Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

愛戦士

2007/01/28 01:28:45
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 四季映姫ヤマザナドゥが顔を真っ赤にしてはずかしがっている──

 なあんてシチュエーションがあったら最高だなあ!と声を大にすることは無い、とてもかしこい小野塚小町である。余計なことを口にだして上から叱られるなんてのはそこらの芸人が受け狙いでやることであり、自分の柄ではない。
 だが……しかし。声に出すことは無くとも頭ン中でちょっとだけ想像してみるくらい良いではないか。人、それを妄想と呼ぶが、それくらいなら個人の自由の範疇ってなものだろう。
 
 生憎、小野塚小町の直属上司、四季映姫の鉄仮面っぷりはだだっぴろい地獄冥界の入り口世界でも有名であった。
 職務柄、仏様の慈悲のような笑みを浮かべることはあっても、決して本心から笑うことなんてしない。ポーカーフェイス、ってやつとは少しばかり違うのだが、怒るときさえも自分で意識して作った顔をしている。
 見てくれこそ可愛らしい女の子がいっしょうけんめい背伸びして「わたしがんばってます!」と肩を張ってるような感じでとても微笑ましい……ように見えるのだが、実際はその超・実力に裏付けされた真(まこと、と読む)の存在感を持ってバリバリと日夜働いてるので辛抱ならん。

 この話をつらつらと語ったときに返された「意味わかんないんだけど」とは、こないだ某神社の某巫女と雑談交わしたときに戴いたありがたくごもっともなお言葉である。


 小野塚小町は最近、けっこう八雲藍と仲が良かった。残念なことに既に過去形である。
 もとより八雲藍と色々共通点の多い小野塚小町だ。大きく違う点は、あちらは可哀想なことにわけわかめな上司の下でひいひい辛い思いをしていることに対し、こちらはパーペキな上司の下でぐーぐー楽をしているというところだ。ちなみにこのパーペキという単語の前には仕事はという修飾が付く。
 部下の悲哀というかなんというか、ほとんど一方的に八雲藍に親近感を抱いてしまった小野塚小町は、暇を見つけては彼女の住処を訪ねて愚痴を言ったり聞いたりしている。八雲藍のほうもまんざらでは無いらしく、普段は恐れ多くてとても口に出せないようなことでも、小野塚小町の前でなら結構ぺらぺーらと絶好調だ。
 でもこの間、突然八雲藍の背後の空間がバリバリと裂けたかと思うと、中からにょきっと伸びてきた二本の細腕に、せっかく出来たばかりのマイフレンドは連れ去られてしまった。大変遺憾ではあるが、これ以上はあちらの家庭の問題だと思うので首を突っ込むような野暮な真似はしない。

 親友と書いてともと呼べるような相手を失ってしまった小野塚小町は、よく考えてみたら知人の中に自分に似た境遇のキャラが結構いることに気がついた。ざっとリストアップするだけでもレミリア・スカーレットに対する十六夜咲夜、西行寺幽々子に対する魂魄妖夢、蓬莱山輝夜に対する八意永琳……こんなにも。
 ふむ、と暫く考えてみたが……どうやらこん中では十六夜咲夜が最も素質を持っているように思える。幼女(に見える)の主に従う身、としてこれ以上無いほどの共通点を持つわれわれですよヒャッホウ!とまでは言わない小野塚小町であるが、意気揚々と紅魔館に出向くあたりが最早阿呆以外の何物でもない。

「やあ十六夜咲夜、愛しの主人を辱しめてヒイヒイ言わせたりしてみたくないかい?(グサッ)たとえば目の前に好物のケーキを置くんだ。主人は好物がおやつに出てきたことに喜んで、満面の笑顔になる。アタシ達としては喜んで食べようと手を伸ばしたところ、その幼い手を押さえて、この美味しいケーキを食べたければ三回回ってワンと鳴きな、と脅すんだ。(グサッ)やがて、主人はその可愛らしい眼にうっすら涙を浮かべて、小さい声で、それも顔を真っ赤にしながらか細い声でわん、と鳴(グサッ)くのさ」

