むかしむかし、ある人里に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは山へゴルフに、おばあさんは川へスペカバトルをしに出かけました。
二人は幸せに暮らしましたとさ。
さて。
ある地底に、水橋パルスィという妖怪がいました。
彼女がいつものように地底の橋などを見張っておりますと、川上からどんぶらこ、どんぶらこ、と。
人が一人流れてきました。
「どういうことなの‥‥‥」
つぶやきますが、見なかったことにするのも後味が悪いので助け出してやりました。
それは、桃のアクセサリーをあしらった黒帽子をかぶる女性でした。とりあえず、桃子と呼ぶことにしましょう。
「天子よ!」
怒る桃子ですが、助けてもらったことには違いありません。
「あのばあさん超強くてさ、弾幕ごっこしてたら見事川にドボンよ。兎に角、助けてくれたことは感謝するわ。こんなものしかないけど、お礼に受け取って頂戴」
素直に礼を述べた桃子は、籠いっぱいの桃をどこからか取り出し、パルスィに手渡すと、颯爽と歩いてどこかへ行ってしまいました。
桃は肌色美しく、なかなかにおいしそうです。小腹がすいたら食べることに決めて、パルスィは籠を脇に置いて仕事に戻ることにしました。
彼女が見張りを再開した、数分後。
虫の知らせといいましょうか。不意になんだか嫌な予感がしたので、今日も平穏無事に一日が終わりますようにと祈っておりましたところ。
今度はくるくる、ひなひなと、流し雛が一人流れてきました。
「何、厄日?」
いいえ、厄神です。
パルスィとしては無視したかったのですが、先ほど一人助けてしまった手前、やっぱり見捨てるのは気が引けるので仕方なく拾ってあげました。
流し雛なので雛子とつけようと思いましたが、そうすると元の名前より長くなってしまいます。
「しばし悩んだのち、流れてきた流し雛にパルスィは雛太郎と名付けました」
「こんにちは雛太郎さん」
「親しみを込めて雛って呼んでね」
「わかったわ、雛太郎さん」
笑顔の雛と、張り付いた作り笑顔のパルスィ。どうやら打ち解けたようです。
「近所のおばあさんと弾幕ごっこをしていたら、ツルッと足元を滑らせちゃいまして。本当にありがとうございます」
「助けてしまったことは間違いだったのではと若干後悔しつつある」
「では、なんとなく鬼退治をする流れなので行ってくるわ」
「たった今確信に変わった」
パルスィは自らが祈った神を恨みました。同時に、別の場所で秋の静葉様がくしゃみをしました。
とはいえ、厄介払いが出来るのでパルスィとしては願ったりです。きびだんごがセオリーということはパルスィも知っていましたが、道楽のために用意してやるのもめんどくさかったので、先ほどもらった桃をいくつか渡してあげることにしました。手切れ金代わりです。
「はいどうぞ、雛太郎」
「これはもしや、天界の桃! これさえ食べれば千人力ね」
「まぁ勇儀達には勝てないだろうけど」
「雉と犬と猿がいれば大丈夫」
雛は力強く言い放ちます。全部いないような気もしますが、きっと気のせいでしょう。
「では行ってきます!」
「逝ってらっしゃい」
愛情たっぷりの声援と桃を受け取った雛は、まずは仲間集めをするため一端地上に出かけることにしました。何はなくとも3種の動物を集めねばなりません。
まずキジを探していた雛は、早速夜雀と遭遇しました。
