Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

覚れば法世に陽はハゲし

2016/03/25 22:40:25
最終更新
サイズ
24.4KB
ページ数
1

分類タグ

「オレェ?」
/「ジョジョリオン」東方定助



まあ。


とりあえず。博麗神社上空。

「あーもう。風強いわね」
「でもこの風泣いてないぜ?」
「何言ってんの?」
「Nice joke」
「別に見えたって気にする必要ないと思う……ああ、気にする必要あるのか。都会派だしね」

霊夢が言う。アリスはスカートを押さえてなでつけつつ、顔をしかめた。

「よくわかるようなわからないような理由ね」
「えぐいの穿いてるんでしょう? こう、パンティーって言うんだっけ。あれの。何か人に見せられないような」
「本当か? アリス。引くわー」
「貞操帯とかつけているんでしょう?」
「本当か? アリス。引くわー」
「そのよけいな口を封じて――きゃっ」

アリスが言った。霊夢と魔理沙はそちらを見た。何やらアリスが驚いた様子でスカートを押さえている。

「何?」
「いや。今」
「普通にドロワだったな」
「都会派」
「ちがうわよ。いやそれもだけどそうじゃなく」
「ナイスドロワ!!」

そのとき誰かが言った。三人は声のしたほうを見た。すると、バッと大きく両腕を上げ大の字を体で表現したポーズで一人の娘が三人のまん中上空あたりにうかんでいる。

「えーと……?」

霊夢が言った。魔理沙も言う。

「何だっけ。たしか地底の方の妹。たにし?」
「たわし? わたし? わたしこいし! たにしちがうよシャッチョさん!」
「あいかわらずだな」
「何地底の輩? ああ思いだした。さとり妖怪の妹のほう。何で気がるにでてきているのよ」
「さんぽ」
「待て」

そこへいつのまにかこいしのうしろへ忍びよったアリスが言った。「ぐぇ」と言うこいしのうしろえりをつかんで。こいしはぶらんとぶらさげられる形になった。

「何をするのよ」
「何をするのよって何?」
「今の!」
「今の? あぁナイスドロワ!」
「親指立てんな。わけわからないから」
「いやだからナイスドロワ」
「いやだから」
「ナイスドロワ」
「……」
「ナイスドロワ!」


ついでに魔法使いと巫女のもめくって怒らせたあげく三人分の弾幕からのがれてこいしは逃げだしていた。ちなみにあの三人は今日は集まって弾まくごっこの練習をしていたようだった。

森。


何だかんだで仲が良い。

「アルコール~アルコール~わたしはげんき~♪」

おっ、とうたいながら歩きつつ、ささっと木のかげでこいしは「こちらコイーシ、お姉ちゃん聞こえるか」とノリで独り言を言った。木のかげからうかがうと、森の中にたたずんで何か鼻歌を歌いつつ、かるくステップをとんとんふんでいる娘がいる。頭の大きなリボンがかざりリボンのようで、肌もまっ白だからかなり派手なひな赤色の洋服と相まって人形ぽく見える。それはともかくとこいしはささっと身をかがめた。

「この感覚っまちがいない、はあ、超級機ドーデンエーナイスドロワァァァァァァズ!!!」
「きゃぁっ!?」

ズガン!! と次の瞬間こいしは軌道上にあったぶっとい幹に頭からつっこみずるりとくずれ落ちた。

「え? え?」

スカートをめくられた娘はこんわくしつつ「見よ、東方なんていなかったね……」と言いつつうめいているこいしを見て、

「え? 何? ちょっとあなた大丈夫!?」

と、近寄ってはこないで言う。いい人らしい。

「大丈夫ですこいしちゃん妖怪だからよ……見かけよりたぶん三人目だから……」
「え? 本当に大丈夫?」
「うわーいやなほうに心配された」

言うころにはこいしはもう起きあがっていた。

「大丈夫大丈夫。ほら荒ぶるこいしのポーズ」
「大丈夫?」
「ナイスドロワ。大丈夫だっていってんだろ。それよりいいもの見せてもらってありがとう。ナイスドロワァァ!!」
「きゃあ!?」


