エイプリルフール。それは、嘘をついていい特別な日。
「あ゛ーー。暇だなぁ」
永遠亭の長い回廊で因幡てゐはひとり、大きなため息を吐きながら当ても無く歩いていた。いつもなら外出しては、いつものメンバー(橙、チルノ、ルーミア、リグル、その他)で遊んでいたり、鈴仙にいたずらをしたりして、毎日を過ごしているのだが今回は珍しく永遠亭の中に居た。というのも今日はあいにくの雨で、外に行こうにも行けない状況でだった。だからこうして広い回廊でペタペタと歩き回っているのである。
「鈴仙にいたずらしよっかなぁ?」
てゐは永琳の部屋へぴょこぴょこと軽い足取りで入っていった。なぜなら、鈴仙はいつも新薬の実験台にされているからである。
* * *
「おやぁ?今日は鈴仙不在?」
何を企んでいるか、入り口から顔だけひょっこり覗かせニヤニヤ笑いながら奥で新薬開発用の薬品を扱っている八意永琳に話しかけた。いつもならすぐ近くに泣きっ面の鈴仙がいたはずだった。
「あら、てゐ」
永琳は試験管を手に持ちながら振り向く。
「今日は鈴仙はお使いを頼んだわ」
「なんの?」
「えーっと……。確か、蛇の抜け殻、ザリガニ、トリカブト、彼岸花。その他諸々の足りない材料の調達に頼んだわ」
「うわぁ…………。こんな雨の日によく頑張るねぇ」
「まぁ、ウドンゲにとっては私の実験台にさせられるよりは、冷たい雨に打たれながらも材料を調達しに行くほうがよっぽどマシじゃないかしら?」
意外と鈴仙の気持ちを分かってるね。でも分かってるならやめたほうがいいよ。反抗期ってやつが、鈴仙の中にもあると思うから。てゐは永琳に対して心の中で警告した。
「いつごろ帰ってくるの?」
「うーんと……、材料の量と種類にもよるからねぇ。多分、夕方ぐらいだと思うわ」
「遅いね」
「まぁ、ウドンゲならきっと夕方になるちょっと前には帰ってくると思うけどね」
「だといいね」
てゐはさっさと部屋から出て行った。永琳はパチンと指を鳴らすと、黒い影が永琳の横を過ぎ、てゐの行った方向へ飛んでいった。
* * *
てゐは縁側でちょこんと座っていた。いつもは竹林ばかりで妙に寂しい感じがするのだが、雨に濡れて雫を垂らす竹林を見ているうちに、何故か引き込まれる感じがてゐは感じていた。風流だと思ったのかもしれない。てゐは、ぼーっと縁側に座りながら雨に打たれる竹を何も考えずにただ見つめていた。ふと、てゐは鈴仙のことが頭に浮かんだ。今頃鈴仙はこの竹みたいに雨に打たれるんだろうなぁ。鈴仙は頑張るなぁ、あたしだったらそんなの嘘ついて仕事すっぽかすだろうなぁ。そういえば永琳はあたしにあんまり頼み事なんてしないよねぇ。鈴仙だけだし……。あたしって嘘ばっかついてるから信用されてないかも……。
てゐはコテンと横になった。
「鈴仙はあたしと違って真面目だからなぁ。嘘なんて殆どつかないし……」
雨の音だけがあたりの空気に響いている。
「……」
雨が屋根を打つ音がてゐの耳、身体、胸に突き刺さるように響く。その後ろで先ほどの黒い影が何かをてゐの方向へ構えていた。今だ!黒い影がその瞬間を狙った。が、それとほぼ同時にてゐは立ち上がり、
「もー!ウルサイよ!!バカー!!」
カシャ!
