幻想郷に移ったことにより、私こと洩矢諏訪子を含め、守矢神社の信仰は右肩上がりに増えていった。
まあ信仰があろうがなかろうが構わないのだけれど、やはりあるほうが良いだろう。
そして巫女である早苗も信仰不足に悩むこともなくなり、幻想郷ライフを伸び伸びと過ごすようになった。
一日一日の全てが滞ることなく、すべらかに進む毎日。
私は今、非常に満足している……が。
「諏訪子さま、ちょっと博麗神社へ宴会に出かけてきますね」
「う、うん」
……ああ、また出かけるのか。
「えと、こっちではお酒は未成年規制がないから、早苗も飲んでいるんだよね?」
「ええ、意外と悪くないといいますか、なんだか気持よくなれます」
「そっか……私も神奈子以外に飲み仲間が増えて嬉しい、かな」
連日の酒盛りに、早苗はよく顔を出しに行っている。
初めのほうは、参加者からの信仰獲得のためだけに参加していたが、今では純粋に宴会を楽しんでいるようだ。
それはとても喜ばしいこと。
以前まであちらの世界で、神である私達のために苦労して日々奔走してくれた早苗が、ここまで日常を楽しんでくれるようになったのだ。
それこそ飛び跳ねたくなるほど嬉しい。
けれど、けれども……。
「それじゃ行ってきます」
「あ……」
早苗は意気揚揚とした様子で、玄関から外へ闊歩していった。
が、すぐ足を止めたかと思うと、若干肩を落とした感じで
「今日も諏訪子さまたち、家事をやってくれませんでしたね……」
と、振り向かずに、しかし私には聞こえるように呟いた。
どういう意味だろうか。
いきなり家事がどうこうって……と疑問に思って首を傾げていたら早苗はもう消えていた。
絶望感に近い感情が胸に湧き上がってくる。
ふと、肩に柔らかな感触を感じた。
振り返ると、そこには手をのせた神奈子がいて
「……」
無言で、ゆっくりと首を振っていた。
あきらめろ、とその顔は語っていて、心なしか多少青白くもなっているように見えた。
今夜は嵐、か……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
時計の針は左上を指している。午後9時ちょうど。
そろそろ宴もたけなわということで、早苗が帰宅してくるであろう時刻。
それに伴い、居間の空気もどんより曇り空といった具合に暗くなってきた。
「か、神奈子。ほら、せっかく人里から立派な大吟醸をいただいたんだから、もっと飲もうよ」
「うん……」
ガラガラッ!!
唐突にやかましい音が鳴り響いた。音源は玄関のほうからである。
今のは扉を開いた音だろう。
つまり
「早苗が帰って来た……」
私が行く、と神奈子に手でジェスチャーをしてその玄関へと向かう。
居間から廊下へ出て、右に曲がればすぐに玄関に到着した。
おぼろげな明かりが漂う暗い玄関には、真っ赤に染まった早苗の顔が浮かんでいた。
「お、おかえりなさい」
「……ずだ」
「え、えっ? よく聞こえなかっ――」
瞬間、早苗の顔が膨張したかのような幻覚が見えて
「水だって言ってんだろうハゲぇ!!」
「ひぃ!(わ、私はハゲじゃないよ)」
幻想郷に来て後悔したこと。
それは……はいはい早苗にお酒を飲ましたことです。酒癖悪すぎ笑えるで、マジ。
でも実際問題、早苗が怖すぎて笑える要素なんて一つもありもしないので、全速で台所へ水を用意しに向かった。
コップに水を注ぎまして、居間へ戻るとさあ大変。早苗がカツアゲしています。
「おい神奈子、その酒うまそうだな……よこせよっ」
「で、でもこれは私にと、村の人たちがくれたもので……」
「うるせえババァ!! 早くよこさねぇなら奇跡の力で顔面皺だらけに――」
「ごめん! ごめん!」
神奈子が、両手で持っていた酒瓶を早苗におずおずと差し出すと、早苗は無機質な目をしてそれを素早く奪い取った。
