この作品は「春はまだなの?このままじゃ寝ているうちに凍死してしまうわよ。あぁもっと暖かい布団がほしいなぁ。羽毛布団とか。どこかに鳥の妖怪いないかしら。」の続きとなっております。
でも読まなくてもなんとなく大丈夫と思います。
「にとりの帽子の中ってどうなってるの?」
「企業秘密さ。雛にも教えることはできないね」
「気になる、気になるわー、気になりすと」
「しょうがないなぁ。ヒントは河童さ」
「河童? あ! そ、その……ごめんなさい」
「? なんで謝ってんのさ」
「大丈夫よ。私は気にしないから。たとえにとりが、その……だったとしても」
「雛さ、なにか勘違いしてない? しかもかなり失礼な方向で」
「そうだ! 今度にとりの為にアリスさんから借りてくるわ。だからにとりも気にしないで、ね?」
「えっと……嫌な予感しかしないんだけど?」
「全て私に任せて。明日を楽しみにしていてね」
次の日、雛が妖怪の山に新しく出来た湖に、足だけ出して沈んでいる所を発見された。
そして事件があった時間に
「禿げてない! 私禿げてないから! きゅうりを隠してるだけだから!」
という声が聞こえたと、守矢フルーツ農園の管理人の証言と、
被害者が緑色のウィッグを掴んでいたことから、河代にとりを重要参考人として捜索中である。
<- 猫耳幼女に、巨乳もふもふ狐、そして最後はかわいい少女か。なんでも有りねこのマヨイガって所は。後はBBAが居たら完璧じゃない? ->
春風がそよぐ、心地の良い昼時。
お昼寝に最適な天候の中、自然の声だけが聞こえていた。
それは博麗神社も例外ではなかったのだが……
何かの気配を感じた霊夢は、飲んでいたお茶をそっと横に置き、手を胸の前でクロスさせた。
「れーいーむ♪」
「かかったなアホが! 零時間移動!」
「みぎゃふっ!」
突如顔面を地面にぶつけた様な声がした。
声の潰れ具合から、顎やおでこではなく、真正面からぶつけたようだ。
「いったぁい……」
「やっぱり紫だったのね」
「むぅ~。避けるなんてひどいじゃない」
「後ろから"殺気"を感じたら避けるわよ普通」
「いつ私が抱きつくって分かったの?」
「"さっき"よ」
春の暖かな気温は、風が吹くと少し肌寒い。
その寒さから逃れるためか、今日の二人はいつもより少しだけ距離が近かった。
霊夢は紫を外に向かせ、縁側に無理やり座らせると、その後ろに足を伸ばして座った。
お互いに背中合わせで、相手の顔を見ることが出来ない。
背中と背中。頭と頭。
隣ではなく、お互いに後ろにある存在。
それが今までと同じであるように、霊夢からは紫を見ることは出来ない。
でも確かに存在する。ずっと傍に居てくれた。ずっと傍に居た。
そんなことを確かめるように、とくんとくんと、二人は春の温もりを背中に感じていた。
これは日常の中にある小さな、ほんのの小さな異変の話。
少女たちの距離が変化する、始まりの序曲である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「桜が満開ね。またお花見でもしようかしら」
「白玉楼にでも行ってらっしゃい」
「"さっき"の事まだ恥ずかしがっているの?」
「うっさい。次言ったら夢想封印するわよ」
紫が霊夢の先の言葉を冗談だと理解したのはつい先ほど。
照れ隠しに背中合わせになってから、実に600秒後である。
紫が急に笑い出したから何事かと聞いてみたら、霊夢ったらおちゃめね、と返ってきて今の状況に至る。
「クスクス。霊夢ったら可愛いわね~」
「霊夢さん可愛いですよねー」
「二人とも今日の晩御飯抜き」
「「えー!?」」
薄く高い声と、しっかりとした爽やかな声がが二重奏を奏でた。
紫はさらに体を揺らして抗議に出ている。
「霊夢さんひどいですよー。一週間に一回の私の楽しみを奪うだなんて」
「そうよそうよー」
「毎日あのメイドの美味しいご飯を食べてるでしょうが、って美鈴じゃない。何時の間に来たのよ?」
いつの間にか縁側に座っている美鈴を横目で確認する。
ちゃっかり霊夢のお茶を飲んでいるマイペースさは、いつもの美鈴だった。
ぷはぁっとお茶を飲み干すとほっぺに指をあて、笑顔で霊夢に言った。
「……"さっき"デスヨ?」
「"さっき"から居たわよ?」
「うがー! 二人ともそこで夕飯まで逆立ち!」
急に立ち上がり、霊夢は廊下をどかどかと歩いていく。
