注:恐らくいないと思いますが、仮面ライダー龍騎未視聴の方は重大なネタバレがありますのでご注意ください。
冷たい月が幻想郷を照らす夜。
真司は落胆していた。SEAL―封印―のカード複製失敗の知らせを受けたからだ。
とても製作者以外の手に負える代物ではないらしい。寺子屋校庭の鉄棒に手をついて、苦渋の表情を浮かべていた。
「くそっ!」
せっかくライダーバトルを避けてミラーモンスターへ対抗する手段を見つけたと思ったのに!
──キィィーーーン……
真司の耳にいつもの甲高い音がこだまする。
月明かりで「頭上注意」と書かれたブリキの立て看板が反射するようになっていたのだ。
「神崎……!!」
「これでわかっただろう。一度ライダーになった者は、ミラーモンスターからも、その宿命からも逃れることはできない。
お前たちがなすべきは、“戦うこと”ただそれだけだ」
神崎は内ポケットから1枚のカードを取り出し、それを眺めながら続ける。
「しかし、お前を含めどいつもこいつも幻想郷に慣れきってその宿命を忘れている」
そして、看板の中からそのカードを投げてよこした。突然だったので、うっかり落としそうになるが、なんとかキャッチした。
“SURVIVE”
それだけが名前の不思議なカード。燃え盛る炎を背景に、左側の翼が描かれている。
「なんだよこれ……」
「使えばわかる。これで王蛇を始末しろ。奴の犠牲者を出したくなければな」
「浅倉を殺せっていうのか……!!」
「他に選択肢があるのか。奴の不満はとうに限界を超えている。ここの人間も手にかけるのは時間の問題だ」
「っ……!!」
「もし、ライダーもそうでない者も助けたいなどと考えているなら、遠からずお前が死ぬ」
真司が何も言えないでいると、いつの間にか神崎の姿は消えていた。その手には“SURVIVE”のカード。
一体どうすればいいのか。その時、足音と共に誰かが真司に声をかけた。
「探したぞ城戸。こんなところにいたのか」
蓮は真司に歩み寄り、彼も鉄棒に腰でもたれる。
「蓮……」
「慧音さんから伝言だ。“お前のせいじゃない、あまり落ち込むな”だとさ」
「だって……!!」
「ま、どうせ慧音さんもお前のアイデアなんか、ダメ元半分だったろうし、
これ以上ウダウダ悩んだところで時間の無駄だ」
「あー!どういう意味だよそれ!」
「そういう意味だ。いつまでも辛気臭い顔されても迷惑だ。さっさと普通のお前に戻れ」
「あれ?もしかして励ましてくれてんの?」
「アホ」
「本っ当素直じゃねーな……まぁ、でも、サンキュー」
真司は蓮とのやり取りで気持ちを立て直す事ができた。しかし、それと共に重要なこと気になってくる。
「でも蓮……俺たちこうしててもいいのかな」
「優衣のことか……」
神崎優衣。紛れもない神崎士郎の妹である。外界では真司達と行動を共にしてきた仲間と言っていい。
しかし、士郎がライダーバトルを始めた原因が自分にあると知ってしまい、現在情緒不安定である。
その原因とは、彼女が幼い頃に“既に死亡”していることだ。
13年前に、ミラーワールドの自分から期限付きの命をもらった彼女は、二十歳を迎えると消えてしまう。残された時間は少ない。
士郎は彼女の為に新しい命を得るため、変身システムを開発し、ライダー達を戦うよう仕向けたのだ。
「恵里さんのこともあるだろ」
「……恵里は俺が助ける。お前は優衣と自分の心配でもしてろ」
小川恵里。秋山蓮の恋人である。現在は意識不明の状態。
原因は神崎が学生時代に行ったミラーワールドに関する実験である。
現在仮面ライダーナイトとして使役しているダークウィングも、ミラーワールドから彼女を狙うダークウィングを服従させるため、やむを得ず契約した存在である。
「でもその為には他のライダーを……どうすりゃいいんだよ俺たち!」
2人を助ける事はできないし、そもそもライダーバトルの犠牲者を出さないために戦ってきた。
