Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

文「クリスマスが今日ということを忘れていた」

2015/12/26 14:25:50
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「チルノさんはクリスマスをご存知ですか?」
「んぅ?」

活気溢れる人里は、本日なにやらイベントがあるらしくいつも以上に活気に溢れていた。その様子を取材していたら偶然遊びに来ていたチルノさんとばったり会って、
「チルノさん、この後一緒にお茶などどうですか?」
「行く!」
という会話の後、一緒に人里の茶屋で一服していた。
雑談の一環で急に質問されたチルノさんは団子を飲み込んでよく分からない表情で首を傾げた。あぁ、この様子だと知らなさそうだなということで、説明をする。

「クリスマスというのは最近幻想郷にも入ってきた行事のことです。元々はキリスト教という宗教のお祭りだったのですが、大衆に広まるにつれて恋人や家族といった大切な人と過ごすにしだいに変化していったらしいです。今では仲のいい友達と贈り物を持ち寄って交換することもあるそうですよ」
「もうちょっと簡単に言って」
我ながら綺麗に纏めたと思ったんだけど。
「大好きな人と一緒に過ごす日ということですよ。あとはプレゼント交換するみたいです」
「なるほど~。じゃああたいもあやになにかプレゼントあげるね!」
「本当ですか!」
「うん! ところでクリスマスっていつ?」

言われて肝心の日付を言っていないことに気がついた。手帳のクリスマスに関連するメモを見返す。走り書きの中から目的の記述を巡らしていた目が目的の記述を見つけ出して止ま…………うわぁ、これはひどい。チルノさんに残念な報告をすることになってしまった。

「あやへのプレゼントなににしようかな~」

更に言い辛くなった! やばいこの話題を出した自分を殴りたくなってきた。

「ね、ね、いつ、いつなの?」
「えぇっとですね、はい、……今日です」
「えっ」
「今日です、はい。今日の日付は12月25日です、クリスマスも12月25日です……」
「えぇ~……」

がっくりといった雰囲気で肩を落とすチルノさん。私も何を貰えるのかとても楽しみに思えたのでとても残念だ。話題に出さなければ良かった。

「チルノさんチルノさん」
「なにー……」

返事に元気が無い。どれだけダメージを受けているんだ、ほんと素直な子だなぁ可愛い頭撫でたい。と思ったけど、我慢する。きっと私が次に言う言葉を聞いたら元気百倍になるだろう。

「プレゼントは無理でも大好きな人と一緒に過ごすということは出来ますよ」
「あっ!」

うじうじと今にもしゃがみ込んでのの字を書きそうなほど俯き顔だったチルノさんが顔をまた上に向けて私を見る。その表情は冬なのに向日葵が咲いたと思うほど清々しく、明るいものだ。私こと射命丸文、チルノさんを笑顔にすることが新しい趣味である。なお友人に胸を張って語ったらバールを投げられたことを明記しておく。頭に当たって死ぬかと思った。

「今夜私の家に来ませんか? プレゼントはちょっと無理かもしれませんが、一緒にお食事でもどうです?」
「いいの? お泊りしていい!?」
「勿論ですよ。それでは私は家に帰って食事の準備やらをしてきますので一旦別れましょう」
「わかった! あたいお泊りセットの準備をしてくるね!」
「了解です。それでは準備が出来たら妖怪の山まで来て下さい。哨戒している天狗に私の名前を言ったら連れて行ってくれるように手配しておきます」
「天狗にあやの名前を言えばいいのね!」
「えぇ、そうです。それではまた後で会いましょう。料理、楽しみにしておいてくださいね?」
「うん! ばいばい!」

チルノさんと手筈を取り決めて私は空へ飛び上がった。下を見ると、笑顔で手を振ってくれていた。なんだか嬉しくて、手を振り返す。
彼女の笑顔を曇らせないように頑張ることを胸に誓いながら、私は寒空を駆け抜けた。



チルノさんと別れて約二時間後、私は綺麗に片付けた家の前で彼女を待っていた。
この二時間の間、私が何をしていたのかというとまぁ大したことではない。椛さんにチルノさんの事を依頼したり(報酬で今度食事を奢る約束をした。財布の中身を充填しておかなければ不味い。細い体で大食漢なのだ。)、食料その他を買いに走ったり、天魔様から天狗以外の山での宿泊許可を貰いに行ったり(なんでもない写真をそれっぽくチラつかせたら何故か焦った風にすぐさま許可を頂けた)、買った食材で料理をしていただけだ。
全てはチルノさんと楽しい一夜を過ごすためだ。その為の苦労はすればするほど楽しみ甲斐があるというものだ。
ところで、すこし遅すぎるのではないだろうか。ちょっと心配になってきた。
チルノさんまだかなーまだかなーとぶつぶつ言いながら待っていると、遠くに小さな明かりが見えてきた。私は鳥目ではあるが、視力が悪いわけではない。少しの明かりがあれば十分見える。じっと目を凝らしてみると、中肉中背が一人と、小柄なのが一人ということが分かった。
この状況下でこの組み合わせは間違いない。チルノさんと椛だ。そう確信すると私は居ても立っても居られずに思わず二人に向かって飛んでいった。

