
今度はお嬢様がやってきた。

「お出かけですか」
「ええ、貴女に会いにね」
「そうですか」
「何よ冷たいわねぇ」
「気のせいですよ、私今とても温かいので」

自分の首を指さしてアピールする。
咲夜さんに貰ったマフラー、とても温かくて、柔らかくて、いい匂いがする。

「あー!それ咲夜もしてた!お揃い!?」
「わ た し が、ちゃーんと門番頑張ってるからくれたんですよっ」フフン

少し優越感。
お嬢様が悔しそうな目でこちらを見ている。

「ぐぬぬ...それ、私に寄越しなさい!」

そう言って私の上半身に抱き着いてくるお嬢様。
ここで暴れてマフラーをダメにしてしまってはいけないので、
そんな事をしてしまうとお嬢様と二人そろって正座なんてことになってしまう。
お嬢様を抑えないと…。

「あー、待ってくださいお嬢様!」
「うー...」
「うっ」

出た、お嬢様のウルウル上目使い攻撃。
その上目使いに何度引っかかった事か…しかし、既にその技は敗れていますよ。
少なくとも、もう紅魔館の住人には効果は無いだろう。

「お嬢様」
「ふぇ?」

私はお嬢様を引き寄せて、自分のマフラーを少しかけてあげた。
さすが咲夜さん、こうなる事を予想していたような、絶妙な長さだ。
...お嬢様はどうやら満足したようだ。

「温かいわね」
「そうですね」
「美鈴も」
「?」

「美鈴も、温かい」

それはよかった。


…。


門番という仕事は暇な物で、深夜になると内側の住人も滅多に現れなくなる。
そんな時、私は門の詰所で本を読んでいる事が多い。

「あらら、もう全部読んじゃったかな...」

詰所の本は何日かに一回、図書館でまとめて借りている。
この時間帯はどうせ暇だし、私が借りに行こうかしら...

「あら美鈴、いらっしゃい」
「こんばんは、パチュリー様」

図書室に行くと、珍しくパチュリー様がご自身の足で本棚に向き合っていた。
いつもはベッドで本を読みながら、こぁちゃんがいそいそと走り回っているのに。
聞くところによると、またお嬢様の思いつきで魔法を探しているそうだ。

「あー、めーりん!」
「美鈴さん、お疲れ様です~」

図書館の本棚を通り抜け、パチュリー様がいつもいるスペースにつくと、
妹様とこぁちゃんが一緒に何かしている様だ。
これは、お絵かきかな。

「うん!見てこれ!お姉さまを書いてみたの!」
「お上手ですよ、とっても」
「えへへ、ありがとー」

建前ではなく、本音。
少し前から妹様は、暇つぶし!と言って絵を描き始めた。
それからは、少し落ち着きを持ったような気もする。
最初の方は上手く描けないことでイライラしたりすることもあったみたいだけど、
パチュリー様やこぁちゃんと一緒にすることで、それも無くなってきたみたい。

「よし、次はめーりん書く!」
「ふふ、楽しみにしてますね」
「待っててね!できたら門に持って行ってあげるから!」
「はーい」

こぁちゃんと一緒に妹様の描いた絵をのんびり眺めていると、
小さくパチュリー様の呼ぶ声が聞こえた。
どうやらさっき会った場所にいる様だ。

「はい、これでいいかしら?」
「ありがとうございます」

そうだ、私は詰所で読む本を借りに来たのだった。
妹様と談笑していて、すっかり忘れていた。
私は、パチュリー様から5冊ほど本を受け取った。


「あのね、美鈴」
「どうされました?パチュリー様」

パチュリー様が、少し目を伏せて、こちらを見ている。

「その、頑張ってね、疲れたら、いつでも休んで良いんだから...」
「はい!」


私は皆がいるから、頑張れる。


…。


門番という仕事は、たまに面倒な時がある。

「よう、門番」
「げ、魔理沙、こんな時間に...」

こういう輩が来た時の対処だ。
この白黒鼠、ことあることに紅魔館に侵入し、図書館の本を奪ったり、
咲夜さんの作った料理をつまみ食いしたり、お嬢様のコレクションを持っていったりするのだ。


「げ、とは何だげ、とは」
「今日も図書館に用事?」
「冷たいなぁ、今日は違うんだよ」

魔理沙が紅魔館で悪事を働く場合、大抵は箒に乗ってやって来る。
森から歩いて出てくるときというのは、ちょっと特別な時。
そして、魔理沙が滅多に見せない弱みを見せる時だ。

「めーりん...」
「あらあら」

魔理沙は、ふらふらと私に抱き着いた。
よく見ると酷い顔だ、どこから来たかは知らないけど、ずっと泣いていた様だ。

「...アリスと、喧嘩した」
「そういう事ね...」

私は魔理沙に何らかの相談を受ける事がある。
いつもは強がっていても、やっぱり人間の少女だ。
とても細くて、とてもか弱い。

「喧嘩の理由は?ちゃんと考えた?」
「うん...」

何をしたか、とか、私が理由を聞いても仕方ない。
こういう時は本人に悩んで貰うのが一番良い、それならば本人も一番堪えるだろうし。

「アリスは、私の事嫌いになったかなぁ...」

いつだったか、彼女の小さな時の話を聞いた事がある。
たぶん、人に突き放されるのが怖いと感じている、少なくとも私にはそう見えた。

「私が、悪いんだ、私があんなこと言ったから、ぅぅ...」
「よしよし、大丈夫、アリスもいい子だから、ね」

落ち着いた魔理沙がポツリポツリと教えてくれた。
魔法についての些細な意見の違いから口論になって、お互い最後の一言が余計だったらしく、アリスの家を飛び出してきた。
周りからすれば、その程度の事かも知れないが、この年齢の少女と言うのは、繊細な物。

