Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

印象のふたり歩き

2022/07/30 18:13:04
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 ――チリンチリン。
「毎度だよ店長。你好! ……ああ、やっとたどり着いた」
 今日も今日とて宇佐見菫子、彼女がやってきた。ここ香霖堂に似つかわしい姿で、両手にいくつかの道具を携えている。どんな予定だろうか。最近、彼女には香霖堂の一部を貸し、彼女自身の店として使わせている。手荷物に関しては自分の店に商品として並べるかもしれないし、僕に売りつけるためかもしれない。はたして、どうしたものか。
「ある程度の大きさのものを持つと、飛ぶとき目の前が塞がるから大変だったよ」
「そういうものか。それは大変だったね……って、こっちに持ってくるのかい」
「うんうん。霖之助さんにお話がねー?」
 そう言いつつ彼女はカウンターのうえに手荷物をどかどかと置いた。物はふたつあるようだ。一方は見た目からして機械ではあるが、僕の目から『名前は3Dプリンター。用途は色々できる』とあり、つかみどころがない。それから、もうひとつは僕のお店が所有する看板には見える。その大きさは手のひらより少し大きい。ちなみに香霖堂の店舗に掛けた看板は、大の大人ふたり分の長さより大きい。数字で表すなら横幅一丈五尺ほどになる。
「事後報告で悪いんだけど『香霖堂』の看板、勝手に使っちゃった。ごめんなさい」
「うん。そういう理由で菫子君は店の看板を持っているんだね? 聞きたいことはあるが先に叱っておこう。きちんと次からは僕に話を持ち掛けるように。肝に銘じておくんだよ?」
「はぁい、ごめんなさぁい。こっちに来たとき博麗神社に寄ることより守るから」
「恐ろしいほど頼りない文言だな。まあいい。それより、その看板は見た目こそ僕のお店で使っているものだが、本物? といっていいのか。ずいぶんと小さくなった看板を持っているんだね」
 板状のものに香霖堂という文字が記されている。問題は同一のものかどうかだが、香霖堂の看板ながら毎日見ているわけではない。それゆえ、大きさに目をつむったのなら本物と区別つかない錯覚に陥られる。
「レプリカだよ。さすがに盗んでいかないって。屋号は借りていったけど」
「魔理沙みたいことを言うんだな。君は外から来た人間のはずなのに、すっかり幻想郷に染まってきたようだ」
「そゆ自覚ないけど……そなんだ。ポジティブ! あ、この要らなくなった看板使う? 雀の涙ほどのご利益があるかもだよ」
 すぐに看板とご利益が結びつくことはない。また彼女なりの考えがあるのだろう。
「どんな恩恵を受けられるか、できればストーリー立てて教えてほしい」
「ストーリー? 急にハードルが! えぇーっと……高校の文化祭で出店したときに使った看板で? そこそこ捌けたから霖之助さんがあやかれたらってだけだよ」
「君の言う文化祭とは? なんなのか説明してくれると助かる」
「昔でいう同人みたいなの? 文化祭の日に学校中でクラスごと部活ごと、まとまって出しものを扱うの」
「なるほど。それなら、君が所属する秘封俱楽部の看板が出てくるはずだが、そこでなぜ僕のお店が持ち出されるんだい?」