そして私が先ほど飲んでいたコップを勝手に手にとって、なみなみとお酒を注ぎ、飲み始めた。
きゃー間接キス恥ずかしいっ、なんて言ったりする心の余裕は、今の私にはない。
それで結局、水を用意した意味はなかった。なんなんだよう。
静かになった早苗を尻目に、神奈子がこそこそと近づいてきた。
「今日も早苗ひどいわねっ。まったくもう、自分の神をなんだと思っているのかしら」
「酒に酔うと、ふだんからの欲求不満が爆発するらしいよ」
「つまり私達に……」
「…………うん」
そう、だ。
あの子が宴会に出かけようとした時、漏らした台詞。
『今日も諏訪子さまたち、家事をやってくれませんでしたね……』
早苗とお昼時に話していた時、あの笑顔の裏であの子は何を思っていたのだろうか。
私達は早苗を無碍(むげ)に扱いすぎてしまっていたのかもしれない。
掃除洗濯炊き出しと、家事すべてを無造作に、無意識に押し付けていた。
せこせこと動き回る早苗が見た、私達の寝転がる姿はあの子にどう映っただろうか。
少しは変わってみよう。そう思った。
「おい」
とたん、早苗から声がかかった。
なんだかニヤついているその様子は、多少とはいえ不可解であった。
「なに、かな?」
「本殿の掃除忘れてた。お前らやってこい」
うぇーめんどくせー。
……あ、いやしっかり家事をやろうと決意したのは本当だけれど、ほら、明日から頑張ろうってことでね。
だから今日からやろうと思えなくてね、つまりね、面倒くさい。今日はパス!
「今日はパス!」
「は?」
「ごめん」
さぼりたい。
私がムンクの叫びのような顔を作っていると、あら名案がぽっと浮かびましたとさ。
ちょっとプライド的というか、神の威信に傷つくけど、致し方ない。
チラ、と隣の神奈子を横目で流す。
……ごめんねっ。
「早苗っ」
駆けだす。早苗に向かって一直線に。
抱きつく。最愛のいとし子を抱きしめるように。
あ、ちなみにポイントはがむしゃらに抱きつく子供のように振舞うこと。ここ重要。
「私、早苗のこと、大好き……だから」
顔をあげ、上目づかいにして、振り絞ったようにして言った。
「掃除は神奈子に任せちゃっていい? あとついでに今後も家事やらなくていい? 全部あいつに任しちゃっていい?」
「いいよ」
恨めしげな視線がトゲのように肌を刺したが、気にはしない。
しばらくしてそれも去っていき、残ったのは私たちのみ。
へへへ、ラッキー。神奈子、悪いな!
「代わりに」
「へ?」
早苗の真っ赤な頬に、なんだかどす黒さが増した。
瞬間、
「あっ?」
お尻になにかが触れた。なにかっていうか、手だこれは。
早苗を見上げた。笑っている。赤く上気した顔で。
「ヘっ、へへへ……おい諏訪子、いいケツしてんな」
「やっ、あう」
腰がうねってしまう。抗えない感触が襲った。
……ちくしょう! ラリってやがるこいつ!!
これじゃまるでセクハラ、しかも部下が上司にするという真逆の位置関係だ。
さしずめ窓際族の部長を無理に飲みに誘った部下が凶行におよぶといったところか……いや全然関係ない。
おとなしく神奈子と一緒に掃除に行ってれば、なあ。
酔っぱらい少女のもとで、私は深く後悔した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
結局、昨日は早苗が途中で眠りこけたので貞操が喪失する危機からは脱した。
そして家事は素直にやることが大切なのだと、深く理解させてもらった。
「早苗」
夏の陽射しと緩やかな風が流れる外。境内。
掃除をしている早苗に、声をかけた。
「私も、ちゃんと家事をやるよ」
「……ふふ、やぁっと決断してくれましたか。嬉しいです」
やっと決断してくれた、ということは?
