メイドの役目は多岐に及ぶわ。掃除洗濯食事の用意、お嬢様お二人、図書館主のお世話と侵入者の撃退。その他諸々
あるけれど、これが大まかなもの。ここで働く為に守るべき規約も幾つか存在する。まずお給料だけれど、これは無い
わ。朝と夜のご飯と寝床だけは用意してあげる。そうね、それが目的だものね。後、基本出入りは自由。何時入ってこ
ようと出て行こうと構わないけれど、シフトの関係があるから必ず私か美鈴に一言言って頂戴、怒らないから。後は、
入室禁止と書かれた場所への侵入は死罪。好奇心でもやめた方が良いわ。例え妖精でも苦しむように殺すってお嬢様が
言っていたから。そして最後は、そうね、これが一番大切だわ。
瀟洒であるように心がけなさい。
こればかりは言葉で説明しきれないわ。もしやる気があるなら、私の仕事振りを良く見ている事ね。一応自信がある
の。長い事ここでお仕事しているしね。ああ、そうだ。困った事があったら、周りに相談するなり、私に聞くなりして
ね。解らない事を解らないままにしていては、決して上達しないわ。何度でも構わない。怒ったりしないから。
じゃあ、早速館内説明をするわ。私に付いてきて。
ここは紅魔館のロビー。御館の顔となる部分だから、掃除は念入りにされるわ。この紅いカーペットに染みの一つで
も残さない事。窓はステンドグラスで替えがきかないから、絶対に割らない事。そのツボ触っちゃ駄目よ、それ一つで
幻想郷の土地三万坪くらい買えるわ。そう、ゆっくりと降ろして。OK、そうよ。じゃあ次ね。
紅魔館は理不尽に廊下が長いわ。これ私の所為だけれどね。うん? ああ、そういう能力なのよ。貴女の周りにもい
るでしょ、なんだかよくわかんない能力持った子。私のは強めだから。ま、それは良しとして、このロビー右手から続
く長い廊下は通称心臓破り。可笑しいでしょ、普通坂の事を言ったりするけれど、何でだと思う? 長いのよ。冗談じ
ゃなく。この下には図書館があって、その規格に合わせた分、何もない廊下がずっと続くの。だから大抵は左手から周
った方が、向こうへ行くには近いわ。奥にあるのは倉庫だけだし。でもココの主人はパーティー好きでね、しょっちゅ
うテーブルや椅子を引っ張り出すからココを使うのよ。左手から周ると、障害物が多くて逆にやり辛いから。
よし、じゃあその左手方向の説明をするわ、ついてきて頂戴。
こっちは長い廊下がない分、部屋が多いわ。厨房も食堂も遊技場も食糧倉庫も全部こっち。水周りも集中しているか
ら掃除は大変よ。たまに私が広げた空間のスキマがあったりして、神隠しになったりするけれど……まぁ一日二日する
と勝手に出てこれるから大丈夫、たぶん。そういえばあの子どこ行ったのかしら……あ、いやなんでも無いわ。そんな
目で見ないでよ。上司よ? そ、メイドは愛想が一番。笑っていれば大抵やり過ごせるわ。
こっちには地下への階段があるの。ちょっと降りてみましょうか。薄暗いでしょう。妖精の貴女は大丈夫でしょうけ
れど。えーとね、ほら、ここにある大きな扉があるでしょう。これが大図書館の一番入り口、二番三番はまた別の場所
に備え付けてあるわ。空間が弄ってあってね、一階、二階にも扉があるわ。でもたまに不調で神隠しに……なぁんて、
ちょっと脅かしただけよ。あんまりビクビクしちゃ駄目、それで無くとも貴女って妙に嗜虐心そそる顔してるんだから。
そして、この奥が、妹様のお部屋。フランドール・スカーレット様のお部屋よ。普段は大体ここに閉じ篭っているわ。
気紛れで外に出てきてメイドを苛めてみたりするけれど、友達が出来てからは大分変わったみたい。昔は気がついたら
メイドがニ、三人いなくなっていた、なんて事も多々あったけれど、今は実害もそうないわ。貴女、ここの担当してみ
る気ない? ああ、だから、そんな脅えないでよ。怖くないってば。たぶん。ふふ。
じゃあ次ね。階段を上がった先、ココには私の部屋と、仮眠室、客室、給湯室、第一、第二小図書館、後はちょっと
小洒落たカフェテラスなんかがあるわ。メイド達が屯している場所ね。貴女もここに良く来る事になると思うから、覚
えて置くと良いわ。それに自分が使うって解ったら綺麗にする気にもなるでしょう? お菓子なんかも自分達で作って
持ち寄ったりするから、皆と仲良くした方が得ね。ちなみに、ここには入室禁止の部屋があるわ。当然、私の部屋。間
違っても入らないように。一度ジャンケンで負けた子が罰ゲームで入ってきてね……そういえばその子と罰ゲームを強
いた子、最近見ないわ。だから気をつけてね? 紅魔館は悪魔の館だから。
そしてこの上。三階はお嬢様、レミリア・スカーレット様のお部屋。お掃除する為にたびたび出入りする事になる筈
だから、礼儀も一応弁えておいて頂戴。妖精とて礼儀さえ弁えて、吸血鬼を敬いさえすれば、優しくしてくれるわ。本
当に可愛いのよ、うちのご主人様は。愛くるしいあの笑顔なんて、是非見せてあげたいものね。寝顔なんてあーた、凄
いんだから。口の端からヨダレなんて垂らしてからにったくあぁもうなんなのよ畜生ふきふきしたい……って、アハ。
