Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

貴方と一緒に

2017/07/02 23:50:26
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「八橋、今日は人里に買い物に行くけど貴方はどうするの?」

「うー、飲みすぎた、まだだるいから寝てる~」

「楽しいのは分かるけど、あんまり飲みすぎたらダメよ、
 あんたはあんまりお酒強くないんだから。」

「は~い」

私、琵琶の付喪神こと九十九弁々は鏡を見て身だしなみを整えながら、妹の八橋を軽く諭す。

古い鏡は少し見辛いが、慣れたものだ。
鏡に限らず、私達姉妹が暮らす小屋は古びた道具が多く転がっている。

なにせ生まれたばかりで家具どころか住居も無かったので、
誰も住んでいない山小屋に無縁塚で集めてきた古い道具を持ち込んで生活しているのだ。

最初はろくに収入もなく、貧しい生活をしていたが、最近はライブでの収入も少しずつ増えてきている。

昨日は幻想郷を代表する音楽グループ、プリズムリバー楽団との合同ライブに初めて出演した。
代表して私が彼女達に合同ライブ開催の依頼をしたが、すぐに快く引き受けてくれた時はとても嬉しかった。

ライブも声援の数ではやはり私達が大きく劣っていたものの、観客達は
終始盛り上がっていたので成功と言っていいだろう。
これを機に知名度が上がれば私達単独での活動もより実のあるものになるはずだ。

八橋も特に次女のメルラン、三女のリリカとは馬が合うようでライブの後の宴会でも楽しそうに喋っていた。
きっとこれからも仲良くしていけるはずだ。

全て順調に進んでいる、進んでいるはずなのだが、私にはある後悔があった。




それは昨日、ライブが終わり、宴会が始まった時のことだった。私はある人物を探していた。
ルナサ・プリズムリバー。
プリズムリバー三姉妹の長女にして楽団のリーダーだ。
合同ライブ開催の依頼をする際、プリズムリバー楽団の代表として私の話を聞いてくれた。

私は彼女のことが好きだ。初めて彼女のことを知った時は、彼女がどんな音楽を奏でるのか、
自分の音色と比べてどうかなど、好奇心に近い感情を持っていた。

そして初めてプリズムリバー楽団の演奏を観客として聴きに行った時、その感情は大きく変わった。

控えめな仕草ながら気品が感じられる立ち振る舞い、
単純に上手い、綺麗と表現するのでは全く足りないと
思えるほどの澄んだ音色、落ち着きの感じられる優しい笑顔。

もっと彼女のことが知りたい、音楽以外にも、いろんな話を彼女としたい。

私は彼女とはまだ音楽の、ライブに関連する話しかしたことが無い。
だからこの宴会のチャンスを逃すまいと彼女を探していたのだ。

周囲を見渡すと、彼女はいた。しかし、彼女は白玉楼の主であり今回のライブの協力者、西行寺幽々子と
飲みながら話をしていた。

幽々子はこちらに気付いていないようだが、彼女と、ルナサと
目が合った。そして彼女はゆっくりとこちらに向かって微笑んだ。
それを見た私は急激に体温が上昇するのを感じた。

思考がまとまらない、さっきまで自分が考えていたことが思い出せない。
今日のライブと同じぐらい彼女との会話を楽しみにしていた、はずなのに。

どれだけの時間がたっただろうか。私にはとても長い時間に感じられたが、後に振り返ると
それは十秒にも満たない時間だった。

一瞬、一瞬だった。私はその場から走り去り、人気の無い林まで
くると全力で自宅に向かって飛行を開始したのだ。

どうして突然その場を離れたのか、どうして自分から彼女に話しかけにいかなかったのか、
家につくなり私は玄関の前にしゃがみこむと、頭に回る疑問の答えを探していた。

私は―
実はかなりのあがり症で、臆病者だったのだと、その時思い知らされたのだ。

普段なら、仕事の話をするときなら、平常心を、むしろ余裕を持った立ち振る舞いが
出来ている自信があった。

素直で可愛いけれど少し無鉄砲なところがある八橋を
守るためにも、しっかりした姉でいなくてはと常に自分に言い聞かせてきたのに、
どうして何気ない一言が言えなかった、会話に混ざることが出来なかったのか