やぼったそうな人形娘のスカートをめくっておいこしつつ(追いかけてこないのでちょっとはりあいがない)、たったったっと走りながら「むげーんだいなあのときーの無数の塵だと今の僕には~♪」と適当に言っていると、おっと再びこいしは目を止めた。

「アンインストール♪ あんにんどーふ~♪……」

すす、と木のかげから様子をうかがう。うかがうまでもなくそこがどこかは知っている。お寺である。命蓮寺。

「こいつはかつらむき。もといおむつらえむきね」

こいしは言った。
ばば、とほふく前進モードになると、しかしほふくはせずにかさかさと四つ足で移動していく。気まぐれなのだ。寺のけいだいには誰もいない。妖怪が一匹ほうきをもってはきそうじをしている。こちらは踊ってはいなかったが何やらしきりにごにょごにょと口の中で唱えている。

「しきそくぜーくーくーそくぜーしき」
「カンダ!!」
「うぉわっ!!?」
「ロエストラタアマソトス・グロスシルク・ななつのかぎをもてひらけポン○ッ○!!」

こいしが言った。しかし何も起こらなかった。
え? え? と妖怪――妖怪少女だ。正しくは――にうやうやしくおじぎをする。

「Exactly.(その通りでございます)」
「え? え?」
「ぬっ。ケモノっぽい耳がある。モフらせろおらっ」
「え? 誰? 寺の人? 泥棒さん?」

妖怪は言ってくる。こいしに獣耳、いや耳か? をもふられながらだ。

「ナイスドロワした! なら使ってもいい!!」
「ふぎゃあ!?」

両手でがばぁと大きくスカートを持ち上げてナイスドロワ(?)するとこいしはてってってっとコラー! と後ろから言ってくる声を背に寺の中へと走りだした。そこでスッと気配を消し、寺の天井にぶら下がる。

「よっと」

しがみつくようにへばりついて下で「どしたの?」「いや、今寺の中に」とかいう、、さっきの娘と誰かとの会話をやりすごしつつ、こいしはまぁ、よく考えなくても彼女は姿をかくさなくてもいいのだが、じっと天井の一部ごっこをして待った。やがてかさかさとゴキブリのように移動を開始すると、ふと下でふんふん、と鼻歌を歌いつつ、とすとすと歩く音がした。

「いぬがみけーッ!!」
「おっ!?」
「まちがえた。妖怪キスメ女~」
「何だこいつ……」

呆れつつ、ヘンな癖っ毛の格好も黒く珍妙で、短いスカートに黒長い靴下?(にーそ、とか聞いたことがある)をはいた娘は、逆さにぶら下がってきたこいしを見やった。あまりおどろいていない。

「すみません帽子拾ってくれます?」
「ああ、これ?」

娘は素直に拾う。こいしはスタッと正座になって降り立つと、帽子をうけとった。

「どうもありがとうございます」
「あんた誰?」
「たわし? じゃなかった、わたしこいし。たわし殺すべし」
「何言って」
「ナイスドロワッ!! あれ、ドロワじゃない……だと……?」
「ぎゃあっ!?」

ゴロゴロゴロゴロと転がりながら言いつつ、あ、靴ぬぎ忘れてた、と今更気づいて、こいしはちょうど縁側だったのでそこに座ると靴をぬぎはじめた。角からいきなり転がって現れたこいしに「ぎょっ」とおどろいた声が聞こえたが無視する。その後ろからどたどたと追いかけてきたさっきのドロワじゃない娘がぺしんとわりと加減なくうしろ頭をはたく。

「いたたー」
「何すんのいきなり!」
「何遊んでんのぬえ。友達かい?」
「いや知らないけど。何かいきなりスカートめくられて」
「ぬげた。それではあらためてナイストゥミートゥードロワ!!」
「おぉっ!?」
「あっ! こいつまた!!」
「ねっぷーしっぷーこいしちゃんー♪」