「こら、そんなに引っ付かないでって」
「だって離れたら迷子になっちゃうじゃない!」
「いや、そんな簡単に迷子にならないって……あ、あれは文さん? って、こら! 勝手に飛んでいかない!」
「チルノさあああああああああああああん! もみじーーーーーーーーーー!」
「文ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

近付きながら大声で叫ぶと、チルノさんも叫びながら私に抱きついてきた。あぁ良かった、なにか事件にでも巻き込まれたのかと思った……。
小さな体を抱きしめてその感触を堪能していると、後から遅れて椛もやってきた。若干疲れたような表情だ。

「すみません文さん、予定よりも遅くなっちゃって」
「二人とも無事でよかったわ。どうしてこんなに?」
「いや~、彼女が」

椛がちらっと視線を私の胸にしがみついているチルノさんに向けた。それに吊られて私もチルノさんを見ると、いつもは着ていないコートを着ていることに気がついた。どうしたのだろうか?

「今の格好は恥ずかしいから、なにか上に着るものはないかと訊かれまして。確かに少々寒いかと私が昔使っていたコートを家まで取りに行っていたんです」
「そうなの……ごめんね、手を焼かせて」
「いえいえ、これも食事のたm……文さんのお知り合いのためですからね」

若干本音が漏れたな。この娘もある意味素直ということか。

「それでは私はこれで失礼します」
「あら、もう帰るの?」
「えぇ、ここに居ると独り身が辛くなります故。それではこれにて御免」

そう言って椛は来た道を引き返していった。正直、本当に寒い中ありがたいと思う。食事のためだとは言っていたけれど、それだったらチルノさんにコートを渡す程ではないだろう。元から気配りの出来る娘だから、早くいい相手が見つかるといいなと思う。

「それではチルノさん、家に入りましょうか」
「うんっ!」


「ところでチルノさん、そのコート脱がないんですか?」
「えっ」

家の中に入って一息ついてチルノさんを見ると、コートを脱ごうとしていなかったので指摘してみたら微妙な反応が返ってきた。

「えぇと、やっぱ脱いだほうがいい、かな?」
「まぁ、室内ですし食事もしますからね。脱いだほうがいいと思いますけど」
「だ、だよね……」

そう言いながら、脱ぐか脱がないか暫く迷った挙句ごそごそと脱ぎ始めた。が、着替えているところをじっと見られるのはやはり恥ずかしいらしく、手であっちにいけと追い払われた。残念だ、恥ずかしがるチルノさんの表情を余すことなく拝見したかったのに。
しぶしぶ机の上に皿を置きながらチルノさんにめげずに話しかけてみる。

「もういいですか~?」
「ま、ま~だだよ~」
「もういいか~い?」
「うぅ~……もういいよぉ~」

なんで泣きたそうな声で言うんだと思いながら振り向いてチルノさんをみてみ……うぇ?
目の前にはいつも着ている赤いワンピースではなく、赤を基調とした服に白い飾りがついた、所謂サンタ服を着ていたからだ。それもミニスカ。基本隠れているチルノさんの激レアな膝小僧がばっちし見えるくらいミニスカである。思わずキリストに感謝したくなった。自分の誕生日だからってサービスしすぎではないかと思うぐらいだ。
じーっと凝視していると、だんだんチルノさんの顔が赤くなってきた。服の色とお揃いだねーとか言ったら氷付けにされそうで怖いから言わないでおく。

「えと、どうかな? 似合う?」
「か、可愛いです、すごく」
「そ、そうかな? ……えへへ」

照れくさそうに笑いながら頬を指で掻くチルノさん。いつもとは違う喜び方でなんだか新鮮だ。

「チルノさん、ひとつお願いがあるのですが」
「ん? なに、あや?」
「その服装、私以外の誰かに見せないで欲しいのです。いやあの、変に思われるかもしれないのですけど……お願いできますか?」
「いいけど……理由を教えてくれない? あやはどうしてそう思ったの?」

若干真剣な雰囲気で話しかけた私に合わせて、チルノさんも真剣な表情になってくれる。いや、正直そこまで重要な話って言うわけでもないのだが。

「嫌なのです。チルノさんのその可愛い、いやいつも可愛いですけどね? その可愛い姿を独り占めできなくなるのが嫌なのですよ。ただの自己満足なだけですけれど」
「うん、そうかそうかー」

私の言葉にうんうんと頷くチルノさん。頷いているのは紅くなっていく顔を隠すためだろうか? もしそうだとするのなら、あなたは私を殺す気でしょうか? 思わずそう問いたくなるほどの可愛さだ。

