※野球とは関係ありません
「寒い……」
「寒すぎるぜ……」
「寒すぎて死にそうだわ……」
「あまり寒い寒い言わないで……余計に寒くなるわ……」
「というか三点リーダーを多用しないで下さい……記者としてすごい気になるので」
ここは魔法の森の香霖堂。外の世界の物品が売られている珍しいお店。
そんな店にいるのは霖之助、魔理沙、霊夢、紫、文の五人である。
五人は今、店の一角に設置されているストーブの周りで身を寄せ合っていた。
石炭を燃料にして熱を生み出すこの機械は、極寒の店内において唯一の天国である。
なにせ現在の店の気温は-25℃、外に至っては-35℃だ。余裕で幻想郷最低気温更新である。
「なんで急にこんな大寒波が」
「どうやら冬の妖怪が幅を利かせてるらしいぜ」
「あの妖怪……冬が終わったら絶対に退治してやるわ!」
「いつ終わるのよ?」
「まだ霜月ですよ」
冬はまだ始まったばかりである。どんどん寒さは厳しくなっていくだろう。
これが地獄なら、もう四季映姫も怖くない。地獄上等、閻魔夜露死苦!
その時、店内に隙間風が吹き込んできた。夏だったら有難いが、冬では腹立たしいことこの上ない冷風が容赦なく五人の体を打ち付ける。
「さ、寒いー!」
「こら紫! この隙間風お前のせいだろ! 隙間閉じろよ!」
「ち、違うわよ! 見なさいよ私の隙間!」
紫はそう言って隙間を顕現させる。虚空に現れた隙間は、見事に凍り付いていた。隙間って凍るのか。
「……なんだよ、これ」
「以前、隙間に挟まった状態で寝ていたせいだと思うわ」
「お前の涎かよ! 汚えなあ」
「汚くないわよ!」
「自業自得じゃないか」
通りで香霖堂から移動しないわけである。隙間妖怪、隙間を使えにゃ唯の妖怪。
「それよりもこの風よ。これどこから吹いてるの?」
「……あれじゃないか?」
霖之助が指差した先には窓ガラスがあった。ただしそのガラスは無残に割れており、その穴を新聞で塞いでいる。
「私の新聞をあんな使い方しないで下さいよ」
「というかガラスを割ったのは君の新聞だが」
「貴様の仕業かァー!!」
「アンタ、ストーブから一歩後退ね」
「そ、そんなァ」
自ら墓穴を掘った文は強制的にストーブから遠ざけられる。
ただの一歩と思うなかれ。この極寒の世界、一歩の差が命運を分ける。
「さささ、さ、さ……寒、い……」
人が倒れる音が店内に響いた。しかし誰も音の方には顔を向けない。倒れた者は置いていく、それが幻想郷なのだ。
『射命丸文、DOWN』
あれから一刻、暖房スペースが増えた四人は幾分かマシになっていた。それでも寒いことに変わりはないが。
窓の外は猛吹雪、室内気温も遂に-30℃に達しようとしている。
そんな中、一人の命知らずが阿呆なことを言い出した。
「ね、ねえ。こんな寒い時に取って置きの暖房方法があるの、知ってる?」
歯をガチガチさせながら紫が言う。その顔は寒さで青白みながらもほんのりと赤みが差している。
普段は紫の言うことなど全く聞かない三人だったが、この時ばかりは耳を傾けた。
「こ、こういう時はねぇ……ひ、人肌で、暖めあうのが、て、鉄則なのよ!」
寒さとは違う、何か他の震えの混じった声で紫は言い放った。その視線は一人の青年に向けられている。
その艶っぽさが混じった不純な視線に対する青年の反応は!?
「……寒い」
淡白だった。スナック菓子を食べ終わった後、袋に残る食いカスよりも淡白だった。
しかしこんな場面で一生に関わる大事な告白をする紫にも問題はある。百年の恋も冷めるわ。実際寒いし。
一陣の風が一同の間をすり抜けた。
「はい、紫一歩後退」
「い、いやぁ~! やめて~!!」
霊夢は容赦なく紫を輪の外に押し出す。元々寒さに弱い紫がストーブから離れて耐え切れるわけもない。
最初から香霖堂に来なければよかったのに。愛は盲目と言うわけか。
『八雲紫、DOWN』
外が吹雪いて、気温が氷点下を下回ってからどれ位の時間が流れたのだろう。
太陽も隠された外の様子で時間は確認できない。店に置いてある時計も針が凍結してしまい動かなくなっていた。
いい加減、寒さも弱まって欲しいのだが一向に吹雪が止む気配はなかった。冬の妖怪自重しろ。
体力温存のためか誰も喋ろうとしない。静かに時は歩んでいく。
「……」
「ハッ! 寝るな霊夢! 寝たら死ぬぞ!」
余りの寒さ、そして会話の少なさに限界を迎えた霊夢が船を漕ぎ出した。
この寒さでは冗談抜きで寝たら死んでしまう。そう確信した魔理沙は霊夢の頬を叩いた。
パシーン!
