甲子園には魔物が棲むと言うが、幻想郷に悠然と聳え立つ軌道エレベーター『ジェンガ』の足元、およそ東京ドーム1個分…つまり東京ドームと同じ敷地面積を持つ『どら焼きドラマチックパーク』にも、それらしき者は棲んでいた。
「レミリア・スカーレット…」
古明地こいしはさとりであるが、当社都合により心は読めないので無害である。
しかしながら、心を読まない無害さとりであるとは言え、見た目においてはただのロリ美少女なので割とそのスジの人には有害である。
「レミリア・スカーレット…!」
「…なに?」
「何じゃなくて。離れて欲しいんだけども」
「姉が妹に対してスキンシップすることの何処に不具合があるのかしら。まぁそれでも離れて欲しいのなら、今の私に対する気持ちを考え、姉という文字を入れた上で20文字以内の文章にしなさい。制限時間は3時間、配点は25点。はい始め」
「あなたの顔は姉歯一級建築士に似ている」
どら焼きドラマチックパークに潜む魔物、永遠に幼い紅き月ことレミリア・スカーレットは灰になった。
事の発端は面倒なので省くが、とにかくお互いの妹をミキシングビルドしたいというレミリアの悪魔的発想が全部悪い。
そのせいで古明地さとりはポリス・ストーリー(1985年 香港)をまともに見れなくなったし、パンツも脱げた。
そして当のこいしはレミリアに連れられ、キャンプ先でありレミリアのハウスでもある紅魔館を訪れていた。
こいし本人の与り知らぬところで決められた約定ゆえ、最初は拒否したものの、妖怪の自由を奪ってあれやこれやする、ウスイタカイホンで稀によくある謎のお札をキョンシーよろしく貼られれば、抵抗することは出来なかった。
これでは事案どころか事件である。キッドナッピングである。昨夜丁度、MASTERキートンのキッドナップ・ネゴシエイターの話を読んだばかりである。
「それが災いした…だが悪は滅びた」
レミリアは灰になった。静寂が訪れる。英語で言うとサイレント…こいしは帽子を目深に被ると踵を返し、部屋を出る。
別に殺意は無かった。必要以上のスキンシップは己を滅ぼすのだ、そうに違いない…
グッバイ、MAMONOさん…
「そこまでよ!」
「ゲエーッ!?」
飛んで出て行けばいいものを、律儀に玄関から出ようとしたこいしを、何者かが呼び止める。
そこまでよと言われて無言で去るのは礼儀に反するだろう…ちょっとオーバーだがリアクションはした…これで非礼にはあたるまい。こいしはそこまでを自分の中で納得させ、ドアノブに手をかけた。
「…そこまでよ!」
「…ああもうめんどくさい…その声はキャッチャーの人でしょ」
「左様」
「左様て…」
パチュリー・ノーレッジ。
動かない大正捕手(ドカベン)の異名で知られる、幻想郷リーグきってのキャッチャーその人であった。
「フフフ…何処へお帰りで? キャンピングナイトはまだ始まったばかりだというのに」
「4番でエースのレミリアさんが灰になれば、こうもなろう!」
「なんじゃとて!? 富野語で話す…のかァ! いいわねアナタ、私の知恵と知識と魔術を以ってしても、富野エミュレータはいつまでたっても出来ないわ。想像以上に手ごわいわねあのお禿」
「トミノ…? トミノと言ったか! あのパタパタ倒れる板状のぉ!」
こいしは幻想郷の住人の実に7割が罹患するミノフスキー汚染症候群の災禍を免れており、よって富野と言われても誰だか知らないのだ。
ちなみに富野というのはお禿のことである。
「えっ、お禿を知らないの…知らないのにナチュラルにそんな…恐ろしい子…」
「もういいでしょ、帰るわ」
「ウェウェウェイッ!(wait) あなたが来るって聞いて、皆で色々用意したのよ! えーとほら、おやつとか…映画もツタヤで借りてきたしほらこれ、バトルシップ。浅野忠信出てるのよ。…あとバトルドームもあるのよ。それが無駄になってはアレが出るわよ…ACからの刺客、もったいないお化けがね…」
「そんなんアサルトアーマーでイナフ」
「コジマッ!」
こいしはフロム脳であった。