そう、やっぱり早苗は不満を持っていたということだ。こりゃ反省しなければ。
早苗が微笑みながら、続けた。
「憂さ晴らし楽しかったですよ」
「へ?」
「だから、憂さ晴らし。まあそれだけが目的ではないですが、酔ったふりして怒鳴りつけるのはなかなか面白いものでした」
一瞬、憂さ晴らしという単語が理解できなかった。
あ、許してくださいね! と手を合わせてめんごめんごしている早苗。
一方で私は呆けて口を開いていることしかできない。あれは演技だったのか。
「たまげた。迫真の演技すぎだよ」
驚きつつも自然と褒めていた。役者になれる。
早苗は満足そうに、照れたようにして下を向いて笑った。
「私が酔った……まあフリですが、その時に決まって掃除をお願いしていたでしょう。それで私の不満に気づいてくれるかと思ったのですが、だいぶ時間がかかりましたね」
思い返してみると、毎回毎回本殿やら台所やらと掃除を命じられていた記憶がある。
なるほど、私達にも同じ辛い思いをさせて、早苗自身の現状を把握させようとしていたのか。
巫女としてはどうなのかと首を傾げる所業だが、まあ私らにも過失があるし、今回は許してあげましょう。
いや、許すというのは、ちと傲慢か。
「悪かったね」
「いいえこちらも。神様に憂さ晴らしなんかしちゃって」
「でも直接伝えてくれたらよかったのに。そっちのほうが絶対にてっとり早いはずよ」
「だいぶ昔、何度もお願いしましたけれど」
「ごめんねっ」
謝ったら、早苗は困ったような笑みを浮かべた。
「恐縮です。でもこちらも気付いてもらえて嬉しかったです」
こちらを見つめる早苗の瞳をさけるように、顔を横をそらした。
……実際、家事をしようと思ったことへの決め手になったものは、あなたのセクハラだったんだけれどね。
しかしここで引っかかるものを感じる。奥歯になにか挟まったような、むず痒い感覚だ。
先日のセクハラ……
「早苗は素面だったってことは――」
多少の恐ろしさを感じながら、訊ねた。
「私のお尻を触った時は?」
「もちろん酔ってませんし、真面目に触らせていただきました。柔らかかったですね。うふふ、ふふ」
「(故意に触っていたのか……!! って、早苗の腕が伸びてきている、伸びてきているぅぅぅぅぅ!!)」
酔っぱらい親父風だった早苗。次はセクハラ巫女として出発を始めた。
まあ信仰があろうがなかろうが構わないのだけれど、やはりあるほうが良いだろう。
そして巫女である早苗も信仰不足に悩むこともなくなり、幻想郷ライフを伸び伸びと過ごすようになった。
一日一日の全てが滞ることなく、すべらかに進む毎日。
私は今、非常に満足している……が。
「諏訪子さま、ちょっと博麗神社へ宴会に出かけてきますね」
「う、うん」
……ああ、また出かけるのか。
「えと、こっちではお酒は未成年規制がないから、早苗も飲んでいるんだよね?」
「ええ、意外と悪くないといいますか、なんだか気持よくなれます」
「そっか……私も神奈子以外に飲み仲間が増えて嬉しい、かな」
連日の酒盛りに、早苗はよく顔を出しに行っている。
初めのほうは、参加者からの信仰獲得のためだけに参加していたが、今では純粋に宴会を楽しんでいるようだ。
それはとても喜ばしいこと。
以前まであちらの世界で、神である私達のために苦労して日々奔走してくれた早苗が、ここまで日常を楽しんでくれるようになったのだ。
それこそ飛び跳ねたくなるほど嬉しい。
けれど、けれども……。
「それじゃ行ってきます」
「あ……」
早苗は意気揚揚とした様子で、玄関から外へ闊歩していった。
が、すぐ足を止めたかと思うと、若干肩を落とした感じで
「今日も諏訪子さまたち、家事をやってくれませんでしたね……」
と、振り向かずに、しかし私には聞こえるように呟いた。
どういう意味だろうか。
いきなり家事がどうこうって……と疑問に思って首を傾げていたら早苗はもう消えていた。
絶望感に近い感情が胸に湧き上がってくる。
ふと、肩に柔らかな感触を感じた。
振り返ると、そこには手をのせた神奈子がいて
「……」
無言で、ゆっくりと首を振っていた。
あきらめろ、とその顔は語っていて、心なしか多少青白くもなっているように見えた。
今夜は嵐、か……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
時計の針は左上を指している。午後9時ちょうど。
そろそろ宴もたけなわということで、早苗が帰宅してくるであろう時刻。
それに伴い、居間の空気もどんより曇り空といった具合に暗くなってきた。
「か、神奈子。ほら、せっかく人里から立派な大吟醸をいただいたんだから、もっと飲もうよ」
「うん……」
ガラガラッ!!