霊夢は目を覚まさない。魔理沙はまた叩いた。
パシーン!
覚まさない。また叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
「う……」
叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
「止めろよ!」
誰も突っ込まない状況に魔理沙本人が突っ込んだ。
「香霖! 何か突っ込んでくれよ! 私一人で馬鹿みたいじゃないか!」
「そのためだけに殴られた霊夢がとてもかわいそうだ」
散々頬を叩かれた霊夢の顔は異常なまでに膨らんでいた。おたふく風邪になったってここまでは膨らまない。
霊夢の顔面をもっと詳しく描写してもよいのだが、正直主人公の威厳に関わると思われるので割愛させていただく。
どう考えてもモザイクが必要である。
「スマン、霊夢! お前を助けることが出来なかった!」
「とどめを刺したのは君だけどね。途中で意識回復していたし」
「私はお前の分も必死に生きていくぜ!」
散々待っていた突っ込みを魔理沙は華麗にスルーした。
人間という生き物は、自分に都合の悪い台詞は聞こえないように出来ているのである。
『博麗霊夢、DOWN』
最早店内は地獄と化していた。窓は全て破られ吹雪が舞い込んできている。
ストーブも意味をほとんどなさない。それでもストーブの暖かさが唯一の生命線となっていた。
魔理沙は頭に雪を積もらせながらガチガチと歯を鳴らしている。霖之助の鼻から垂れた鼻水は当然ながら凍っていた。
他の三人の姿は見えない。雪に埋もれてしまったのだろう。
しかし消えていった奴等のことを気にしている余裕など今の二人にはない。
ストーブ前では壮絶な陣取り合戦が繰り広げられていた。
「魔理沙、君は少し幅を取りすぎじゃないのか?」
「私が太ってるとでも言いたいのか? 香霖こそ、レディファーストってーのを尊重して少し下がれよ」
「ははは。どこにレディがいるって言うんだい?」
最初は地味だった合戦も、時が経ち余裕がなくなってくるにつれ、殺伐とした空気が流れ始めた。
そしてそれは遂に爆発した。
「えぇい! こんなチマチマやってられるか! 香霖、お前は倒れとけ! 私は生きる!」
「遂に本性を現したな、魔理沙! だが僕も負けるわけにはいかない!」
しゃがみ込みながら二人は四つに組む。しかし霖之助と魔理沙では体格が圧倒的に違っていた。
いかに弾幕ごっこに強い魔理沙であろうと、体格の差が如実にでる組み合いで男に勝てるわけがない。
腋の下を掴まれ、いとも簡単に持ち上げられてしまった。魔理沙は腕と足をむやみやたらに振り回す。
「は、放せよ!」
「ふっふっふ。悪いが魔理沙、この店のものは全部僕のものなんだ」
魔理沙を持ち上げた霖之助はそのまま魔理沙をストーブから遠い場所に降ろそうとする。
それに気付いた魔理沙はどうにか霖之助の腕から逃れようと、更に体をジタバタさせた。
すると前後に動いていた魔理沙の左足が、霖之助の腹に突き刺さった。
その一撃はあまりにも軽いものだった。ほとんど痛みもなく、霖之助は数歩後ろに下がっただけである。
しかし、この世界ではその数歩が明暗を分けるのだ。
「ば、馬鹿な……」
ストーブから離れてしまった霖之助の体は、一瞬で冷気の渦に巻き込まれる。
両腕からも力がなくなり、魔理沙はスルリと掴まれていた腕から抜け出した。そして霖之助を見上げる。
「悪いな、香霖。私の勝ちだぜ」
「ふふ……ふ。これも、運……命……か」
霖之助はそこまで言って動かなくなった。魔理沙は何か思うところがあるのか、帽子の鍔を下げ目を伏せる。
しかし、いつまでも立ち止まってはいられない。倒れた者達のために、魔理沙は前を見続けなければならないのだ。
顔を上げ、全てを振りきって、勝者の副賞であるストーブに向き直った。
プスン……。
ストーブの燃料が切れた。
その後、冬が明けるまで五人の姿を見たものは誰もいなかった。
「寒い……」
「寒すぎるぜ……」
「寒すぎて死にそうだわ……」
「あまり寒い寒い言わないで……余計に寒くなるわ……」
「というか三点リーダーを多用しないで下さい……記者としてすごい気になるので」
ここは魔法の森の香霖堂。外の世界の物品が売られている珍しいお店。
そんな店にいるのは霖之助、魔理沙、霊夢、紫、文の五人である。
五人は今、店の一角に設置されているストーブの周りで身を寄せ合っていた。
石炭を燃料にして熱を生み出すこの機械は、極寒の店内において唯一の天国である。
なにせ現在の店の気温は-25℃、外に至っては-35℃だ。余裕で幻想郷最低気温更新である。
「なんで急にこんな大寒波が」
「どうやら冬の妖怪が幅を利かせてるらしいぜ」
「あの妖怪……冬が終わったら絶対に退治してやるわ!」
「いつ終わるのよ?」
「まだ霜月ですよ」
冬はまだ始まったばかりである。どんどん寒さは厳しくなっていくだろう。
これが地獄なら、もう四季映姫も怖くない。地獄上等、閻魔夜露死苦!