どうすることもできないジレンマに、真司は、鉄棒に拳を押し付けた。
その時、にわかに強風が吹いてきて、2人は激しい砂嵐に顔を覆った。
そして、風が止み、頭の砂を払いつつゆっくりと目を開けると、そこには仮面ライダーライアがいた。
「手塚!どうしたんだよ一体」
「聞いてくれ。コアミラーを見つけた。慧音先生にも報告しなければならない」
「……コアミラー。破壊すればミラーワールド共々ミラーモンスターを消し去れる」
「ああ。だが、俺達の世界にあったものとは全くの別物だ」
「別物?ど、どういうことだよ一体」
「わからん。形や様子が全く違うのは確かだが、他にも別の何かを感じる。
とにかく一度慧音先生を交えて対応を話し合う必要がある」
「急な話だが、どちらにしろこんな時間だ。対策会議は明日になるな」
「俺が借りてる家に泊まってけよ。すぐそこだし、寺子屋もここだしちょうどいいだろ」
「ああ……そうさせてもらう」
更に夜は更け、河原で焚き火をして何やらむさぼり食う人影が。
浅倉威、仮面ライダー王蛇である。先日人里を大騒がせした浅倉は、あれ以来野宿生活を送っていた。
ちなみに今食べているのは、先程襲いかかってきて返り討ちにした妖怪の死体を焼いたものである。
ローストチキンのように、脚部をナイフで切り落とし、焚き火で焼いたのだ。
本来なら、夜間に里の外でキャンプファイヤーをして飯を食うなど、妖怪に殺されても文句の言えない自殺行為なのだが、浅倉は例外である。
人間離れした戦闘能力と鋭い勘で、例え寝込みを襲われたところで、並の妖怪はこのような食料にしてしまう。
彼に近づく男が一人。神崎士郎だ。
「食うか?」
神崎に気づくと、食べかけの肉を勧める浅倉。
「……」
「……ふん」
神崎が無言で答えると、再び肉にかぶりつき始める。しかし、次の言葉にすぐ手を止めた、
「龍騎が新たな力を手に入れた。それもかなり強力な」
「!?」
「今のうちに処理しておいた方がいいと思うが」
「んなことはどうでもいい……。そいつと戦えば、少しは満足できるかもしれない……!!」
「前回はあの体たらくだったからな」
「今度こそ……ライダーはみんな俺の獲物だ!!」
夜の闇に、焚き火の炎で浅倉の凶暴な笑みが浮かび上がった。
翌日。
里の出入り口。簡易見張り台にはいつも通り猟銃を持った監視係が立っている。
そこに、顔が背丈の半分ほどまで伸びた妖怪がキョロキョロと周りを見回しながら近づいてきた。
監視係はすかさず猟銃を構え、問いかける。
「止まれ!通行手形は持ってるのか?」
「い、いや。おら、届け物を頼まれただけだべ。これ、城戸真司って人に渡して欲しいだ」
妖怪はおずおずと1通の封筒を監視係に手渡した。裏にも表にも何も書かれていない。
「城戸真司って、あの仮面ライダーの人か。差出人は一体……」
「ちゃ、ちゃんと渡したからなー!殺さねえでくれよー!」
質問に答える前に妖怪はどこかに叫びながら逃げてしまった。
仕方がない。とにかくあの人に届けなければ。監視係は仲間に交代を頼むと、真司の住む仮住まいへ向かった。
その時、真司、蓮、手塚、慧音は授業が終わった後の寺子屋の教室で、昨日手塚が話したことについて検討を重ねていた。
「話はわかった。そのコアミラーというものを破壊すればミラーモンスターを殲滅することができるというわけだな?」
「はい。でも、それでライダーバトルがなくなると優衣ちゃんや恵里さんが……」
「……気の毒な話だな。私にもどうしていいのやら……」
「俺は、恵里を助ける。そのためならなんだってやる。そう決めたはずなんだ……」
「秋山……」
「くっ、永琳の力を借りられれば!」
幻想郷が神崎士郎の監視下に置かれていることは永琳から聞かされていた。
その時の悲壮感に満ちた声は今でも忘れられない。その時、外から声が聞こえてきた。
“ごめんくださ~い、城戸真司さんに届け物です”
「え、俺?すいません、ちょっと行ってきます」