「わかった、あやがそこまで言うのなら他の人には見せない!」
「ほんとですか!?」

満面の笑みで承諾のお言葉を頂いてしまった。何がチルノさんをそこまで喜ばしたのか分からないけれど、彼女が私の言うことを聞いてくれるというだけでなんだかとても嬉しかった。
その嬉しさについ作業する手が止まってしまっていたのに気付かれて、チルノさんにそれを指摘されるまで私はにやにやしていた。

「ところでチルノさん。あとで写真を撮らせて貰っていいですか、ていうか撮らせて下さいお願いします」
「べつにいいけど……どうしてそんなに必死なの?」
「今のチルノさんをカメラに収めないと将来私が死にそうなのです」
「別に文のためだったらいつでも着るのになぁ……」


「苦労した意味が、あったなぁ……」

チルノさんと楽しく食事した後、それぞれ風呂に入って寝る流れとなった。チルノさんは早寝早起きを毎日実践するいい子(大妖精さん談)なので、私が風呂から上がった頃にはもうぐっすりと布団の中に居ることだろう。
食事のときの楽しさといったら、筆舌に尽くしがたい。

「ふふ……」

自分でも気持ち悪いなと思いながら、楽しかったひと時を思い出して頬がにやつくのが止められない。基本一人での食事なのだ。複数人で食卓を囲むことが滅多に無い。それに慣れきっているから大切な人と食卓を囲めるのは嬉しいもので。誘ってみた甲斐があったというものだ。
なんで食事するだけなのにそんなに楽しそうなのかチルノさんに訪ねられたときに、「いえいえ、チルノさんと一緒に食事できることが嬉しくて」と答えて嬉しそうに笑うチルノさんを見て、幸せを感じた。
何でもないような会話とか触れ合いがこんなにも嬉しいと感じることはチルノさんと付き合い始めるまで知らなかったな。
微温湯に浸かっていると段々眠くなってきた。まぁ今日は半日ずっと飛び回ってたし、仕方の無いことなのかもしれない。いつもより早目に切り上げることにしよう。

風呂から上がって、寝室を覗いてみる。チルノさんは布団から顔だけを出して寝ている。さながら蓑虫のようだなと思って、クスリと笑う。寝顔はとても穏やかなもので、いつもの子供らしさとは打って変わって大人びた印象をうける。

「プレゼント……渡し損ねちゃったな……」

ふと今日買ってきたプレゼントのことを思い出した。
食材を買うときに一緒に買ってきたブレスレット。どっちかと言うと、食材を買う時間よりこっちに時間を取られたのだけれど。チルノさんに合いそうな水色を基調としたもので、中心には雪の結晶を象った飾りが付いている。
ホントは食事の後にでも渡そうかなと思っていたのだけれども、食器を洗うのを手伝う宣言したチルノさんがすぐさま実行に移し始めたので渡す機会を見逃してしまったのだ。

そういえば……と、外着のポケットに入れているメモ帳を引っ張り出す。クリスマス関連の項目の中から目的の内容を見つけ出す。発祥は教父聖ニコラオスのことで、通称サンタクロース。子供にプレゼントを配る存在。

「サンタクロース……これだ」

単に私が渡すより面白い反応が返ってきそうだ。そうとなればやるしかない。
作業台の引き出しの中から適当な包装紙と小箱を探す。それから小箱にブレスレットを入れて、包装紙で包む。最後にリボンで結べば完成だ。
意外と手間取ったが我ながらいい出来だ。さっそく枕元に置く。

「明日起きたらどんな反応をするんでしょうかね……楽しみです」

頬をそっと撫でると擽ったそうに小さく身動ぎする。その仕草が愛おしくて思わず笑みが浮かぶ。

「おやすみなさいチルノさん。いい夢を」

そう言いながら額の髪を横に流し軽く口付けて、それから私も布団に入る。
明日のチルノさんの反応を考えて、早く明日にならないかなぁと、目を閉じた。
あやが小さく寝息を立て始めたことを確かめてから、あたいは体を起こした。枕元には、さっきあやが一生懸命、包んでくれたプレゼント。サンタクロースから貰ったことにしようとあやはしていたみたいだけど。
「あやったら、ばかだなぁ……あやから貰えるから、あたいは嬉しいんだよ?……でも、ありがとね」
あやを起こさないように音を立てないようにこっそりとあやに近付く。そしてさっきしてくれたみたいに、髪の毛を横にずらしてキスをする。
あやはくすぐったそうに身じろぎをしたけれど、起きる様子はない。
「おやすみあや、メリークリスマス」

お読みいただきありがとうございました。チルノが素直すぎて騙されないか心配です。
2015/12/28 なんか個人的に気に入らなかったので大幅に加筆修正しました。
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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
素直なチルノにほっこりしますね。頬が緩ります。
チルノを泊めるために踏まなければならない天狗社会の手続きの面倒事も報われますね。
2.名前が無い程度の能力削除
文チル美味しいです
3.奇声を発する程度の能力削除
良い文チルでした