ごめんなさいね。兎に角、敬語とは言わないわ。丁寧な言葉遣いさえすれば、何も無い。後言われた事は取り敢えずハ
イと頷いて、私に相談なさい。無茶な注文をつけるのが趣味なの。ちゃんとそれを達成すれば誉めても貰えるわ。まぁ
大抵無理だけど。
あ、そうだ。ここにも入室禁止の部屋があるわ。お嬢様のお部屋の隣の部屋。ここは図書館の主、パチュリー・ノー
レッジ様の強固なロックと、五重六重のマジックトラップが設置してあるから、入れはしないだろうけど、近づかない
事ね。どんな目にあうか解らないわ。一度鍵を開ける程度の能力を持った妖精が入ってね……あ、その話は良いわね。
はぁ。これで館内は一通りかしら。一応希望は聞くわ。どこに配属して貰いたい? 貴女の能力は確かー、えー、弾
幕を張る程度の能力。そう、じゃあ警備に回って貰ってもいいわね。でも今は警備が間に合っているし、館内の掃除係
で、何処の部署か、ね。
まぁ一応門番に挨拶だけしておきましょうか。
はい、これがうちの門番様。紅美鈴よ。どうしたの、そんな顔赤くして。美鈴、この子に何かした? してない。は
はぁ……ふふ。駄目ね、絶対警備には配属してあげないわ。仕事中に色気づかれたらたまったもんじゃないもの。まぁ
仕事を早く終わらせて、その合間に会いに行くぐらいはいいでしょうね。だから頑張ってお掃除して頂戴。
何勝手に話を進めるなですって? 五月蝿いわね、面白きゃ良いのよ。これはレミリア・スカーレットお嬢様が決め
た厳粛なるルールなの。面白ければ良い。特に色恋沙汰は面白いったらないわよ。同性で種族も違う? 知らないわ。
美鈴、貴女何時から私に口答えするようになったの。立場はどっちが上だったかしら。え、私の方が職歴長い? そう
だったかしら……。細かい事気にしている内はやっぱり小物なのよ、美鈴。はいお終い。
どうかしら。ここまで観て回って、気に入った所はあった? ちなみに、妹様のお世話係は紅魔館内でも地位が高く
て、特別褒賞としてなんと、休憩時間がついてくるわ。あ、そういえば志望動機も聞いていなかったわね。どんな理由
でここへ来たのかしら。食事と寝床だけ、のようには、なんとなく見えないのよね。
……へぇ。あの子が気になるの。そう、なら決まりね。
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貴女が新しい子ね。あら礼儀正しい。妖精メイドでも礼儀を弁えているのね。実は三匹に一匹くらいしか頭を下げた
り跪いたりしないのよ。咲夜、教えたの? あらそう。じゃあ元から良い子なのね。
名前は聞かないわ。うちで働いて名前が上がったら、覚えてあげる。私はレミリア・スカーレット。ここの主様よ。
詳細については、メイド達から聞きなさい。どれほど素晴らしいご主人様なのか、きっと噂しているでしょうから。
咲夜、この子の部署は決まったの? え、自分から進んでフランの世話を? 奇特な妖精も居たものね。余り期待はし
ていないけれど、頑張って頂戴。うちの妹、すごいから。姉として忠告しておくけど、遊ぼうと言われて乗っかっちゃ
駄目よ。長生きしたいなら、なぁなぁでかわしなさい。
あら、自分から質問するような真似もしないのね。咲夜、偶には良いメイドを連れてくるのね。皆この位質が高けれ
ば貴女の負担も減るんでしょうけれど。うちは質より量だし。とはいえ、一匹ちゃんとしたのが居れば、二十匹分くら
いになるのがいい所ね。私からは以上。精々、うちの為に尽くして頂戴。
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見ない顔ね。新人かしら。そ、じゃあテキトウに宜しくね。あー、そうだ。さっきそっちの石像ぶっ壊しちゃったか
ら、片付けて。それが終わったらお茶を要れてきて。はぁ。ねぇ、私をみてどう思う? 怒らないわよ。その程度で怒
るのはアイツぐらいだわ。何? 可愛らしい? あはは、ありがと。
それでー? 自分から志願したんだって? 咲夜から聞いたわ。貴女がその新人でしょ? そうよね。一体どんな理
由があったら、悪名高い私のお世話なんて自分から申し出るのかしら。不思議でならないわ。だってそうでしょ? 私
は悪鬼羅刹と噂され、感情的で情緒不安定で、直ぐ物を壊すし妖精もキュッてしてドカーン。そんな悪魔の世話をした
がる妖精なんて、聞いた事ないわよ。今数匹私のお付きで世話をしているけど、全部余ってこっちに寄越されただけの
子達だし。
怖そうに見えない、か。解るの? ……なんだ、良い目するのね。掃除、後でいいわ。こっち来て。
遊ぼう、なんて言わないわ。お話を聞いて欲しいだけなの。人語も理解出来るでしょ。私に付いてるメイドは皆言葉
が微妙だし。貴女は他の子達より知性があるみたいね。元は何処に住んでいたの? 紅魔池の辺かもしれない? 曖昧
ね。でもそれならご近所じゃない。なんでわざわざメイドなんかになったのかしら。……あー、喋りたくないって顔。
いいわ、これから長い間一緒に居るんだから、その内で。でも志願した理由は気になるわ。
……え、何? 私の世話を引き受けると特典が付くって? あはははははっ!!