とたたたとものすごい速さで油断していたネズ耳娘の横をかけぬけ、ついでにスカートもめくって怒らせる。
次の角をまがると、向こうから歩いてくる頭巾姿の(たぶん)女が一人いる。「イチリン!! 変なやつだ! つかまえて!」というさっきのネズ耳娘の怒声が聞こえ、仲間だと察するや、こいしは宙にまいあがり、女にフランケンシュタイナーを決めるべく頭上をかすめたが、飛びすぎて、そのまま通りこし、着地に失敗し、「げふっ!」と、縁側の床に派手に腹打ちしてバウンドした。「うわっ」という頭巾女の悲鳴らしきものを聞きつつ、けろっと起き上がってそのままかけはじめる。

「待ちなさい!!」
「あ、忘れてた。ナイスドロワーズ!!」
「きゃあっ!」

わざわざ引き返して止まり、頭巾女のスカートをばっとはねあげる。ナイスドロワ。「くぉら!」と言う声を背に脱いだくつをそろえて片手にぶら下げ、寺の廊下を逃げまくる。
おっと出会い頭に書物をふむふむと目を通しつつ歩いていたしま頭? とでもいうのか寅のような髪色をした仏天姿の娘を認め、「スライディングドロワ!!」「きゃあっ!!」と、どささっと持っていた書物、巻物のたぐいを落とす娘の横をすべりぬけて衣をはねあげ、さらにそのまま近くのふすまをがらっと開ける。「およ?」と、ふすまの中にはちょうど着がえの最中の、上手くは言えないが、船員? と言うのだろうか。そういう格好をした娘が今ちょうど下をはいてこちらにへそを見せているところだったが、「!」と、その下にはいているものの形状を見て、こいしはがく然とした表情をした。

「ド……」

呟く。

「へ? 誰? 新しい子?」

などと船員娘は言ってくる。これから靴下をはくところに入るところだったようだが、そんなことはどうでもいい。

「ド……」
「ド?」
「ドロワ見れないやんけーーーーーッッッ!!!」

こいしは大声でさけび両手を地についてがいたんした。

「へ?」

キュロット姿の娘はこいしの前でほほをかきつつ、何やら感じるものがあったのか、「ドロワってこれ?」と、上着と下のあいだをめくって、ちょっとキュロットをさげるようにしてちらりと下着を見せてくる。しかしこいしは首を横にふった。

「そういうのと違う。もっとフワッとして! チラッとして! でもそれはそれでありかも! ナイスドロワ!」
「いた!!」


で。

こいしはこうそくされ、この寺の面々に囲まれた中で正座させられていた。「ね、この子何したん?」「いやまぁ」と、船員姿の娘は実害をこうむってないためか、呑気にイチリンとかいうのにたずねている。しゅんと神妙にうつむいているこいしの前には寺の住職のような娘が立っていて、温和だが、どこか芯のつよそうな面立ちをやや困らせぎみにしている。どうもなわでぐるぐるしばられているこいしの様子から、そこまですることは、とでも思っているようだ。

「ドロワが見れないやんけ……」
「まだ言ってるのか……」
「すみません、足しびれてきたので崩していいですか?」
「だめ! ちゃんとする!」

呆れた顔で言うネズ耳娘とこいしの背中を何かの棒でぺしぺし叩くイチリンというのに目をやりつつ、少しかがんで、目線を合わせて、和らいだ声で正面の住職(というかそれを大たんかつセンシティヴに改造したワンピース様の服というのか)風の娘が「こいしさんでしたね? 妖怪の」と言ってくる。こいしは言った。

「はいこいしは妖怪であります」
「なぜこのようなことをしたのかはわからないけれど、とりあえず私の話を聞いてくれる? それとも言いたいことがありますか?」
「まずはお姉さんの話を聞こう」
「ありがとう。といっても、あまり言うことと言うのもないのだけれど――」

