Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ある幻想少女たちの有閑な一日

2016/05/12 01:27:35
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 神社にやってきた霧雨魔理沙が離れの縁側に見えたのは、仰向けになって寝転がっている博麗霊夢の姿であった。今日は一日雲一つない晴天となりそうな予感で、巫女は日向ぼっこを楽しむ用意をしているように思われた。そばにやってきても一言の挨拶もない。魔理沙が霊夢の身体を揺すって「おい。元気ないじゃないか」と訊くと、「なんにもやる気が出ないのよ」と巫女は焦点の合わないぼんやりとした顔で答える。見ていた魔理沙は溜め息を吐かざるを得なくなった。今年もそういう時期が来たのかと察したのだ。
 ときたま霊夢は何の前触れもなく、まるで全てが燃え尽きてしまったかのように腑抜けになってしまうことがあった。今では慣れてしまった魔理沙だったが、最初の頃はあまりにも心配になって、引っ立てるように霊夢を永遠亭まで連れて行ったものだった。竹林の薬師はしばらく紅白の病人を診てから、こんなことを魔理沙に伝えたのだった。
「季節病のようなものね。自己防衛によるストレス発散の一種、と私には思えるわ。貴女はあまりそう思わないかもしれないけれど、霊夢だって何かしらのストレスを抱え込むことがあるのよ」
 魔理沙はその永琳の診断を信じた。「そっとしておけば自然と治るわ」と言われた通り、確かに数日も経てば元の霊夢に復調したのだった。その後の異変解決の時も、傍から見ている魔理沙には霊夢のキレが失われた等の様には思われない。おかげで不意打ちのようにダレきった霊夢に出くわしても、魔理沙は安心して巫女のそばで過ごせていた。
 霊夢の横をお邪魔して、魔理沙は縁側から離れの中へ上がり込んだ。そしてそのまま土間へと直行する。普段は霊夢が用意するから待っているだけで良いのだが、今日はどれだけ待っても歓待のお茶と煎餅は出てこない。仕方がないので自分で用意するしか無い訳だ。
 戸棚を探して茶葉と急須と湯呑を用意し、茶葉と湯を急須に詰める。それらの量と温度は全くの適当だったが、これもまた仕方のない事であった。霊夢が動かなくなる事態は何回か経験があって、その度に魔理沙は茶の淹れ方くらい訊いておけば良かったと小さな後悔をするのだが、勤勉を自負する彼女と言えど何故かこればっかりは普段訊いておこうと思うこと自体が頭から抜け落ちる。仕方がないので、毎回これまでの経験と勘を最大活用してお茶を淹れるしかなくなるのだ。因みに最初の頃に淹れたお茶は風味もくそもない、顔を歪めて口をへの字にひん曲げるほどの渋茶であった。今日、湯呑に注いだ茶は、その頃のものと比べれば遥かにマシになったとは思う。
 居間でくつろぎながら、魔理沙はちらと霊夢を見やった。縁側の霊夢は来た頃から全く動かない。その様相から、まるで猫だな、等とふと思う。
 博麗神社に住まう紅白の猫。よく晴れた休日は縁側に出て一日日向ぼっこ。名は霊夢という。
 そこで不注意にも魔理沙は、猫耳としっぽが生えた想像の霊夢が、自分に向かってにっこりと笑いかけてにゃあと鳴いてみせた、等という場面を妄想してしまっていた。それは普段のツンと澄ました彼女からは想像もつかない、まるで天使かと思うような笑顔のねこ巫女であった。あんまりなギャップである。その可笑しさに、思わず魔理沙は口に含んでいた茶を盛大に噴き出してしまっていた。
 大惨事が居間のちゃぶ台とその周辺に現出した。むせと火傷で魔法使いがのたうち回る。家主からすれば全くはた迷惑な状況が起きた訳だが、当の家主兼話題の巫女は、こんな事態にもなんら対応をしようという素振りすら見せなかった。一目、居間の方に目をくれた程度である。
 居間を転がり回りながら、魔理沙はもう二度とねこ巫女の想像などすまいと心に誓ったのであった。