へぇ。で、その特典っていうのが、休憩? 休憩の為に私の世話って、よっぽど奇特な子ね。同じ事をレミリアに言
われた? なんだかんだ、姉妹なのよ。私ね、別にアイツの事嫌いじゃないわ。寧ろ愛しているもの。一応、これでも
弁えているの。館に主人が複数いると、どうなると思う? 争いになるのよ。本で沢山読んだから知ってるわ。だから
私はここでひっそりと暮らすの。たまに外に出てアイツを困らしてみたりしていれば、良いのよ。
別に辛くないわ。私はこれが身分相応なの。狂ったふりしてるのよ。見る人が見れば解るものね。咲夜は一発で解っ
たみたい。アイツは何処まで解っているのか知らないけれど、気遣ってはくれるし、私は幸せなのよ。
ちょ、ちょっと、泣かないでよ。ほら、ハンカチ。え、恐れ多い? 本当の主人はもしかしたら貴女じゃないかって?
馬鹿ね。そうならない為に、ここにいるのよ。いいから使いなさい。ああ、何よその顔。なんか忠誠心に満ち満ちてる
じゃない……ちょっと参るわ。
兎も角、宜しくね。なんだか貴女の事、気に入ったわ。そこまでキッツク忠誠心なんか示さなくていいってば。適当
で良い。敬うべきはご主人様。レミリア・スカーレットよ。そう。じゃあそろそろお仕事お願い。咲夜に言えば、新し
い石像発注してくれるから、頼んでおいて。え、頼むくらいなら壊さなければいいんじゃないかって? 駄目よ、私は
狂ってるんだから。だから貴女もね、他のメイドにあったらこう噂なさい「フランお嬢様は暴力的で、私は何処まで付
き合っていけるか不安だわ」って。そうすれば私の地位は保たれるの。私はキチガイ。アイツはご主人様。
そうだ、お茶もお願い。そこまで終わったら他のメイドと合流して掃除ね。妖精も大変だ。
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……貴女の弱点は、耳たぶね。違うの? ふぅん。見ない顔だけど、新人ね。私はパチュリー・ノーレッジ。ここの
主よ。パチェはだめだけど、パッチェ先生となら呼んでもいいわ。咲夜に申し付けられて掃除しにきた……はぁ。じゃ
あ、目に見える範囲の棚の埃落としと拭き掃除をお願いしようかしら。解らない事があったら、その辺りにいる小悪魔
を捕まえて聞いて。性癖がズレてて、気に入った妖精を色々な意味で食べかねないけれど、気にしたら負けよ。
うーん。それにしても、貴女面白そうね。妖精なんてそれこそ吐いて捨てる程居るけれど、ちょっと違う感じ。そう
だ、掃除なんてどうでも良いから、実験に付き合わない? あら素直ね、素直な子は好きよ。
実は今、新しい催眠術……って、引かないでよ。ちょっと妖精の生態を調べるだけなんだから。ほら、妖精って死ん
でも直ぐに転生するでしょう。しかも元の形で。その妖精が何を元にして構成された妖精かにも依るけれど、貴女、前
はどんな性格をしていたとか、気にならない? 自分は自分である、という確証はない筈よ。妖精は転生した時点で以
前の自分を失って再構築されるのだから。故に前の自分と今の自分が同一であるとは限らないの。
……嫌そうな顔するわね。解ったわ。じゃあ別な実験にしましょう。取り敢えずショーツを脱いで……って、ああ、
引かないで引かないで。如何わしい事は間に合ってるわ。妖精に手なんか出さないって、そう言う問題じゃない?
わがままねぇ。もう良いわ、好きに掃除して。BとCの棚は召喚系の書物が多いから、弄らない事。この前魔理沙が
……ああ、人間魔法使いなんだけどね、その棚の本を弄ってえらい目にあったのよ。その時の魔理沙の顔ったらないわ。
普段あんなにふてぶてしそうにしてるのに、半泣きでパチュリーたすけてぇーってふふふふふふふふふ。弾幕が強くて
も専門外の物は私の独壇場ね。それでね、魔理沙がこう言うのよ「助けてくれたら言う事聞くから」って!! もう私
大歓喜。粉砕玉砕大喝采よ。わざわざ契約書まで作ってそれに判を押させてから助けてあげたわ。ああ、魔理沙、また
その棚弄らないかしら。実はね、他の棚にも混ぜてあるのよ。迂闊に触れたりしたらさぁ大変。また私に助けを懇願す
るんだわ。くく、たまらないわねって、あら、ちょっと何処行くの? おーい。
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ああ、貴女は、さっきの。どう? 仕事は。大変でしょう。掃除は大して問題じゃないけど、寧ろ館の人物が……っ
て……ま、まぁ解らなくもないかな。それで、どうしたの? あ、休憩か。フランお嬢様のお付きを申し出るなんて、
肝が据わってるんだね。ううん。立派だよ。妖精なのに、不思議なのもいるんだ。
それにしても……何処かで見た顔じゃない……? さっき門を通った時も気になったけれど。そうだ、何時も貴女は、
確か、湖の上にいた……よね。氷精と戯れていたはず。その妖精が何故紅魔館のメイドなんて。ここに来るメイドと言
えば、お遊びか、お菓子目当てか、そのぐらいだよ。食べなくても生きていけるし。
……えぇ? 私が気になった? その、あらぬ事を聞くようだけれど……な、何で顔赤くするの。ちょ、おま、駄目
駄目、私そういうの興味ないから。ああ、私には心に決めた人が……え?