唐突にやかましい音が鳴り響いた。音源は玄関のほうからである。
今のは扉を開いた音だろう。
つまり
「早苗が帰って来た……」
私が行く、と神奈子に手でジェスチャーをしてその玄関へと向かう。
居間から廊下へ出て、右に曲がればすぐに玄関に到着した。
おぼろげな明かりが漂う暗い玄関には、真っ赤に染まった早苗の顔が浮かんでいた。
「お、おかえりなさい」
「……ずだ」
「え、えっ? よく聞こえなかっ――」
瞬間、早苗の顔が膨張したかのような幻覚が見えて
「水だって言ってんだろうハゲぇ!!」
「ひぃ!(わ、私はハゲじゃないよ)」
幻想郷に来て後悔したこと。
それは……はいはい早苗にお酒を飲ましたことです。酒癖悪すぎ笑えるで、マジ。
でも実際問題、早苗が怖すぎて笑える要素なんて一つもありもしないので、全速で台所へ水を用意しに向かった。
コップに水を注ぎまして、居間へ戻るとさあ大変。早苗がカツアゲしています。
「おい神奈子、その酒うまそうだな……よこせよっ」
「で、でもこれは私にと、村の人たちがくれたもので……」
「うるせえババァ!! 早くよこさねぇなら奇跡の力で顔面皺だらけに――」
「ごめん! ごめん!」
神奈子が、両手で持っていた酒瓶を早苗におずおずと差し出すと、早苗は無機質な目をしてそれを素早く奪い取った。
そして私が先ほど飲んでいたコップを勝手に手にとって、なみなみとお酒を注ぎ、飲み始めた。
きゃー間接キス恥ずかしいっ、なんて言ったりする心の余裕は、今の私にはない。
それで結局、水を用意した意味はなかった。なんなんだよう。
静かになった早苗を尻目に、神奈子がこそこそと近づいてきた。
「今日も早苗ひどいわねっ。まったくもう、自分の神をなんだと思っているのかしら」
「酒に酔うと、ふだんからの欲求不満が爆発するらしいよ」
「つまり私達に……」
「…………うん」
そう、だ。
あの子が宴会に出かけようとした時、漏らした台詞。
『今日も諏訪子さまたち、家事をやってくれませんでしたね……』
早苗とお昼時に話していた時、あの笑顔の裏であの子は何を思っていたのだろうか。
私達は早苗を無碍(むげ)に扱いすぎてしまっていたのかもしれない。
掃除洗濯炊き出しと、家事すべてを無造作に、無意識に押し付けていた。
せこせこと動き回る早苗が見た、私達の寝転がる姿はあの子にどう映っただろうか。
少しは変わってみよう。そう思った。
「おい」
とたん、早苗から声がかかった。
なんだかニヤついているその様子は、多少とはいえ不可解であった。
「なに、かな?」
「本殿の掃除忘れてた。お前らやってこい」
うぇーめんどくせー。
……あ、いやしっかり家事をやろうと決意したのは本当だけれど、ほら、明日から頑張ろうってことでね。
だから今日からやろうと思えなくてね、つまりね、面倒くさい。今日はパス!
「今日はパス!」
「は?」
「ごめん」
さぼりたい。
私がムンクの叫びのような顔を作っていると、あら名案がぽっと浮かびましたとさ。
ちょっとプライド的というか、神の威信に傷つくけど、致し方ない。
チラ、と隣の神奈子を横目で流す。
……ごめんねっ。
「早苗っ」
駆けだす。早苗に向かって一直線に。
抱きつく。最愛のいとし子を抱きしめるように。
あ、ちなみにポイントはがむしゃらに抱きつく子供のように振舞うこと。ここ重要。
「私、早苗のこと、大好き……だから」
顔をあげ、上目づかいにして、振り絞ったようにして言った。
「掃除は神奈子に任せちゃっていい? あとついでに今後も家事やらなくていい? 全部あいつに任しちゃっていい?」
「いいよ」
恨めしげな視線がトゲのように肌を刺したが、気にはしない。
しばらくしてそれも去っていき、残ったのは私たちのみ。
へへへ、ラッキー。神奈子、悪いな!