「じゃあ行って来るわね、安静にしてるのよ」

私は感情を悟られないよう平静を装いながら、玄関のドアを開きつつ八橋にそう言うと、空に飛び立った。
八橋はもう眠ったようだ。

半刻ほど飛行を続けていると、人里が見えてくる。
私は徐々に高度を下げ、人里の入口近くに着地した。

八橋には買い物に行くからと言ったが、実際はすぐに買わないといけない物は特に無く、
陰鬱とした今の気分で家に、八橋と二人きりでいたくなかったのが本音だ。

さて、どうやって時間を潰そうかと人里を歩きながら考えていた、そのときだった。



「こんにちは、弁々。」

彼女が、ルナサが私の前にいた。
考え事をしていたせいだろう、前をよく見ていなかった私は彼女がこちらに
近づいてくるのに気がつかなかった。

「あっ、ルナサ。昨日はライブお疲れ様。一緒に演奏させてくれて、ありがとう。
 とっても楽しかったわ。昨日は終わった後ろくに挨拶もせずに帰ってごめんなさい。」

頭で考えるよりも先に言葉が出てくる。違う、私が言いたいのはこれじゃない、これじゃないのに

「ねえ弁々、その、勘違いだったらいいんだけど、もしかして私、貴方に嫌われるようなことしたかしら?
 昨日の宴会のとき、貴方と目が合った気がして、こっちに来ないかなと思って、目で合図したつもりだったんだけど、
 急にいなくなったから、もしかしてと思って…」

頭をハンマーで叩かれたような衝撃が私を襲った。違う、違うの!
私は貴方のことが好きで、好きで

「違う、違うの…」

気づいたら涙が私の瞳から零れ落ちようとしていた。

「弁々、どうしたの!?」
 
私の様子に驚いたのだろう、ルナサは私の背中を優しくさすると、黙って手をにぎり、
空へと誘った。私はされるがままだったが、その手は騒霊とは思えないほど温かく、優しかった。

しばらくお互いに無言のまま、二人で飛行を続けていると、私も落ち着きを取り戻した。
言え、言うんだ。言葉にしないと相手には伝わらない、どうなってもいいから、伝えるんだ。

「落ち着いた?」

「うん、ごめんルナサ、あの、あのね、昨日のことは」

私は語った。昨日は本当は貴方と一緒にいろんなことを話したかった。
でも急に恥ずかしくなって、思わずその場を逃げ出してしまったと。
貴方が嫌いなんてとんでもない、私は―

「私は、あなたが、ルナサが好き。優しい笑顔も、奏でる音色も、全部、全部。
 もっと貴方のことを知りたい。こんな臆病者な私だけれど、貴方と一緒の時間をもっと過ごしたい。
 そ、その…私と付き合ってください。」

言った。ようやく言う事が出来た。私は勇気を出して彼女の目をまっすぐに見る。

私の告白を受けた彼女はよく見ると顔を頬を赤らめているのが分かった。
そして一言、こう言った。

「私も、貴方が好きよ、弁々。」

頭の中が真っ白になった。


硬直している私を見て微笑みながら、ルナサは私に言った。

「大変よね、姉って。」

「えっ」

「私も正直あがり症な方だから、人と話すのはあんまり得意じゃないんだけど、
 三姉妹の長女で楽団のリーダーだとどうしても矢面に立たないといけないことが多いから、
 普段は必死にポーカーフェイスを装っているの。疲れるわよね、素と違う自分を演じ続けるのって。」

驚いた。いつも落ち着いている彼女にも私と同じ悩みがあったなんて。

「弁々も、八橋ちゃんの姉だから、一生懸命完璧なお姉さんになろうとしていたんでしょう?
 でもたまには肩の力を抜いて、リフレッシュすることも必要よ。それに…」
 
「それに?」
 
「素の弁々が見られて、私は嬉しいわ。あと余計かもしれないけど、こんなにも優しい、思いやりのある貴方なら
 素の部分を見せても、八橋ちゃんとも今までどおりやっていけるはずよ」

自分でも分かるぐらい顔が赤くなっているのを感じた。
それを見たルナサはニコッと、私の目をまっすぐに見て微笑むとこう言った。

「こちらこそ、これからよろしくお願いします、弁々」













「じゃあ行って来るわね、八橋。」

「姉さん今日ルナサさんとデート?」

「え、ち、違うわ、ちょっと一緒に買い物に行くだけ、あ」

「がんばってね、姉さん」

「な、なんで貴方がそれを知ってるのよ」

「リリカに教えてもらったんだよ~」
 
 姉としての威厳は無くなった気がするけど、今私はとっても幸せだ。
 ずっと、ずっとこの幸せな時間が続きますように―

はじめまして、ローファルと申します。
初投稿ですが、読んで下さりありがとうございます。
拙い部分が多いと思いますが、コメントいただけたら幸いです、
よろしくお願い致します。
ローファル
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
好きと自覚する瞬間はやはりいいですね。
その部分を読んで思わず、口角が上がってしまいました。
それから八橋がどれだけ思いつめたのかも想像できてよかったですね。
それだけに最後の幸せそうなのが弁々とのやりとりからより強く感じられました。
2.ローファル削除
遅くなって申し訳ございませんが、
コメントありがとうございます。
まだまだ至らないところが多いですが
今後もゆっくり書いていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします!

ルナ弁流行らないかな(小声)