私の事を知っているかって、そりゃさっき言った通り。貴女は湖の妖精。氷精の友達。確か、大ちゃんとか呼ばれて
いた気がするけれど。
――記憶がないの?
成る程……じゃあ、一回死んでしまったのかも知れないね。それで紅魔館に来た、と。でもそれも最初言ったのと同
じで、ここで話してくれれば良いのに。わざわざ紅魔館のメイドになる必要も無いんじゃないかな。いやまぁ、人それ
ぞれだし、記憶が無いなら変な行動に出ても可笑しくない……うん? 私の顔だけ覚えていた? 何時も見ていたよう
な気がするって? だ、だから私そういう趣味はないって……そ、そんな顔しないでよ。ほら、向こうのメイドが笑っ
てるじゃない。ああもう、つまり、貴女は唯一残っていた私の顔をあてにして紅魔館に来たと。
そんなに親しい仲じゃなかったんだけどなぁ。覚えているなら氷精の方が記憶も濃いだろうに。うーん。憧れていた
んじゃないかって事? 私は貴女じゃあないしね。でも、そう言われるのはちょっと嬉しいかな。役立たずなんて叩か
れてばかりだし。
虹色の弾幕が凄い印象に残ってる、か。い、インパクトばっかりだけれどね……。そ、そんな誉めても何も出ないよ。
と、ところでお菓子食べる? うんうん。あ、出しちゃった。
……。ふぅん。貴女が貴女である事は、間違いないと思う。私の記憶にあるその「大ちゃん」は、貴女と同じ容姿を
していたよ。緑色の髪で、透明な羽をもった妖精。他の妖精よりも強くて大きい。間違いなく、貴女。
こうなると、私の専門分野じゃない。パチュリー様はどうだろうって……さっき実験させられそうになった? なら
好都合じゃない。後で行ってみると良いよ。事情は話しておくから。悪いようにはたぶん、されないと思う。多分。
親切? あ、あはは。立場の低い妖精も邪険に扱えない性格なのかなぁ。胸がドキドキしますって、だから、そうい
うのはダメだって……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
大妖精は、一つ大きな溜息を吐いて重い扉を押し開いた。
「何よ、また来たの?」
動かない大図書館は野暮ったそうな髪を撫でて振り返り、大妖精の顔を見る。その表情で、パチュリーはやっぱり、
と呟いた。
「だから最初に言ったじゃない。実験してあげるって」
「で、でも。ちょっと不安でしたし……」
「美鈴から話は聞いているわ。悪いようにはしない。ほら、ここに来て座って。最初から可笑しいと思ったのよ。貴
女みたいな、他の妖精より知性のある者が紅魔館でメイドだなんて。居なくもないのだけれど、他より力も強いみたい
だし。もしかしたら、そんな事なんじゃないだろうかと思ったの。力が強くて知性がある分、きっと前世が残ったのね。
不思議、ほんと不思議」
パチュリーは自分の椅子に大妖精を座らせて、くるくると振り子を目の前で振り始める。まったく聞いた事のないよ
うな言語が立て並べられると、その適当な音節音節で区切られるような話し声に、大妖精は段々と陶酔させられた。
「妖精は、脳で物を考えているのでは、ないわ。貴女はその、今ある、自然の中から、湧出した、自然そのもの、な
の。貴女を介して、貴女の記憶を止めた、自然を……そう、湖に溜め込まれた記憶を、引き出す」
「あっ……」
「貴女達妖精は、死なない。けれど、消滅して甦る、その過程で、余計なものが、省かれるわ。文字通りの、生まれ
変わり、なの。姿形、そのままで、同じ個体として、でも、別の物として、生まれ変わる。貴女は、勿論、他の妖精よ
り少し、頭が良いだけ、だけれど。でも、力があった。そして、強い分、なかなか死ぬ事も、またなかった。故に、記
憶は、本体を捨てきれず、一部だけ、残った」
ぼう、と。机の上にある水晶が光る。パチュリーは良し、と呟いて、大妖精をそのまま深い眠りへと誘う。催眠を受
けている本人は記憶など持っていない。思い出すというのは、大妖精の根幹にあるもの。大妖精を形作る湖から、それ
を引き出す、というものだ。
けれど、大妖精にはみえた気がする。
毎日、何事も無く過ごす日々を。氷精と戯れる日々を。
そしてなにより、遠くから赤毛の妖怪を、ただ羨ましく思い、見つめていた日々を。
そして自分が、誰に殺されたのか、を。
あるけれど、これが大まかなもの。ここで働く為に守るべき規約も幾つか存在する。まずお給料だけれど、これは無い
わ。朝と夜のご飯と寝床だけは用意してあげる。そうね、それが目的だものね。後、基本出入りは自由。何時入ってこ
ようと出て行こうと構わないけれど、シフトの関係があるから必ず私か美鈴に一言言って頂戴、怒らないから。後は、
入室禁止と書かれた場所への侵入は死罪。好奇心でもやめた方が良いわ。例え妖精でも苦しむように殺すってお嬢様が