支えが無くなった紫は、髪の毛を散らばせながらそのまま後ろへと倒れた。
目だけ霊夢の背中に投げている。
「あれ、霊夢さんどこに行くんですか?」
「晩御飯の買出しよ」
「あ! 今日はみそおでんがいいなぁ~」
「買出しに行かなくても、隙間からだしてあげるわよー?」
「二人とも逆立ち。宙に浮かぶことは禁止よ。ズルしたらパスウェイションニードルで黒髭危機一髪だからね」
「「はい……」」
霊夢が二人の逆立ちを確認してから行くと言い出したので、仕方なく二人は足を地面から天に向けた。
紫は家の柱で足を支えながら、膝でスカートが落ちないように挟み、おふぁんつが見えないようにしている。
美鈴は「ほっ」と掛け声と共に屋根にジャンプし、右手の人差し指だけで着地。チャイナドレスは捲れ放題だが、ちゃんと前から後ろへと垂たしておふぁんつを隠すしている。
が、綺麗な脚線美と紐おふぁんつの紐部分は隠しきれていないようだ。
「器用ねあんた達。じゃぁ行ってくるわ。遅くはならないようにするからお留守番よろしくね」
「任せてくださいー。家を守るのは得意ですから!」
「はいはい、鼠一匹入れないわ~……なんで私こんな事しているのかしら?」
3人が色々と思う中、買い物籠を持った霊夢はふわりと空を飛ぶ。
あとは真っ直ぐ人里へと降りる。
おそらく一刻もかからないうちに戻ってくるだろう。
それまでゆっくりと、残された二人はただ待つことになった。
桜の花びらが春風に乗り、紫の頬を撫でていく。
春風と桜のざわめきがコーラスを奏で、美鈴がそれにあわせて歌を歌う。
澄んだ声。
安らかな旋律。
愛すべき友への歌。
ゆったりとした時間が
神社を流れていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「綺麗な歌ね」
「咲夜さんに教えてもらったんですよー」
霊夢が出かけてから暫くが経った。
美鈴は相変わらず右手の人差し指だけで体を支えている。
揺れもせず、つま先は常に天を貫いている。
「あー紫さん、逆立ちしてないと怒られますよ?」
「生憎私は肉体労働派ではありませんの」
よいしょっと声をだしながら、紫は空けた隙間から抜け出し屋根に腰を下ろした。
心なしか二の腕がピクピクと痙攣している。
どうやら肉体労働派ではないというのは、嘘ではないらしい。
「あなたよくそんなポーズとってられるわね?」
「鍛えてますから。私からすれば、妖怪である紫さんが自分の体重も支えられないとは思えないのですが……」
「この姿の時は、"うっかり"が無い用に力を人間の少女くらいに抑えてますの。だから、体重の話はやめましょう。ね?」
紫からドス黒いオーラが立ち込め始め、今まで保っていた美鈴のバランスが僅かに崩れた。
美鈴もそこそこに強い妖怪ではあるが、さすがに格が違いすぎる。
冷や汗を背中に感じながら、指先に気を練り直した。
「ところで紫さん。どうして今になって霊夢さんの前に出てきたんですか?」
「あら、まるで私が居たらいけないような口ぶりですわね」
「霊夢さんとの二人の時間が~」
「私を前にしてそんなこというのは、貴女で二人目ですわ」
「なんか紫さんって話しやすいんですよね。その、失礼かもしれないですが、怖いには怖いですよ? でも不思議と気兼ねなく話せる気がするのですよ」
「それも貴女で二人目ね。ほとんどの人、妖怪達は私に恐れおののくか、胡散臭いと影で呟くかですわ」
紫は屋根の上から沈み行く夕日を眺めた。
気が付いたら半刻はとっくに過ぎていたらしい。
今日はいつもより夕日が眩しい。光が心にまで広がっていく気がする。
「紫さん? あの、ハンカチなら私のポケットにありますから、よかったら使ってください」
「え? ……あ」
紫は泣いていた。
本人も知らないうちに、頬を伝わる一筋の川が太陽に照らされて。
「いけないわね。年をとって涙もろくなってしまったのかしら」
「その見た目で言われても説得力が無いのですが……」
「あら、之でも私は見た目年齢に、さらに見た目年齢を掛けたくらいは生きてますのよ?」
「えーっと、発育がいいと考えても……144? うん、サバを読んでる限りはまだ若い証拠ですね」
「約束「押すなよ、絶対に押すなよ?」 えぃ!」
「あわわわ~~きゃんっ!」
隙間から伸ばされたてに背中を押され、ついに美鈴は倒れてしまった。
