Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

月夜に揺れて

2017/08/06 14:24:25
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「ねえ、ルナサ」
「どうしたの、弁々」
「この後まだ時間大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」

私、琵琶の付喪神こと九十九弁々は霧の湖近くの
プリズムリバー邸に来ていた。

表向きの訪問理由は次の合同ライブ開催に向けての打ち合わせなのだが、
私にはライブ開催と同じ位大切な目的があり、そのためにここを訪れたのだ。

ライブの打ち合わせが白熱し、壁に掛けられた時計も六時を回ろうかというところだが、
ルナサは構わないと言ってくれている。
よし、言うんだ、九十九弁々。付き合い始めて3ヶ月、そろそろ切り出してもいい頃のはずだ。

「その、この後なんだけど、一緒に出掛けない?夜の景色がとっても綺麗なところがあって、
ルナサにも見せてあげたいの」
「ええ、いいわよ。でも、今の時間はまだ少し明るいし、良かったらうちで一緒にご飯食べてから行かない?」
「いいの?ありがとう。でも突然いいの?妹さんたちは?」
「二人は今日は帰ってこないって言ってたから大丈夫よ」

ルナサの言うとおり、外を見てまだ完全に夜になっていないのを確認した私は、
心の中でガッツポーズを決めながらその提案に甘えることにした。
ルナサに手料理を振舞われるのは初めてで、とても楽しみだ。
しかし、一人で作らせては悪いと思い、私も後を追ってキッチンに向かった。

「なにか手伝ってもいい?」
「ありがとう、じゃあ野菜の皮むきお願いしていいかしら?」
「ええ、任せて」

それから私達は時折お喋りに花を咲かせながら夕食を作った。

「早いし上手ね、よく料理するの?」
「ええ、うちでは基本的に私が作ってるわ。最初は交代制にしようと思ってたんだけど、
あの子の料理はちょっと独創的過ぎるというか、インパクトが強いから…」
「八橋ちゃん、料理は苦手なの?」
「取り敢えず任せてみたんだけど、見た目が真っ青なカレーが出てきた時は言葉を失ったわ」
「…それは確かに言葉を失いそうだわ」
「本人は満面の笑みで勧めてくるから不味いって言いにくいし、あれは困ったわね。ルナサは?」

ルーばかりか米まで濃い青色のカレーを思い出して若干頬を歪めながらルナサに尋ねる。

「うちは基本的に交代制なんだけど、リリカはともかくメルランがね…」
「あんまり料理は得意じゃないの?」
「普段は普通に美味しいんだけど、時々すごい料理が出てくるのよ」

躁の音を奏でるプリズムリバー三姉妹の次女、メルラン・プリズムリバー。
その音同様にハイテンションな、強烈な味付けの料理が出てくるのだろうか。

「どんな料理なの?」
「本人はビーフシチューだって言うんだけど、色は真っ赤で具がほとんど見えないの。
…きっと勢いで香辛料を大量に入れて具が全部崩れるぐらいの火力で煮込んだのね」
遠い目をしながら冷静に語るルナサ。

「…それは本当にすごそうね、食べられたの?」
「舌が焼かれるような感覚だったけど、せっかく作ってもらったからなんとか食べきったわ。
辛かったのはリリカが料理を見た途端急にお腹が痛いって目に涙を浮かべながら拒否するから、
もう一杯食べる羽目になったことかしらね…」
「それってリリカちゃん、もしかして…」
「勿論仮病よ、あんなタイミングでお腹が痛くなるなんて虫が良すぎるもの、
でもあの時は仮病だと気づく余裕も無かったの」

いつか仕返しをしてやらなくてはと、普段より子供っぽい表情のルナサを見て、
弁々は思わず頬を緩めながら完成した料理をテーブルに運んでいく。
















「ご馳走様でした」
「ご馳走様、美味しかったわ。ルナサって本当になんでも出来るのね、尊敬しちゃうわ」
「嬉しいけどそんなに褒めないで、恥ずかしいから。弁々もすごく手際が良かったし、上手だったわよ」

一緒に食器を片付けつつ、時計を見ると時刻は午後八時前頃、窓から見た外はすっかり暗くなっている。

「いい時間だしそろそろ行きましょ、ルナサ」
「ええ、ちょっと待ってて。」

いつもの楽士服の上から黒のコートを羽織り、軽く身だしなみを整えたルナサ。
その姿は普段以上に落ち着きを感じさせた。

「かっこいい…」
「えっ、なにか言った?」
「な、なんでもないわ。さあ行きましょう。」

二人で一緒に夜の空へ飛び立つ。
時間が時間だからか、二人以外で空を飛行している人妖は見当たらない。
妖怪の山が見えてきたところでルナサが尋ねる。

「どの辺りにあるの?」
「山の麓にある森の中なんだけど、少し入り組んでるからその…手つなご」

するとルナサは間髪入れずに弁々の手を優しく握りながらこう返す。
「ええ」
「!」

弁々はルナサに手を握られ、自分の体温が急激に上昇するのを感じたが、必死に自分を落ち着かせると、
周囲の木々にぶつからないようにゆっくりと飛行を再開した。
そのまましばらく進んでいくと、木々の生い茂る狭い道からうって変わって、
まるで人工的に造られたかのような、直径十メートルほどの円の形の開けた空間が見えてきた。
中央には二人ぐらいなら腰を下ろせそうな、平らな石もあった。