「厄神様、どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっと遊びに行くの。桃をあげるから一緒に来ない?」
「それではお供します」
まずは一匹、一本釣り。
次に犬を探し回る雛でしたが、山を歩いていると犬耳の娘を見つけました。
「あ、わんこ」
「犬じゃなくて白狼ですってば」
「ねぇねぇ椛。ちょっとピクニックに行かない? 桃を食べに行くの」
「わぁ、美味しそうな桃ですね。お供します」
キジの代わりに夜雀を、犬の代わりに白狼天狗を。
百人力の妖怪を桃で餌付けすることに成功した雛でしたが、猿の妖怪はついぞ見つけることができませんでした。
猫や虎でお茶を濁しておこうか。困り果てた雛はそれならばと、ある場所へと足を運びました。通り道なので一石二鳥です。
縦穴に入りますと、その人はやっぱり橋の番をしていました。
「おかえりなさい、雛太郎」
「雛って呼んでくれないと泣いちゃうわよ?」
「泣け、喚け」
「うわーん」
「うざいっ。それにしても、お供が二人しかいないけど?」
「え? パルスィも一緒に来てくれるって? いやぁ助かるなぁ」
「私!? 嫌よ」
「はい、桃」
「それ私が持たせた奴でしょう!」
「お~ね~が~い~」
「袖を引っ張るな~!」
快く引き受けてくれたパルスィをずるずると引きずり、雛と寄せ集めの一行は、鬼の住む旧都へと向かったのでした。
◇
ここは地底の奥底。
旧都では鬼たちがお酒やご馳走を囲んで、酒盛りの最中でした。
「人が見張りして暇してるってのに、楽しそうに。あぁ妬ましや妬ましや」
物陰から様子を伺っていたパルスィがお約束を済ませたところで、さてどうしましょう。
幸い、鬼たちはこちらに気づいていません。油断も隙もありまくりでしたので、今襲いかかってしまえば鬼とてひとたまりもないでしょう。
というわけで。
「鬼退治に来たわ! たのも~!」
「うぉい!?」
雛が一言で台無しにしてくれました。
正面から堂々乗りこんだ雛達を、酒宴の邪魔をされて怒った鬼が出迎えます。
「鬼の四天王、力の星熊勇儀と知ってのことだろうね?」
「我が名は伊吹萃香。鬼退治と声を上げるからには容赦しないよ」
「私達を退治する? いいだろう、このレミリア・スカーレットが直々に相手をしてやる」
「紅の王レミリアが妹、フランドールここにあり! さぁ勝負、勝負!」
殺る気満々な本物の鬼と吸血鬼が現れた!
4対4、数の上で差はありません。ならば桃の力と、なにより友情パワーのある雛たちが俄然有利です。「あぁ、終わったわこれ」と呟いたパルスィの声を雛は聞いた気がしましたが、そんな幻聴に惑わされるような女ではありません。
雛たちは手を取り合って獅子奮迅の働きを見せ、死闘の末に見事鬼を討ち果たしたのでした。
とまぁ、雛の脳内ではその予定だったのですが。
「そろそろ屋台の仕込みしなくちゃ」
「哨戒の仕事が入ったのでこれで」
「あ、こら二人とも」
お供たちはあいにくと急な用事が入ってしまった様子。夜雀と白狼天狗は、突如後ろに向かって前進を始めてしまいました。それはもう、脱兎が如く猛ダッシュで。
雛の制止も聞かずに二人は地上へ戻ってしまい、残るは雛とパルスィだけ。
しかし二人の愛の力があれば。
「いや、ほら私、鬼女だから」
パルスィが寝返ってしまった!
どうする雛! がんばれ雛!