真司は一旦席を外し、寺子屋の外に出た。先程の監視係が手紙を持って待っていた。
「すいません、お待たせしちゃって」
「いえ、こちらがお届け物です」
監視係は封筒を渡すと早々に持ち場へ戻っていった。
「ご苦労様で~す!手紙か……なんにも書いてないな。開けてみよう」
真司が封筒を開けると、1枚のわら半紙が折りたたまれて入っており、雑な字でこう書かれていた。
<夕方、里外れの河原で待つ。他のライダーと来たり、すっぽかしやがったら誰かが蛇の餌になる>
「!?」
署名こそなかったが、明らかに差出人は浅倉威だ。
また、ライダーバトルが始まる……いや、今度は以前とは違う。新しいカードを手に入れた。何か手はあるはず。
すると、帰りが遅い真司を心配して慧音達も出てきた。
「どうしたんだ、真司?」
「先生、浅倉から手紙が来ました」
「あの男から!?どんな要件なんだ?」
「夕方に里外れの河原に来いって。多分、果し状」
真司は手紙を慧音に手渡す。慧音が手紙に目を通し、秋山や手塚も横から見るが、3人の表情が険しくなる。
「行くのか、城戸」
「ああ、行かなきゃ誰かが犠牲になる」
「1人で敵う相手じゃないぞ」
「それは、きっと大丈夫。新しいカードを手に入れたから」
ポケットから“SURVIVE”のカードを取り出し、皆に見せる。
「何なんだ、そのカードは?」
慧音が尋ねる。秋山も手塚も不思議がる。
「昨日、神崎から渡されたんです。これで王蛇を倒せって」
「お前……やる気なのか」
「まさか!凶悪犯だからって、命を奪ったらそれこそ神崎の思う壺だ。何とか死なないように動きを止める」
「無謀だということはわかっているな」
「ジャーナリストは多少無茶じゃないと勤まらないって!じゃあ、俺、行くよ」
里の門へ向かう真司の後ろ姿を見て、手塚はメダルを投げようとし……やめた。
運命は変えるもの。真司にはそれができると信じることにしたのだ。
砂利道を歩くこと約10分。そこに奴はいた。忘れもしない後ろ姿。向こうもこちらに気づき振り返る。
「ハッ!逃げなかったのは褒めてやる……」
「浅倉……俺はお前を殺さない。そして誰も殺させない」
「寝言ほざいてんじゃねえ……どっちかが死ぬまでやるんだよ……!!」
川面に近づき、カードデッキをかざし、浅倉は王蛇に変身した。そして、真司も水面を利用し、龍騎に変身した。
周辺には誰もいない。ミラーワールドに行く必要はないだろう。
相手のデッキを破壊せず、あの戦闘狂を無力化する。今ならできるはずだ!
「さぁ、やろうぜ……」
「ああ……!」
その言葉を切欠に、二人の決闘が幕を開けた。まずは両者“SWORD VENT”で基本武器を召喚。
互いに向かって駆けより、斬り合いになった。龍騎が斬りかかると、王蛇がベノサーベルで受け流し、
王蛇がベノサーベルを振り下ろすと、龍騎はドラグセイバーで受け止める。
しばらくは両者互角の戦いが続いていたが、やはり戦闘能力の違いなのか、
ほとんど一瞬の差で腕を斬られそうになる等、危うい場面が多くなってきた。
鍔迫り合いになったところで浅倉が話しかけてくる。
「どうした……その程度か、新しい力ってのは……!!」
「神崎から聞いたのか……!見たいなら……見せてやる!!」
ベノサーベルを振り払い、後方にジャンプ。そして真司は1枚のカードをドロー。引いたカードを表に向ける。
すると不思議な事に、イラストだった背景の炎が、存在する炎のように燃え盛っている。同時に龍騎の周辺で激しい炎が巻き起こった。
その熱風に、さすがの王蛇も左手をかざして顔を守る。左手のドラグバイザーが、龍の頭部を象った銃型バイザー、ドラグバイザーツバイに変形した。
龍騎はバイザーの口に“SURVIVE”のカードを挿入。勢いを付けその口を閉じる。
『SURVIVE』
すると龍騎の体を燃え盛る炎が包んだ。そして、その業火が止んだとき、姿を表したのは、