結局、あれやこれやと引き止めるパチュリーにほだされ、こいしはとりあえず、ではあるが一泊することを承諾した。
とは言え主が灰になったままでは、自分のせいでないにせよどうにも居心地が悪い…そんなところ、颯爽かつ瀟洒に現れたのは、十六夜咲夜であった。
「あ、えーと…シックスティーンナイト・ブルームナイトさん」
「そうですわ、こいしさん。まぁソレは登録名なので適当に咲夜とか十六夜とかお呼び下さいませ」
「えーとじゃあ咲夜さん、あのですね」
「OK、言わずとも判ります。目は口ほどに物を言うといいますわ…OK、そう…晩御飯はカレーを御所望と。そうですね」
瀟洒なポージングでスライドしつつ、咲夜は言う。
だがこいしの腹はカレーではなくまた晩御飯のことなどこれっぽっちも考えていなかった。
「いや違うし…カレーは昨日食べたし…レミリアさんの事なんだけど」
「ふむ、お嬢様が何か…札束で頬を叩いた上でのヘッドハンティングでしょうか? ストーブリーグにはまだ早いかもしれませんが」
「灰になった」
「お嬢様はいつだってHIGHですわ。最高に『ハイ』ってやつだッ! が口癖ですもの」
「咲夜違う。またいつものアレでしょうよ」
「どれですかね…まぁいいです」
パチュリーの言に咲夜はふむ、と頷き、そうして何処かへと消えた。
残された二人は言葉を交わすでもなく、ただ沈黙するのみである。友人の友人と会って、仲立ちしていた友人が席を外した時に感じるあの微妙な空気が、こいしには重い。
何か話さねば。アサルトアーマーの話でもいいがそれではちょっとコアすぎる。こいしは例によって己を納得させる為のメソッドを走らせ、パチュリーを見た。
目が合う。パチュリーもまた、同じタイミングで何か切り出そうとしていたようだ。
「パチュリーさんはラーメン好き?」
「ピスタチオ食べる?」
二人の口から出た言葉は無難と言えば無難であった。
こいしは面白い表情をしつつピスタチオを受け取り、パチュリーは側にあったソファへと腰を下ろして、こいしにも座るよう促す。
「ラーメンと言えば…アレよね」
「どれ?」
う う
ま ま
い い
指先に炎を灯し、その軌跡でそう描けば、こいしもぱっと笑顔を咲かせる。
「あー! うまいラーメンショップうまい!」
「そうそう…地底にもあったりするのかしら」
「あるよ、ネギラーメン美味しいよね」
「ちなみにアレね、ネギラーメンと指定のドンブリさえ使えば、あとは何出してもいいんだそうよ」
「えッマジで…知らなかったそんなの…」
共通の話題さえあれば、どうにか場をしのげる。こいしは安堵し、ピスタチオをコリコリと齧っては、パチュリーが披露する無駄ラーメン知識に耳を傾けた。
姉は引きこもりだし、空は頭が若干ユカイだし、燐はあまり家にいないしで、話が膨らまないことしきりなのである。だからこういった会話もそれはそれで実りがある。
「最近のオススメは台湾混ぜソバかしらね…見つけたら一度食べてみたらいいわ、美味しいから」
「へぇー…」
「エエエエエエエマージェンシー!」
訪れたことも、恐らくこれからも訪れることのない台湾に思いを馳せようとしたその時、咲夜がけたたましく、しかしながら瀟洒なポーズで現れ、そう叫んだ。
いや、あんたがエマージェンシーだろ…とツッコミたくなる気持ちを抑え、二人は何事か、と彼女に尋ねた。
「お、お嬢様がまた灰になっておられる!」
「だからそう言ったじゃない、さっき」
「また、って…よくある事なの?」
「わりとね。でもまぁ闘将! 拉麺男じゃよくあることだし、レミィは吸血鬼だし平気よ。咲夜、灰は?」
「こっここっこ、ここに」
「これにね…」
パチュリーは何故かすり鉢に入れられたレミリア(元)に紅茶を注ぎ、ついでにピスタチオを放り込んではティースプーンでそれをよくかき混ぜていく。
想像を絶する光景ではあるが、今更その程度で動じるこいしではない。ピスタチオを齧りながら、顛末を見守っていく。
「ねるねるレミィは…ふふふ…練れば練るほど色が変わって…こうやって成型して…レミィ!」
「テーレッテレー!!!!!」
レミリア・スカーレット復活!