雛の冒険はこれからだ!ご声援ありがとうございました。
「悲劇の流し雛軍団が長、鍵山雛とは私のことよ! 命惜しくば立ち去れぃ!」
立ち向かうそうです。よせばいいのに。
そしてコントの相方はといいますと、突っ込むのもそろそろ疲れてきたので激流に身を任せることにしたようです。そっちの方が早く終わるんじゃないかなぁという淡い期待を持って。
パルスィが半眼でやる気なさそうに見守る中、決戦の火蓋は切って落とされました。
「えんがちょマスターの力、受けてみなさい! 雛ちゃんスピンアタック!」
「三歩必殺」
「はうっ」
「ミッシングパワー」
「ちょ」
「スカーレットシュート」
「おま」
「レーヴァテイン」
「ひぬぁ」
瞬く間に残機を4つ失った雛は最後のレーヴァテインで空高く吹っ飛ばされ、くるくるときりもみして、ぐしゃっと地面に落っこちました。
起き上がりこそしたものの、地に膝をついた雛は苦しそうにつぶやきます。
「ぎりぎり、互角と言ったところかしら」
「余裕そうね。んじゃあ、グリーンアイドモンス」
「待ってぇ!?」
結局敵に回ることにしたパルスィがスペルを展開しようとしたのを見て、雛は慌てて飛びつきました。残機がないから仕方ありません。
パルスィの素足に抱きつき、そのスカートもぎゅっと握りしめて離すまいと抵抗します。
「いやもうほんと限界なんで堪忍して。あ、素足がすべすべしてる」
「ちょっとどこ掴んでるの! 脱げる、脱げるって、わかった! わかったやめるから脚に頬ずりしてくるなぁ!?」
すりすりすりすり。
瞳を潤ませて訴える彼女に心うたれたパルスィは改心し、雛と手を取り合うことを決めたのです。
「ナレーション嘘つくな。というか誰よ、さっきから声だけで」
はーい、こいしちゃんでしたぁ。
「おいこら」
「そういうことだから一緒にがんばろうねパルスィ」
「出来れば雛一人でやってて。あと抱きつくな暑苦しい」
むぎゅうと抱き突く雛。その表情はとても幸せそうでした。
さてそんな様子に、鬼の一人、星熊勇儀が地団太を踏みます。
「パルスィを人質にするとは卑怯な!」
「え? 人質?」
「くっくっく、これでお前たちは手出しできまい。さぁ、武器を捨てておとなしく私に退治されなさい」
「誰かこの状況について詳しく説明して」
パルスィの意見は左から右へ。攻守どころか役回りまで逆転した厄主人公は、パルスィの体を抱いて余裕の表情です。
勇儀たち鬼4人はじりじりと詰め寄っていきます。それに雛は悪役笑顔です。
「おっと、妙な動きはしない方がいいわよ。もしも私の機嫌を損ねたらどうなるか、わかってるわよね?」
「ど、どうするって言うんだい」
明らかに顔を引きつらせた勇儀が恐る恐る尋ねます。鬼の威厳はそこにはありませんでした。
雛は勝ち誇った笑みで言い放ちます。
「パルちゃんに、あ~んなことや、こ~んなことをしちゃうわよ。ふふふ」
「あんなことや、こんなこと、だと‥‥‥」
「そ、そんなことまでしちゃうのか?」
「くっ。この悪魔が!」
「ひどい、ひどすぎるっ」
「お前ら一体何を想像したぁ!!」
このパルスィ魂の叫びは地底全土に響き渡ったとか。
大勢は決しました。戦意を失った鬼など、もはや恐るるに足りません。雛は、厄を振り撒いて大暴れです。
「さぁダンスパーティの始まりよ。くらえ~、えんがちょタイフーン」
「うわ~」
「ひゃ~」
「う~」
「きゃ~」
やる気のない悲鳴を上げる鬼たちは、ほうほうのていで逃げだしていきます。雛は、ついに鬼の征伐に成功したのです。
雛は戦利品を手に、意気揚々と地上への道を凱旋していきました。
「おじいちゃんおばあちゃんと、猿の役までした私が戦利品ですかそうですか」
「これにて一件落着、大満足」
