紅い霧の異変から早数年程が経とうとしていた。時と共に紅魔館は幻想郷に馴染んでいき、主君が妹であるフランドール・スカーレットも、徐々にではあるが力の制御を覚え、他の妖怪や人間達とも必死に馴染もうとしていた。
気が狂れている、と言われていた曾ての面影は大変貌し、微笑ましくもある、見た目相応の少女らしいフランドールが其処に居た。
そんな或る日、彼女はふと思考に嵌る。
――何故、今私は生きている?
決して今在る事が不満ではない。唯の哲学的な戯れだったのかもしれない。
だが、それを投げ掛けた彼女は、自分自身で気付いてしまったのだ。
――私は生かされていたのだ。
巫女や魔術師と出会う前、彼女は気が狂れていると言われ、490年以上幽閉されていたのだ。だが、何故幽閉だったのか? そこまで危険な存在なら、殺せば良い。
――でも、あいつは……お姉様は、それをしなかった。
そして時間と共に成熟した思考が、結論を導き始める。そして、フランドールの意識が奪われるのは、それと同時の出来事であった。
微かに残った耳に、「ごめんね」という声が微かに届き。それが錯覚かどうか確かめる術も無いまま、世界を閉じた。
――
「此処は……なんで……」
瞳の映像は、忌々しい記憶を無理やり引き摺り出す。
映ったは、『自分の部屋』。そして其処にはよく知った影がひとつ在った。
「……フラン」
――止めて。言わないで。
その制止は、慄きを覚えたフランドールの声になる事は無く。
「運命が視えたの」
何処か淋しそうに、レミリアは続ける。
「怖いの。また貴女が何処かへ行ってしまいそうで」
――それ以上は――
「止めてよお姉様!」
レミリアが妹の名を呼び返すのと、フランドールが姉の『名』を叫んだのは同時であった。
「ふざけないでよお姉様……レミリア姉様!!」
レミリアは妹に慄くと同時に、何かを射貫かれたような。そんな顔を浮かべた。今のフランドールには、それが何故かをよく理解できた。
「……レミリア姉様が私を大事に思ってくれてたのは解る。だから私を『幽閉』した。そうでしょ?」
返答を燻るレミリアに対して、怒りか、哀れみか、愛情か。或いはその全てなのか。感情を混ぜた声と表情で、フランドールは語り掛ける。
「昔の私は直ぐ何でも壊しちゃう。今以上に話す事、喋る事が苦手。壊して、こわして、コワシて……。でも、そんな私を、レミリア姉様は好きで居てくれたのでしょ?」
「うん……」
「だから、今更それを恨むのは馬鹿馬鹿しいと、暫く『上』に出て解ったの。だからこそ聞かせて欲しいの」
一息吐き、改めて口調を強める。
「何故、また此処に連れてきたの?」
――本当は理由なんて解ってる。でも、私はお姉様の口からどうしても聴きたかったのかも知れない。
「……貴女は私の大切な、ただ一人の家族。ただ単に守りたかったの。でもどうしていいか解らなくて。あの頃はスカーレット家としての威厳もあったから、それを損ねる訳にもいかなかった」
「続けて」
「だから、私は閉じ込めた。閉じ込めてる間も、本当は心配してた。いつしか、貴方に思いを馳せる様になった」
「えぇ」
「……咲夜は私の事をよく理解して、公私拘らず私に尽くしてくれた。でも足りなかった。貴方を求めていた」
「……」
「どうしていいか判らなくて。そうしてる裡に、霊夢と魔理沙に先を越されてしまったの。貴方の元気な姿を見れて、最初はとても嬉しかった」
「うん」
「……でも、何でしょうね。貴方が色んな人に笑顔を見せる度に、段々私は心臓が締め付けられるようになったの」
「……だから、また酷い事をしようとしたの?」
「そんなつもりじゃなかったの……全部私の我儘だった。許しを請うつもりはないわ」
その一言で、フランドールの瞳の色が変わった。
「最後の台詞、私もそのまま言わせて貰うわ」
とても慈悲を含んだ色に。
「……大丈夫、何処にも行かないわ」
ぽふっと軽い音を立てながら。
「行く時はレミリア姉様も一緒なんだからね」
姉妹は抱擁を交わした。
「……フラン、貴方こんなにも暖かかったのね」
「ううん、レミリア姉様の方が暖かいわ」
――今なら、素直に言えるかな。
「こんなどうしようもない私を生かしてくれてありがとう。好きよ、レミリア姉様」
気が狂れている、と言われていた曾ての面影は大変貌し、微笑ましくもある、見た目相応の少女らしいフランドールが其処に居た。
そんな或る日、彼女はふと思考に嵌る。
――何故、今私は生きている?