重厚なアーマー、両腕をガードする牙を思わせるプロテクター、そして黄金の装飾が施されたヘルムでパワーアップした龍騎サバイブであった。
「そいつか、新しい力ってのは……面白いじゃねえか!!」
「行くぞ浅倉!誰もライダーバトルなんかの犠牲になんかしない!!」
「わけわかんねえこと、ほざくな……!」
サバイブはパワーアップしたドラグセイバー、ドラグブレードで王蛇に攻撃を仕掛ける。
王蛇はそれをベノサーベルで受け止めるが、先程とは重さも切れ味も格段に進化した剣でサバイブは次々と斬撃を繰り出す。
「いい剣じゃねえか……欲しくなっちまったよ!」
王蛇はカードを1枚ドロー。ベノサーベルに装填。
『STEAL VENT』
また前回のようにドラグブレードが引き寄せられそうになるが、サバイブはすかさずドラグバイザーツバイでベノサーベルを狙撃。カードの発動を妨害した。
「ぐっ……!!」
「二度も同じ手は食わない。今度はこっちの番だ!」
サバイブがカードをドロー。バイザー側面のカードリーダーに装填。
『SHOOT VENT』
パワーアップしたドラグレッダー、ドラグランザーが現れ、口に炎のエネルギーを蓄える。
そして、サバイブがドラグバイザーツバイで王蛇に狙いを定めた瞬間、巨大な火球を放ち、サバイブもトリガーを引きレーザーを発射。
ライダーと契約モンスターの息の合った攻撃が王蛇に命中。十分なダメージを与えた。
「がはっ!!」
火球の炸裂で後方に吹き飛ばされる王蛇。何度も砂利道を転がる。そして、全身の痛みを無視して立ち上がると、
「まだだ……まだ足りねえんだよ!!」
デッキからカードを思い切り引き抜く。そしてベノサーベルに装填。
『FINAL VENT』
「勝負だ……行くぞ浅倉!!」
サバイブも最後のカードをドロー。バイザーに装填。
『FINAL VENT』
上空で舞っていたドラグランザーの鋼鉄の鱗が吹き飛び、サバイブはジャンプしてドラグランザーの背に乗った。
すると胴体と尾から車輪が現れ、そのまま巨大なバイクに変形して着地。
「いいか、直撃は避けるんだ。絶対デッキも破壊するな!」
返事をするかのようにドラグランザーが咆哮する。
王蛇がベノスネーカーと共に猛ダッシュしてくる。ドラグランザーはいくつも巨大な火球を吐き、爆風でその動きを止めると、
王蛇の隣をギリギリかすめるかのように走り抜ける。その直前、サバイブはドラグブレードで交差を描くように王蛇を斬りつけた。
確かな手応えを二度感じた。頼む。サバイブはドラグランザーを停止させ、後ろを振り返る。王蛇は砂利の上で倒れていた。
ドラグランザーから降り、王蛇に駆け寄る。火球の攻撃とサバイブの斬撃でアーマーは砕けていたが、浅倉は生きていた。デッキも無事だ。
「久々に……食えた気分だ……」
そう言うと、浅倉は気を失った。
「やった……生きてる。生きてるよ!」
“SURVIVE”の力で、真司は暴走する浅倉を止めることに成功したのだ。真司は、浅倉を背負うと里に向かって歩き出した。
とある洋館の一室。
全ての窓ガラスに白い紙が貼られ、何もない一室に神崎はいた。神崎は子供が描いた1枚の絵を眺めている。絵の中の少年と少女は笑顔で手をつないでいる。
“おじさん離して!俺は優衣のそばにいなきゃいけないんだ!優衣は俺が守る!”
神崎は何かに耐えるようにじっと目を閉じる。心から溢れ出るものを抑えこむように。
“俺がいないと優衣は、20回目の誕生日で消えちゃうんだ!優衣、優衣ー!!”
“お兄ちゃん、お兄ちゃーん!”
「……戦え、もうすぐ、もうすぐだ。そうすればお前に、新しい命を与えることができる」
冷たい月が幻想郷を照らす夜。
真司は落胆していた。SEAL―封印―のカード複製失敗の知らせを受けたからだ。
とても製作者以外の手に負える代物ではないらしい。寺子屋校庭の鉄棒に手をついて、苦渋の表情を浮かべていた。
「くそっ!」
せっかくライダーバトルを避けてミラーモンスターへ対抗する手段を見つけたと思ったのに!