レミリア・スカーレット復活!
「ヤッターカッコイイー!」
「とまぁ、こんなモンよ。咲夜ってば何度も見てるのにいっつも『またお嬢様が灰になっておられるー!』でねえ。薬師寺天膳じゃないんだから」
「いやいやいやあれはショーシャンクなリアクション芸ですよ」
キリストも舌を巻きかねない、古今例を見ない見事な復活を遂げたというのに、従者や客がそっちのけで談笑をしていれば、面白くもないだろう。レミリアはわざとらしく咳払いをし、手を頭の後ろで組んでうろうろと歩き回る。
「いやー死ぬかと思ったわマジでー! っかー! 吸血鬼じゃなければ死んでたわ! っかー!」
「…すごいねヴァンパイア」
「そう! そうよこいしちゃん! ルーマニアが誇るワラキアンテクノロジーを以ってすれば灰から再生するだなんて赤子の手をこうロールするが如きの朝飯前だわ! つまり救世主の如き吸血鬼! 英語で言うとヴァンパイアセイヴァー」
「うるさいレミィ、カッチでボコるわよ。んで、何で灰になっていたのよ…こいしちゃん興奮すると目から紫外線とか出ちゃうタイプ?」
「いや出ないけど…」
そんな人間及び妖怪など考えもつかないが、ともかくレミリアが灰になった件は有耶無耶になった。
とりあえず、咲夜は夕食の支度をしに厨房へと消え、ここでは何だからと残った三名は応接間へと移動する。
カチャカチャカチャカチャカチャ
チンチンチンチンチンチン
「ねぇ」
「…何」
「これつまらな…」
「シャーラップ! ツクダオリジナルから発売され相手のゴールにボールをシュー! するだけのバトルドームに、言ってはいけない三つの誓い!」
1 つまらない
2 おもしろくない
3 うるさい
「わかりました」
「よろしい」
カチャカチャカチャカチャ
チンチンチンチンチンチン
「ねえ」
「…何よレミィ」
「4人でやりたいのだわ」
「つっても…美鈴はまだ仕事中でしょう」
「定時まであと5分よ、それくらい許すわ…だから呼んできて?」
「嫌よ、寒いし」
外は北風が強く、インドア派のパチュリーには辛い季節であった。
たとえ徒歩数十秒の場所とは言え、絶対に外出したくないでござる、という意思が発言から表情から見て取れる。
「このもやしっ子クラブ! 貧弱! トルネコ!」
「ハイハイいつもの定型はいいから。ていうかこいしちゃん、バトルドーム、つまらなくておもしろくなくてうるさいでしょ? こっちで対戦ぱずるだまでもやらない?」
「テメーッ! バトルドーム三つの誓いを完膚なきまでに破りおってからにー! こうなればオリジナルのツクダオリジナルをけしかける冥王計画(プロジェクト)を実行に移すしかねー! カモン美鈴!」
激昂したレミリアは指をパチンと鳴らし、その名を呼んだ。
だがツクダオリジナルどころか、紅魔館の門番たる紅美鈴すらも姿を現さない。何がどうなっている? レミリアはカリスマが溢れ出すポーズでもって黙考を開始した。
その時である。
重厚な木製の扉が轟音と共に破られては飛来し、その角がレミリアのこめかみの辺りに直撃した。
「お呼びですかお嬢様! ちょっと鉄山なんとかのコマンド入力(6A。タメ可能)に手間取りましたがどうですこの対門宝具こと空手奥義鉄山なんとかの破壊力! ハッキョク・ケンポーのタツジンでありゴッドスピアの異名を持つショブン・リーも愛用していたそうですよ! 門に! そういう訳でお呼びとあらば即身仏! 紅美鈴ここに推参!」
「ハーごちゃごちゃ長くてうるせーこのトンチャモン!! こめかみちょっとへこんだわよ! っかー! 吸血鬼じゃなかったら死んでたわー! っかー!」
「吸血鬼なのですから無事ですよお嬢様! さすが! かっこいい! 惚れる!」
「エヘヘ…さて美鈴、さっそくだけどバトルドームやるわよ」
「マジですか! でもバトルドームはつまらないしおもしろくないしうるさいしで、私としてはちょっと遠慮しておきたいんですけども!」
「おまえーっ! 素人がなーっ! バトルドームをなーっ! ゆるさーん!」
「あとドア直しておかないと咲夜に折檻されるわよ」
直した。
「何でお客にまでドア直させるわけ」
「まぁまぁ! DIYってやつですよ! こいしさんも今はこの紅魔館の一員なワケですし、皆でこう何かして親睦を深めるっていいですよね! バトルドームは御免被りますけど」
「アンタマジでたたくわよ! むッ!?」
美鈴に組み付き、その豊満な胸を16連打していたレミリアが、ふと何かに気づいて手を止める。
芳しい香りが、ゆっくりと部屋に侵入してきているのが、他の皆にもわかった。
「晩御飯の時間だオラァ!」
"!?"