「へ?」
カメラのシャッターが閉じる音が奥でした。気がつけば障子には人差し指ほどの小さな穴が開いてた。始めは誰だかわからなかったが、カメラのシャッター音でてゐは誰だかすぐに分かった。
「あの鴉天狗……」
* * *
「あやややや……」
「あら、射命丸。ご苦労様。撮れた?てゐの様子」
「うーんと……。始めのほうは縁側でちょこんと座っていて、そこから寝転がったのですよ。おお!これは!!っと思った瞬間にカメラを撮ったら同時にてゐさんも起き上がったのですよ……。いやー油断もスキもありませんよ」
「それより、証拠は隠滅しておいた?」
「証拠?永琳、それって何のこと?」
「「はっ」」
二人は一瞬で青ざめる。振り向けば、餅つき用の杵を両手で構えたてゐがいた。
「永琳。嘘言っちゃだめだよ?」
「嘘?さ、さぁ。何のことかしら。私は嘘なんてついていないけど。ね、ねぇ射命丸さん?」
「へ?あ、ああ!そそそうです。そうですよ!!」
「へぇーえ。じゃあこれでも嘘だと?」
てゐが指をパチンと鳴らすと、二人は唖然とした。そこにはお使いのため、雨の中外出していったはずの鈴仙が居た。鈴仙は何のことか理解できておらず、目を点にして頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「ねぇ。これでも嘘だって言える?永琳?」
「え、えーっと。ほ、ほら!てゐは知らないと思うけど、きょ、今日はエイプリルフールっていう日でさぁ…。うう嘘をついてもいい日なんだよ?」
「そう。でも、なんで射命丸までここにいるんだろうねぇ?」
「そ、それはぁ……」
「永琳?」
永琳はうつむいてしばらく黙り込んだ。そして、決心したか、よし!と小さく呟くと、顔を上げ、
「射命丸のネタの提供のために、騙されてるてゐの姿を撮ってもらうことにさせてあげたの!」
「ちょっ!え、永琳さん!!それだけは言わないでくださいって言ったじゃないですか!!約束違うですよ!!」
「約束違う!?いいえ、これはもうウドンゲが見つかった時点でもう約束も何も無いのよ!いまさら約束言ったって意味無いでしょ!!」
「で、でもそんなこと言われたら私……」
「ふーん……」
てゐは杵をぎゅっと握りしめながら低い声で言う。
「あっ!ウドンゲ!用事思い出したんだ!ちょっと一緒に来てくれる!?」
「へ?用事ですか?」
「いいから一緒に来て!!そう言うことで、てゐ、射命丸!ちょっと私失礼するわ!じゃあ!!」
永琳は鈴仙を抱えながら逃げるようにその場を走っていった。
「ちょ、ちょっと永琳さーん!!私を置いていかないでくださーーー……」
ガシッ!羽根を思いっきりつかまれた。し、しまった!!逃げる手段をなくした射命丸はじたばたもがいた。だが、それも悪あがき。そのあとてゐによってフルボッコされた。
エイプリルフール。それは嘘をついていい特別な日。
だが、てゐには嘘をついてはいけないような日だった気がする。
むしろ、嘘より、いたずらのほうがしてはいけないような気がするが……。
てゐは嘘はつくけど嘘をつかれるのは嫌いなようだった……。
「あ゛ーー。暇だなぁ」
永遠亭の長い回廊で因幡てゐはひとり、大きなため息を吐きながら当ても無く歩いていた。いつもなら外出しては、いつものメンバー(橙、チルノ、ルーミア、リグル、その他)で遊んでいたり、鈴仙にいたずらをしたりして、毎日を過ごしているのだが今回は珍しく永遠亭の中に居た。というのも今日はあいにくの雨で、外に行こうにも行けない状況でだった。だからこうして広い回廊でペタペタと歩き回っているのである。
「鈴仙にいたずらしよっかなぁ?」
てゐは永琳の部屋へぴょこぴょこと軽い足取りで入っていった。なぜなら、鈴仙はいつも新薬の実験台にされているからである。
* * *
「おやぁ?今日は鈴仙不在?」
何を企んでいるか、入り口から顔だけひょっこり覗かせニヤニヤ笑いながら奥で新薬開発用の薬品を扱っている八意永琳に話しかけた。いつもならすぐ近くに泣きっ面の鈴仙がいたはずだった。
「あら、てゐ」
永琳は試験管を手に持ちながら振り向く。
「今日は鈴仙はお使いを頼んだわ」
「なんの?」
「えーっと……。確か、蛇の抜け殻、ザリガニ、トリカブト、彼岸花。その他諸々の足りない材料の調達に頼んだわ」
「うわぁ…………。こんな雨の日によく頑張るねぇ」
「まぁ、ウドンゲにとっては私の実験台にさせられるよりは、冷たい雨に打たれながらも材料を調達しに行くほうがよっぽどマシじゃないかしら?」
意外と鈴仙の気持ちを分かってるね。でも分かってるならやめたほうがいいよ。反抗期ってやつが、鈴仙の中にもあると思うから。てゐは永琳に対して心の中で警告した。
「いつごろ帰ってくるの?」
「うーんと……、材料の量と種類にもよるからねぇ。多分、夕方ぐらいだと思うわ」
「遅いね」
「まぁ、ウドンゲならきっと夕方になるちょっと前には帰ってくると思うけどね」
「だといいね」
てゐはさっさと部屋から出て行った。永琳はパチンと指を鳴らすと、黒い影が永琳の横を過ぎ、てゐの行った方向へ飛んでいった。
* * *
てゐは縁側でちょこんと座っていた。いつもは竹林ばかりで妙に寂しい感じがするのだが、雨に濡れて雫を垂らす竹林を見ているうちに、何故か引き込まれる感じがてゐは感じていた。風流だと思ったのかもしれない。てゐは、ぼーっと縁側に座りながら雨に打たれる竹を何も考えずにただ見つめていた。ふと、てゐは鈴仙のことが頭に浮かんだ。今頃鈴仙はこの竹みたいに雨に打たれるんだろうなぁ。鈴仙は頑張るなぁ、あたしだったらそんなの嘘ついて仕事すっぽかすだろうなぁ。そういえば永琳はあたしにあんまり頼み事なんてしないよねぇ。鈴仙だけだし……。あたしって嘘ばっかついてるから信用されてないかも……。
てゐはコテンと横になった。
「鈴仙はあたしと違って真面目だからなぁ。嘘なんて殆どつかないし……」
雨の音だけがあたりの空気に響いている。
「……」
雨が屋根を打つ音がてゐの耳、身体、胸に突き刺さるように響く。その後ろで先ほどの黒い影が何かをてゐの方向へ構えていた。今だ!黒い影がその瞬間を狙った。が、それとほぼ同時にてゐは立ち上がり、
「もー!ウルサイよ!!バカー!!」
カシャ!