言っていたから。そして最後は、そうね、これが一番大切だわ。
瀟洒であるように心がけなさい。
こればかりは言葉で説明しきれないわ。もしやる気があるなら、私の仕事振りを良く見ている事ね。一応自信がある
の。長い事ここでお仕事しているしね。ああ、そうだ。困った事があったら、周りに相談するなり、私に聞くなりして
ね。解らない事を解らないままにしていては、決して上達しないわ。何度でも構わない。怒ったりしないから。
じゃあ、早速館内説明をするわ。私に付いてきて。
ここは紅魔館のロビー。御館の顔となる部分だから、掃除は念入りにされるわ。この紅いカーペットに染みの一つで
も残さない事。窓はステンドグラスで替えがきかないから、絶対に割らない事。そのツボ触っちゃ駄目よ、それ一つで
幻想郷の土地三万坪くらい買えるわ。そう、ゆっくりと降ろして。OK、そうよ。じゃあ次ね。
紅魔館は理不尽に廊下が長いわ。これ私の所為だけれどね。うん? ああ、そういう能力なのよ。貴女の周りにもい
るでしょ、なんだかよくわかんない能力持った子。私のは強めだから。ま、それは良しとして、このロビー右手から続
く長い廊下は通称心臓破り。可笑しいでしょ、普通坂の事を言ったりするけれど、何でだと思う? 長いのよ。冗談じ
ゃなく。この下には図書館があって、その規格に合わせた分、何もない廊下がずっと続くの。だから大抵は左手から周
った方が、向こうへ行くには近いわ。奥にあるのは倉庫だけだし。でもココの主人はパーティー好きでね、しょっちゅ
うテーブルや椅子を引っ張り出すからココを使うのよ。左手から周ると、障害物が多くて逆にやり辛いから。
よし、じゃあその左手方向の説明をするわ、ついてきて頂戴。
こっちは長い廊下がない分、部屋が多いわ。厨房も食堂も遊技場も食糧倉庫も全部こっち。水周りも集中しているか
ら掃除は大変よ。たまに私が広げた空間のスキマがあったりして、神隠しになったりするけれど……まぁ一日二日する
と勝手に出てこれるから大丈夫、たぶん。そういえばあの子どこ行ったのかしら……あ、いやなんでも無いわ。そんな
目で見ないでよ。上司よ? そ、メイドは愛想が一番。笑っていれば大抵やり過ごせるわ。
こっちには地下への階段があるの。ちょっと降りてみましょうか。薄暗いでしょう。妖精の貴女は大丈夫でしょうけ
れど。えーとね、ほら、ここにある大きな扉があるでしょう。これが大図書館の一番入り口、二番三番はまた別の場所
に備え付けてあるわ。空間が弄ってあってね、一階、二階にも扉があるわ。でもたまに不調で神隠しに……なぁんて、
ちょっと脅かしただけよ。あんまりビクビクしちゃ駄目、それで無くとも貴女って妙に嗜虐心そそる顔してるんだから。
そして、この奥が、妹様のお部屋。フランドール・スカーレット様のお部屋よ。普段は大体ここに閉じ篭っているわ。
気紛れで外に出てきてメイドを苛めてみたりするけれど、友達が出来てからは大分変わったみたい。昔は気がついたら
メイドがニ、三人いなくなっていた、なんて事も多々あったけれど、今は実害もそうないわ。貴女、ここの担当してみ
る気ない? ああ、だから、そんな脅えないでよ。怖くないってば。たぶん。ふふ。
じゃあ次ね。階段を上がった先、ココには私の部屋と、仮眠室、客室、給湯室、第一、第二小図書館、後はちょっと
小洒落たカフェテラスなんかがあるわ。メイド達が屯している場所ね。貴女もここに良く来る事になると思うから、覚
えて置くと良いわ。それに自分が使うって解ったら綺麗にする気にもなるでしょう? お菓子なんかも自分達で作って
持ち寄ったりするから、皆と仲良くした方が得ね。ちなみに、ここには入室禁止の部屋があるわ。当然、私の部屋。間
違っても入らないように。一度ジャンケンで負けた子が罰ゲームで入ってきてね……そういえばその子と罰ゲームを強
いた子、最近見ないわ。だから気をつけてね? 紅魔館は悪魔の館だから。
そしてこの上。三階はお嬢様、レミリア・スカーレット様のお部屋。お掃除する為にたびたび出入りする事になる筈
だから、礼儀も一応弁えておいて頂戴。妖精とて礼儀さえ弁えて、吸血鬼を敬いさえすれば、優しくしてくれるわ。本
当に可愛いのよ、うちのご主人様は。愛くるしいあの笑顔なんて、是非見せてあげたいものね。寝顔なんてあーた、凄
いんだから。口の端からヨダレなんて垂らしてからにったくあぁもうなんなのよ畜生ふきふきしたい……って、アハ。
ごめんなさいね。兎に角、敬語とは言わないわ。丁寧な言葉遣いさえすれば、何も無い。後言われた事は取り敢えずハ
イと頷いて、私に相談なさい。無茶な注文をつけるのが趣味なの。ちゃんとそれを達成すれば誉めても貰えるわ。まぁ
大抵無理だけど。
あ、そうだ。ここにも入室禁止の部屋があるわ。お嬢様のお部屋の隣の部屋。ここは図書館の主、パチュリー・ノー