ドアを足蹴りで破壊し、大きなワゴンを押して入ってきたのは十六夜咲夜である。
「ワーッツ!?」
「いや普通に入れや! なんだこの館!」
さすがに予想していなかったのか、こいしが立ち上がり叫ぶ。
彼女は一人で食事をすることが多く、よってその行為には色々とこだわりがあるようだ。独りで静かで豊かで救われていなきゃあダメな感じなのだ。
今日は仕方ないとは言え、いくらなんでも破天荒が過ぎる。
「まぁいつもは普通だけど…咲夜も何だかんだでテンション上がってるってことなんでしょ。許してあげて」
「ここのメイドはテンション上がるとドア蹴破るの!? 門番もドアぶっ壊したし!?」
「どうどう、落ち着きなさいリトルストーン。匂いを嗅いでごらん、はい吸ってー、吐いてー! 吸い過ぎはあなたの健康を損なう恐れがあるけど吸って吐いて!」
「ああもう…すーはーすーはー、はいこれで…むっ!? この匂い…カレー…」
カレー!
それは陸海空、どの具材をチョイスしても無難に出来上がる奇跡の料理である。こいしは昨晩もカレーであったことをちらりと思い出していたが、そんな逡巡など芳醇かつエキゾチックなスメルの前には赤子の手をこうロールするかの如きであった。
「そうッ! 紅魔館が誇る48の必殺料理のうちの一つ…それがこの咲夜特製なんだか良くわからない肉の入ったカレーよ! あー大丈夫だいじょうぶ、四本足の動物の肉だから」
「本日はお客様用にあつらえました。調合したスパイスに、マカやらウナギやらとろろやらニンニクやら、とにかく精のつくものをこれでもかとぶち込んだ十六夜スペシャルでございます」
「へぇ…美味しそうだね」
「実際美味いので喰らって微笑んで?」
食べた。
「美味しかった!」
「ありがとうございます。作る身としてはその言葉が一番嬉しいですわ」
「咲夜さんの作るカレーは絶品ですからねえ、さてじゃあ私は後片付けをば…こいしちゃんはゆっくりしてて下さいねー」
食器を携え、咲夜と美鈴は部屋を出て行った。
残されたこいしは、同じように残ったレミリアをちらりと見る。
言葉を交わすでもなく、さりとて無視して何かをするというのも違う。かと言ってバトルドームは御免被りたいところだが…と、思案していると、不意にレミリアがこちらを見た。
「…お話でもしましょうか」
「え、あ、はい」
先ほどまでのはちゃめちゃなテンションではなく、どこか神秘的なものを湛えたそのたたずまいに、こいしは思わず姿勢を正し、敬語でもって返答をする。
レミリアが座るソファ、その端っこに腰を下ろしたこいしは、手に持ったティーカップを、所在無げにいじってはレミリアと見比べる。
「サトゥルヌス…いえ、お姉さんからは本当に何も?」
「特に聞いてない…けど」
「そう。彼女ね…言ってたわ、貴女のこと」
ふとこいしの表情に翳がさす。おそらく、何を言っていたのか察したのであろう。ややシニカルな笑みを浮かべ、こいしは紅茶をすすってから言う。
「どうせ、何を考えているのか判らないとか、手に余るとか、そういった類のものでしょう? レミリアさんも妹さんがいるんだっけ、それで愚痴聞かされる相手になっちゃったんだ」
「愚痴ってほどのものじゃないわ。お姉さん、貴女のこと悪く言うことは一度もなかった」
「別に気を遣わなくてもいいから…それで? 性根の腐った私をどうにかして矯正するレミーズブートキャンプの始まりはじまりってワケなんだ?」
レミリアは「上手いこと言うわね」と苦笑し、それから改めてこいしを見た。すわ図星かと、やや身を固くしたこいしに対し、レミリアは変わらぬテンションで言葉を紡ぐ。
「クリケットにはチームワークが必要不可欠だわ…誰か一人が突出して強くとも、それだけじゃあ勝てないものよ」
「お空が球場を蒸発させちゃえばノーゲームじゃないの」