人間で無い私が言うのも、説得力が無いかな。

「めーりん...」グスッ
「どした?」

「私、アリスに謝って来るぜ」ズズッ
「そう、いってらっしゃい」

少し泣いて、立ち直れた様だ。
魔理沙は私から少し離れると、箒に跨って。
こちらに振り向いた。

「美鈴!」
「?」

「ありがとな!」

背筋の伸びた魔理沙は、さっきよりもずっと、元気そうに見えた。

そういえば誰かに胸を借りて泣く様な事、もう長い間してないなぁ...。


…。


門番という仕事は、思いのほか暇なものだ。

咲夜さんが来たのが昨日の夕方。
お嬢様が来たのが昨日の夜。
図書館に行ったのが深夜で、
魔理沙が来たのが、日が昇る少し前。

門番らしい仕事、してないなぁ、私。

今は、お嬢様が眠りにつくであろう早朝。
日差しが強くなって、小鳥の囀りも聞こえてくる時間。
門の内側の住人の活動時間は主に夕方~夜中。
私は太陽の出ている間、門番をして。
太陽が隠れている間、お嬢様達と過ごす。
つまり寝る時間が無いのだ。

「あぁ、眠い...」

ダメよ美鈴、ここで眠ったら、紅魔館を襲う悪い妖怪に...。
ああでも、そんな妖怪、もう何年も来てないか...。


zzz...


「はっ」

日が昇ってどれくらい経っただろうか。
壁を背にして、立ったまま寝てしまった気がする。

「起きたかしら?」
「ふぇっ!? しゃきゅやしゃん!?」

真横から突然話しかけられて噛んでしまった。
うう、恥ずかしい。

顔を真っ赤にして横を見ると、咲夜さんが、手に何かを持って立っていた。

「はい、朝ご飯よ」
「あ、あ、ありがとうございます」
「そんなに焦らなくてもいいじゃない」

咲夜さんが微笑した。
今日の朝ご飯はサンドイッチ。
レタスとトマトと卵の挟んである、いわゆる普通のサンドイッチだ。

「ん、おいひいれす」ホムホム
「そう言ってくれて、嬉しいわ」

ああ、そういえば。

昨日の事を、言っておかないと。

「咲夜さん」
「何かしら?」

「マフラー、ありがとうございます、とっても、温かいです。
 咲夜さんと、お揃い...ですよね。」

「!」ボッ

急に咲夜さんがあたふたし始めた。
顔が真っ赤に染まって、可愛い。
ちょっと、いたずらしたくなってしまう。

「そ、そう、良かったわ、ぐ、偶然毛糸が余っちゃってて...自分のを作ったついでに、よ!」

咲夜さんは人の為に努力のできる、私の尊敬する人、だからこそ…。

「咲夜さん、私の目、見てください」

「な、何かしら?」

ちらちらと目を逸らす咲夜さん。
私はニコニコと、口角を釣り上げて

「私『も』、咲夜さんの事、大好きですよ♪」

「っ~」

あ、消えた。
『も』を強調したのはマズかったかしら?


そういえばサンドイッチのお皿、私が持ちっぱなし...。


…。

門番という仕事は、思いのほか暇なものだ。

それでも、私はこの仕事にやりがいを感じている。

「ちょっと美鈴!咲夜に何したのよ!真っ赤になって喋らないじゃないのよ!」
「お姉さま、外に出るなら日傘日傘!」
「えへへ...美鈴...」ポー
「あー、これはダメね。」
「さ、咲夜さんの代わりに私頑張りますっ!」


この館と、この笑顔だけは、守りたいから。
私はいつでも門の前で、見届けています。


「お嬢様、妹様、パチュリー様、こぁちゃん、咲夜さん!」


「みんな、大好きですよ!」



「今の大好き!私に言った!明らかに私に言った!」
「お姉さま、勘違いは良くないわ!今のは私に言ったもの!」
「お嬢様、妹様、わたくしには既成事実という物がありまして」
「無効ね、私達は見ていないわ」
「わ、私だって、美鈴さんの事大好きです!」

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うちの紅魔館での美鈴はお母さんみたいな。

はじめまして。色んな方々の作品を読んで、自分も書いてみたい、そう思って書いた、初めての作品です。
ここまで目を通していただけていたら、感謝。
最近は寒くなってきました、皆様体調の方、気を付けてくださいね。
なつみかん
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いいですね。読んでてほのぼのします
2.こーろぎ削除
最近肌寒いなあと思っていたので読んでとても心温まりました!

3.奇声を発する程度の能力削除
温まる良いお話でした
4.名前が無い程度の能力削除
いんじゃね
5.名前が無い程度の能力削除
こんなお母さん美鈴が大好きです!!!!!