と言うと、こほんと小さなせきばらいをして、長くなるだろうと思われる話をはじめた。こいしはだまって聞いた。ややあって、

「ということです。わかりましたか?」

と娘が言った。「はい」とこいしは即答した。
娘はイチリンの方を向いて「イチリン。ほどいてもいいわね」と呼びかける。

「えぇ? 終わりですか?」
「反省しているみたいなので」
「いや、それは……というよりか妖怪なんですからもっときつい仕置きしないと反省しませんよ」
「まぁとにかく縄はほどいてあげなさい。かわいそうでしょう」

イチリンは「はぁ」と言って、こいしの縄をほどく住職のような娘を手伝ってやった。やがて縄がほどかれると、こいしは住職風の娘に向き直って「かん大なおじひの心にこいし言葉もございません。もう二度といたしません。申し訳ありません」とあらためて謝った。娘はかがんだまま笑顔を向けた。

「分かってくれてうれしいです。それでは」
「はい。あ、いいドロワはいてますね」

立ちあがりかけた娘の衣のすそを上げて、こいしは言った。


「勝った。第三部・完」

服のあちこちから煙を上げつつ(あの後寺の外まで吹っ飛ばされてバウンドしてその後地面にあとが残るほどガリガリ土をけずって止まったが大したことがなくてよかった)、再びスローペースを取り戻して歩いていると、「みょみょみょうれんじ~みょうれんじのおしょうさんはおにご~おっ」と、近くの木の上から変わった色の衣が垂れて、そこからのびた足がぶらぶらしているのに気づいた。
誰かいるようだ。こいしは「お~い。誰かそこにいますか? いるんなら動くと撃つ。まちがえたうつと動くだ!」と呼びかけ、木の上から「はぁ?」と変な声を返された。
木のあいだからなんか頭に小さな角の二本生えた奇抜な色あいの髪をした娘が呆れぎみにこちらを見下ろしている。鬼か妖怪のどっちかだろう。

「いや呼んだだけですけれどね。あなたはだあれ? トトロ?」
「トトロ?」
「私は幻想郷のろこどるこいしちゃん、コメイ・ジ・コイシーいいますよろしく」
「ろこどる?」
「心がポーカーフェイスとかうまいこと言われたりしているような気もする」
「……」

つの娘はおっくうそうな顔をしたあと、ぺたん、と、サンダルをならして地面に下りてきた。

「結局、誰。私に何か用?」
「用っていうか結局あなたは誰なのかしら。あれ? なんか最近お姉ちゃんがあなたの顔写真を見ていたようなイメージがゆっくりやってくる」
「誰って聞いてくるやつには答えないことにしているんだけど。主義というか性質みたいなので」
「それはあまのじゃくな話ね」
「そうねあまのじゃくな話ね」
「山彦?」
「山彦になってないけどお前がそう思うんならそうなんだろう」
「私の電磁波によるとあなたが性的とかエロいとかうすい本みたいにピーしたいとか最低のクズどもがささやきあっているのが聞こえてくるんだけれど、まあいいか。ドロワ見せて」
「やだよ」
「D4Cっ!!(いともたやすく行われるえげつない行為!!)」
「きゃあっ!!」

人間には不可能ななんか腹だけで回転しながらスカートをめくる技でつの娘の衣をはねあげると、そのまま回転するままに立ち上がり、
こいしは逃げる体勢に入った。

「ケンカ売ってんのか!!」

と、言いつつつの娘は追いかけてきたが、森の中を一分の遅滞もなくスイスイひょいひょいかけていくこいしに追いつけるはずもない。
つの娘を撒いて森から出ると、整備された川近くの道である。土手から川のせせらぎを見下ろしつつてってってっとはしっていくと何やら、においがまっ香ぽくなってきた。

「お」

こいしは駆けるのをやめて歩きはじめた。道の片側に露店の類が並んでいる。一見縁日だがよくよく見れば看板やのぼりの文字はことごとく不吉だし、店主たちからも生者のかおりがしない。どうやら中有の道のようだ。