「いつも貸してもらってるスペースでそこそこ売りが出てるでしょ? それで逆に、外で秘封俱楽部を看板にするんじゃあ自信なくなるなぁってことで言いかたは悪いけど、幻想郷では人気ない香霖堂の看板をね? 外で借りることで売り上げアップを狙って……ごめんなさい」
「人気がないと言ったことに謝っているのか、勝手に借りたことに謝っているのかは不問としよう。それより、また菫子君はそこそことはいえ、僕の看板を使っても売り上げを伸ばしたのかい。たしかにあやかってほしい意図なら判る」
「うんうん。分かってくれた? 嬉しい! ってことで……ジャーン!」
 何がジャーンなのか菫子君に着目すると、彼女は3Dプリンターのドアを開き、僕に中身が見えるよう角度を調整していた。
 3Dプリンターの中には、これまた名状しがたいものが複数入っている。
 装飾が凝っているのか凝っていないのかは、一見した限り定かではない。そして、僕の目は『名前:叩くと増えるオーパーツ 用途:見栄えを良くするための置物』と、道具の見た目からは程遠いものを捉えた。自分の能力ながら疑わしいが、これまで通り僕は事実を見たのだろう。
「今、能力使ったよね? なんだった? なんだった?」
 答えが判ったはずのものがカウンターに並べられた。これらの使いかたは名前ですぐに判る。問題は情報を断片的に与えられているところにあるので、これにも彼女なりの筋書きがあるのだろう。やはり彼女に聞くほうが早いに違いない。
「これらをどうしたいのか、またストーリー立てて説明してくれると助かる」
「ス、スト! ……おし、えぇーっと。霖之助さんから受け取ったものだけを売るのは見た目が古くてなんだかなぁってことで、3Dプリンターで未来視と念写を組み合わせて未来の道具をプリントしたの。それで、オーパーツとして商品に加えて華ができたかなぁって」
「なるほど。だから、名前が叩くと増えるオーパーツと判ったのか? ということは、これらは君が作ったものなのだな。おそらくは看板もだ。ようやく話が見えてきた気がするよ」
「見えた? 凄い。外で香霖堂の看板をもってしても売れなかった奴らだよ。外で売れない道具は幻想郷だと売れると見込める。それで香霖堂でも売れたとしたら? 売れるか売れないか気にならない?」
「うん。失礼なことを言っているね。君のことだから仕方ないが」
「うぅ、ごめんごめん。とにかく店に並べてみない? 叩くと増えるけど食べられないから増えても仕方ない、このスコーンなのかビスケットなのかハッキリしないもの」
「香霖堂は古道具屋なんだ。すまないが場所に余裕がない」
「そんなぁ。いいと思うんだけど。ほら、オーパーツって銘打ってるし、場違いっていう意味でなら合ってる合ってる。しかも未来から見たら、きちんと古道具だし?」
「こじつけがすぎないか? 君の店で売るのでは、どうしても駄目かい?」
「そうそう。香霖堂で売るからいいのよ。博麗大結界のパラドックス。百五十年目を前にしたら何か面白そうなの見たいと思わない?」
 彼女は始め、悲しげに正体不明のもの同士をこんこんと叩き合わせていた。話を進めるのと同時、それが説明通りに増えていくたび、彼女の表情がニヤついてきた。
 子どもをなだめる道具としてなら優秀に違いない。彼女がこれ以上、変なことを口走るまえに、そちらに導くのもひとつの手かも知れない。
「菫子君、店内をそれでパンパンにするまえに、ちょっと外に行こうじゃあないか。たまには外の空気を吸うのもいいだろう。ああ、その変なのも持ってくるといいよ」
「ほいほ~い」