「鬼に何の罪があったのかと小一時間」
悪は滅びました。雛は、その歴史に大きく名前を残すことになるのでした。
「いや~今日は楽しかったわ~。お礼に、これを受け取って」
「桃、まだ持ってたんだ。ってうわ、生温っ!?」
「懐で温めておきました」
「やめんか!」
そして二人は、仲良く桃を食べましたとさ。
「あぁ、この前は厄かったわ」
ある地底で、そう呟く水橋パルスィという妖怪がいました。
彼女がいつものように縦穴などを見上げておりますと。
突然上の方から、何かが降ってきました。
驚きつつも冷静にキャッチしたパルスィは、一体何が落ちてきたのかと手元を確認して。
「おにぎり‥‥‥おむすびころりん‥‥‥」
「きゃ~落ちちゃった~」
「もう来んな~!」
ある日、おじいさんは山へゴルフに、おばあさんは川へスペカバトルをしに出かけました。
二人は幸せに暮らしましたとさ。
さて。
ある地底に、水橋パルスィという妖怪がいました。
彼女がいつものように地底の橋などを見張っておりますと、川上からどんぶらこ、どんぶらこ、と。
人が一人流れてきました。
「どういうことなの‥‥‥」
つぶやきますが、見なかったことにするのも後味が悪いので助け出してやりました。
それは、桃のアクセサリーをあしらった黒帽子をかぶる女性でした。とりあえず、桃子と呼ぶことにしましょう。
「天子よ!」
怒る桃子ですが、助けてもらったことには違いありません。
「あのばあさん超強くてさ、弾幕ごっこしてたら見事川にドボンよ。兎に角、助けてくれたことは感謝するわ。こんなものしかないけど、お礼に受け取って頂戴」
素直に礼を述べた桃子は、籠いっぱいの桃をどこからか取り出し、パルスィに手渡すと、颯爽と歩いてどこかへ行ってしまいました。
桃は肌色美しく、なかなかにおいしそうです。小腹がすいたら食べることに決めて、パルスィは籠を脇に置いて仕事に戻ることにしました。
彼女が見張りを再開した、数分後。
虫の知らせといいましょうか。不意になんだか嫌な予感がしたので、今日も平穏無事に一日が終わりますようにと祈っておりましたところ。
今度はくるくる、ひなひなと、流し雛が一人流れてきました。
「何、厄日?」
いいえ、厄神です。
パルスィとしては無視したかったのですが、先ほど一人助けてしまった手前、やっぱり見捨てるのは気が引けるので仕方なく拾ってあげました。
流し雛なので雛子とつけようと思いましたが、そうすると元の名前より長くなってしまいます。
「しばし悩んだのち、流れてきた流し雛にパルスィは雛太郎と名付けました」
「こんにちは雛太郎さん」
「親しみを込めて雛って呼んでね」
「わかったわ、雛太郎さん」
笑顔の雛と、張り付いた作り笑顔のパルスィ。どうやら打ち解けたようです。
「近所のおばあさんと弾幕ごっこをしていたら、ツルッと足元を滑らせちゃいまして。本当にありがとうございます」
「助けてしまったことは間違いだったのではと若干後悔しつつある」
「では、なんとなく鬼退治をする流れなので行ってくるわ」
「たった今確信に変わった」
パルスィは自らが祈った神を恨みました。同時に、別の場所で秋の静葉様がくしゃみをしました。
とはいえ、厄介払いが出来るのでパルスィとしては願ったりです。きびだんごがセオリーということはパルスィも知っていましたが、道楽のために用意してやるのもめんどくさかったので、先ほどもらった桃をいくつか渡してあげることにしました。手切れ金代わりです。
「はいどうぞ、雛太郎」
「これはもしや、天界の桃! これさえ食べれば千人力ね」
「まぁ勇儀達には勝てないだろうけど」
「雉と犬と猿がいれば大丈夫」
雛は力強く言い放ちます。全部いないような気もしますが、きっと気のせいでしょう。