「ドナドナドナドーナー♪ こいしをのせて~……♪」

こいしは後ろに手を組んでぶらぶら歩きつつ、店ののきをのぞくような仕草をしつつ、進んでいった。とはいえ、特別興味がわくことはないし、いつも笑っているような表情が内部の情動を示しているわけでもない。
そのうち「む」と、いい尻を見つけて立ち止まる。赤毛のツインテールが背の高い首すじを見せて両わきに下がっている。肩にかかった巨大な大鎌がたすきがけを模したような華美な衣装に似合っており、鼻すじの通った小町顔でつまようじにさしたたこやきをむぐむぐやるのも似合っている。

「死んだはずだよおとみさん~生きていたとは~閻魔さまでも♪」

鼻歌にしつつ、歩みよって、上から下にかんさつし、とりあえず衣をめくる。ナイスドロワ。

「ナイスドロワ、といいたいところだが、君たちには消えてもらう」
「うん?」

大鎌娘はちらりとこちらに気づいて、何か黒い帽子にかわいらしい少女ぽい服を身にまとった自分の衣のすそをめくり上げあごに手を当ててまじまじと下着を見つめている娘の姿を目に入れた。

「ん? 誰?」
「古明地こいし」
「こめいじってひょっとして旧地獄の屋敷の。あぁ、妹の方かなひょっとして」
「はい。古明地さとりの妹こいしですわ」
「何してたの今」
「ほんのナイスドロワしておりました」
「はぁ。ん。食べる? これ」
「いただきます」

こいしはたこやきをうけとると、もくもくと口にほおばった。「んー♪」ときょう声をこぼす。

「うまそうに食べるねぇ」
「はい、たぶんおいしいからでしょう」
「たぶんって?」

大鎌娘は二つほど余計にたのんで、こいしに聞いてくる。こいしは二こ目をほおばりながら言った。

「心が閉じてもからだの感覚は正直です。野の愚鈍なカンジの獣でも熱い暑い寒い痛いは分かるわけです。するってと今のこいしちゃんの表情はあくまで身体の反応なわけです。そこに生じる心がなくてもうかべることができるものなわけです」
「何だかむずかしいことを言うねぇ」
「まぁむずかしいかもしれません。でも心がないということの基本はそういうところからなのです。痛くないのではなく痛くても何もおもったりしないのですね」
「ふぅん。で、その心のないあんたはここに何しに来たの? サボり?」
「ん? お前に言われたくないという電波が!」
「あぁ、そういうのもあるんだ。難儀だね」
「難儀ですかね。難儀なのは周りの人間だと思いますけど」
「ふむ」

大鎌娘はほをかいた。やがて「あーおいしかった気がした! ごちそうさまです」と言ってこいしが立ち上がった。「残ってるじゃん」と大鎌が言うと、「口に合わなかった!」と言い切った。

「あ、そ。ま、いいや。せっかくだしこれ姉ちゃんのお土産に持っていってあげな」
「わざわざありがとうございます。お姉ちゃんならきっとちゃんとお礼言うとオモマス」
「そうかい」

こいしは大鎌娘に手をふって見送られ、さっそく土産にもらったたこ焼きをひと箱あけて食べはじめた。あっというまに食べてからもうひと箱あける。

「おや。珍しいお客さんだ」

上から言う声に、こいしは目を上げた。
すると羽の生えた天狗のような格好をした娘がちょっと上に浮いている。

「一枚いいですか?」
「いいですよ。サインもいる?」
「いりません。はいチーズ」

にー、とこいしはピースをして歯を見せた。歯のあいだにたこ焼きの食べカスがついている。

「まぁかわいくとれたからよしとしよう。それより地底の妖怪が出歩いていると私はともかく、色々怒る人が出ますよ? あなた姿かくせるんだから堂々としてちゃだめじゃないですか」
「つい食べものに意識をとられちゃって。はっ! だからお姉ちゃんに食べ歩きは品がないからやめなさいって私言われるのか!」
「品がないからだと思うけれど」
「そういうあなたは凡天丸パヤ」
「射命丸文」