その時、店内に隙間風が吹き込んできた。夏だったら有難いが、冬では腹立たしいことこの上ない冷風が容赦なく五人の体を打ち付ける。
「さ、寒いー!」
「こら紫! この隙間風お前のせいだろ! 隙間閉じろよ!」
「ち、違うわよ! 見なさいよ私の隙間!」
紫はそう言って隙間を顕現させる。虚空に現れた隙間は、見事に凍り付いていた。隙間って凍るのか。
「……なんだよ、これ」
「以前、隙間に挟まった状態で寝ていたせいだと思うわ」
「お前の涎かよ! 汚えなあ」
「汚くないわよ!」
「自業自得じゃないか」
通りで香霖堂から移動しないわけである。隙間妖怪、隙間を使えにゃ唯の妖怪。
「それよりもこの風よ。これどこから吹いてるの?」
「……あれじゃないか?」
霖之助が指差した先には窓ガラスがあった。ただしそのガラスは無残に割れており、その穴を新聞で塞いでいる。
「私の新聞をあんな使い方しないで下さいよ」
「というかガラスを割ったのは君の新聞だが」
「貴様の仕業かァー!!」
「アンタ、ストーブから一歩後退ね」
「そ、そんなァ」
自ら墓穴を掘った文は強制的にストーブから遠ざけられる。
ただの一歩と思うなかれ。この極寒の世界、一歩の差が命運を分ける。
「さささ、さ、さ……寒、い……」
人が倒れる音が店内に響いた。しかし誰も音の方には顔を向けない。倒れた者は置いていく、それが幻想郷なのだ。
『射命丸文、DOWN』
あれから一刻、暖房スペースが増えた四人は幾分かマシになっていた。それでも寒いことに変わりはないが。
窓の外は猛吹雪、室内気温も遂に-30℃に達しようとしている。
そんな中、一人の命知らずが阿呆なことを言い出した。
「ね、ねえ。こんな寒い時に取って置きの暖房方法があるの、知ってる?」
歯をガチガチさせながら紫が言う。その顔は寒さで青白みながらもほんのりと赤みが差している。
普段は紫の言うことなど全く聞かない三人だったが、この時ばかりは耳を傾けた。
「こ、こういう時はねぇ……ひ、人肌で、暖めあうのが、て、鉄則なのよ!」
寒さとは違う、何か他の震えの混じった声で紫は言い放った。その視線は一人の青年に向けられている。
その艶っぽさが混じった不純な視線に対する青年の反応は!?
「……寒い」
淡白だった。スナック菓子を食べ終わった後、袋に残る食いカスよりも淡白だった。
しかしこんな場面で一生に関わる大事な告白をする紫にも問題はある。百年の恋も冷めるわ。実際寒いし。
一陣の風が一同の間をすり抜けた。
「はい、紫一歩後退」
「い、いやぁ~! やめて~!!」
霊夢は容赦なく紫を輪の外に押し出す。元々寒さに弱い紫がストーブから離れて耐え切れるわけもない。
最初から香霖堂に来なければよかったのに。愛は盲目と言うわけか。
『八雲紫、DOWN』
外が吹雪いて、気温が氷点下を下回ってからどれ位の時間が流れたのだろう。
太陽も隠された外の様子で時間は確認できない。店に置いてある時計も針が凍結してしまい動かなくなっていた。
いい加減、寒さも弱まって欲しいのだが一向に吹雪が止む気配はなかった。冬の妖怪自重しろ。
体力温存のためか誰も喋ろうとしない。静かに時は歩んでいく。
「……」
「ハッ! 寝るな霊夢! 寝たら死ぬぞ!」
余りの寒さ、そして会話の少なさに限界を迎えた霊夢が船を漕ぎ出した。
この寒さでは冗談抜きで寝たら死んでしまう。そう確信した魔理沙は霊夢の頬を叩いた。
パシーン!