「そういうのは特殊すぎる例だからノーカンで…長く生きてるとねえ、傍から見れば取るに足らない様に思える娯楽でも、結構マジになっちゃって、それがどうしようもなく楽しいワケなんだけど」
「はぁ…」
「だからねえ、相対するライバルは、少しでも強いほうが燃えるのよ」
いい笑顔でそう言ってのける吸血鬼。そこには古明地姉妹の仲を修復してやろうだとか、そんな打算を含んだ表情は見受けられない。
こいしはなるほど、と前置きして、しばしの沈黙のあと、口を開く。
「でも…こうやって私を連れてきて、食べて遊んで駄弁って、それでどうなるってものでもなくない?」
「そうかしらね? こいしちゃんがどんな食べ物が好きで、どんな遊びが得意で、どんな話題に食いつくか…知っていれば、少なくともデータにはなるわ。そしてそれが勝利のきっかけになることだってある」
「そうまでして勝ちたいってこと?」
その言葉にレミリアはふ、と笑い、腰に手を当て立ち上がる。
「そうよ! クリケットに限らず! 私は勝つのが好きなの! でも世の中そうそう上手く行かないってのも真理よ! だから!」
「…だから?」
レミリアはぼふっとソファに身を沈める。忙しいことだがこいしは特に気にしていないようで、言葉を待つ。
「色々学んで帰ってね? こいしちゃん」
「…ええ~…」
「フ、フフ…そんな顔をしないで…寿命が迫っている私からのお願いだから…」
Q.急に寿命が来た?
急や
「は…? え、いや、ちょっと何言い出したの?」
「気にしないで…500年も生きていれば結構あるから…こういうのって…」
気にするなと言われればそうですか、と返すことも出来たかもしれないが、先ほどまでの落ち着いた雰囲気を覆すまさかの急展開に、こいしは明らかに動揺していた。
レミリアの演技である可能性も否定は出来ないが、そんな安手を打つ相手だろうか。こいしはあたふたと周囲を見回しながら、レミリアの肩を掴んでは揺さぶる。
「さっき灰になったみたいにすぐ復活できるんでしょ?」
「どうかしらね…度重なる死と再生の巡り巡るウロボロスが事象地平に干渉し、結果アクシズが押し返されたりELSと対話成功したり神ではなく光だったりしても、私の命が以前と同じ…今貴女と話しているレミリア・スカーレットと同じ命である保障なんて何処にもないのだから」
「簡単に説明しろや! えーとつまり…?」
「ガンダムグシオンに秘められたギミックって…何なのかしらね…それだけは知りたかったわ…それより…もう最期だから…今のあなたの気持ちを『あね』という単語を使って表して?」
「あなたの顔はアーネスト・ホーストに似ている」
「…フフ…よく言われ…るわ…」
どら焼きドラマチックパークに潜む魔物、永遠に幼き紅き月…その死に顔は笑っているようにも、泣いているようにも見えた(こいし談)
「似てる…かなあ…」
こいしは灰になったレミリアをそこらにあったプリングルスの空き缶に入れ、それを仏壇に安置すると、帽子を目深にかぶっては、ふわりと飛び上がった。
なすべきことは為した。この場に留まる必要はもうない。カレー、ご馳走様でした。にんにくが効いていて美味しかったです。
その後しばらくして春になり、リーグが始まるのだが…
筒状になったまま元気に暴れまわるレミリア・スカーレットを見て、こいしは引退を決意したという。
おわり。
「レミリア・スカーレット…」
古明地こいしはさとりであるが、当社都合により心は読めないので無害である。
しかしながら、心を読まない無害さとりであるとは言え、見た目においてはただのロリ美少女なので割とそのスジの人には有害である。
「レミリア・スカーレット…!」
「…なに?」
「何じゃなくて。離れて欲しいんだけども」
「姉が妹に対してスキンシップすることの何処に不具合があるのかしら。まぁそれでも離れて欲しいのなら、今の私に対する気持ちを考え、姉という文字を入れた上で20文字以内の文章にしなさい。制限時間は3時間、配点は25点。はい始め」