「代わりに」
「へ?」
早苗の真っ赤な頬に、なんだかどす黒さが増した。
瞬間、
「あっ?」
お尻になにかが触れた。なにかっていうか、手だこれは。
早苗を見上げた。笑っている。赤く上気した顔で。
「ヘっ、へへへ……おい諏訪子、いいケツしてんな」
「やっ、あう」
腰がうねってしまう。抗えない感触が襲った。
……ちくしょう! ラリってやがるこいつ!!
これじゃまるでセクハラ、しかも部下が上司にするという真逆の位置関係だ。
さしずめ窓際族の部長を無理に飲みに誘った部下が凶行におよぶといったところか……いや全然関係ない。
おとなしく神奈子と一緒に掃除に行ってれば、なあ。
酔っぱらい少女のもとで、私は深く後悔した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
結局、昨日は早苗が途中で眠りこけたので貞操が喪失する危機からは脱した。
そして家事は素直にやることが大切なのだと、深く理解させてもらった。
「早苗」
夏の陽射しと緩やかな風が流れる外。境内。
掃除をしている早苗に、声をかけた。
「私も、ちゃんと家事をやるよ」
「……ふふ、やぁっと決断してくれましたか。嬉しいです」
やっと決断してくれた、ということは?
そう、やっぱり早苗は不満を持っていたということだ。こりゃ反省しなければ。
早苗が微笑みながら、続けた。
「憂さ晴らし楽しかったですよ」
「へ?」
「だから、憂さ晴らし。まあそれだけが目的ではないですが、酔ったふりして怒鳴りつけるのはなかなか面白いものでした」
一瞬、憂さ晴らしという単語が理解できなかった。
あ、許してくださいね! と手を合わせてめんごめんごしている早苗。
一方で私は呆けて口を開いていることしかできない。あれは演技だったのか。
「たまげた。迫真の演技すぎだよ」
驚きつつも自然と褒めていた。役者になれる。
早苗は満足そうに、照れたようにして下を向いて笑った。
「私が酔った……まあフリですが、その時に決まって掃除をお願いしていたでしょう。それで私の不満に気づいてくれるかと思ったのですが、だいぶ時間がかかりましたね」
思い返してみると、毎回毎回本殿やら台所やらと掃除を命じられていた記憶がある。
なるほど、私達にも同じ辛い思いをさせて、早苗自身の現状を把握させようとしていたのか。
巫女としてはどうなのかと首を傾げる所業だが、まあ私らにも過失があるし、今回は許してあげましょう。
いや、許すというのは、ちと傲慢か。
「悪かったね」
「いいえこちらも。神様に憂さ晴らしなんかしちゃって」
「でも直接伝えてくれたらよかったのに。そっちのほうが絶対にてっとり早いはずよ」
「だいぶ昔、何度もお願いしましたけれど」
「ごめんねっ」
謝ったら、早苗は困ったような笑みを浮かべた。
「恐縮です。でもこちらも気付いてもらえて嬉しかったです」
こちらを見つめる早苗の瞳をさけるように、顔を横をそらした。
……実際、家事をしようと思ったことへの決め手になったものは、あなたのセクハラだったんだけれどね。
しかしここで引っかかるものを感じる。奥歯になにか挟まったような、むず痒い感覚だ。
先日のセクハラ……
「早苗は素面だったってことは――」
多少の恐ろしさを感じながら、訊ねた。
「私のお尻を触った時は?」
「もちろん酔ってませんし、真面目に触らせていただきました。柔らかかったですね。うふふ、ふふ」
「(故意に触っていたのか……!! って、早苗の腕が伸びてきている、伸びてきているぅぅぅぅぅ!!)」
酔っぱらい親父風だった早苗。次はセクハラ巫女として出発を始めた。
早苗さんが神奈子を「八坂さま」と呼んでいるのを考えると、おそらくはケロちゃんも苗字で呼ばれているのだと思います。つまり2さんの言うとおりでしょう。
ただ名前呼びのほうが親しさの度合いが増すような気がして、文中では「諏訪子さま」と呼ばせています。
作者の勝手、よければご理解いただけると助かります。
また他の方も含め、コメントをありがとうございました。