霊夢は目を覚まさない。魔理沙はまた叩いた。
パシーン!
覚まさない。また叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
「う……」
叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
叩いた。
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
パシーン!
「止めろよ!」
誰も突っ込まない状況に魔理沙本人が突っ込んだ。
「香霖! 何か突っ込んでくれよ! 私一人で馬鹿みたいじゃないか!」
「そのためだけに殴られた霊夢がとてもかわいそうだ」
散々頬を叩かれた霊夢の顔は異常なまでに膨らんでいた。おたふく風邪になったってここまでは膨らまない。
霊夢の顔面をもっと詳しく描写してもよいのだが、正直主人公の威厳に関わると思われるので割愛させていただく。
どう考えてもモザイクが必要である。
「スマン、霊夢! お前を助けることが出来なかった!」
「とどめを刺したのは君だけどね。途中で意識回復していたし」
「私はお前の分も必死に生きていくぜ!」
散々待っていた突っ込みを魔理沙は華麗にスルーした。
人間という生き物は、自分に都合の悪い台詞は聞こえないように出来ているのである。
『博麗霊夢、DOWN』
最早店内は地獄と化していた。窓は全て破られ吹雪が舞い込んできている。
ストーブも意味をほとんどなさない。それでもストーブの暖かさが唯一の生命線となっていた。
魔理沙は頭に雪を積もらせながらガチガチと歯を鳴らしている。霖之助の鼻から垂れた鼻水は当然ながら凍っていた。
他の三人の姿は見えない。雪に埋もれてしまったのだろう。
しかし消えていった奴等のことを気にしている余裕など今の二人にはない。
ストーブ前では壮絶な陣取り合戦が繰り広げられていた。
「魔理沙、君は少し幅を取りすぎじゃないのか?」
「私が太ってるとでも言いたいのか? 香霖こそ、レディファーストってーのを尊重して少し下がれよ」
「ははは。どこにレディがいるって言うんだい?」
最初は地味だった合戦も、時が経ち余裕がなくなってくるにつれ、殺伐とした空気が流れ始めた。
そしてそれは遂に爆発した。
「えぇい! こんなチマチマやってられるか! 香霖、お前は倒れとけ! 私は生きる!」
「遂に本性を現したな、魔理沙! だが僕も負けるわけにはいかない!」
しゃがみ込みながら二人は四つに組む。しかし霖之助と魔理沙では体格が圧倒的に違っていた。
いかに弾幕ごっこに強い魔理沙であろうと、体格の差が如実にでる組み合いで男に勝てるわけがない。
腋の下を掴まれ、いとも簡単に持ち上げられてしまった。魔理沙は腕と足をむやみやたらに振り回す。
「は、放せよ!」
「ふっふっふ。悪いが魔理沙、この店のものは全部僕のものなんだ」
魔理沙を持ち上げた霖之助はそのまま魔理沙をストーブから遠い場所に降ろそうとする。
それに気付いた魔理沙はどうにか霖之助の腕から逃れようと、更に体をジタバタさせた。
すると前後に動いていた魔理沙の左足が、霖之助の腹に突き刺さった。
その一撃はあまりにも軽いものだった。ほとんど痛みもなく、霖之助は数歩後ろに下がっただけである。
しかし、この世界ではその数歩が明暗を分けるのだ。
「ば、馬鹿な……」
ストーブから離れてしまった霖之助の体は、一瞬で冷気の渦に巻き込まれる。
両腕からも力がなくなり、魔理沙はスルリと掴まれていた腕から抜け出した。そして霖之助を見上げる。
「悪いな、香霖。私の勝ちだぜ」
「ふふ……ふ。これも、運……命……か」
霖之助はそこまで言って動かなくなった。魔理沙は何か思うところがあるのか、帽子の鍔を下げ目を伏せる。
しかし、いつまでも立ち止まってはいられない。倒れた者達のために、魔理沙は前を見続けなければならないのだ。
顔を上げ、全てを振りきって、勝者の副賞であるストーブに向き直った。
プスン……。
ストーブの燃料が切れた。
その後、冬が明けるまで五人の姿を見たものは誰もいなかった。
「どこにレティがいるって言うんだい?」
こう読んでしまった私に春は訪れないだろう
ってか香霖堂でてどこか暖を取れる場所に行けばよかったのに
紫様・・・(涙
>>『極寒戦隊サムインジャー』
この5人が組めば「最強」だね!!
この状況でそんなことを言う紫を勇者と讃えたい。
魔理沙の八卦炉と、風を操る天狗、上手く使えればなんとかなったかもなー。