さすがに指一本ではバランスの再構築は無理なようだった。
これで二人仲良く、霊夢の針治療の実験台決定である。
「あいたたた…腰打っちゃいました」
「ほら、貴女もこっちに座りなさいな」
「腰が痛くて座れないので、足お借りしますね」
「……私に膝枕を要求して、それも有無を言わさず寝るのも貴女で二人目よ」
少女の柔らかな足に頭を乗せる大人の図。
そのまま見たら普通は逆であろうと思うのだが、不思議とその形が正しいと思えた。
あるべき場所へ収まったという、安心感がそこにはあった。
「あははー。私は常に二番目なんですねー。本妻じゃなく愛人みたいです」
「知ってるかしら? 大体の場合、本妻よりも愛人のほうが愛されているのよ」
「じゃぁ私は本妻なんですね~、やったー! でも結局二番目じゃないですか!」
「ふふ。いくら貴女ががんばっても、一番目である霊夢の母親が居る限り、貴女は永遠に二番目ですわ」
「そうだったんですか。一番目は霊夢さんの……」
そっと目を閉じながら美鈴は力を抜いた。
完全に体を紫に預けるように。
紫も、手を美鈴の暖かく柔らかい紅髪を撫でる。
まるでずっと昔、そうしていたかのように。
そうすることが当たり前の日常であったかのように。
「あの子も貴女みたいに真っ直ぐで、よく笑ってよく泣いて、そして誰よりも優しかったわ」
「私は何も考えていないだけですよー? でも優しいって言ってもらえてちょっと嬉しかったり。てへへ」
「話し方はもっと、そうねぇ今の霊夢に近かったかしら。もしかしたら霊夢は貴女に、あの子を投影しているのかもしれないわね」
紫の手が、櫛のように手を髪の毛の間に滑り込まされる。
より地肌に近いところを撫でられて、美鈴は少しくすぐったそうに身をよじった。
「あーそういえば前に一緒の布団で寝たとき、霊夢さんがお母さんって寝言を言いながら、ぎゅっと抱きついて来ましたっけ」
「……へぇ、そうなの。一緒の布団で寝たのね」
「あの時の霊夢さん可愛かったなぁ。いやぁいつもの霊夢さんも可愛いのですけど、甘えてくる霊夢さんがいつも以上に可愛くて、あぁもう霊夢さんという名前も可愛いし霊夢さんまだかなーうぁ痛いたいたい!」
「私が夜に霊夢の布団に入るのを断腸の思い出我慢しているのに、貴女は霊夢と一緒に寝て、あまつさえ抱き合ってると言うのね?」
急にこめかみに中指をぐりぐりを当てられ、悶える美鈴。
その攻撃から逃れようとするが、がっちりと太ももに押さえられ、逃げることは叶わなかった。
「あの子との約束が無ければ、今頃は霊夢とキスをするような仲になっていても可笑しくは無いはずですのに!」
「む、霊夢さんのファーストキスは譲れませんよ?」
「あら、霊夢はあの子と毎日のようにしてましたわ。おはようとおやすみはもう唇にぶちゅーっと」
「ノーカン! 親子との間のキスはノーカンですから!」
「今思うと、私の体の地底から不思議ワードが沸きますわね。パルパル」
「紫さんも止めなかったのですか?」
「一ついいことを教えてあげるわ」
紫は深呼吸を一つして、ゆっくりと言葉を放った。
「霊夢とのキスは最高よ」
「ノーカン! 子供のときのキスはノーカン! うわぁぁん二番目どころか3番目だなんてー!」
「まぁ実際にノーカンではあると思うわ。霊夢はあの頃のこと覚えていないもの」
「そうなんですか?」
「そう。母親を失った時のショックでね」
「なにが……あったのか聞いても……」
「美鈴。一つだけ忠告しておくわ」
もう地平線へと消えかけている太陽に別れを告げるかのように。
夜という、闇の時間を迎え入れるかのように。
紫は言った。
「"うっかり"では済まされない事が、私達妖怪と人間の間にはありますのよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやーごめんごめん遅くなったわ。途中でアリスとばったり会ってね、ってあんた達何してんの?」
「お帰りなさい霊夢さん」
「すーすー……」
霊夢が返ってくると、
美鈴の膝枕で、紫が眠っていた。
「随分と可愛い寝顔ね。安心しきってるじゃない」
「ずっと溜め込んでいた荷物を、話すことで漸く楽になれたんじゃないでしょうか」
「ふーん? 良く分からないけど、この寝顔見てると色々考えてた私が馬鹿みたいに思えてくるわね」
といいながらも、うりうりと紫のほっぺたを弄る。
うーうーと魘されながらも起きる様子が無い。