「へ?」
カメラのシャッターが閉じる音が奥でした。気がつけば障子には人差し指ほどの小さな穴が開いてた。始めは誰だかわからなかったが、カメラのシャッター音でてゐは誰だかすぐに分かった。
「あの鴉天狗……」
* * *
「あやややや……」
「あら、射命丸。ご苦労様。撮れた?てゐの様子」
「うーんと……。始めのほうは縁側でちょこんと座っていて、そこから寝転がったのですよ。おお!これは!!っと思った瞬間にカメラを撮ったら同時にてゐさんも起き上がったのですよ……。いやー油断もスキもありませんよ」
「それより、証拠は隠滅しておいた?」
「証拠?永琳、それって何のこと?」
「「はっ」」
二人は一瞬で青ざめる。振り向けば、餅つき用の杵を両手で構えたてゐがいた。
「永琳。嘘言っちゃだめだよ?」
「嘘?さ、さぁ。何のことかしら。私は嘘なんてついていないけど。ね、ねぇ射命丸さん?」
「へ?あ、ああ!そそそうです。そうですよ!!」
「へぇーえ。じゃあこれでも嘘だと?」
てゐが指をパチンと鳴らすと、二人は唖然とした。そこにはお使いのため、雨の中外出していったはずの鈴仙が居た。鈴仙は何のことか理解できておらず、目を点にして頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「ねぇ。これでも嘘だって言える?永琳?」
「え、えーっと。ほ、ほら!てゐは知らないと思うけど、きょ、今日はエイプリルフールっていう日でさぁ…。うう嘘をついてもいい日なんだよ?」
「そう。でも、なんで射命丸までここにいるんだろうねぇ?」
「そ、それはぁ……」
「永琳?」
永琳はうつむいてしばらく黙り込んだ。そして、決心したか、よし!と小さく呟くと、顔を上げ、
「射命丸のネタの提供のために、騙されてるてゐの姿を撮ってもらうことにさせてあげたの!」
「ちょっ!え、永琳さん!!それだけは言わないでくださいって言ったじゃないですか!!約束違うですよ!!」
「約束違う!?いいえ、これはもうウドンゲが見つかった時点でもう約束も何も無いのよ!いまさら約束言ったって意味無いでしょ!!」
「で、でもそんなこと言われたら私……」
「ふーん……」
てゐは杵をぎゅっと握りしめながら低い声で言う。
「あっ!ウドンゲ!用事思い出したんだ!ちょっと一緒に来てくれる!?」
「へ?用事ですか?」
「いいから一緒に来て!!そう言うことで、てゐ、射命丸!ちょっと私失礼するわ!じゃあ!!」
永琳は鈴仙を抱えながら逃げるようにその場を走っていった。
「ちょ、ちょっと永琳さーん!!私を置いていかないでくださーーー……」
ガシッ!羽根を思いっきりつかまれた。し、しまった!!逃げる手段をなくした射命丸はじたばたもがいた。だが、それも悪あがき。そのあとてゐによってフルボッコされた。
エイプリルフール。それは嘘をついていい特別な日。
だが、てゐには嘘をついてはいけないような日だった気がする。
むしろ、嘘より、いたずらのほうがしてはいけないような気がするが……。
てゐは嘘はつくけど嘘をつかれるのは嫌いなようだった……。
下(上?)のお二人が仰るとおり、てゐがかわいかったです、エイプリルフールの日の一コマ、と言った感じの、いい話でした。。