Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

モノに手が届くディスタンス

2022/06/25 04:23:32
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 ここは僕のお店、香霖堂の店内になる。今一度確認した。
 今までも僕は助手を雇っている。しかし、店内で一緒に働くとなると希だった。菫子君という僕の従業員が目に入ると同時、思考に彼女が混ざってくる。雇った手前だから仕方ないが、やはり勝手が違うと戸惑ってしまう。
 彼女は道具ではない。どれだけ目で追っても僕の能力が及ぶところではない。
「何々? 霖之助さん、私に何か気になるところとかある?」
「逆だよ。気になるものは何もない。単純に動くものに目がついていくだけだよ」
「ふーん? そうなんだ。私に気がない……本当かなぁ。読心っていう超能力で正解かどうか確かめちゃおっかな?」
 読心と聞いて真っ先に覚妖怪を思い起こす。彼女の場合は本気で読んでこないだろう。それでも、少し身構えてしまうきらいがある。
「冗談、冗談。霖之助さんに能力を使われたか気になってね。『今日、何か変なの持ってきたっけ』って思っちゃった。それで『見て発動する能力』を引き合いに出したの」
「ああ、なるほど。そう君は読んだのか。にしても、君の能力は随分と多岐に渡るようだね。ほかに『見て発動する能力』は何があるんだい?」
「超能力として有名なのは、ほかに千里眼? 視覚からじゃないので、触れるほうでサイコメトリーとか。ちなみに、霖之助さんの能力だって超能力の部類だからマネしようと思えばできるよ」
「そ、そうか。だとしたら将来、菫子君が商売敵として独立する道もあるかもしれないな」
「やだぁ。ゴミ屋敷はここだけで勘弁……あ、ごめ」
「天丼かい? 僕のお店に並んでいるのは商品だからな。このツッコミもう何度目か判らない」
 商売敵か。人気の業種なら競合店が出ても可笑しくない。それも僕と同じ立地を使って同じ畑を取り合うはずだ。開業した時点では僕の性に合っているからと納得していた。最近は欲をかくせいか不満が増えた気がする。近いうちに僕のお店の一部を、菫子君に間貸しして新しく商売を開かせるのも、今後を切り盛りするうえでの良い着想になるのかもしれない。
「……そうだ。外の世界ならどうだい? 僕の能力をマネできるなら、外の世界で僕のお店とは違った業績を上げられるかもしれないよ」
「どうだろう。確かに用途の分からない海外から輸入されたアイテムがあるけど、わざわざ聞きに来る? ってね。それに霖之助さんと私じゃ能力に対する熟練度が違うから。餅は餅屋。ただ、想定外が次々に出てくるし、だからこそ幻想郷に来る価値があるわけで……ん? なんの話だっけ」
 途中から話が読めないと思っていたら脱線していたようだ。
 たまには、こうやって読めないのも趣があるのかもしれない。しかしながら、大多数からは共感を得られないだろう。これは僕のような能力を持つものにしか判らない目線だ。
「それなら、ここ香霖堂に君のお店を構えるのは、どうだろう。一部なら間借りさせられる。僕の近くで商売を続ければ、さらに君なりに得られるものがあるんじゃないか?」
「もしかしなくても私、無茶振りされてる? 秘封俱楽部の収集物を売りに出すなんて考えたことなかったけど……待って。香霖堂の商品と並べたら私までゴミを扱ってるって勘違いされそうなんだけど?」
「君は自身が扱う商品のほうが、僕の商品より優れているなどというのかい? むしろ君のお店があるせいで、よりゴミ屋敷だと印象を持たれる可能性があるとは考えられるのだが」
「まさか! 最近、秘封俱楽部に意味不明なものが集まるからってゴミ屋敷とは言わせないよ!」

 ――秘封俱楽部。
 菫子君が通う東深見高校にて非公認で設立させた秘封俱楽部という部活での、クラブ活動を行っているらしい。
 聞いた話によるなら僕のお店と大差があるはずもない。
 彼女の頑張りいかんによっては今後、僕のお店の風通しが良くなる未来が来ることだろう。
仰々しくシェアオフィスと捉えられなくもないネタですが、頭から爪先まで思いつきで書きました。
れにう
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
霖之助と菫子の自然な会話でほっこりしました。
2.れにう削除
コメントありがとうございます。
自然な会話と捉えられてガタッと来るものがありました。

Thank you for the "natural communication" comment.