かなり熟睡しているようだ。
「霊夢さん……今日も一緒に寝ていいですか?」
「嫌よ。布団が狭くなるじゃない」
「ですよねー」
「でも……布団を二つくっ付けて寝るのはいいわよ? たまには3人で寝るのも悪くないしね」
霊夢はだらんと垂れた紫の手を、おなかの上に置き直した。
小さな手。霊夢の手ですっぽりと覆い隠せる手。
この手で一体どれだけのものを守ってきたのだろう。
この手が一体どれだけのものを抱えてきたのだろう。
「あらら、二人っきりはダメですかー」
「だってすぐにあんたはすべすべの足を絡めてくるじゃない。こっちの気持ちも考えなさいよまったく」
「私は一向に構いませんよー?」
「だめですわ~。霊夢は私が守るんだから~うにゃむにー」
どうやらこの小さな手は、霊夢も守ってくれるらしい。
ありがと。
そういった霊夢は紫のおでこにキスをした。
偶然か必然か。
それは霊夢の母親が、紫に対してのおやすみのキスをする時と、まったく同じ場所であった。
「ご飯作ってくるわ」
「あ、その前に霊夢さん一つ質問があるのですが」
「何?」
「どうしてマッサージも覚えようと思ったのですか?」
「何度も言ってるじゃない。針を教えてもらうついでよ。私は如何にして急所に針を刺すかを教えてもらえればそれでよかったんだけどね」
「嘘です」
「嘘じゃないわ」
「嘘です。だってマッサージ中の霊夢さんの顔、弾幕勝負のときよりもすごく真剣です」
にらみ合う美鈴と霊夢。
美鈴はどうしても進みたかった。一歩前へ。
霊夢に前へ進んでほしかったのだ。
友人であるがゆえに。大切な存在であるがゆえに。
紫が前へ進む覚悟を決めたように。
「はぁ……いっとくけど、何も面白くない理由よ?」
「それでも知りたいです。霊夢さんの想いを」
「……悔しかったのよ」
霊夢はふわりと、美鈴の横に並ぶ。
そして空に輝く一番星を見あげた。
暫くの静寂。
目を空から、紫へと移し、そして語り始めた。
「私の母がね、前に言ったのよ」
――霊夢ーあんた肩揉み下手ね。これじゃぁ御札でも貼っておいたほうがずいぶんとマシよ
「それからいくら練習してもだめ。そのとき居たこいつにコツを聞いても教えてくれないし」
「すーす……」
「ありがとうね美鈴。あんたのおかげで色々と思い出したし、マッサージもうまくなった。もう下手だなんて言わせないわ」
「霊夢さん……」
「それと……守っていてくれてありがとう紫。これからもずっと一緒にいてくれる?」
「……霊夢を守るのが、あの子との最初の約束だもの。霊夢が嫌って言っても傍に居ますわ」
「あれ、紫泣いてるの? かーわーいーいー」
「紫さん可愛いですー」
「こ、これは寝起きで涙が出ただけですわ」
本日二度目の涙に、ゆかりは思った。
今日という日を絶対に忘れないだろう。
すでに枯れ果てた涙を、思い出してくれた二人に感謝を。
地平線に消えた太陽の代わりに昇った薄い月。
その月光が、3人に祝福の光りを与えていた。
彼女達の輝ける夜は、これからも続いていくだろう。
太陽の思い出と共に……
「ところで二人とも」
「なんですか?」
「なぁに霊夢?」
「さ・か・だ・ち・は?」
「「あ……」」
少女たちの歌と共に、今日も幻想郷の夜は更けていく。
でもまだまだ伏線がありそうな…
うん、続き楽しみに待ってます!
半霊涙目ですね
美鈴の逆立ちでお腹いっぱいでした。
美鈴の逆立ち姿を是非イラストで見てみたいですね。
誕生日おめ
これ読みながら伝言聞いてたら目から汗が・・・。
もしかしたら過去の話とリンクさせることがあるかも
でも暗い話に……メモはつくってあるんだよ?
>半霊涙目ですね
やっぱり、認めたくないけど、我はゆかりんのこと……絶対に認めない!
でもまぁその、どうしてもっていうなな吝かでもないよ?
>美鈴の逆立ち姿を是非イラストで見てみたいですね。
我に描けと申したか
黒歴史でもよかったら……
>雛……(‐人‐)ナムナム
でもくじけない
雛の冒険はまだはじまったBAKARIだ!
>これ読みながら伝言聞いてたら目から汗が・・・。
今はもう哀しまないで……
お母様ストーリーやっぱり書こうかな
そこそここのストーリ続けた後番外編として
みんなお祝いしてくれてありがとう!
こんなにたくさんおめでとうっていってもらったのは生まれて初めてで本当にうれしいです!
本当にありがとう!