「授業で『桃太郎』って話を初めて聞いたんだけど、日本人ならみんな知ってるものなの?」
とマエリベリー・ハーンが言う。
「あー、知ってる人が多いはずだよ。そっか、海外育ちのメリーは知らなかったのか」
「そうそう。先生も当然みたいな口ぶりで話すから驚いた」
「なるほどねえ。日本には読み聞かせって文化があるから、昔話は大体誰でも頭に入ってるんじゃないかしら」
「ヨミキカセ」
「幼い子供が眠れるように、枕もとでお母さんがお話をすること。寝付けない時とかにね」
「読み聞かせ」
「そう」
「蓮子も?」
「してもらったなぁ。他人に言うと恥ずかしいけど」
「昔話には、他にどんな話があるの?」
「えーと……『さるかに合戦』とか」
「猿蟹合戦」
「簡単に説明すると、昔々あるところに蟹の親子が住んでいました。蟹の親子がある日おにぎりを持って歩いているとお猿さんが寄ってきて、『かにさんや、そのおにぎりとこの柿の種を交換しませんか』」
「図々しいね」
「『いいですよ』とお母さんかには快く交換に応じました。そして庭に柿の種を植えるとそれはすくすくと育って立派なカキの実をたくさんつけました」
「子供向けだしね……。まあ、いいよ。育ったんでしょうねきっと」
「かにの親子は喜んでそれを取ろうとしますがかにの足では木に登れず実が取れません、そこに通りがかったおさるさんは『わたしが実を落としますよ』と言うとするすると登っていき、上でカキをむしゃむしゃと食べ始めてしまいました」
「えー。悪いお猿さんだ」
「かにのお母さんがたまらず文句を言うと『うるせえ、これでも食らえ』とまだ熟していない固い実をもぐとお母さんに投げつけ」
「うわぁ!」
「お母さんかにはつぶれて死んでしまいました」
「悲しい話なの?」
「一部始終を見ていた子かにはなんとかしておさるさんに復讐してやりたいと思い、仲間を集めることにしました」
「うんうん」
「まずハチ」
「ハチね。攻撃力があるからね」
「次に栗」
「くっ栗?」
「そして臼」
「待って待って、栗? くだものの?」
「他に何の栗があるの」
「いやいや! 栗はおかしいでしょ!」
「まあ確かに? 生き物じゃないじゃんっていう」
「違う違う!」
「何よ?」
「なんで栗が、カキは食べたい人たちの仲間になるのよ!」
「はぁ?」
「何て言って仲間にするのよ? 『お願いします栗さん、あの猿は僕たちのカキを勝手に食べたんです! 仇討ちに力を貸してください!』って言うの? 『はぁ?? どうして果物食べる生き物の味方をしないといけないんですか?』って言われておしまいだって」
「それはだからさあ」
「間違っても『ぼくが囲炉裏でアツアツになっておさるさん入ってきたときに爆発しますんで』なんて言わないでしょ、どんな自己犠牲の精神よ」
「内容知ってんじゃん」
「カキもカキよ。食べられながらなんで何にも言わないのよ。『いや私はカニさんのカキなんでちょっとおさるさんに食べられるって言うのは……』って断りなさいよ」
「どの部分に怒ってるの」
「はー……他には」
「聞きたいの!? じゃあ『シンデレラ』とか……」
「シンデレラ」
「はい。昔々あるところにシンデレラという少女が住んでいました、彼女はみなしごで継母のところで暮らしていました」
「みなしごって何? みなし残業みたいなこと?」
「身寄りのない子供のこと。この継母や、継母の実の娘たちはシンデレラの美しさに嫉妬して様々な意地悪をするのでした。あるときお城で舞踏会をやりますという知らせが来ましたが継母たちはシンデレラに留守番を言いつけて自分たちだけで舞踏会に行ってしまいました。シンデレラがお城に行きたいなあと悲しんでいると魔女が現れて、『お前を舞踏会へ行かせてあげよう』と、家にいたネズミを立派な馬に、かぼちゃをおしゃれな馬車に、カエルを御者にした上にシンデレラにぴったりのガラスの靴を一足くれ、いつのまにか普段着せられているボロはとても豪華なドレスに変えてくれました」
「ネズミとかぼちゃとカエルが、それぞれ馬と馬車と御者に化けたのね。はいはい」
「感謝するシンデレラに魔女は、『楽しんでおいで。ただし12時を回ったら魔法が解けてしまうからね、くれぐれも12時を回る前に帰るんだよ』と言いつけて消えました」
「深夜零時のこと?」
「そう。舞踏会でシンデレラは何と王子様に見初められて一緒に踊ることができました。しかしその時視界に大きな時計が目に入り、なんと時刻は零時になろうかというところ。引き留める王子に背を向けて、零時の鐘を聞きながらシンデレラはガラスの靴が片方脱げてしまうのにも構わず階段を駆け下り、大急ぎで家に帰ったのでした」
「待って待って。おかしいおかしい。帰れないでしょ」
「え、なに? どういうこと?」
「お城まで馬車で来たんでしょ? 無理じゃん、帰れないじゃん。もう魔法解けてるんだから、お城の前にはネズミとかぼちゃとカエルが佇んでるだけじゃん」
「頑張って帰ったんだよ」
「無理よ、だって馬車が無いんだもん。徒歩で帰れるわけなくない? 徒歩で帰れるなら魔女もわざわざ馬車出さないでしょ、だって徒歩で行けるんだから」
「とにかく! なんとか家に帰ったシンデレラはガラスの靴のサイズを手掛かりに王子様に見つけ出され、お城で幸せに暮らしましたとさ」
「……」
「メリー?」
「ぐうぐう」