「では行ってきます!」
「逝ってらっしゃい」
愛情たっぷりの声援と桃を受け取った雛は、まずは仲間集めをするため一端地上に出かけることにしました。何はなくとも3種の動物を集めねばなりません。
まずキジを探していた雛は、早速夜雀と遭遇しました。
「厄神様、どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっと遊びに行くの。桃をあげるから一緒に来ない?」
「それではお供します」
まずは一匹、一本釣り。
次に犬を探し回る雛でしたが、山を歩いていると犬耳の娘を見つけました。
「あ、わんこ」
「犬じゃなくて白狼ですってば」
「ねぇねぇ椛。ちょっとピクニックに行かない? 桃を食べに行くの」
「わぁ、美味しそうな桃ですね。お供します」
キジの代わりに夜雀を、犬の代わりに白狼天狗を。
百人力の妖怪を桃で餌付けすることに成功した雛でしたが、猿の妖怪はついぞ見つけることができませんでした。
猫や虎でお茶を濁しておこうか。困り果てた雛はそれならばと、ある場所へと足を運びました。通り道なので一石二鳥です。
縦穴に入りますと、その人はやっぱり橋の番をしていました。
「おかえりなさい、雛太郎」
「雛って呼んでくれないと泣いちゃうわよ?」
「泣け、喚け」
「うわーん」
「うざいっ。それにしても、お供が二人しかいないけど?」
「え? パルスィも一緒に来てくれるって? いやぁ助かるなぁ」
「私!? 嫌よ」
「はい、桃」
「それ私が持たせた奴でしょう!」
「お~ね~が~い~」
「袖を引っ張るな~!」
快く引き受けてくれたパルスィをずるずると引きずり、雛と寄せ集めの一行は、鬼の住む旧都へと向かったのでした。
◇
ここは地底の奥底。
旧都では鬼たちがお酒やご馳走を囲んで、酒盛りの最中でした。
「人が見張りして暇してるってのに、楽しそうに。あぁ妬ましや妬ましや」
物陰から様子を伺っていたパルスィがお約束を済ませたところで、さてどうしましょう。
幸い、鬼たちはこちらに気づいていません。油断も隙もありまくりでしたので、今襲いかかってしまえば鬼とてひとたまりもないでしょう。
というわけで。
「鬼退治に来たわ! たのも~!」
「うぉい!?」
雛が一言で台無しにしてくれました。
正面から堂々乗りこんだ雛達を、酒宴の邪魔をされて怒った鬼が出迎えます。
「鬼の四天王、力の星熊勇儀と知ってのことだろうね?」
「我が名は伊吹萃香。鬼退治と声を上げるからには容赦しないよ」
「私達を退治する? いいだろう、このレミリア・スカーレットが直々に相手をしてやる」
「紅の王レミリアが妹、フランドールここにあり! さぁ勝負、勝負!」
殺る気満々な本物の鬼と吸血鬼が現れた!
4対4、数の上で差はありません。ならば桃の力と、なにより友情パワーのある雛たちが俄然有利です。「あぁ、終わったわこれ」と呟いたパルスィの声を雛は聞いた気がしましたが、そんな幻聴に惑わされるような女ではありません。
雛たちは手を取り合って獅子奮迅の働きを見せ、死闘の末に見事鬼を討ち果たしたのでした。
とまぁ、雛の脳内ではその予定だったのですが。
「そろそろ屋台の仕込みしなくちゃ」
「哨戒の仕事が入ったのでこれで」
「あ、こら二人とも」
お供たちはあいにくと急な用事が入ってしまった様子。夜雀と白狼天狗は、突如後ろに向かって前進を始めてしまいました。それはもう、脱兎が如く猛ダッシュで。
雛の制止も聞かずに二人は地上へ戻ってしまい、残るは雛とパルスィだけ。
しかし二人の愛の力があれば。
「いや、ほら私、鬼女だから」
パルスィが寝返ってしまった!
どうする雛! がんばれ雛!