※ ※ ※


 昼。陽が南中に差し掛かっても、まるで霊夢は動く気配が無い。相変わらずの日向ぼっこである。
 魔理沙は土間で飯の準備をしていた。彼女は動いているのだから、時が来れば腹も減る。当然の摂理である。
 釜を覗いてみると、炊いた米が僅かに減っている。良かった、朝は食べていたようだと魔理沙は安堵した。だが一応はと思い、縁側の巫女に「朝はちゃんと食べたか?」と訊いてみた。巫女は小さく頷く。「今、腹は減ってるか?」とも訊いてみた。今度は首を横に振る。「……ご飯、作ったら食べるか?」首を振る。―――どうやら作るのは一人分で良いらしいと分かった。
 さて、と再度土間に立つ。何を作ったものかと魔理沙は悩んだ。先ほど土間の全ての戸棚を漁ってみたところ、なんとも貧相な食材しか出てこなかったのだ。数個の卵、干した肉と魚、野菜が少し。それだけであった。飯だけは十分ある。
 答えが出るのはすぐだった。焼飯にしてしまおう。
 魔理沙は大雑把な少女であった。適度に火を通せば、大抵のものは食えるようになると思っている。魔法使いがスカートの秘密のポッケから取り出したのは、彼女愛用のミニ八卦炉だ。このマジックアイテムの火力があれば、焼飯一つ拵えることくらい朝飯前である。作るのは昼飯であったが。
 棚から引っ張り出した中華鍋を火にかける。適当に油と食材と調味料を放り込んで、魔理沙は豪快に調理を始めた。
 ジャッジャッと鍋を返す軽快な音が土間に響く。鍋を跳ねる食材が、芳ばしい香りを広げていく。時折ミニ八卦炉から舞い上がった星屑が鍋の底に当たって、カンカンと軽い音を立てていた。
 調理を初めて数分。あっという間に焼飯は完成した。湯気がほんわかと立ち上る焼飯を鍋から皿に移して、それを居間へと持っていく。ちゃぶ台に皿を置き、さぁいただきますと手を合わせて食べ始めようとしたその時、縁側からクルルル……と腹の虫が鳴るような音を魔理沙は聞いた気がした。
「…………」
 魔理沙は縁側の巫女を見やった。霊夢は庭の方をぼんやりと見つめて動かない。はて、気のせいだったかと思い直し、再び焼飯を食べ始めようとしたその時、またしてもクルルル……と腹の虫の鳴る音が、さっきよりも大きく縁側から聞こえてきた。今度は気のせいなどではないと分かってしまった。 やっぱり腹が減ってたんじゃないか……と魔理沙は溜め息を吐いて苦笑していた。
「霊夢、霊夢」
 魔理沙が呼びかけると、霊夢は眠たそうな目をこちらに寄越した。手招きをしてみせると、ゆっくりとした動作でもっそりと起き上がって、四つん這いになってこちらにやって来る。その一連の動きはまるで先ほど苦労させられた例の妄想を連想させるようで、妙な予感を魔理沙に抱かせていた。
「食わせてやるから、もうちょっとこっちに……こっちにな」
 近すぎず、遠すぎないくらいの手の届く場所を指示すると、霊夢は素直にそこに収まった。スプーンで焼き飯をひとさじ掬ってふうふうと息を吹きかけてから、開けさせていた口の中にそっと入れてやる。霊夢はもにょもにょと口を動かして、焼飯を食べていた。真っ赤な危険信号が、魔理沙の中に灯り始めた。もうひとさじ掬って食べさせる。もにょもにょと口が動く。ハザード級の警報音が魔理沙の中で鳴り響いた。
 魔理沙はもにょもにょ食べる巫女をじっと見つめていた。そして飲み込み終えるのを見計らって、そのおとがいに恐る恐る手を伸ばした。さわさわと霊夢の下あごを撫でる。完全に好奇心の暴走であった。
「なにすんのよ……」
 霊夢がわずかに顔をしかめて気迫の無い抗議の言葉を呟いたが、魔理沙には全く気にする余裕が無くなっていた。巫女の喉がゴロゴロと鳴っているのを、彼女は聞いてしまっていたのである。