レッジ様の強固なロックと、五重六重のマジックトラップが設置してあるから、入れはしないだろうけど、近づかない
事ね。どんな目にあうか解らないわ。一度鍵を開ける程度の能力を持った妖精が入ってね……あ、その話は良いわね。
はぁ。これで館内は一通りかしら。一応希望は聞くわ。どこに配属して貰いたい? 貴女の能力は確かー、えー、弾
幕を張る程度の能力。そう、じゃあ警備に回って貰ってもいいわね。でも今は警備が間に合っているし、館内の掃除係
で、何処の部署か、ね。
まぁ一応門番に挨拶だけしておきましょうか。
はい、これがうちの門番様。紅美鈴よ。どうしたの、そんな顔赤くして。美鈴、この子に何かした? してない。は
はぁ……ふふ。駄目ね、絶対警備には配属してあげないわ。仕事中に色気づかれたらたまったもんじゃないもの。まぁ
仕事を早く終わらせて、その合間に会いに行くぐらいはいいでしょうね。だから頑張ってお掃除して頂戴。
何勝手に話を進めるなですって? 五月蝿いわね、面白きゃ良いのよ。これはレミリア・スカーレットお嬢様が決め
た厳粛なるルールなの。面白ければ良い。特に色恋沙汰は面白いったらないわよ。同性で種族も違う? 知らないわ。
美鈴、貴女何時から私に口答えするようになったの。立場はどっちが上だったかしら。え、私の方が職歴長い? そう
だったかしら……。細かい事気にしている内はやっぱり小物なのよ、美鈴。はいお終い。
どうかしら。ここまで観て回って、気に入った所はあった? ちなみに、妹様のお世話係は紅魔館内でも地位が高く
て、特別褒賞としてなんと、休憩時間がついてくるわ。あ、そういえば志望動機も聞いていなかったわね。どんな理由
でここへ来たのかしら。食事と寝床だけ、のようには、なんとなく見えないのよね。
……へぇ。あの子が気になるの。そう、なら決まりね。
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貴女が新しい子ね。あら礼儀正しい。妖精メイドでも礼儀を弁えているのね。実は三匹に一匹くらいしか頭を下げた
り跪いたりしないのよ。咲夜、教えたの? あらそう。じゃあ元から良い子なのね。
名前は聞かないわ。うちで働いて名前が上がったら、覚えてあげる。私はレミリア・スカーレット。ここの主様よ。
詳細については、メイド達から聞きなさい。どれほど素晴らしいご主人様なのか、きっと噂しているでしょうから。
咲夜、この子の部署は決まったの? え、自分から進んでフランの世話を? 奇特な妖精も居たものね。余り期待はし
ていないけれど、頑張って頂戴。うちの妹、すごいから。姉として忠告しておくけど、遊ぼうと言われて乗っかっちゃ
駄目よ。長生きしたいなら、なぁなぁでかわしなさい。
あら、自分から質問するような真似もしないのね。咲夜、偶には良いメイドを連れてくるのね。皆この位質が高けれ
ば貴女の負担も減るんでしょうけれど。うちは質より量だし。とはいえ、一匹ちゃんとしたのが居れば、二十匹分くら
いになるのがいい所ね。私からは以上。精々、うちの為に尽くして頂戴。
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見ない顔ね。新人かしら。そ、じゃあテキトウに宜しくね。あー、そうだ。さっきそっちの石像ぶっ壊しちゃったか
ら、片付けて。それが終わったらお茶を要れてきて。はぁ。ねぇ、私をみてどう思う? 怒らないわよ。その程度で怒
るのはアイツぐらいだわ。何? 可愛らしい? あはは、ありがと。
それでー? 自分から志願したんだって? 咲夜から聞いたわ。貴女がその新人でしょ? そうよね。一体どんな理
由があったら、悪名高い私のお世話なんて自分から申し出るのかしら。不思議でならないわ。だってそうでしょ? 私
は悪鬼羅刹と噂され、感情的で情緒不安定で、直ぐ物を壊すし妖精もキュッてしてドカーン。そんな悪魔の世話をした
がる妖精なんて、聞いた事ないわよ。今数匹私のお付きで世話をしているけど、全部余ってこっちに寄越されただけの
子達だし。
怖そうに見えない、か。解るの? ……なんだ、良い目するのね。掃除、後でいいわ。こっち来て。
遊ぼう、なんて言わないわ。お話を聞いて欲しいだけなの。人語も理解出来るでしょ。私に付いてるメイドは皆言葉
が微妙だし。貴女は他の子達より知性があるみたいね。元は何処に住んでいたの? 紅魔池の辺かもしれない? 曖昧
ね。でもそれならご近所じゃない。なんでわざわざメイドなんかになったのかしら。……あー、喋りたくないって顔。
いいわ、これから長い間一緒に居るんだから、その内で。でも志願した理由は気になるわ。
……え、何? 私の世話を引き受けると特典が付くって? あはははははっ!!
