Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

マーガトロイド・トレード

2011/02/22 22:22:37
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「そうしてその老夫婦は、死ぬまで貧乏に暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

ぱちぱちぱち。
何とも不満そうな子ども達の顔。
後ろで仁王立ちの慧音先生。当然のようにしかめっ面。



「これにて終幕。演出、脚本、全てこの私、マーガトロイドがお送りしました」
「…なぁ、アリス」

太陽がこれでもかと輝くくせに、風は冷たい今日この頃。
とある事情で、人里の大きな広場で子供達に人形劇を見せてあげることになった。
偉そうに仁王立ちしてる大人は、お呼びじゃないんだけど。



「マーガトロイドよ。で、何?」
「どう違うんだ。それより、この話は本当にお前が?」
「えぇ。なかなかでしょ」
「下の下だ。こんなもの、何で子ども達に見せようと思った?」

ストーリーは、こんな感じ。

ある村に、おじいさんとおばあさんが二人きりでひっそりと暮らしていた。
決して裕福では無かったが、お互いがいることで幸せだった。
しかし、おじいさんはおばあさんを楽させるため、ほんの少しだけ欲を出した。
金が欲しい金が欲しい金が欲しいと、博麗神社へお参りに行ったのだ。
しかし、そこに仕える巫女はこの上なく性根が悪くて。
おじいさんが裕福になるのが悔しくて、一生貧乏になるお呪いをかけてしまったのだ。
おじいさんはそれに気付かず、ひたすら裕福になる夢を見ながら過ごすのであった。

…ってもの。



「博麗神社は幻想郷の心の頼りだ。いわば権威。子ども達にとってはヒーローといってもいい」
「そりゃあ、そうかもしれないわね」
「そのヒーローを、悪者扱いして。本気で子ども達にうけると思ったのか?」
「見方は人それぞれよ。じゃ、これで」

好きでやったわけじゃない。いや、半分楽しかったけど。
この人形劇、実は秘密裏に依頼された仕事であって。
今日の私はアリスじゃない。
都会派な小悪党、マーガトロイド。




















「子ども達の反応はまぁまぁね。初日はこんなものでしょ」
「頼みますよ。貴方には期待してるので」

家に帰ると、緑色の巫女が家中を歩き回っていた。
どうにも落ち着かない様子の彼女、早苗が今回の依頼人。
そう、これが私の秘密。小悪党な仕事。



「貴重なものなんですからね。こっちで松茸なんて滅多に採れないんですから」
「えぇ、美味しかったわ。まだまだ残ってるし」
「博麗神社の評判が落ちてくるのを実感したら、報酬は上乗せしますよ」

誰にだって、人に言えない欲望がある。
あいつの評判を落としたい、人に言えないあんな物やこんな物が欲しい、気になるあの娘の毎日が知りたい。
そこにつけ込んだ都会派な私。高額な報酬と引き換えに、その欲望を叶えてあげる。
名付けて、マーガトロイド・トレード。



「とりあえずは一週間ね。一週間、こんな感じに人形劇続けていくから」
「…今更ですけど、子ども達相手の人形劇で効果があるんですか?」
「不満なら、中止してもいいわよ。松茸は返さないけど」
「この調子でよろしくお願いします」

だって、大人向けの人形劇なんて知らないもの。
効果なんて、別に無くたって構わない。松茸は十分に貰ったもんね。
ちょっとは生産的な努力もしてみなさい。




















「…右見て、左見て、もう一度右見て…」

都会派な小悪党である私は、同時に別の依頼もこなす。
今遂行している依頼は、パチュリーからのもの。
本を取り返して、だって。



「…っわ! …あぁ、人形かぁ…」

魔理沙の家は、相も変わらずゴミ屋敷。
ずっと前にプレゼントした魔理沙人形が、不気味に吊るされている。
…蜘蛛の糸で。気持ち悪い。



「何でこんなに持ってるのよ…」

今回、パチュリーから頼まれた本は三冊。
『分かりやすい! 星座占い入門』
『星座占いで分かる 運命の人』
『これで完璧 星座の全て』
…パチュリーも、何でこんな本を取り返してほしいのか。