―――ねこ巫女な霊夢というのも、悪くないな。

 魔理沙の頬がわずかに赤く染まった。魔法使いがねこ巫女に完敗した瞬間であった。


※ ※ ※


 飯を食べ終わると、紅白のねこ巫女はゆっくりと縁側へ戻っていった。どうも気に入った定位置があるらしく、戻ったところは朝から見ていた位置と全く同じ場所であった。
 それから時間が経った、心地良い眠気が到来する昼下がり。魔理沙は居間の壁に寄りかかってぼんやりと宙を眺めていた。はぁ……と気の抜けた溜め息も吐いていた。まるで巫女のやる気の無さが伝染したかのようだった。
 魔理沙は退屈していた。なにせやることが無いのである。
 魔理沙は神社に手ぶらで来ていた。暇をつぶせる術を持ち合わせていなかった。本来であれば今頃は、霊夢と食後の平素な会話を楽しんだり、腹ごなしに軽く弾幕ごっこをしたりして過ごしているような時間であったのだ。だが今日はそれらのような時間の過ごし方が一切出来ていない。原因は見ての通りである。そもそも魔理沙がわざわざ神社へと足を運ぶのは、霊夢と共に時間を過ごさんが為なのだ。どうしてそれ以外の物事をするための物品を持ち合わせているだろうか?
 ここで引き揚げてしまうことも、ほんの少し考えた。だがこの状態の霊夢から目を離すというのは魔理沙にとって気懸かりであったし、なにより思考したその瞬間に、少なくとも日が暮れるまでは霊夢と一緒に居なければならぬという妙な義務感が、その案を完膚なきまでに叩き潰してしまっていた。因みにこれまで魔理沙がこのような霊夢に遭遇した日は、少なくとも夕暮れまでは共に過ごすのが常であったのだ。
 さてどうしたものかと、魔理沙はちらと霊夢を見やった。魔理沙の悩みなど想像だにしない暢気なねこ巫女は、このとき片腕を枕にうつ伏せになって、ぼんやりと居間の方に目をやっていた。私もあんな風にのんびり出来ればなぁ―――とまで考えたその時、救いの様に魔理沙に天啓が舞い降りてきたのだ。それはなぜ今まで思いつかなかったのだろうと思うほどの、むしろ呆れてしまうような当たり前の発想だった。
 何もすることが無いなら、何もする必要の無いことをやればいい。では何もする必要のない行動とは何か? 答えは簡単。昼寝である。要は昼寝をすればいいのである。
 どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのだろうかと、魔理沙は笑いたくなった。これなら霊夢のそばを離れなくて済むし、何かあった時は即座に対処が出来そうだと思えた。さぁ、そうと決まればどこを寝床にしようかと考えたその時、またしても発想の閃きが身体を駆け抜けたのを魔理沙は感じたのだった。再び授けられた名案に、今度こそ魔理沙は抑えきれずにムフフフと少々気持ち悪く笑いだしてしまっていた。
 魔理沙は縁側の霊夢の前までやってくると、巫女の顔の高さに合わせるように横臥位をとって寝転がった。霊夢の顔が見えるくらいに近い場所にいれば、完全解決無問題の最高の対処だと彼女は考えたのだ。それにねこ巫女な霊夢をよくよく観察してみるというのも、それはそれで面白いことかもしれないとも思ったのであった。霊夢と相対した魔理沙はにやけた笑みを浮かべて、ねこ巫女を眺め始めた。至近から見つめられる形となった霊夢は、それでも全く意に介さず、相変わらず物を見ているのか怪しいぼんやりとした目をしていた。
 ぽかぽかと暖かい陽気が縁側に満ちていた。周囲は奇妙に静かになった。静かだと感じると、耳が澄んできて小さな音が聞こえてくる。霊夢は半分寝ているような目で、うっすらと口を開けている。音はそこから聞こえてきているようだった。すぅ……すぅ……。耳に障らない、清らかな息遣いが、心地良い一定のリズムで空気に溶け込んでいく。
 妙に落ち着いた気分であった。夢見心地になっていた魔理沙は霊夢を見ながら、意外と綺麗な顔なんだな……等と無意識に想っていた。そしてふとそう思っていたことに気づいてしまうと、当然のように顔が真っ赤になって、火が出るような気恥しさを覚えずにはいられなくなってしまったのだった。絶対に勝ち目のないにらめっこに誘い込まれて、案の定負けてしまったようだと魔理沙は思う。
 赤面した魔理沙は、もそもそと寝返りをうって霊夢に背を向けてしまった。見ているか見ていないのか分からない半開きになった霊夢のあの目が、まるで全てを見透かしているように思えてならなくなったのだ。もし今日の自分の想像まで筒抜けだったとするならば……。そんな考えまで思い浮かんでしまった魔理沙は、急速に思考の沼に沈んでいってしまったのであった。冷静に考えれば、そんな訳は無いのであるが。
 眠気など完全に吹き飛んでしまったことは言うまでもない。