アヤは言うと、無意識な仕草で大きなカメラを肩にかつぐようにした。

「でもあなたの場合これといって実害がないって身内の証言があるしねぇ。まぁ気をつけて下さいよ、地底と地上の友好のために。一応聞いときますが、一体何しに地上に? さんぽですか?」
「それは……うっ!!?」

こいしは言った。頭をおさえる仕草をする。たこ焼きがぼろぼろとこぼれた。そのまま固まったので、アヤが空気をよむように聞いてくる。

「……どうしました?」
「電波が」
「デンパ?」
「あなたを見ていたら『彼女をナイスドロワしてはいけない』という神のことわりにも似たおごそかな電波が……」
「ナイスドロワ?」
「こえー。天狗こえー!! メイドもこえー!!」

言いつつ、こいしはものすごい速度ではしりだすとその場から逃げさった。


数分後。


「ふう」

こいしは息をついた。辺りの景色はいつのまにかうっすらともやがかかったような場所に来ていたがどうでもいい。

「このこいしを逃走させるものがまだ残っておったわ。いやあれは情動に関係ない狂気とか本能的なものね。逃げださなければならないという……。おや? ここはどこかしら」

言うと辺りを見回す。もちろん気になった気持ちはこれっぽっちもなく、足は長い長い目の前の階段をてけてけのぼっていくわけだが。

「あかいくつ~はいてた~♪ おねえちゃん~♪ いじんさんにつれられて~ホ、を」

やがてけっこうな速度でのぼったせいで終点が見えてきた。「イエスロリコン、ノータッチ~♪」と終わりの段をととんと踏むと顔にするんと冷たいものが当たった。幽霊のようだ。

「杏仁豆腐!」

こいしはつかまえてかぶりついたが無味だった。がっかりして放して逃げていくのを見送る。よく見るとそこら中に飛んでいる。

「エロイムエサイムエロイムエサイム~」

とことこと速度をおとして、口の周りを舌でなめつつ、「おっ」と小さく声に出す。参道のようにはき清められた道の脇で、木の下に立った娘が、枝を見あげて何か考えている。調えられた何かの制服のような、仕事着のようなものを型紙からハサミでおこせばそうなるのではという、少女チックにあしらわれた服を身につけ、小柄だが手足が長くバランスがいい。何かの道をおさめるものらしいきまじめさがととのえられた白い髪(銀色かもしれない)からただよっており、腰と背中には二本の業ものをはいている。こいしは迷わず突っこんだ。

「愛しているんだ、キミたちを!!」
「きゃああっ!!?」

娘はものすごくおどろいてそのまままろび転げて地面に倒された。「なっ何!? きゃあ!?」という娘の背にぴょいとまたがり「うおーっ!!」とおたけびをあげる。「きゃあああ!!」と、下の娘は耳をふさいでパニックをおこし、足をじたばたさせている。「何! 何? おばけ!? おばけ!?」

「ナイスドロワ! ナイスドロワ! ナイスドロワ!」
「きゃっきゃあ! きゃあきゃあ!」

こいしが連呼する(だけでなく両腕を高くあげてふっていた。まるで原始の狩人のように)中で娘がわめく。やがてぴたりとこいしは止まって娘の後ろ頭かそこらへんに目を落とした。大人しくなる。