「あ、あった…!」
「何が?」
「探してたやつよ。こんな本、どうして…」
「どうして?」
「どうして…ほったらかしにしてるのよ。もったいない」

三冊まとまって放り投げてあるのを見つけた瞬間、私も見つかった。
何でこんなタイミングで帰ってきたのか。この乙女魔理沙め。
とりあえず、機嫌を損なわないようにしないと。



「星座占い。いいわよねぇ。ほら、ロマンがあって。運命とか信じる方だし、私」
「ほほう。じゃ、アリス。お前の運命の星座は何だ、言ってみろ」
「…蟹座?」

この仕事をしてるうちは、私はマーガトロイドであってアリスじゃない。
でも、そんな突っ込みをしてる余裕はなくて。
ちなみに、アリスじゃないのは、どこか締まりがないから。
マーガトロイドの方が、ちょっと秘密組織の名前みたいでかっこいいじゃない。ねぇ。



「蟹…ねぇ。まぁ、ホントがどうか私は知らないが」
「本当よ。私、蟹座の人と相性良いんだって。魔理沙だって蟹座でしょ?」
「…乙女座だ。バカ」

ほほう。乙女座。
恥ずかしながら言ってるけど、可愛気は感じない。
乙女座魔理沙の乙女な趣味、幻想郷中にばらまいてやる。



「それはそうと、その本」
「これか? 大して興味もないが、いつの間にか家にあって処分に困ってたんだ。いるならやるよ」
「あら、そう? それならぜひ」
「あぁ、もってけもってけ」

興味が無いなんて、よく言ったもので。
パチュリーに返す際も恥ずかしくなるから、私に押し付けようって魂胆なんだろうけど。
もっと恥ずかしい目に合わせてやるから、覚悟してなさい。



「ところで、何しに来たんだ? 今更だけど」
「…暇だったから。ちょっと遊びにきただけよ」
「そっか。なら紅茶でも入れてやるから、ゆっくりしてけよ」
「お気持ちだけ。帰って私の運命について、研究しないといけないから」
「…さっさと帰れ」

魔理沙相手に優位に立てるなんてこと、滅多にない。
もっとこの優越感を味わっていたいけど、都会派な小悪党である私は暇じゃなくて。
明日の人形劇も、ちょっと改悪しないといけないし。
とりあえず依頼を一件、達成。




















「こうして夢見る乙女は、叶うことの無い夢を見ながら一人寂しく過ごすのでした。めでたしめでたし」

ぱちぱちぱち。
昨日よりも少ない、それでいて不満そうな子供たちの拍手。
相変わらず、その後ろにはしかめっ面の慧音先生。
だからお呼びじゃないって。



「…なぁ、何なんだ。何が目的なんだ?」
「別に。趣味に目的なんていらないでしょ?」
「子供達に悪影響だ。こんな悪趣味を放っておくわけにはいかない」

今回の人形劇は、こんなもの。

深い森の奥深くに住む魔女の女の子は、星座占いが趣味だった。
その占いによると、ちょうど次の満月の夜に、運命の男の人が現れるらしいのだ。
女の子は嬉しくて、お友達である博麗神社の巫女さんに、それはもう得意気に自慢した。
しかし、そこに仕える巫女はこの上なく性根が悪くて。
女の子に、男の人との出会いが死ぬまで起こらない呪いをかけてしまったのだ。
それに気付かないまま、女の子は次の満月の夜はこそと、叶わぬ夢を見ながら過ごすのでした。

というもの。



「でも、子供は自ら見に来てくれてるのよ。好奇心に目を輝かせながら」
「お前は何を見ていたんだ。終わった時の拍手の様子を見てなかったのか?」
「来る時は期待してくれてたのよ。期待に応えられなくて残念だけど」
「なら」
「次はご期待に添えられるよう、努力するわ。それじゃ」