「着いたわ、ルナサ」
「…すごいわ、森の中にこんな場所があったのね。」
「この前偶然見つけたの、それから」

弁々は入ってきた方向と反対側にルナサを呼ぶと空間の壁面の草木を軽く手で払う。
ルナサがその奥を見ると、小さな滝が緩やかに小さな音を立てながら流れている。
水面に映る月が幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「夜ここで演奏するととっても気分が落ち着くの」
「綺麗…」
静かな場所が好きなルナサにとってこの空間は理想的な場所だった。
ルナサは笑顔で弁々の方を見る。

「とっても素敵な場所だわ、ありがとう弁々」
「ふふ、ルナサが喜んでくれてよかったわ」

弁々は空間の中央にある石の上に腰を下ろした。
端の方に少し苔が付いている以外はとても綺麗な石で、まるで座るために誰かが
置いたのではないかとすら弁々には思えた。

「ルナサも座りましょう、綺麗だから大丈夫よ」
「ええ」

ルナサも弁々の隣に腰を下ろす。
それからお互いに無言の、しかし気まずさなどは全く無い、静寂が訪れた。
二人とも目を閉じて、今のこの時間を楽しんでいる。
十分ほど経っただろうか、弁々は目を開けてルナサの方を見ると、話しかける。

「ねえ、ルナサ」
「なあに?弁々」
「キス、してもいい?」
「……」

ルナサは驚く様子も無く、いつもの細目のまま微笑むと、弁々の唇に自分の唇を重ねる。
付き合い始めて3ヶ月、初めてのキス。
弁々は緊張のあまりされるがままとなっていた。
どのくらい経っただろうか。顔を離したルナサはまだ落ち着きを取り戻せていない弁々の耳元で呟く。


「…好きよ、弁々」
「~!」

その言葉で我に返ったのか、弁々は顔を真っ赤にしながらもはっきりとルナサに応える。

「…私も大好きだよ、ルナサ」



















「…そろそろ帰りましょうか」
「そうね、今日はありがとう弁々、とっても素敵な時間だったわ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ、また会いましょう」
「ええ、楽しみにしてるわ。気をつけて帰ってね、弁々。」
「うん、ルナサも気をつけてね」

森の手前で別れた二人。
弁々の姿が夜の闇に溶けて見えなくなった、その時だった。
ルナサは森に向かって抑揚の無い声で呼びかける。

「リリカ、居るのは分かってるわ。出てきなさい」

誰かがいるのだろうか、茂みからガサっと物音が聞こえる。

「私は別に怒ってなんかいないわ、おいでリリカ」

さっきよりも優しい声で呼びかける。
目線は茂みを指しているが、最初に呼びかけたときよりもはっきり一点を見つめている。
次の瞬間。ほぼ同時だった。赤い小さな影が茂みから飛び出し、それにルナサが飛びついた。

「どうして逃げるの?お姉ちゃん寂しいわ」

赤色の楽士服に身を包んだ妹、リリカ・プリズムリバーをあっさり捕まえると
いつもの細目はどこへやら、パッチリと開いた瞳を向けながら笑顔で彼女に問いかける。

「どうしてあそこにいたの、リリカ」
「え、あ、それは」

普段の余裕綽綽の表情はどこにも無く、額に汗を掻きながらしどろもどろになるリリカ。

「正直に言いなさい、そうしたらお姉ちゃん許してあげるわ」
「ご、ごめんなさい!姉さんと弁々さんが森に入っていくのを見つけて、つい好奇心でついていったら…」

実はルナサは森の奥の円形の空間に足を踏み入れた辺りで、リリカが後ろをついて来ていたことに気づいていた。
見られるのは正直とても恥ずかしかったが、ムードを壊したくないと思い、わざと気づかないふりをしていたのだ。

「本当に好奇心なのかしら?ポケットのカメラは何に使うの」
「え、いやこれは」
「正直にってお姉ちゃん言ったわよね?」

会話中ルナサは眉一つ動かすことなく笑っている。
それが余計にリリカの恐怖心を掻きたてた。

「…ブン屋にネタとして売り込もうとしました」
「そう、じゃあ私が何を言いたいか分かる?」
「ごめんなさい!きょ、今日のことは絶対誰にも言わないから、許して姉さん!」
「ええ、いいわよ。怖がらせてごめんね、リリカ。」

ルナサは微笑みながら優しくリリカの頭を撫でると、リリカの手を引いて空へと誘った。
ルナサの後ろ姿を見ながら、リリカはもう二人のことにちょっかいをかけるのは
やめようと固く心に誓ったのだった。
どうも、2作目になります。ローファルです。
今回もルナサと弁々の話ですが、私の中では弁々よりもルナサの方が精神的に
余裕があるイメージです。(弁々はまだ誕生して間もないという設定なので)
相変わらずの駄文ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
お読み下さりありがとうございました!
ローファル
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
序盤の料理シーンから、付き合っているんだなぁ、という感じがいいですね。
二人の日常が想像できます。
そして、キスを求める弁々と、それに好きの言葉を離れ際に言うルナサに思わずにやけてしまいました。
まさに、キター! という感じです。