 即効で頭にナイフが突き刺さったが、そんなことで倒れるようでは死神なんぞやってられない。途中でさらに二回くらい刺されたが愛と勇気で最後まで語り尽くす。同類とは何か、ということをよく知っている小野塚小町アイは、いちばんはじめにナイフを手にする寸前、十六夜咲夜の表情に過ぎったものを見過ごさなかった。
 まあ、いきなりだからね……ちょっとばかりストレートすぎたか。こういう手合いは抉るように撃つべし!優秀な頭脳の中で何度か仮想メイドに対してシャドーボクシングをやってみる。シュッ!シュッ!……どうにも、思ったよりもその面の皮はぶ厚いようだね。それでこそ、好敵手というものだうふふのふ。

「アタシにはわかるのさ、アンタはアタシと同類……。そうやってナイフを手に凄んではいるものの、脳内ではわんと鳴いているお嬢様の姿でぐわんぐわんと揺れ動いているだろう?」
「うっ……」

 所詮は十六夜咲夜も同類だったのか、台詞のワリにはあまりに優しい小野塚小町の表情にコロリと騙された。その様子はまるでゴキブリホイホイの中に喜び勇んで突入していくゴッキーみたいで情けない。もしかしたら10分の1スケールレミリア人形を落とし穴の上に置いといたら簡単に引っかかるんじゃないか、とも思う。メイド長、落とし穴に陥落す──レミリア・スカーレットもその現場を見たらさぞかし嘆き悲しむことだろう。
 これでカンペキに堕ちたなーとか思っていたのだが、そこは流石に瀟洒を自負するだけのことはあるというかなんというか、思ったより口が堅い。あんまり無理矢理口を割らせたりすることが好きじゃない小野塚小町としては、これ以上同胞をいぢめるのも気が引けるので、ところどころぽつぽつと漏れてきたサクヤワードで我慢することにする。

 曰く、「私の姿を模った人形を抱き締めてすやすやと寝るお嬢様のほっぺたをすりすり……うっ」

 ところどころっていうかもうこの台詞が全てであるかのような気もするが、あんまり気にしないことにする。最後の「うっ」ってのは何だ、と聞き返したりしないあたり、小野塚小町はオトナである。残念ながら自分の趣味とはちょっと食い違っているようだ……アタシは流石にそこまで暴走したりはしないよ。












「お、お願いしますっ!アリス・マーガトロイドさんっ!10分の1スケールのアタシ人形作ってくださいぃぃっ!」
「べ、べつにいいけど……」












 翌日、四季映姫が何時ものようにキリッとした表情で職場に顔を出すと、自分の机の上に見慣れぬ紙袋が置かれていることに気付いた。まさか中にカミソリが入っていたり……あまつさえ開いた途端爆弾がっ!なんて俗な考えはしない四季映姫である。ガサゴソと無表情に紙袋を開き、その中を躊躇無く覗きこんだ。

「……」

 無表情が怖い。
 やたらと人形の出来が良いのがアレだ。作り手は人形造りの名匠に違いない……とかなんとか考えつつ、とっとと紙袋をクーリングオフしようとしたところ、なにやら手紙らしきものも同封されているということに気が付いた。嫌な予感がほとばしるが、もしかしたらもしかするということもあるかもしれない。何がもしかしたら良いのか四季映姫本人にもよくわかっていない。

『この人形をアタシだと思って夜な夜な可愛がってください……うっ』

 見慣れた書体。どこからどう見ても小野塚小町の直筆に違いない。毎日のように提出される彼女からの書類に目を通しているのだ。今更見間違えることがあるものか……っつーか、こんなバカするのは小町しかいませんけど。

「小町……。まったく、あの娘は……」

 ふう、と呆れたように溜め息をつく。最後の「うっ」ってのは何だ、と呟いたりしないあたり、四季映姫はオトナである。
 だが──そこには普段部下には決して見せない穏やかな素の表情がある。ヤマザナドゥであり続けることの意味。亡者を裁くことのおそろしさ。一片の躊躇も油断も許されぬ日常の中、だからこそ、時にこんなおふざけがあるというのも──。



 今日も一日精力的に働いたー(本人談)
 意気揚々と仕事場から戻ってきた小野塚小町は、業務終了時刻を書き込もうと職場の死神リストをぺらりと捲り、世の中の厳しさというものを思い知った。


 完 
なにを書いているんだ自分は……うっ
こおろぎ
コメント



1.手スタメンと削除
やめてリストラは胸に響くからやめて
2.名無し妖怪削除
「うっ」だけで心情の9割が理解できてしまう……うっ
3.名無し妖怪削除
小町のアホっぷりが素敵だ……うっ
4.変身D削除
もうこの一言だけで色んな意味でご馳走様でした……utt(殺