「……」
「……?」

娘がもぞりと動くと、こいしはちょっと後ろに身体を向かせて、娘のスカートを大たんにめくった。

「きゃ! ちょっと!? きゃああ!」
「いいドロワだ! だが無意味だ!」

「けふっ」と、娘にまたがった状態からぴょいととんで走りだし、反動で娘にせきこませて、こいしは走りだした。無意識な方向へ。
こらぁーーっ!! とさっきの娘が光り物を抜いて道を追ってくる。これは危険だ! こいしは足が無意識に速度を上げたので「ドヒャア! ドヒャア!」と奇声を上げながらどんどん走った。おかげで白髪娘は「何で追いつけないのよ!?」と言いながら追いていかれている。「貴様にはノーマルが似合いだ!」こいしは言って、ずだだだと目の前に閑静とそびえる屋敷に向かって飛び込み、「おっとっと」と急に止まると靴を脱いで土間から床へ上がる「おじゃましマンモス! おじゃましマンモス!」うわっと! とかおわぁとか屋敷の使用人ぽいおばちゃんやじいさんにおどろかれつつ、そのときちょうど縁側辺りの廊下を「さーくーらー♪ さーくーらー♪」といいつつ歩いていた着物姿に変わった帽子だか布だかをかぶった淡い桜の色調をした娘とはちあわせし、そのままふわっ! とばかりにせきつい反射(文字通りだ)の速度で衣のすそをはねあげる。「きゃっ」

「ナイスド……ロ、いや、こいつ! はいていないのか!?」

言ったとたんに娘の爪先がこいしの顔にめりこんだ。


「いたたー」
「何? あなた?」

不可思議色の娘はそう聞いてきた。ちょっと丸見えしたくらいでは動じていない上に、はいていな(ry いや。ただ者ではないようだ。

「I'm like a rolling stone.」
「日本語でね」
「失礼ィムソォーリィ。座右のmayは転がるStoneにKokeはつかない。さとり妖怪一のロックンロッカーのうわさも名高い古明地こいしです。ナイストゥーミートゥー、ハゥアーユー」
「要約すると妖怪さんね。ちょっと言動がおかしいけれど」
「アナタがユーのTsumasakiでケジメするからでショ!」

もう! とぷんぷんしていると、どたどたと玄関の方で慌ただしい音がしたので「うぉっまぶしっ!」と、こいしは奇怪な声を上げてすぐそばのしょうじ戸の中に逃げこんでぴしゃりとしめた。やがてさっきのアブない娘がやってきて曲者がーと廊下に立っている娘にまくし立てたが、言われた娘の方はさぁ? と笑って(影だけだか何かわかる)首をかしげ、そのままやりすごした。
刀を持った娘の方が立ち去ると、こいしはしばししょうじ戸の向こうでじっとしていたが、やがて張りついていたしょうじ戸が向こうからあいた。こいしは廊下にころがり出た。

「はい。行ったわよ」
「どこのどなたか存じませんが助けていただいて正に恐悦至極」
「あの子に何かしたの?」
「ちょっと押し倒して無理矢理スカートをめくりあげただけなんですけれど、そしたら鬼のような形相で追っかけて来たんで私はクイック・バーストして逃げたんです」
「あらあらまあまあ」

不可思議色の娘はちょっと色素のうすい髪をくるくる指でまいてころこ笑っている。よく見ると娘の容貌は娘なのだが、どことなくおばちゃんである。

「おいくつですか?」
「私? さあ。そういうのは神さまに聞いて」
「おばちゃんですか?」
「おばあちゃんかしら」
「どうもありがとう。そろそろさっきの刀持った人が戻ってきそうなのでこれで失礼します。次はお茶を飲んでいってあげますので当然お茶菓子は用意しておいてくださいね!」
「はい、さようなら」


外。

さっきの人斬りの目をした娘がいないことを確認しつつ元来た道を戻っていくと、階段の入口辺りで段を登ってくる静な人影を見つける。
何か仏様と言った風の娘だ。両手で正面にかかげるようにもった棒が、その人の背景そのものであり、着こなした衣装は何となしに見る者に威圧を与える感じだ。