「うわ寝付いてる。もういいのかな? お休み」
とマエリベリー・ハーンが言う。
「あー、知ってる人が多いはずだよ。そっか、海外育ちのメリーは知らなかったのか」
「そうそう。先生も当然みたいな口ぶりで話すから驚いた」
「なるほどねえ。日本には読み聞かせって文化があるから、昔話は大体誰でも頭に入ってるんじゃないかしら」
「ヨミキカセ」
「幼い子供が眠れるように、枕もとでお母さんがお話をすること。寝付けない時とかにね」
「読み聞かせ」
「そう」
「蓮子も?」
「してもらったなぁ。他人に言うと恥ずかしいけど」
「昔話には、他にどんな話があるの?」
「えーと……『さるかに合戦』とか」
「猿蟹合戦」
「簡単に説明すると、昔々あるところに蟹の親子が住んでいました。蟹の親子がある日おにぎりを持って歩いているとお猿さんが寄ってきて、『かにさんや、そのおにぎりとこの柿の種を交換しませんか』」
「図々しいね」
「『いいですよ』とお母さんかには快く交換に応じました。そして庭に柿の種を植えるとそれはすくすくと育って立派なカキの実をたくさんつけました」
「子供向けだしね……。まあ、いいよ。育ったんでしょうねきっと」
「かにの親子は喜んでそれを取ろうとしますがかにの足では木に登れず実が取れません、そこに通りがかったおさるさんは『わたしが実を落としますよ』と言うとするすると登っていき、上でカキをむしゃむしゃと食べ始めてしまいました」
「えー。悪いお猿さんだ」
「かにのお母さんがたまらず文句を言うと『うるせえ、これでも食らえ』とまだ熟していない固い実をもぐとお母さんに投げつけ」
「うわぁ!」
「お母さんかにはつぶれて死んでしまいました」
「悲しい話なの?」
「一部始終を見ていた子かにはなんとかしておさるさんに復讐してやりたいと思い、仲間を集めることにしました」
「うんうん」
「まずハチ」
「ハチね。攻撃力があるからね」
「次に栗」
「くっ栗?」
「そして臼」
「待って待って、栗? くだものの?」
「他に何の栗があるの」
「いやいや! 栗はおかしいでしょ!」
「まあ確かに? 生き物じゃないじゃんっていう」
「違う違う!」
「何よ?」
「なんで栗が、カキは食べたい人たちの仲間になるのよ!」
「はぁ?」
「何て言って仲間にするのよ? 『お願いします栗さん、あの猿は僕たちのカキを勝手に食べたんです! 仇討ちに力を貸してください!』って言うの? 『はぁ?? どうして果物食べる生き物の味方をしないといけないんですか?』って言われておしまいだって」
「それはだからさあ」
「間違っても『ぼくが囲炉裏でアツアツになっておさるさん入ってきたときに爆発しますんで』なんて言わないでしょ、どんな自己犠牲の精神よ」
「内容知ってんじゃん」
「カキもカキよ。食べられながらなんで何にも言わないのよ。『いや私はカニさんのカキなんでちょっとおさるさんに食べられるって言うのは……』って断りなさいよ」
「どの部分に怒ってるの」
「はー……他には」
「聞きたいの!? じゃあ『シンデレラ』とか……」
「シンデレラ」
「はい。昔々あるところにシンデレラという少女が住んでいました、彼女はみなしごで継母のところで暮らしていました」
「みなしごって何? みなし残業みたいなこと?」
「身寄りのない子供のこと。この継母や、継母の実の娘たちはシンデレラの美しさに嫉妬して様々な意地悪をするのでした。あるときお城で舞踏会をやりますという知らせが来ましたが継母たちはシンデレラに留守番を言いつけて自分たちだけで舞踏会に行ってしまいました。シンデレラがお城に行きたいなあと悲しんでいると魔女が現れて、『お前を舞踏会へ行かせてあげよう』と、家にいたネズミを立派な馬に、かぼちゃをおしゃれな馬車に、カエルを御者にした上にシンデレラにぴったりのガラスの靴を一足くれ、いつのまにか普段着せられているボロはとても豪華なドレスに変えてくれました」
「ネズミとかぼちゃとカエルが、それぞれ馬と馬車と御者に化けたのね。はいはい」
「感謝するシンデレラに魔女は、『楽しんでおいで。ただし12時を回ったら魔法が解けてしまうからね、くれぐれも12時を回る前に帰るんだよ』と言いつけて消えました」
「深夜零時のこと?」
「そう。舞踏会でシンデレラは何と王子様に見初められて一緒に踊ることができました。しかしその時視界に大きな時計が目に入り、なんと時刻は零時になろうかというところ。引き留める王子に背を向けて、零時の鐘を聞きながらシンデレラはガラスの靴が片方脱げてしまうのにも構わず階段を駆け下り、大急ぎで家に帰ったのでした」
「待って待って。おかしいおかしい。帰れないでしょ」
「え、なに? どういうこと?」
「お城まで馬車で来たんでしょ? 無理じゃん、帰れないじゃん。もう魔法解けてるんだから、お城の前にはネズミとかぼちゃとカエルが佇んでるだけじゃん」
「頑張って帰ったんだよ」
「無理よ、だって馬車が無いんだもん。徒歩で帰れるわけなくない? 徒歩で帰れるなら魔女もわざわざ馬車出さないでしょ、だって徒歩で行けるんだから」
「とにかく! なんとか家に帰ったシンデレラはガラスの靴のサイズを手掛かりに王子様に見つけ出され、お城で幸せに暮らしましたとさ」
「……」
「メリー?」
「ぐうぐう」
「うわ寝付いてる。もういいのかな? お休み」