※ ※ ※


 陽もいよいよ沈みかけて夜が来ようとしていた。結局ねこ巫女は一日、ほとんど動くことはなかった。おそらくこの状態は、あと二、三日は続くのだろう。
 魔理沙は土間でごそごそとしていた。昼間に土間を調べて回った際、魔理沙はあるものを見つけていたのだ。霊夢秘蔵の大吟醸である。
 霊夢には今日一日、全く手を焼かされたと魔理沙は思っていた。抜け目ない少女は一日の報酬として、帰る前に一杯いただいていこうという腹積もりであったのだ。
 盆に徳利と猪口をのせて鼻歌交じりに居間に戻った魔理沙は、そこで見えた光景に思わず「あっ」と声を漏らして、腰を抜かさんばかりに驚かされる羽目になった。霊夢がちゃぶ台の前にちょこんと座って不敵な笑みを浮かべながら、睨むような目で魔理沙を見ていたのである。
「それ、かなりの値打ちものなのよ」と霊夢は言う。
「呑むんだったら、私の分のお猪口も持ってきなさいよね」
 しばらく呆気にとられて声も出せずにいた魔理沙だったが、急に可笑しさがこみ上げてきて、堪えきれずに大声で笑いだしていた。この一日、何に対しても一切の関心を示さなかったねこ巫女が、酒の匂いにだけは敏感に嗅ぎつけて飛び起きてきたのである。そのギャップがあまりにも魔理沙には可笑しくて、しばらく彼女の笑い声は止まるところを知らなかった。見たところ霊夢に、こっそり秘蔵の酒を呑もうとしていたことを責める気配が無かったというのも、魔理沙を一気にリラックスさせる一因になっていたのは間違いないことだった。
「まったくこれは……しょうがないよなぁ」
 苦笑した魔理沙は、その旨は心配ないことを霊夢に伝えたのだった。最初から盆には、猪口が二つ用意されていたのである。この事実に霊夢も、今度はニッコリと満面の笑みを浮かべていた。
「つまみは塩しかないぜ。昼間に食材が無くなってしまったからな」
「それで十分よ。その方が味と香りを存分に味わえるもの」
「明日は朝一で人里に買い物に行かなきゃだな」
「もちろん、手伝ってくれるわよね?」
 魔理沙は笑って頷いた。

 心地良い酔いが回り始めていた。好きな酔いだな、と魔理沙は思った。      
久々にレイマリを書きましたが、やはりこの二人を書くと創作力が回復していくような気がします

コメント返信です
>奇声を発する程度の能力様
毎度ありがとうございます。私の作品を欠かさず読んでくださいまして、本当に感謝します(拝)
楽しんでいただけましたのなら、幸いで御座います。

>2様
楽しまれなかったようで残念で御座います。不快さを残すほどでなかったことを願っております。
指摘されたことは私の文章の癖と技量不足が引き起こしていることですので、直せるのであればゆるゆると直して行ければと思います。

>非現実世界に棲む者様
感想、毎度ありがとうございます(拝)
霊夢ちゃんと魔理沙ちゃんは、神社でのんびりお茶を飲んだり日向ぼっこしてたりするのが一番良いと本当に思いますねw
大根屋
http://twitter.com/gundamvaka
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.名前が無い程度の能力削除
話は悪くないけど、なんだか起こってる全部を描写しようとしてる?「〜しまった」「〜ようだ」が連続で続いてて描写の渋滞を感じる。申し訳ないが丁寧とは違う、ゆえに文がカチカチで光景や2人の想いが流れて入ってこないから、読んでてこっちも組み立てられない。説明書を読んでるみたい。
3.非現実世界に棲む者削除
のんびりとした日常がレイマリを引き立たせるシチュエーションだと思います。
レイマリ最高