「君は外の世界だと、いつもはどんなことをしているんだい?」
 菫子君を連れて店の外へと出た。遠出ではないので、いつもと変わらない。それは周りも同じで、季節の移り変わりというループがあるだけだ。これを竜宮城とも例えられる。それから、彼女を店の外に連れ出してみて何かが変わったのなら、僕の場合では幻想郷の外で空気を吸えば何かが変わることとなる。ただ、そうそう変わりたいとは思わないが、考えるだけなら問題ないだろう。僕は彼女みたいに過激ではないんだ。
「普段の話? 至極単純にするなら周りに触れてる。超能力って任意の対象に超越させるものだから。あっちふらふらこっちふらふら? たまに人間やってるっていうの?」
「それはドッペルゲンガーの立場で言っているのかい? もし君に菫子君ではない元の形があるなら見てみたいものだ。まあそれはそうと、君の世界は能力が第一に来るんだな。この質問については大抵、職業が先んじるものだが……ひとつ君について詳しくなれたのかも知れない」
「職業かぁ。それこそ職能っていう言葉があるけど、私って主体性ないからなぁ」
「主体性がないのは君らしいな。それなら、なおのこと人とのつながりが大事になる。ところで、菫子君は友だちは? 非公認とはいえ部活のメンバーとの交流とか、あるのだろう?」
「メ、メンバーは募集中かな! 今年くらいにはメンバーがふたりに……いや、来年くらいに?」
「来年の話をしても仕方ないだろう? 気が早いのか遅いのか。まったくもって君の将来が心配だ」
「といってもさ? 私と同じ目線って中々いないもんだよ? 超能力者と対等になるなら同じ超能力者がいいんだけど、きっと砂金を探すより難しいよ」
 同じ目線か。これは多様性の話ではない。息が合うかどうかの話だ。僕が里から離れた理由にも含まれる。
 こうやって話し合っているあいだにも、ときどき彼女は手癖のように、正体不明のものを増やしている。彼女に合わせるなら僕も増やしてみて遊んだほうがいいが、一体どれだけの数になったんだい?
「菫子君、あまり増やすと在庫で悩むことになるよ。ほどほどにしてもらえると助かる」
「そのへんは大丈夫。増やしすぎて困って宇宙のデブリにしようなんて話、ないない。一定時間がすぎると増えた分は消えるのよ」
 勝手に消えてくれるなら安心だ。やはり自動とは便利なもので道具の醍醐味とも……いや、消えるとはいえ、その規模は目を見張ってしまう。
「だから、こんなふうにもっともおーっっと!」
 菫子君が投げて転がした正体不明のものたちが、まるで百鬼夜行のように流れていく。たしかに後々の安心はあるとは認識した。ただし、瞬間的な安心感は得られない。
「ちゃんと制御するんだよ。暴走は許されない。コントロールを放棄してはいけないと肝に銘じておくように」
「はーい! もちろん全部とつながってるよ! 私の力もコピーされてるから新しく力を加える必要がないの! そろそろ空に浮かべて音を止めよ~」
 彼女の身振り手振りと連動して道具の塊が宙へと浮く。その塊に対し、距離感と規模の想定が定まらない。もはや土に返ったといえるほどに塊が大地となった。さらに規模を拡大すれば浮島から浮遊大陸、果ては小惑星へと変化するだろう。
「判っているとは思うが、くれぐれも落とさないでくれよ。制御を失って崩壊するのも無しだ」
「それってフリなの? 大体の浮いてるのっては堕ちてるよね……って通じない? あ、大抵は少女が浮いてるから堕ちるより下りるほうが印象つよつよ? お? おおっと? ……あはは、サイコ系はジレンマに弱いんだ。ついうっかり~♪」
「ついうっかりじゃないよ。カバーしようにも、手も足も出ないから竦むしかなかった。君の日常生活は大変そうだな。たとえ君が慣れたとしても周りはハラハラしているだろう」
 そういう僕も道具を見れば自ずと判る。裁量で能力が伏せられることはない。彼女の場合、その裁量にすら能力が現れると推察できる。
「いや、君が悪いと言いたいわけではない。それに、こうやって外に出て気分転換するのは、自分の立場への認識を安定させることにあるからね。これでも君についていこうと頑張っているんだ。許してくれ」
「謝罪は向こう側の菫子が受け取っておくよ。状況的に私のことじゃないから。元々のドッペルゲンガーとしてのみって考えるとグレイズもしないし……あれ? 堕ちるかなって思ったけど堕ちない。じ、自力で浮いてるー!」
「堕ちないなら堕ちないでいいじゃないか。少し変わった大地ができた程度で済んでくれそうだね。まあ、じきに消えるのだろう? 店の中に戻ろうか。やはり一番落ち着くところにいたい」
「霖之助さんも霖之助さんで日常感がウケるんだけど。ところで、あれ。何か別の力が転送されてきたのかなぁ? 周りから影響受けながら生きる私がいるんだからあっても不思議じゃないけどー? そのうち輝針城が生えてくる? ラピュータ? それともエノクの街?」
 彼女の目が輝いている。あれはどちらの性格から来ているのだろうか。ともあれ、その答えには栓がない。続きは店の中ということにしよう。
「僕は先に行くよ。気が済んだら戻ってくるといいさ。ちなみに僕だったら経が島ではないかと考える。人工物が集まって形成されたのが如何にもだ。それじゃ……」
 ドッペルゲンガーに向かって手を振った。もはや彼女のことを頭から菫子君とは思えない。くわえて、ドッペルゲンガーだと認識したほうが座りがいい。そのほうが幻想郷らしいということだ。