──キィィーーーン……
真司の耳にいつもの甲高い音がこだまする。
月明かりで「頭上注意」と書かれたブリキの立て看板が反射するようになっていたのだ。
「神崎……!!」
「これでわかっただろう。一度ライダーになった者は、ミラーモンスターからも、その宿命からも逃れることはできない。
お前たちがなすべきは、“戦うこと”ただそれだけだ」
神崎は内ポケットから1枚のカードを取り出し、それを眺めながら続ける。
「しかし、お前を含めどいつもこいつも幻想郷に慣れきってその宿命を忘れている」
そして、看板の中からそのカードを投げてよこした。突然だったので、うっかり落としそうになるが、なんとかキャッチした。
“SURVIVE”
それだけが名前の不思議なカード。燃え盛る炎を背景に、左側の翼が描かれている。
「なんだよこれ……」
「使えばわかる。これで王蛇を始末しろ。奴の犠牲者を出したくなければな」
「浅倉を殺せっていうのか……!!」
「他に選択肢があるのか。奴の不満はとうに限界を超えている。ここの人間も手にかけるのは時間の問題だ」
「っ……!!」
「もし、ライダーもそうでない者も助けたいなどと考えているなら、遠からずお前が死ぬ」
真司が何も言えないでいると、いつの間にか神崎の姿は消えていた。その手には“SURVIVE”のカード。
一体どうすればいいのか。その時、足音と共に誰かが真司に声をかけた。
「探したぞ城戸。こんなところにいたのか」
蓮は真司に歩み寄り、彼も鉄棒に腰でもたれる。
「蓮……」
「慧音さんから伝言だ。“お前のせいじゃない、あまり落ち込むな”だとさ」
「だって……!!」
「ま、どうせ慧音さんもお前のアイデアなんか、ダメ元半分だったろうし、
これ以上ウダウダ悩んだところで時間の無駄だ」
「あー!どういう意味だよそれ!」
「そういう意味だ。いつまでも辛気臭い顔されても迷惑だ。さっさと普通のお前に戻れ」
「あれ?もしかして励ましてくれてんの?」
「アホ」
「本っ当素直じゃねーな……まぁ、でも、サンキュー」
真司は蓮とのやり取りで気持ちを立て直す事ができた。しかし、それと共に重要なこと気になってくる。
「でも蓮……俺たちこうしててもいいのかな」
「優衣のことか……」
神崎優衣。紛れもない神崎士郎の妹である。外界では真司達と行動を共にしてきた仲間と言っていい。
しかし、士郎がライダーバトルを始めた原因が自分にあると知ってしまい、現在情緒不安定である。
その原因とは、彼女が幼い頃に“既に死亡”していることだ。
13年前に、ミラーワールドの自分から期限付きの命をもらった彼女は、二十歳を迎えると消えてしまう。残された時間は少ない。
士郎は彼女の為に新しい命を得るため、変身システムを開発し、ライダー達を戦うよう仕向けたのだ。
「恵里さんのこともあるだろ」
「……恵里は俺が助ける。お前は優衣と自分の心配でもしてろ」
小川恵里。秋山蓮の恋人である。現在は意識不明の状態。
原因は神崎が学生時代に行ったミラーワールドに関する実験である。
現在仮面ライダーナイトとして使役しているダークウィングも、ミラーワールドから彼女を狙うダークウィングを服従させるため、やむを得ず契約した存在である。
「でもその為には他のライダーを……どうすりゃいいんだよ俺たち!」
2人を助ける事はできないし、そもそもライダーバトルの犠牲者を出さないために戦ってきた。
どうすることもできないジレンマに、真司は、鉄棒に拳を押し付けた。
その時、にわかに強風が吹いてきて、2人は激しい砂嵐に顔を覆った。
そして、風が止み、頭の砂を払いつつゆっくりと目を開けると、そこには仮面ライダーライアがいた。
「手塚!どうしたんだよ一体」
「聞いてくれ。コアミラーを見つけた。慧音先生にも報告しなければならない」
「……コアミラー。破壊すればミラーワールド共々ミラーモンスターを消し去れる」
「ああ。だが、俺達の世界にあったものとは全くの別物だ」
「別物?ど、どういうことだよ一体」
「わからん。形や様子が全く違うのは確かだが、他にも別の何かを感じる。
とにかく一度慧音先生を交えて対応を話し合う必要がある」