雛の冒険はこれからだ!ご声援ありがとうございました。
「悲劇の流し雛軍団が長、鍵山雛とは私のことよ! 命惜しくば立ち去れぃ!」
立ち向かうそうです。よせばいいのに。
そしてコントの相方はといいますと、突っ込むのもそろそろ疲れてきたので激流に身を任せることにしたようです。そっちの方が早く終わるんじゃないかなぁという淡い期待を持って。
パルスィが半眼でやる気なさそうに見守る中、決戦の火蓋は切って落とされました。
「えんがちょマスターの力、受けてみなさい! 雛ちゃんスピンアタック!」
「三歩必殺」
「はうっ」
「ミッシングパワー」
「ちょ」
「スカーレットシュート」
「おま」
「レーヴァテイン」
「ひぬぁ」
瞬く間に残機を4つ失った雛は最後のレーヴァテインで空高く吹っ飛ばされ、くるくるときりもみして、ぐしゃっと地面に落っこちました。
起き上がりこそしたものの、地に膝をついた雛は苦しそうにつぶやきます。
「ぎりぎり、互角と言ったところかしら」
「余裕そうね。んじゃあ、グリーンアイドモンス」
「待ってぇ!?」
結局敵に回ることにしたパルスィがスペルを展開しようとしたのを見て、雛は慌てて飛びつきました。残機がないから仕方ありません。
パルスィの素足に抱きつき、そのスカートもぎゅっと握りしめて離すまいと抵抗します。
「いやもうほんと限界なんで堪忍して。あ、素足がすべすべしてる」
「ちょっとどこ掴んでるの! 脱げる、脱げるって、わかった! わかったやめるから脚に頬ずりしてくるなぁ!?」
すりすりすりすり。
瞳を潤ませて訴える彼女に心うたれたパルスィは改心し、雛と手を取り合うことを決めたのです。
「ナレーション嘘つくな。というか誰よ、さっきから声だけで」
はーい、こいしちゃんでしたぁ。
「おいこら」
「そういうことだから一緒にがんばろうねパルスィ」
「出来れば雛一人でやってて。あと抱きつくな暑苦しい」
むぎゅうと抱き突く雛。その表情はとても幸せそうでした。
さてそんな様子に、鬼の一人、星熊勇儀が地団太を踏みます。
「パルスィを人質にするとは卑怯な!」
「え? 人質?」
「くっくっく、これでお前たちは手出しできまい。さぁ、武器を捨てておとなしく私に退治されなさい」
「誰かこの状況について詳しく説明して」
パルスィの意見は左から右へ。攻守どころか役回りまで逆転した厄主人公は、パルスィの体を抱いて余裕の表情です。
勇儀たち鬼4人はじりじりと詰め寄っていきます。それに雛は悪役笑顔です。
「おっと、妙な動きはしない方がいいわよ。もしも私の機嫌を損ねたらどうなるか、わかってるわよね?」
「ど、どうするって言うんだい」
明らかに顔を引きつらせた勇儀が恐る恐る尋ねます。鬼の威厳はそこにはありませんでした。
雛は勝ち誇った笑みで言い放ちます。
「パルちゃんに、あ~んなことや、こ~んなことをしちゃうわよ。ふふふ」
「あんなことや、こんなこと、だと‥‥‥」
「そ、そんなことまでしちゃうのか?」
「くっ。この悪魔が!」
「ひどい、ひどすぎるっ」
「お前ら一体何を想像したぁ!!」
このパルスィ魂の叫びは地底全土に響き渡ったとか。
大勢は決しました。戦意を失った鬼など、もはや恐るるに足りません。雛は、厄を振り撒いて大暴れです。
「さぁダンスパーティの始まりよ。くらえ~、えんがちょタイフーン」
「うわ~」
「ひゃ~」
「う~」
「きゃ~」
やる気のない悲鳴を上げる鬼たちは、ほうほうのていで逃げだしていきます。雛は、ついに鬼の征伐に成功したのです。
雛は戦利品を手に、意気揚々と地上への道を凱旋していきました。
「おじいちゃんおばあちゃんと、猿の役までした私が戦利品ですかそうですか」
「これにて一件落着、大満足」
「鬼に何の罪があったのかと小一時間」
悪は滅びました。雛は、その歴史に大きく名前を残すことになるのでした。
「いや~今日は楽しかったわ~。お礼に、これを受け取って」
「桃、まだ持ってたんだ。ってうわ、生温っ!?」
「懐で温めておきました」
「やめんか!」
そして二人は、仲良く桃を食べましたとさ。
「あぁ、この前は厄かったわ」
ある地底で、そう呟く水橋パルスィという妖怪がいました。
彼女がいつものように縦穴などを見上げておりますと。
突然上の方から、何かが降ってきました。
驚きつつも冷静にキャッチしたパルスィは、一体何が落ちてきたのかと手元を確認して。
「おにぎり‥‥‥おむすびころりん‥‥‥」
「きゃ~落ちちゃった~」
「もう来んな~!」
かるーいノリで笑えました