決して今在る事が不満ではない。唯の哲学的な戯れだったのかもしれない。
だが、それを投げ掛けた彼女は、自分自身で気付いてしまったのだ。
――私は生かされていたのだ。
巫女や魔術師と出会う前、彼女は気が狂れていると言われ、490年以上幽閉されていたのだ。だが、何故幽閉だったのか? そこまで危険な存在なら、殺せば良い。
――でも、あいつは……お姉様は、それをしなかった。
そして時間と共に成熟した思考が、結論を導き始める。そして、フランドールの意識が奪われるのは、それと同時の出来事であった。
微かに残った耳に、「ごめんね」という声が微かに届き。それが錯覚かどうか確かめる術も無いまま、世界を閉じた。
――
「此処は……なんで……」
瞳の映像は、忌々しい記憶を無理やり引き摺り出す。
映ったは、『自分の部屋』。そして其処にはよく知った影がひとつ在った。
「……フラン」
――止めて。言わないで。
その制止は、慄きを覚えたフランドールの声になる事は無く。
「運命が視えたの」
何処か淋しそうに、レミリアは続ける。
「怖いの。また貴女が何処かへ行ってしまいそうで」
――それ以上は――
「止めてよお姉様!」
レミリアが妹の名を呼び返すのと、フランドールが姉の『名』を叫んだのは同時であった。
「ふざけないでよお姉様……レミリア姉様!!」
レミリアは妹に慄くと同時に、何かを射貫かれたような。そんな顔を浮かべた。今のフランドールには、それが何故かをよく理解できた。
「……レミリア姉様が私を大事に思ってくれてたのは解る。だから私を『幽閉』した。そうでしょ?」
返答を燻るレミリアに対して、怒りか、哀れみか、愛情か。或いはその全てなのか。感情を混ぜた声と表情で、フランドールは語り掛ける。
「昔の私は直ぐ何でも壊しちゃう。今以上に話す事、喋る事が苦手。壊して、こわして、コワシて……。でも、そんな私を、レミリア姉様は好きで居てくれたのでしょ?」
「うん……」
「だから、今更それを恨むのは馬鹿馬鹿しいと、暫く『上』に出て解ったの。だからこそ聞かせて欲しいの」
一息吐き、改めて口調を強める。
「何故、また此処に連れてきたの?」
――本当は理由なんて解ってる。でも、私はお姉様の口からどうしても聴きたかったのかも知れない。
「……貴女は私の大切な、ただ一人の家族。ただ単に守りたかったの。でもどうしていいか解らなくて。あの頃はスカーレット家としての威厳もあったから、それを損ねる訳にもいかなかった」
「続けて」
「だから、私は閉じ込めた。閉じ込めてる間も、本当は心配してた。いつしか、貴方に思いを馳せる様になった」
「えぇ」
「……咲夜は私の事をよく理解して、公私拘らず私に尽くしてくれた。でも足りなかった。貴方を求めていた」
「……」
「どうしていいか判らなくて。そうしてる裡に、霊夢と魔理沙に先を越されてしまったの。貴方の元気な姿を見れて、最初はとても嬉しかった」
「うん」
「……でも、何でしょうね。貴方が色んな人に笑顔を見せる度に、段々私は心臓が締め付けられるようになったの」
「……だから、また酷い事をしようとしたの?」
「そんなつもりじゃなかったの……全部私の我儘だった。許しを請うつもりはないわ」
その一言で、フランドールの瞳の色が変わった。
「最後の台詞、私もそのまま言わせて貰うわ」
とても慈悲を含んだ色に。
「……大丈夫、何処にも行かないわ」
ぽふっと軽い音を立てながら。
「行く時はレミリア姉様も一緒なんだからね」
姉妹は抱擁を交わした。
「……フラン、貴方こんなにも暖かかったのね」
「ううん、レミリア姉様の方が暖かいわ」
――今なら、素直に言えるかな。
「こんなどうしようもない私を生かしてくれてありがとう。好きよ、レミリア姉様」
台詞に合いの手を入れるのが、動画というか、洋画みたいで読みやすい……場面を想像しやすかったです。
感情の揺れ動きは、ちょっと激しかったな。
お二方の仰るとおり、もう少し繊細で、唐突でない描写は今後の課題になりそうです。
>>1 yoseyさん
愛の形もそれぞれという事で。
読みやすいと言っていただけたのは本当に有難いです。