「急な話だが、どちらにしろこんな時間だ。対策会議は明日になるな」
「俺が借りてる家に泊まってけよ。すぐそこだし、寺子屋もここだしちょうどいいだろ」
「ああ……そうさせてもらう」
更に夜は更け、河原で焚き火をして何やらむさぼり食う人影が。
浅倉威、仮面ライダー王蛇である。先日人里を大騒がせした浅倉は、あれ以来野宿生活を送っていた。
ちなみに今食べているのは、先程襲いかかってきて返り討ちにした妖怪の死体を焼いたものである。
ローストチキンのように、脚部をナイフで切り落とし、焚き火で焼いたのだ。
本来なら、夜間に里の外でキャンプファイヤーをして飯を食うなど、妖怪に殺されても文句の言えない自殺行為なのだが、浅倉は例外である。
人間離れした戦闘能力と鋭い勘で、例え寝込みを襲われたところで、並の妖怪はこのような食料にしてしまう。
彼に近づく男が一人。神崎士郎だ。
「食うか?」
神崎に気づくと、食べかけの肉を勧める浅倉。
「……」
「……ふん」
神崎が無言で答えると、再び肉にかぶりつき始める。しかし、次の言葉にすぐ手を止めた、
「龍騎が新たな力を手に入れた。それもかなり強力な」
「!?」
「今のうちに処理しておいた方がいいと思うが」
「んなことはどうでもいい……。そいつと戦えば、少しは満足できるかもしれない……!!」
「前回はあの体たらくだったからな」
「今度こそ……ライダーはみんな俺の獲物だ!!」
夜の闇に、焚き火の炎で浅倉の凶暴な笑みが浮かび上がった。
翌日。
里の出入り口。簡易見張り台にはいつも通り猟銃を持った監視係が立っている。
そこに、顔が背丈の半分ほどまで伸びた妖怪がキョロキョロと周りを見回しながら近づいてきた。
監視係はすかさず猟銃を構え、問いかける。
「止まれ!通行手形は持ってるのか?」
「い、いや。おら、届け物を頼まれただけだべ。これ、城戸真司って人に渡して欲しいだ」
妖怪はおずおずと1通の封筒を監視係に手渡した。裏にも表にも何も書かれていない。
「城戸真司って、あの仮面ライダーの人か。差出人は一体……」
「ちゃ、ちゃんと渡したからなー!殺さねえでくれよー!」
質問に答える前に妖怪はどこかに叫びながら逃げてしまった。
仕方がない。とにかくあの人に届けなければ。監視係は仲間に交代を頼むと、真司の住む仮住まいへ向かった。
その時、真司、蓮、手塚、慧音は授業が終わった後の寺子屋の教室で、昨日手塚が話したことについて検討を重ねていた。
「話はわかった。そのコアミラーというものを破壊すればミラーモンスターを殲滅することができるというわけだな?」
「はい。でも、それでライダーバトルがなくなると優衣ちゃんや恵里さんが……」
「……気の毒な話だな。私にもどうしていいのやら……」
「俺は、恵里を助ける。そのためならなんだってやる。そう決めたはずなんだ……」
「秋山……」
「くっ、永琳の力を借りられれば!」
幻想郷が神崎士郎の監視下に置かれていることは永琳から聞かされていた。
その時の悲壮感に満ちた声は今でも忘れられない。その時、外から声が聞こえてきた。
“ごめんくださ~い、城戸真司さんに届け物です”
「え、俺?すいません、ちょっと行ってきます」
真司は一旦席を外し、寺子屋の外に出た。先程の監視係が手紙を持って待っていた。
「すいません、お待たせしちゃって」
「いえ、こちらがお届け物です」
監視係は封筒を渡すと早々に持ち場へ戻っていった。
「ご苦労様で~す!手紙か……なんにも書いてないな。開けてみよう」
真司が封筒を開けると、1枚のわら半紙が折りたたまれて入っており、雑な字でこう書かれていた。
<夕方、里外れの河原で待つ。他のライダーと来たり、すっぽかしやがったら誰かが蛇の餌になる>
「!?」
署名こそなかったが、明らかに差出人は浅倉威だ。
また、ライダーバトルが始まる……いや、今度は以前とは違う。新しいカードを手に入れた。何か手はあるはず。
すると、帰りが遅い真司を心配して慧音達も出てきた。
「どうしたんだ、真司?」
「先生、浅倉から手紙が来ました」
「あの男から!?どんな要件なんだ?」
「夕方に里外れの河原に来いって。多分、果し状」