へぇ。で、その特典っていうのが、休憩? 休憩の為に私の世話って、よっぽど奇特な子ね。同じ事をレミリアに言
われた? なんだかんだ、姉妹なのよ。私ね、別にアイツの事嫌いじゃないわ。寧ろ愛しているもの。一応、これでも
弁えているの。館に主人が複数いると、どうなると思う? 争いになるのよ。本で沢山読んだから知ってるわ。だから
私はここでひっそりと暮らすの。たまに外に出てアイツを困らしてみたりしていれば、良いのよ。
別に辛くないわ。私はこれが身分相応なの。狂ったふりしてるのよ。見る人が見れば解るものね。咲夜は一発で解っ
たみたい。アイツは何処まで解っているのか知らないけれど、気遣ってはくれるし、私は幸せなのよ。
ちょ、ちょっと、泣かないでよ。ほら、ハンカチ。え、恐れ多い? 本当の主人はもしかしたら貴女じゃないかって?
馬鹿ね。そうならない為に、ここにいるのよ。いいから使いなさい。ああ、何よその顔。なんか忠誠心に満ち満ちてる
じゃない……ちょっと参るわ。
兎も角、宜しくね。なんだか貴女の事、気に入ったわ。そこまでキッツク忠誠心なんか示さなくていいってば。適当
で良い。敬うべきはご主人様。レミリア・スカーレットよ。そう。じゃあそろそろお仕事お願い。咲夜に言えば、新し
い石像発注してくれるから、頼んでおいて。え、頼むくらいなら壊さなければいいんじゃないかって? 駄目よ、私は
狂ってるんだから。だから貴女もね、他のメイドにあったらこう噂なさい「フランお嬢様は暴力的で、私は何処まで付
き合っていけるか不安だわ」って。そうすれば私の地位は保たれるの。私はキチガイ。アイツはご主人様。
そうだ、お茶もお願い。そこまで終わったら他のメイドと合流して掃除ね。妖精も大変だ。
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……貴女の弱点は、耳たぶね。違うの? ふぅん。見ない顔だけど、新人ね。私はパチュリー・ノーレッジ。ここの
主よ。パチェはだめだけど、パッチェ先生となら呼んでもいいわ。咲夜に申し付けられて掃除しにきた……はぁ。じゃ
あ、目に見える範囲の棚の埃落としと拭き掃除をお願いしようかしら。解らない事があったら、その辺りにいる小悪魔
を捕まえて聞いて。性癖がズレてて、気に入った妖精を色々な意味で食べかねないけれど、気にしたら負けよ。
うーん。それにしても、貴女面白そうね。妖精なんてそれこそ吐いて捨てる程居るけれど、ちょっと違う感じ。そう
だ、掃除なんてどうでも良いから、実験に付き合わない? あら素直ね、素直な子は好きよ。
実は今、新しい催眠術……って、引かないでよ。ちょっと妖精の生態を調べるだけなんだから。ほら、妖精って死ん
でも直ぐに転生するでしょう。しかも元の形で。その妖精が何を元にして構成された妖精かにも依るけれど、貴女、前
はどんな性格をしていたとか、気にならない? 自分は自分である、という確証はない筈よ。妖精は転生した時点で以
前の自分を失って再構築されるのだから。故に前の自分と今の自分が同一であるとは限らないの。
……嫌そうな顔するわね。解ったわ。じゃあ別な実験にしましょう。取り敢えずショーツを脱いで……って、ああ、
引かないで引かないで。如何わしい事は間に合ってるわ。妖精に手なんか出さないって、そう言う問題じゃない?
わがままねぇ。もう良いわ、好きに掃除して。BとCの棚は召喚系の書物が多いから、弄らない事。この前魔理沙が
……ああ、人間魔法使いなんだけどね、その棚の本を弄ってえらい目にあったのよ。その時の魔理沙の顔ったらないわ。
普段あんなにふてぶてしそうにしてるのに、半泣きでパチュリーたすけてぇーってふふふふふふふふふ。弾幕が強くて
も専門外の物は私の独壇場ね。それでね、魔理沙がこう言うのよ「助けてくれたら言う事聞くから」って!! もう私
大歓喜。粉砕玉砕大喝采よ。わざわざ契約書まで作ってそれに判を押させてから助けてあげたわ。ああ、魔理沙、また
その棚弄らないかしら。実はね、他の棚にも混ぜてあるのよ。迂闊に触れたりしたらさぁ大変。また私に助けを懇願す
るんだわ。くく、たまらないわねって、あら、ちょっと何処行くの? おーい。
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ああ、貴女は、さっきの。どう? 仕事は。大変でしょう。掃除は大して問題じゃないけど、寧ろ館の人物が……っ
て……ま、まぁ解らなくもないかな。それで、どうしたの? あ、休憩か。フランお嬢様のお付きを申し出るなんて、
肝が据わってるんだね。ううん。立派だよ。妖精なのに、不思議なのもいるんだ。
それにしても……何処かで見た顔じゃない……? さっき門を通った時も気になったけれど。そうだ、何時も貴女は、
確か、湖の上にいた……よね。氷精と戯れていたはず。その妖精が何故紅魔館のメイドなんて。ここに来るメイドと言
えば、お遊びか、お菓子目当てか、そのぐらいだよ。食べなくても生きていけるし。
……えぇ? 私が気になった? その、あらぬ事を聞くようだけれど……な、何で顔赤くするの。ちょ、おま、駄目
駄目、私そういうの興味ないから。ああ、私には心に決めた人が……え?
私の事を知っているかって、そりゃさっき言った通り。貴女は湖の妖精。氷精の友達。確か、大ちゃんとか呼ばれて
いた気がするけれど。
――記憶がないの?