どうにも、この熱心な教師が邪魔になってる。
まだ二日目なのに、これじゃあ一週間も続けられそうにない。
ちょっと、依頼主に相談してみよう。




















「何であんたがここにいるのよ」
「え、それは、そのですね…。遊びに来たんですよ、遊びに」
「何して?」
「えっと…すごろくです、すごろく!」

私の家なのに、私以外の侵入者が二人もいる。
一人は当然のように、早苗。もう一人は、この上なく性根の悪い巫女さんとして子供達に広まってる予定の、霊夢。
二人とも私の家なのに、何の違和感もなく喧嘩してる。
私の家なのに。



「へぇ。アリス、すごろくなんて持ってたっけ?」
「あ、いや、その。作るところからですよ。一緒に作るんです」

すごろく、持ってるのに。
埃をかぶってるだろうけど、魔界一周すごろくがあるのに。
面倒な嘘ついちゃって。



「作る…ねぇ」
「それより! 何で霊夢さんこそここに?」

そう、それが知りたかった。
基本、神社から一歩も出ない霊夢がわざわざ訪ねてくるなんて、よっぽどのことだろう。
例えば、私達の都会派な小悪党がばれたとか。



「…あんた、知ってる?」
「何がです?」
「アリスよ。最近、便利屋始めたそうじゃない」
「へ…へぇ…? そ、そうなんですか…知ら、知らなかったなぁ…」
「で、私もそれに頼ろうかと思って」

良かった、ばれてるわけじゃないみたい。
とりあえず安心できたところで、そろそろ家に入ることにしよう。
早苗の様子も危なっかしいし。
何より、寒い。



「…わ、霊夢。何の用よ」
「あ、アリスさん! 今日はどうで…」
「早苗、また今度ね。今日は乗り気じゃないの。すごろくはまた一緒に作りましょう」
「…あぁ、なるほど! 分かりました、今日は帰ります!」

いちいち、『なるほど!』なんて口に出さなくていいのに。
勘の鋭い霊夢のこと、早苗を一緒に置いてたら危なくてやってられない。
霊夢の依頼を聞いた後、改めて早苗のもとへ相談しに行くことにしよう。



「…アリス、聞いてたのなら話は早いわ」
「依頼を聞く前に。一つだけ」
「何?」
「ここでは、私はアリスじゃない。マーガトロイドって呼んで」
「…お願いがあるのよ、マーガトロイド」

よろしい。
初めて、初めて依頼主でマーガトロイドと呼んでくれた。
やっぱりアリスって名前より、マーガトロイドの方が格好がいいもの。
都会派な小悪党である私は、名前にもこだわりを持つ。
さて、依頼を聞こうじゃない。



「あのね、どうも最近、うちの神社の評判が良くないみたいなのよ」
「…へぇ」
「この前参拝に来た親子がね、
 『あ、性根の腐った血も涙もない極悪非道な巫女さんだ!』
 『めっ…どこで覚えたのそんな言葉!』
 『だって、友達も言ってるもん。会う人みんなに呪いをかけちゃう巫女さんだって』
 …とか言ってたのよ。私、呪いなんてかけられないのに」

性根の腐った血も涙もない極悪非道な巫女なんて、言ったつもりはない。
でも、やっぱり噂って恐ろしいもので。
人から人から伝わっていくうちに、どんどん大きくなってしまう。



「で、どうしてほしいの?」
「この噂の原因を突き止めて、私に知らせて」
「知らせるだけでいいの?」
「いいの。私の手で仕返ししてやるから」

この依頼、今すぐにでも達成できる。
でも、そうしたら早苗の依頼を破棄することになってしまって。
せっかく貰った松茸が取り返されてしまうかもしれない。



「そうね、お礼はきのこの山一週間分で」
「きのこの山?」
「きのこの山。貰い物なんだけど、どうにも私好きじゃなくて」

きのこ山盛り…という意味だろうか。
恐らく松茸も含めて、椎茸、しめじ、エノキにマイタケ、それが山盛り一週間分。
早苗からの報酬は、松茸のみ。



「セットで貰った、たけのこの里。あっちの方が私は好きだったわ」
「…あのね、霊夢。話があるの」

報酬の差を考えれば、どちらの依頼を受けるかは明白。
裏切りとか言わないで。これも小悪党の生きる道。
さて、種明かしをしましょう。




















「…そうして、その少年は自分の信じる道を、まっすぐに進んでいきました。めでたしめでたし」

ぱちぱちぱちぱちぱち。
昨日一昨日よりも、子供達の笑顔が眩しい。
空も晴れて、ぽかぽか陽気。いいものよね。
不思議そうだけど、不満気なしかめっ面を見せない慧音先生の顔も気分がいい。