 ――チリンチリン。
「ああ、君か。いらっしゃい」
「いやいや、ドッペルゲンガーのほうだからね? 今日は菫子じゃないんだ」
「今日は別人というわけだったか。その別人すら認識が違うというのだから、便利なんだか不便なんだか」
 僕は元の宇佐見菫子という人物とは出会っていない。だから、彼女がドッペルゲンガーだったとはいえど知り合いでなくなったとはいえない。僕が交流していたのは始めからドッペルゲンガーだった。
「そういえば君のことをなんと呼べばいい? まさか猫だから猫と呼べ、なんてことはいわないだろう?」
「んー……そうだなぁ。あ、ピ●チュウ? なんてね」


↓ DOP視点 ↓


 チリンチリンとベルが鳴った。決まってすぐ挨拶をする。
「毎度だよ店長。你好! ……ああ、やっとたどり着いた」
 ここには実家のような安心感がある。最近の私の、香霖堂の一部を間借りしていることも加味すれば、だいぶ香霖堂に馴染んできたように感じる。とりあえず霖之助さんに見てほしいものがあるのと、早く手荷物を降ろしたいふたつのことでカウンターに直行する。
「ある程度の大きさのものを持つと、飛ぶとき目の前が塞がるから大変だったよ」
「そういうものか。それは大変だね……って、こちらに持ってくるのかい」
 何か問題が? とくに近づいても問題なさそうに見えるので、
「うんうん。霖之助さんにお話がねー?」
 カウンターに手荷物を置いたあと間髪入れず謝ることにした。
「事後報告で悪いんだけど『香霖堂』の看板、勝手に使っちゃった。ごめんなさい」
 許して? ちらちら……って何が? って感じかもだけど。
「うん。それで菫子君は店の看板を持っているんだね? 聞きたいことはあるが先に叱っておこう。きちんと次からは僕に話を持ち掛けるように。肝に銘じておくんだよ?」
 おーいぇす。大人な受け止めかた。謝り甲斐に反省のし甲斐もある。ありがた~い。
「はぁい、ごめんなさぁい。こっちに来たとき博麗神社に寄ることより守るから」
「恐ろしいほど頼りない文言だな」
 最低限のボーダーラインを決めたの。これで嘘つかないよう気をつけられるんだから。
「まあいい。それより、その看板は見た目こそ僕のお店で使っているものだが、本物? といっていいのか。ずいぶんと小さくなった看板を持っているんだね」
 そりゃあ本物そっくりだと扱い難しいし。
「レプリカだよ。さすがに盗んでいかないって。屋号は借りていったけど」
 借りてくぜーってね。
「魔理沙みたいことを言うんだな。君は外から来た人間のはずなのに、すっかり幻想郷に染まってきたようだ」
「そゆ自覚ないけど……そなんだ。あ、この要らなくなった看板使う? 雀の涙ほどのご利益があるかもだよ」
 あやかれるものが?
「どんな恩恵を受けられるか、できればストーリー立てて教えてほしい」
 うっ……。
「ストーリー? 急にハードルが! えぇーっと……高校の文化祭で出店したときに使った看板で? そこそこ捌けたから霖之助さんがあやかれたらってだけだよ」
「君の言う文化祭とは? なんなのか説明してくれると助かる」
 そういえば華扇ちゃんに学校案内されたことないし、幻想郷にはない行事なんだろうなぁ。
「昔でいう同人みたいなの? 文化祭の日に学校中でクラスごと部活ごと、まとまって出しものを扱うの」
 たぶんこれで合ってる? この説明で理解が?
「なるほど。それなら、君が所属する秘封俱楽部の看板が出てくるはずだが、そこでなぜ僕のお店が持ち出されるんだい?」
 ああ、えぇ~っと……。