真司は手紙を慧音に手渡す。慧音が手紙に目を通し、秋山や手塚も横から見るが、3人の表情が険しくなる。
「行くのか、城戸」
「ああ、行かなきゃ誰かが犠牲になる」
「1人で敵う相手じゃないぞ」
「それは、きっと大丈夫。新しいカードを手に入れたから」
ポケットから“SURVIVE”のカードを取り出し、皆に見せる。
「何なんだ、そのカードは?」
慧音が尋ねる。秋山も手塚も不思議がる。
「昨日、神崎から渡されたんです。これで王蛇を倒せって」
「お前……やる気なのか」
「まさか!凶悪犯だからって、命を奪ったらそれこそ神崎の思う壺だ。何とか死なないように動きを止める」
「無謀だということはわかっているな」
「ジャーナリストは多少無茶じゃないと勤まらないって!じゃあ、俺、行くよ」
里の門へ向かう真司の後ろ姿を見て、手塚はメダルを投げようとし……やめた。
運命は変えるもの。真司にはそれができると信じることにしたのだ。
砂利道を歩くこと約10分。そこに奴はいた。忘れもしない後ろ姿。向こうもこちらに気づき振り返る。
「ハッ!逃げなかったのは褒めてやる……」
「浅倉……俺はお前を殺さない。そして誰も殺させない」
「寝言ほざいてんじゃねえ……どっちかが死ぬまでやるんだよ……!!」
川面に近づき、カードデッキをかざし、浅倉は王蛇に変身した。そして、真司も水面を利用し、龍騎に変身した。
周辺には誰もいない。ミラーワールドに行く必要はないだろう。
相手のデッキを破壊せず、あの戦闘狂を無力化する。今ならできるはずだ!
「さぁ、やろうぜ……」
「ああ……!」
その言葉を切欠に、二人の決闘が幕を開けた。まずは両者“SWORD VENT”で基本武器を召喚。
互いに向かって駆けより、斬り合いになった。龍騎が斬りかかると、王蛇がベノサーベルで受け流し、
王蛇がベノサーベルを振り下ろすと、龍騎はドラグセイバーで受け止める。
しばらくは両者互角の戦いが続いていたが、やはり戦闘能力の違いなのか、
ほとんど一瞬の差で腕を斬られそうになる等、危うい場面が多くなってきた。
鍔迫り合いになったところで浅倉が話しかけてくる。
「どうした……その程度か、新しい力ってのは……!!」
「神崎から聞いたのか……!見たいなら……見せてやる!!」
ベノサーベルを振り払い、後方にジャンプ。そして真司は1枚のカードをドロー。引いたカードを表に向ける。
すると不思議な事に、イラストだった背景の炎が、存在する炎のように燃え盛っている。同時に龍騎の周辺で激しい炎が巻き起こった。
その熱風に、さすがの王蛇も左手をかざして顔を守る。左手のドラグバイザーが、龍の頭部を象った銃型バイザー、ドラグバイザーツバイに変形した。
龍騎はバイザーの口に“SURVIVE”のカードを挿入。勢いを付けその口を閉じる。
『SURVIVE』
すると龍騎の体を燃え盛る炎が包んだ。そして、その業火が止んだとき、姿を表したのは、
重厚なアーマー、両腕をガードする牙を思わせるプロテクター、そして黄金の装飾が施されたヘルムでパワーアップした龍騎サバイブであった。
「そいつか、新しい力ってのは……面白いじゃねえか!!」
「行くぞ浅倉!誰もライダーバトルなんかの犠牲になんかしない!!」
「わけわかんねえこと、ほざくな……!」
サバイブはパワーアップしたドラグセイバー、ドラグブレードで王蛇に攻撃を仕掛ける。
王蛇はそれをベノサーベルで受け止めるが、先程とは重さも切れ味も格段に進化した剣でサバイブは次々と斬撃を繰り出す。
「いい剣じゃねえか……欲しくなっちまったよ!」
王蛇はカードを1枚ドロー。ベノサーベルに装填。
『STEAL VENT』
また前回のようにドラグブレードが引き寄せられそうになるが、サバイブはすかさずドラグバイザーツバイでベノサーベルを狙撃。カードの発動を妨害した。
「ぐっ……!!」
「二度も同じ手は食わない。今度はこっちの番だ!」
サバイブがカードをドロー。バイザー側面のカードリーダーに装填。
『SHOOT VENT』
パワーアップしたドラグレッダー、ドラグランザーが現れ、口に炎のエネルギーを蓄える。
そして、サバイブがドラグバイザーツバイで王蛇に狙いを定めた瞬間、巨大な火球を放ち、サバイブもトリガーを引きレーザーを発射。