「なぁ、本当、何がしたいんだ?」
「ボランティアよ。別にこの人形劇で、お金を取ろうってわけじゃないから」
「それは見てれば分かる。まぁ、昨日一昨日と比べて多少マシになってはいるが」
「でしょ? なら、文句は聞かないわ」

今回のお話は、こんなもの。

ある少年は、将来に悩んでいた。
惰性で過ごす毎日に、飽き飽きしていたのだ。
そこで出会った、守矢神社と博麗神社の巫女さん。
二人ともそれぞれ、別の道を示してくれた。これもそれも神によって与えられた運命だと。
しかし、少年には誰にも言えない、心に決めた夢があった。
巫女さんの言葉に納得できないまま森を彷徨っていると、一人の人形遣いの少女に出会う。
そこでの少女との会話の中で、少年は自分の進むべき道に自信を持つことができた。

って感じ。
…いいじゃない、ちょっとぐらい私が輝く話でも。



「まぁ、教育に差し障りが無ければな。自由にボランティアしてくれ」
「えぇ。期待してて」

霊夢に全て打ち明けた後、彼女は一目散に早苗のもとへ向かった。
私も早苗に協力していた以上、何かしら仕返しを受けるのではと心配してたけど。
どうやら、正直に白状したぶん、まだ許されてるみたい。
でも、そんな上手いことばかりはいかなくて。



「あ、そうそう。これ、子供達と食べて」
「なんだ…きのこの山? アリスが作ったのか?」
「貰い物なの。形だけきのこのお菓子」

きのこの山って、山盛りきのこを指してるんじゃなかった。
形だけきのこの、甘くて甘い洋菓子。
お菓子なら、自作のものが腐るほどあるから。腐らないけど。
これも一種のボランティア。



「まぁ、貰えるなら貰っておこう。断るのも悪いしな」
「えぇ。その代わり、今後の人形劇についても文句は一切無しで」
「賄賂のつもりなら受け取らんぞ」
「冗談よ」

ちなみに、都会派な小悪党の仕事は終わってない。
マーガトロイド・トレードは受付中。開店休業状態なのはここだけの話。
…さぁ、お客さんを探しに行こう。
読んでくださって、ありがとうございます。

長い間、投稿していなかったので緊張しています。
この冬は、冬眠してました。
読んで字の通り、ほとんどの時間を寝て過ごしたような気がします。
こんな様子ですが、今後ともよろしくお願いします。
けやっきー
http://
コメント



1.削除
わ、お久し振りです!

冬眠とは……ゆかりんと気が合いそうですねっ。

相変わらず都会派なアリスさん、面白かったです。ご馳走様でした!
2.奇声を発する程度の能力削除
きのこの山はまだ幻想入りしてないぞ!(違
相変わらずのぶっ飛んだアリスで安心しましたw
3.名前が無い程度の能力削除
早苗さんはいったいどうなってしまったのか…
4.名前が無い程度の能力削除
相変わらず癖になる雰囲気がありますね 面白かったです

けやっきーさんのアリスは水瓶座のイメージですね 私は
5.すいみんぐ削除
おひさしぶりです。
都会派で小悪党…響きが何だか素敵です。
そして相変わらずアリスが可愛い。
小悪党マーガトロイドになりきれているようでなりきれてない、
ちょっとした瞬間に素のアリスが垣間見えててよかったです。
6.削除
マーガトロイド、という名前の格好よさに気づけた。最後のアリスが可愛くて仕方ないです。