「さてと・・・・」
カメラと手帳を手に持ち、一度バサッと羽を広げた。
今日はひとつ取材したいところがある。
いつものふざけ半分ではない。
ゴシップを書くつもりはない。
一つの真実を、私が知りたいがための取材だ。
「準備は万端ですね」
扉を開いた。
初夏にしては強い日差しが降り注ぐ、雲ひとつない青空。
風は穏やかなそよ風。
取材日和である。
「いざ、魔法の森へ」
黒翼をはためかせ、射命丸文は暗い森へ向かった。
魔法の森は昼でも薄暗い。
大木が繁茂し、魔力のある植物が瘴気を出し靄がかかっている。
文は、ほとんど地面に近いところをふよふよと飛んで移動していた。
「ここまで飛びづらいとは思いませんでした・・・」
文は目当ての人物の家を知らないので、こうして地道に勘を頼りに奥に進んでいるのだ。
空を飛んで森の上から見る手も考えたが、大木が邪魔で全く見えないから困りものだ。
かといって地面を歩くのは、文の下駄ではあまりにも危ない。
仕方なく地面すれすれを漂うように飛んでいるのだ。
目的の場所は分かっているのに、それがどこにあるのか分からないというのは
非常にもどかしいものである。
ぷしゅぅ
毒々しい色のきのこが胞子だか瘴気だかをまき散らす。
「あの人は人間のくせにこんな危なそうなものを扱っているんですね・・・」
明らかに有毒そうな瘴気を吸わないように、大げさに口元を覆った。
「おいおいそんな扱いしてやるなよ。毒さえ抜けばそいつはいい魔力源なんだからな」
ふいに文の前から声がする。
少女特有の高い声に、生意気な喋り方。
間違えるわけもない。
「久しぶりだな、文。珍しいなこんなところに来るなんて。アリスの家ならもう少し奥だぜ?」
白黒の普通の魔女、霧雨魔理沙この人である。
もちろん文が探し求めていた相手も、この魔理沙なわけである。
「まぁぁぁぁぁぁりさぁぁぁぁぁっぁあああああ!!!」
見つけることが困難かと思われた相手を見つけることが出来た喜びと、いつものスピードを出せずふよふよと漂っていたためのストレスで。
文は魔理沙につっこむことにした。
もちろん魔理沙はたまったものではないので
「うぎゃあああああああ!?」
とりあえず箒をひっつかんで逃げることにした。
いくら文が幻想郷最速といえど、魔理沙も元幻想郷最速といわれた人間だ。
さらにこの森は魔理沙の庭のようなもの。
地の利を生かし、文の半狂乱のアタックから逃れようとした。
「待ちなさい魔理沙!私はあなたとお話がしたいのですよ!」
「そんな殺気立った勢いで言われて待てる奴がいるかぁ!」
羽が木々に当たって痛いがそんなこと言ってる場合ではない。
これを逃せば手遅れになるかもしれないのだから。
ふと、視界が広くなった。
繁茂していた木々が急に無くなり、小さな広場ができていた。
そこに小さな家がひとつ。
これは魔理沙の家だろうか。
それともさっき言っていたアリスの家なのだろうか。
どこかに隠れているのか、魔理沙の姿が見えなくなってしまっていた。
少し焦った文は家の上から探してやろうと、追いかけていた勢いのまま屋根の方に向かうことにした。
「文危ない!来るな!」
後ろから声がした。
声に導かれるままに後ろを振り返ろうとしたら、
「うあっ!?」
羽に激痛が走った。
何かにからまったように身動きが取れない。
体勢を整えられずに文はそのまま屋根から落ちることになった。
羽から走る激痛と、衝撃が文の意識をぬぐい去った。
「あややや・・・?」
「おう、気がついたか」
気がつくと文は、白いベットで眠っていた。
周りを見まわしてみると、大小さまざまなもので散らかっていた。
おそらくここは、魔理沙の家なのだろう。
体を動かすと走る激痛に顔をしかめた。
「すまないな、鳥捕獲用の罠を仕掛けていたんだが・・・はずすのを忘れててな」