成る程……じゃあ、一回死んでしまったのかも知れないね。それで紅魔館に来た、と。でもそれも最初言ったのと同
じで、ここで話してくれれば良いのに。わざわざ紅魔館のメイドになる必要も無いんじゃないかな。いやまぁ、人それ
ぞれだし、記憶が無いなら変な行動に出ても可笑しくない……うん? 私の顔だけ覚えていた? 何時も見ていたよう
な気がするって? だ、だから私そういう趣味はないって……そ、そんな顔しないでよ。ほら、向こうのメイドが笑っ
てるじゃない。ああもう、つまり、貴女は唯一残っていた私の顔をあてにして紅魔館に来たと。
そんなに親しい仲じゃなかったんだけどなぁ。覚えているなら氷精の方が記憶も濃いだろうに。うーん。憧れていた
んじゃないかって事? 私は貴女じゃあないしね。でも、そう言われるのはちょっと嬉しいかな。役立たずなんて叩か
れてばかりだし。
虹色の弾幕が凄い印象に残ってる、か。い、インパクトばっかりだけれどね……。そ、そんな誉めても何も出ないよ。
と、ところでお菓子食べる? うんうん。あ、出しちゃった。
……。ふぅん。貴女が貴女である事は、間違いないと思う。私の記憶にあるその「大ちゃん」は、貴女と同じ容姿を
していたよ。緑色の髪で、透明な羽をもった妖精。他の妖精よりも強くて大きい。間違いなく、貴女。
こうなると、私の専門分野じゃない。パチュリー様はどうだろうって……さっき実験させられそうになった? なら
好都合じゃない。後で行ってみると良いよ。事情は話しておくから。悪いようにはたぶん、されないと思う。多分。
親切? あ、あはは。立場の低い妖精も邪険に扱えない性格なのかなぁ。胸がドキドキしますって、だから、そうい
うのはダメだって……。
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大妖精は、一つ大きな溜息を吐いて重い扉を押し開いた。
「何よ、また来たの?」
動かない大図書館は野暮ったそうな髪を撫でて振り返り、大妖精の顔を見る。その表情で、パチュリーはやっぱり、
と呟いた。
「だから最初に言ったじゃない。実験してあげるって」
「で、でも。ちょっと不安でしたし……」
「美鈴から話は聞いているわ。悪いようにはしない。ほら、ここに来て座って。最初から可笑しいと思ったのよ。貴
女みたいな、他の妖精より知性のある者が紅魔館でメイドだなんて。居なくもないのだけれど、他より力も強いみたい
だし。もしかしたら、そんな事なんじゃないだろうかと思ったの。力が強くて知性がある分、きっと前世が残ったのね。
不思議、ほんと不思議」
パチュリーは自分の椅子に大妖精を座らせて、くるくると振り子を目の前で振り始める。まったく聞いた事のないよ
うな言語が立て並べられると、その適当な音節音節で区切られるような話し声に、大妖精は段々と陶酔させられた。
「妖精は、脳で物を考えているのでは、ないわ。貴女はその、今ある、自然の中から、湧出した、自然そのもの、な
の。貴女を介して、貴女の記憶を止めた、自然を……そう、湖に溜め込まれた記憶を、引き出す」
「あっ……」
「貴女達妖精は、死なない。けれど、消滅して甦る、その過程で、余計なものが、省かれるわ。文字通りの、生まれ
変わり、なの。姿形、そのままで、同じ個体として、でも、別の物として、生まれ変わる。貴女は、勿論、他の妖精よ
り少し、頭が良いだけ、だけれど。でも、力があった。そして、強い分、なかなか死ぬ事も、またなかった。故に、記
憶は、本体を捨てきれず、一部だけ、残った」
ぼう、と。机の上にある水晶が光る。パチュリーは良し、と呟いて、大妖精をそのまま深い眠りへと誘う。催眠を受
けている本人は記憶など持っていない。思い出すというのは、大妖精の根幹にあるもの。大妖精を形作る湖から、それ
を引き出す、というものだ。
けれど、大妖精にはみえた気がする。
毎日、何事も無く過ごす日々を。氷精と戯れる日々を。
そしてなにより、遠くから赤毛の妖怪を、ただ羨ましく思い、見つめていた日々を。
そして自分が、誰に殺されたのか、を。
いやはや、一本とられました
>皆と仲良くした方が特ね
得では?
>私の土壇場ね
独壇場(独擅場)では?
>ここで話てくれれば
しが抜けているのでは?
>胸がドキドキしまって
すが抜けているのでしょうか?文が微妙に変な気が…
外道なパチェと知的なフランドール様が好きだ。
妹様が健気だなぁ
とか思っていたら、背筋に寒気が!
侵入者は一体誰なんでしょうね
紅魔館の情景が浮かんできてよかったです。
美鈴に殺されて、それで美鈴や虹色の弾幕が印象に残った、とか?
う~ん、これは続きを期待していいのか、私の理解が足らんのか
図書館コンビ、危険すぎ!
"何かあってもすぐ復活"が当たり前な妖精の場合、自分を殺した相手を、たとえ思い出したとしても、
普通に「あ、そうだったんだ。ん~…まいっか。」で済ましてしまう気がする…
とりあえずファンファーレの嵐を送っときますwww
ブラボーブラボー
下にあるようにすぐ復活できる上、以前の記憶も戻ってるみたいだし
でも、少しだけゾクッとしたw
そうかそうだったのか