ライダーと契約モンスターの息の合った攻撃が王蛇に命中。十分なダメージを与えた。
「がはっ!!」
火球の炸裂で後方に吹き飛ばされる王蛇。何度も砂利道を転がる。そして、全身の痛みを無視して立ち上がると、
「まだだ……まだ足りねえんだよ!!」
デッキからカードを思い切り引き抜く。そしてベノサーベルに装填。
『FINAL VENT』
「勝負だ……行くぞ浅倉!!」
サバイブも最後のカードをドロー。バイザーに装填。
『FINAL VENT』
上空で舞っていたドラグランザーの鋼鉄の鱗が吹き飛び、サバイブはジャンプしてドラグランザーの背に乗った。
すると胴体と尾から車輪が現れ、そのまま巨大なバイクに変形して着地。
「いいか、直撃は避けるんだ。絶対デッキも破壊するな!」
返事をするかのようにドラグランザーが咆哮する。
王蛇がベノスネーカーと共に猛ダッシュしてくる。ドラグランザーはいくつも巨大な火球を吐き、爆風でその動きを止めると、
王蛇の隣をギリギリかすめるかのように走り抜ける。その直前、サバイブはドラグブレードで交差を描くように王蛇を斬りつけた。
確かな手応えを二度感じた。頼む。サバイブはドラグランザーを停止させ、後ろを振り返る。王蛇は砂利の上で倒れていた。
ドラグランザーから降り、王蛇に駆け寄る。火球の攻撃とサバイブの斬撃でアーマーは砕けていたが、浅倉は生きていた。デッキも無事だ。
「久々に……食えた気分だ……」
そう言うと、浅倉は気を失った。
「やった……生きてる。生きてるよ!」
“SURVIVE”の力で、真司は暴走する浅倉を止めることに成功したのだ。真司は、浅倉を背負うと里に向かって歩き出した。
とある洋館の一室。
全ての窓ガラスに白い紙が貼られ、何もない一室に神崎はいた。神崎は子供が描いた1枚の絵を眺めている。絵の中の少年と少女は笑顔で手をつないでいる。
“おじさん離して!俺は優衣のそばにいなきゃいけないんだ!優衣は俺が守る!”
神崎は何かに耐えるようにじっと目を閉じる。心から溢れ出るものを抑えこむように。
“俺がいないと優衣は、20回目の誕生日で消えちゃうんだ!優衣、優衣ー!!”
“お兄ちゃん、お兄ちゃーん!”
「……戦え、もうすぐ、もうすぐだ。そうすればお前に、新しい命を与えることができる」
本編を知ってる人ならどんな結末になるのか分かるけど、これはこれで良しだと思う今日この頃。次は誰が「サバイブ」の力を手に入れるのか?本編ではライアが龍騎にカードを譲ったけど、来るのかな「ライアサバイブ」と。続きを楽しみにしています。
毎度お読みいただき、コメントまでいただきありがとうございます。とても励みになっています。
ストーリーに関してはご指摘の通り、そろそろシャッターを下ろそうかという段階なので
本編とそう変わらない結末になってしまいそうです。
せめてそこに至るまでは色々工夫をしていきたいとは思っているのですが…
もっと実力があれば、ライアサバイブも王蛇サバイブも出せたんでしょうが正直厳しいです。
とにかく残りの話に全力を出していきたいと思います。
コアミラーの存在が判明してたり手塚が生きてる時点で優衣の過去がわかってたり…
浅倉に関してはベノスネーカーの方を倒せばよかったんじゃないかとか、そもそも紫が元の世界に還せばいいだけなんじゃとか思ったけど野暮なのでやめておこう
ちなみにドラグブレードはドラグバイザーツヴァイが変形した武器だから、スチールベントじゃ奪えないんじゃないかな
それから3話で普通に一般人がミラーワールド内での戦いを見れてたけど、優衣以外だとデッキに触れないとミラーワールドは見えないよ
読んでいただいてありがとうございます。また、沢山のご指摘、恐縮致します。
Amazonビデオで復習したつもりだったのですが、矛盾だらけで本当に申し訳ありません。
一応コアミラーの存在についてはTVSPの設定を取り入れてみたのですが、説明が出来ていないですね。
クロスオーバーは生半可な気持ちでやるものではありませんね。反省しきりです。
何だかんだ言いつつ楽しく読ませてもらってるし、応援もしてるから頑張って