頭を掻き、申し訳なさそうにうつむく魔理沙が横に座っていた。
「とりあえず羽しか目立ったけがはないからな。全身の打身はお前ならすぐに治るだろう」
少し羽を広げてみると、右の翼に白い包帯が巻かれていた。
血がにじんでいるところをみると、かなり深い傷なのかもしれない。
まあ罠の糸が食い込んだのだから当たり前なのかもしれないが。
「あややー・・・すみません、お手数をかけてしまって」
さすがに押しかけた身分なので申し訳なくなってくる。
そして鳥の罠にかかった自分が猛烈に恥ずかしかった。
「んあ?いいぜ私も悪かったしな。それに文が罠にかかるなんて面白いところに遭遇できたんだから儲けもんだろ?」
かかっと快活に笑いながらそう言った。
そのまま文と魔理沙は2,3くだらない話をしながら少し笑いあった。
魔理沙が茶を入れてきて、それに文がお礼を言った。
そして一口すすって、
「では、本題に入りたいんですがいいですか?」
そう切り出した。
魔理沙も一口すすると、観念したというような表情を見せた。
「お前が来たからそうだろうと思ったよ。相変わらず耳が早いな」
もう一度魔理沙は立ち上がって台所へ。
茶菓子を持ってきて、自分の座っていた椅子と文の寝ているベットの間に小さい机を置いた。
魔理沙は椅子に座ると、黙って文の方を見た。
その目に映るものは
たとえば少しの好奇心であったり、秘密を喋ってしまいたいようないたずらのような気持ちだったり。
しかしその奥に沈んで映っているものは、諦めと暗い虚無。
(ああやはり・・・)
文の考えは間違えていないようだ。
少しの勇気を振り絞るために、小さく深呼吸をした。
息を吐くと同時に、目を見て口を開いた。
「魔理沙、あなた死ぬつもりですか?」
「ああ、そうだよ」
あっさりと答えた魔理沙と文の間に、風が吹いたような気がした。
next...
カメラと手帳を手に持ち、一度バサッと羽を広げた。
今日はひとつ取材したいところがある。
いつものふざけ半分ではない。
ゴシップを書くつもりはない。
一つの真実を、私が知りたいがための取材だ。
「準備は万端ですね」
扉を開いた。
初夏にしては強い日差しが降り注ぐ、雲ひとつない青空。
風は穏やかなそよ風。
取材日和である。
「いざ、魔法の森へ」
黒翼をはためかせ、射命丸文は暗い森へ向かった。
魔法の森は昼でも薄暗い。
大木が繁茂し、魔力のある植物が瘴気を出し靄がかかっている。
文は、ほとんど地面に近いところをふよふよと飛んで移動していた。
「ここまで飛びづらいとは思いませんでした・・・」
文は目当ての人物の家を知らないので、こうして地道に勘を頼りに奥に進んでいるのだ。
空を飛んで森の上から見る手も考えたが、大木が邪魔で全く見えないから困りものだ。
かといって地面を歩くのは、文の下駄ではあまりにも危ない。
仕方なく地面すれすれを漂うように飛んでいるのだ。
目的の場所は分かっているのに、それがどこにあるのか分からないというのは
非常にもどかしいものである。
ぷしゅぅ
毒々しい色のきのこが胞子だか瘴気だかをまき散らす。
「あの人は人間のくせにこんな危なそうなものを扱っているんですね・・・」
明らかに有毒そうな瘴気を吸わないように、大げさに口元を覆った。
「おいおいそんな扱いしてやるなよ。毒さえ抜けばそいつはいい魔力源なんだからな」
ふいに文の前から声がする。
少女特有の高い声に、生意気な喋り方。
間違えるわけもない。
「久しぶりだな、文。珍しいなこんなところに来るなんて。アリスの家ならもう少し奥だぜ?」
白黒の普通の魔女、霧雨魔理沙この人である。
もちろん文が探し求めていた相手も、この魔理沙なわけである。
「まぁぁぁぁぁぁりさぁぁぁぁぁっぁあああああ!!!」
見つけることが困難かと思われた相手を見つけることが出来た喜びと、いつものスピードを出せずふよふよと漂っていたためのストレスで。