「いつも貸してもらってるスペースでそこそこ売りが出てるでしょ? それで逆に、外で秘封俱楽部を看板にするんじゃあ自信なくなるなぁってことで言いかたは悪いけど、幻想郷では人気ない香霖堂の看板をね? 外で借りることで売り上げアップを狙って……ごめんなさい」
 いやぁ、焦りすぎたに詰めすぎた感。反省しよう。
「人気がないと言ったことに謝っているのか、勝手に借りたことに謝っているのかは不問としよう。それより、また菫子君はそこそことはいえ、僕の看板を使っても売り上げを伸ばしたのかい。たしかにあやかってほしい意図があるなら判る」
「うんうん。分かってくれた? 嬉しい! ってことで……」
 3Dプリンターのドアを開けたら!
「ジャーン!」
 っていう具合に凄いのは飛び出な~い、自分でもよく分かってない叩くと増える何か~。
 やたらと霖之助さんが目を丸くしてる。中から出してあげよ。こいつら数合わせのためにテキトー念写して作成したものなんだけど、霖之助さんの目からどう見えるんだろ。
「今、能力使ったよね? なんだった? なんだった?」
「これらをどうしたいのか、またストーリー立てて説明してくれると助かる」
「ス、スト! ……おし、えぇーっと。霖之助さんから受け取ったものだけを売るのは見た目が古くてなんだかなぁってことで、3Dプリンターで未来視と念写を組み合わせて未来の道具をプリントしたの。それで、オーパーツとして商品に加えて華ができたかなぁって」
 間に合わせの品だから過去視とか千里眼とか、透視でも霊視とかの組み合わせでもOKだね。頭の中に浮かんだものを3Dプリンターでアウトプットするだけ。
「なるほど。だから、名前が叩くと増えるオーパーツと判ったのか? ということは、これらは君が作ったものなのだな。おそらくは看板もだ。ようやく話が見えてきた気がするよ」
「見えた? 凄い。外で香霖堂の看板をもってしても売れなかった奴らだよ。外で売れない道具は幻想郷だと売れると見込める。それで香霖堂でも売れたとしたら? 売れるか売れないか気にならない?」
「うん。失礼なことを言っているね。君のことだから仕方ないが」
「うぅ、ごめんごめん。とにかく店に並べてみない? 叩くと増えるけど食べられないから増えても仕方ない、このスコーンなのかビスケットなのかハッキリしないもの」
 断られたら自分が受け持つスペースに並べればいい。でも、それだと趣旨から外れるので選択肢に入れなかった。だから、引き下がるなんてできないの!
「香霖堂は古道具屋なんだ。すまないが場所に余裕がない」
「そんなぁ。いいと思うんだけど。ほら、オーパーツって銘打ってるし、場違いっていう意味でなら合ってる合ってる。しかも未来から見たら、きちんと古道具だし?」
「こじつけがすぎないか?」
 ば、馬脚をなんたら? もっと捻り出せ~捻り出せ~。
「君の店で売るのでは、どうしても駄目かい?」
「そうそう。香霖堂で売るからいいのよ。博麗大結界のパラドックス。百五十年目を前にしたら何か面白そうなの見たいと思わない?」
 だから何? と聞かれたら困るけど……うーん、ここでまさかのセールストークで押してく? オーパーツをこんこ~んって鳴らして? ちんどん屋かな。こんこ~ん……あ、増えた。そりゃあ増えるか……えへへっ。
「菫子君、店内をそれでパンパンにするまえに、ちょっと外に行こうじゃあないか。たまには外の空気を吸うのもいいだろう。ああ、その変なのも持ってくるといいよ」
 え? あ、うん。珍しいね。オーパーツふたつだけ持ってこっと。
「ほいほ~い」