「ほっホーゥ。こいつはいいお姉さまだ!」
「何を言っているの?」
「ご機嫌麗しゅう御座います」
「ごきげんよう。あなた古明地こいしね? 旧地獄のさとりの妹の」
「予知能力ですか?」
「邪なことをしようとする者には警戒心が働くのよ」
「はぁ」
「冗談だけど。そういえばあなたそういうのだったわね」
「はぁ」
「丁度あなたには一度会いたいと思っていました。こいし。お座りなさい」
「はーい」
「素直でよろしい。いいですか? あなたは生まれ持った力を捨て心を捨て無我の境地に達しましたがそれは罪が亡くなるということではありません。本当の大罪とは罪を罪と感じる心を捨て苦しみと向き合うことをやめ苦しまないことです。本当の悟りとは苦を知り喜を知り哀を知り愛を知り、楽を知り、怒を知り、その一切を捨てることでなります。偽って得られるものはまた偽りであり、たとい現世でそれを感じなくとも我々地獄の者はそれを観測し、記録し、秤に乗せて天秤を傾けることでしょう」
「無知とは罪ですか?」
「知ることが罪となることはありません。そのことに苦と快楽の境界はありません」
「見えないものを偽ることは罪ですか?」
「死と罪罰は平等です。魂という点において人は平等です。全ての人は等しく地獄へ落ちます」

こいしはちょっと首をかしげた。言う。

「獣と鳥、魚は器物ですか? 蟻や蜘蛛は器物でしょうか? 木や草や花は器物でしょうか? 路傍の小石は人を殺し、土砂は人を殺し、水は人を殺し、鉄は人を殺し、海は人を殺し、山は人を殺しますか?」
「それは答えられません」
「人は機能ですか?」
「魂の記録をのぞくことはある一定の時まで出来ません。しかし重さには表れるので、地獄はそれを秤にかけ、重さにふさわしい地獄へ落とします。魂の重さとは鉄を精錬し、研磨し、磨き上げることです」
「では人はどこからやって来たのでしょう?」
「いつか宇宙に遭えたらお聞きなさい」
「ありがとうございました」
「いいえ」

こいしは立ち上がると、丁重におじぎをして「それではさようなら」と言った。「ええ、また」と娘が言った。横をとおりすぎて数歩行ってから、「あっ」とこいしは思い出し「忘れてた。ナイスドロワ!」と閻魔のような娘の後ろのスカートをめくった。


夜半。

閻魔様を怒らせるものではない。

「光学兵器を使うとはさすが楽園のザナたんとよばれるだけはある。もう少しで電子レンジに入れられたサンマになるところだった。あっただいもーお姉ちゃん」
「あらこいし。久しぶりね。言ってもムダだけどあんた三ヶ月にいっぺんくらい顔出しなさいね」

姉はやや眠そうに(見える)しつつ、机で書類の処理をしている。こいしが部屋のまん中辺りに何をするとなく立っているあいだに開けっぱなしになっている扉を閉める。それから机に戻ろうとして妹の頭についていた葉っぱのくずをとってかるく指ですいてやる。

「今日はどこに行ってきたの?」
「いろいろ」
「地上で迷惑になる行為をしていたと苦情が寄せられているんだけど」
「あちゃー」
「あちゃーじゃなくてね。ちょっと、何」
「あれ。何でわかった?」

姉のスカートを当然のようにナイスドロワしようとして指をすかされ、こいしは首をひねった。

「今何しようとしたの? ほら。今も」
「ぬっ、私の行動を予測しつつよけるとは? さてはお姉ちゃん能力者だな!」
「どうやらまたわけのわかりようがない行動基準で人様の迷惑になることをしてきたようだな。裸にひんむいて館のかべに逆さ吊りにしてやろう」
「うーんそれはやだなー」

ぬけぬけと(他になりようがないのだが)こいしは言った。「でしょう」とさとりは言って、「じゃあ代わりにこんなところで」と、妹のスカートをばっとまくり上げた。

「きゃっ!」

こいしは反射的に顔を赤くしてスカートを押さえた。心が恥ずかしいと感じなくても、少女という生物的な面で身体が行った反応である。

「ナイスドロワ!」

さとりは満面のいい笑顔でぐっと親指を立てた。
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
ナイスドロワ
2.名前がない程度の能力削除
おお、この次の行動が全く読めないところがこいしらしいです。それにしてもさとり強いなぁ。
3.名前が無い程度の能力削除
どろわどろわどろわ