文は魔理沙につっこむことにした。
もちろん魔理沙はたまったものではないので
「うぎゃあああああああ!?」
とりあえず箒をひっつかんで逃げることにした。
いくら文が幻想郷最速といえど、魔理沙も元幻想郷最速といわれた人間だ。
さらにこの森は魔理沙の庭のようなもの。
地の利を生かし、文の半狂乱のアタックから逃れようとした。
「待ちなさい魔理沙!私はあなたとお話がしたいのですよ!」
「そんな殺気立った勢いで言われて待てる奴がいるかぁ!」
羽が木々に当たって痛いがそんなこと言ってる場合ではない。
これを逃せば手遅れになるかもしれないのだから。
ふと、視界が広くなった。
繁茂していた木々が急に無くなり、小さな広場ができていた。
そこに小さな家がひとつ。
これは魔理沙の家だろうか。
それともさっき言っていたアリスの家なのだろうか。
どこかに隠れているのか、魔理沙の姿が見えなくなってしまっていた。
少し焦った文は家の上から探してやろうと、追いかけていた勢いのまま屋根の方に向かうことにした。
「文危ない!来るな!」
後ろから声がした。
声に導かれるままに後ろを振り返ろうとしたら、
「うあっ!?」
羽に激痛が走った。
何かにからまったように身動きが取れない。
体勢を整えられずに文はそのまま屋根から落ちることになった。
羽から走る激痛と、衝撃が文の意識をぬぐい去った。
「あややや・・・?」
「おう、気がついたか」
気がつくと文は、白いベットで眠っていた。
周りを見まわしてみると、大小さまざまなもので散らかっていた。
おそらくここは、魔理沙の家なのだろう。
体を動かすと走る激痛に顔をしかめた。
「すまないな、鳥捕獲用の罠を仕掛けていたんだが・・・はずすのを忘れててな」
頭を掻き、申し訳なさそうにうつむく魔理沙が横に座っていた。
「とりあえず羽しか目立ったけがはないからな。全身の打身はお前ならすぐに治るだろう」
少し羽を広げてみると、右の翼に白い包帯が巻かれていた。
血がにじんでいるところをみると、かなり深い傷なのかもしれない。
まあ罠の糸が食い込んだのだから当たり前なのかもしれないが。
「あややー・・・すみません、お手数をかけてしまって」
さすがに押しかけた身分なので申し訳なくなってくる。
そして鳥の罠にかかった自分が猛烈に恥ずかしかった。
「んあ?いいぜ私も悪かったしな。それに文が罠にかかるなんて面白いところに遭遇できたんだから儲けもんだろ?」
かかっと快活に笑いながらそう言った。
そのまま文と魔理沙は2,3くだらない話をしながら少し笑いあった。
魔理沙が茶を入れてきて、それに文がお礼を言った。
そして一口すすって、
「では、本題に入りたいんですがいいですか?」
そう切り出した。
魔理沙も一口すすると、観念したというような表情を見せた。
「お前が来たからそうだろうと思ったよ。相変わらず耳が早いな」
もう一度魔理沙は立ち上がって台所へ。
茶菓子を持ってきて、自分の座っていた椅子と文の寝ているベットの間に小さい机を置いた。
魔理沙は椅子に座ると、黙って文の方を見た。
その目に映るものは
たとえば少しの好奇心であったり、秘密を喋ってしまいたいようないたずらのような気持ちだったり。
しかしその奥に沈んで映っているものは、諦めと暗い虚無。
(ああやはり・・・)
文の考えは間違えていないようだ。
少しの勇気を振り絞るために、小さく深呼吸をした。
息を吐くと同時に、目を見て口を開いた。
「魔理沙、あなた死ぬつもりですか?」
「ああ、そうだよ」
あっさりと答えた魔理沙と文の間に、風が吹いたような気がした。
next...
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