 霖之助さんに連れられ、外ではない外に出た。もう外と外の意味がぶつかってややこしい。
 目の前に大半が手つかずの土地が広がる。ずっと香霖堂にいると、こちら側にいる意味が破綻しそうだけど。だからこそ、直接は香霖堂に来ないって苦しい言いわけ? 厳密にはどっちも結界内だからオールオッケーってね。
 ……あ、丁度良く人目のつかない屋外だ。こんこ~ん。ふたつから四個~♪
「君は外の世界だと、いつもはどんなことをしているんだい?」
「普段の話? 至極単純にするなら周りに触れてる。超能力って任意の対象に超越させるものだから。あっちふらふらこっちふらふら? たまに人間やってるっていうの?」
「それはドッペルゲンガーの立場で言っているのかい? もし君に菫子君ではない元の形があるなら見てみたいものだ。まあそれはそうと、君の世界は能力が第一に来るんだな。この質問については大抵、職業が先んじるものだが……ひとつ君について詳しくなれたのかも知れない」
「職業かぁ。それこそ職能っていう言葉があるけど、私って主体性ないからなぁ」
「主体性がないのは君らしいな。それなら、なおのこと人とのつながりが大事になる。ところで、菫子君は友だちは? 非公認とはいえ部活のメンバーとの交流とか、あるのだろう?」
 ゔっ、見えない亀裂が走る。見える!
「メ、メンバーは募集中かな! 今年くらいにはメンバーがふたりに……いや、来年くらいに?」
「来年の話をしても仕方ないだろう? 気が早いのか遅いのか。まったくもって君の将来が心配だ」
「といってもさ? 私と同じ目線って中々いないもんだよ? 超能力者と対等になるなら同じ超能力者がいいんだけど、きっと砂金を探すより難しいよ」
「菫子君、あまり増やすと在庫で悩むことになるよ。ほどほどにしてもらえると助かる」
 うん? ああ、うっすら片手間な意識でサイコキネシス使ってオーパーツ増やしてた。サイコ系は無意識に近い心の動きにも乗るからなぁ。
「そのへんは大丈夫。増やしすぎて困って宇宙のデブリにしようなんて話、ないない。一定時間がすぎると増えた分は消えるのよ。だから、こんなふうにもっともおーっっと!」
 このオーパーツは互いの衝突でも増えていく。さらに転がるだけでも増えるので、あっという間に周りの景観を変化させる! やっぱり意識的に能力は使いたいよね。
 ざっと千は超えた?
 文化祭のとき不用意に増やして客をドン引きさせなければ、きっと売り切れたかもしれないんだよ。たぶんきっとね?
「ちゃんと制御するんだよ。暴走は許されない。コントロールを放棄してはいけないと肝に銘じておくように」
「はーい! もちろん全部とつながってるよ! 私の力もコピーされてるから新しく力を加える必要がないの! そろそろ空に浮かべて音を止めよ~」
「判っているとは思うが、くれぐれも落とさないでくれよ。制御を失って崩壊するのも無しだ」
「それってフリなの? 大体の浮いてるのっては堕ちてるよね……って通じない? あ、大抵は少女が浮いてるから堕ちるより下りるほうが印象つよつよ? お? おおっと?」
 ネタに走って落とすところだった。いやぁ危ない危ない。
「あはは、サイコ系はジレンマに弱いんだ。ついうっかり~♪」
「ついうっかりじゃないよ。カバーしようにも、手も足も出ないから竦むしかなかった。君の日常生活は大変そうだな。たとえ君が慣れたとしても周りはハラハラしているだろう。いや、君が悪いと言いたいわけではない。それに、こうやって外に出て気分転換するのは、自分の立場への認識を安定させることにあるからね。これでも君についていこうと頑張っているんだ。許してくれ」
 子どもの世話に奔走するパパかってーの。霖之助さん相手にパパ活かぁ? ないなぁ。
「謝罪は向こう側の菫子が受け取っておくよ。状況的に私のことじゃないから。元々のドッペルゲンガーとしてのみって考えるとグレイズもしないし」
 私は菫子を知っているだけ。菫子を受肉しているだけ。バーチャルな存在ともいえる。ときどき幻想郷の外から転写されてくる情報と過ごす毎日となっている……あっ!
「……あれ? 堕ちるかなって思ったけど堕ちない。じ、自力で浮いてるー!」
「堕ちないなら堕ちないでいいじゃないか。少し変わった大地ができた程度で済んでくれそうだね。まあ、じきに消えるのだろう? 店の中に戻ろうか。やはり一番落ち着くところにいたい」
「霖之助さんも霖之助さんで日常感がウケるんだけど。ところで、あれ。何か別の力が転送されてきたのかなぁ? 周りから影響受けながら生きる私がいるんだからあっても不思議じゃないけどー? そのうち輝針城が生えてくる? ラピュータの街? それともエノクの街?」

 チリンチリンとベルが鳴った。私が菫子ならすでに挨拶をしている。
「ああ、君か。いらっしゃい」
 今日の私の姿は違う。それに気づいてくれた? ただ、菫子を迎えた反応とも受け取れた。
「いやいや、ドッペルゲンガーのほうだからね? 今日は菫子じゃないんだ」
「今日は別人というわけだったか。その別人すら認識が違うというのだから、便利なんだか不便なんだか」
 まるで道具を見るような目、霖之助さんらしいなぁ。
「そういえば君のことをなんと呼べばいい? まさか猫だから猫と呼べ、なんてことはいわないだろう?」
「んー……そうだなぁ。あ、ピ●チュウ? なんてね」
ドッペルゲンガーに名前を入れてください。

あああああ

これで決定しますか?

☞はい
 いいえ
れにう
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