「あなたの顔は姉歯一級建築士に似ている」
どら焼きドラマチックパークに潜む魔物、永遠に幼い紅き月ことレミリア・スカーレットは灰になった。
事の発端は面倒なので省くが、とにかくお互いの妹をミキシングビルドしたいというレミリアの悪魔的発想が全部悪い。
そのせいで古明地さとりはポリス・ストーリー(1985年 香港)をまともに見れなくなったし、パンツも脱げた。
そして当のこいしはレミリアに連れられ、キャンプ先でありレミリアのハウスでもある紅魔館を訪れていた。
こいし本人の与り知らぬところで決められた約定ゆえ、最初は拒否したものの、妖怪の自由を奪ってあれやこれやする、ウスイタカイホンで稀によくある謎のお札をキョンシーよろしく貼られれば、抵抗することは出来なかった。
これでは事案どころか事件である。キッドナッピングである。昨夜丁度、MASTERキートンのキッドナップ・ネゴシエイターの話を読んだばかりである。
「それが災いした…だが悪は滅びた」
レミリアは灰になった。静寂が訪れる。英語で言うとサイレント…こいしは帽子を目深に被ると踵を返し、部屋を出る。
別に殺意は無かった。必要以上のスキンシップは己を滅ぼすのだ、そうに違いない…
グッバイ、MAMONOさん…
「そこまでよ!」
「ゲエーッ!?」
飛んで出て行けばいいものを、律儀に玄関から出ようとしたこいしを、何者かが呼び止める。
そこまでよと言われて無言で去るのは礼儀に反するだろう…ちょっとオーバーだがリアクションはした…これで非礼にはあたるまい。こいしはそこまでを自分の中で納得させ、ドアノブに手をかけた。
「…そこまでよ!」
「…ああもうめんどくさい…その声はキャッチャーの人でしょ」
「左様」
「左様て…」
パチュリー・ノーレッジ。
動かない大正捕手(ドカベン)の異名で知られる、幻想郷リーグきってのキャッチャーその人であった。
「フフフ…何処へお帰りで? キャンピングナイトはまだ始まったばかりだというのに」
「4番でエースのレミリアさんが灰になれば、こうもなろう!」
「なんじゃとて!? 富野語で話す…のかァ! いいわねアナタ、私の知恵と知識と魔術を以ってしても、富野エミュレータはいつまでたっても出来ないわ。想像以上に手ごわいわねあのお禿」
「トミノ…? トミノと言ったか! あのパタパタ倒れる板状のぉ!」
こいしは幻想郷の住人の実に7割が罹患するミノフスキー汚染症候群の災禍を免れており、よって富野と言われても誰だか知らないのだ。
ちなみに富野というのはお禿のことである。
「えっ、お禿を知らないの…知らないのにナチュラルにそんな…恐ろしい子…」
「もういいでしょ、帰るわ」
「ウェウェウェイッ!(wait) あなたが来るって聞いて、皆で色々用意したのよ! えーとほら、おやつとか…映画もツタヤで借りてきたしほらこれ、バトルシップ。浅野忠信出てるのよ。…あとバトルドームもあるのよ。それが無駄になってはアレが出るわよ…ACからの刺客、もったいないお化けがね…」
「そんなんアサルトアーマーでイナフ」
「コジマッ!」
こいしはフロム脳であった。
結局、あれやこれやと引き止めるパチュリーにほだされ、こいしはとりあえず、ではあるが一泊することを承諾した。
とは言え主が灰になったままでは、自分のせいでないにせよどうにも居心地が悪い…そんなところ、颯爽かつ瀟洒に現れたのは、十六夜咲夜であった。
「あ、えーと…シックスティーンナイト・ブルームナイトさん」
「そうですわ、こいしさん。まぁソレは登録名なので適当に咲夜とか十六夜とかお呼び下さいませ」
「えーとじゃあ咲夜さん、あのですね」
「OK、言わずとも判ります。目は口ほどに物を言うといいますわ…OK、そう…晩御飯はカレーを御所望と。そうですね」
瀟洒なポージングでスライドしつつ、咲夜は言う。
だがこいしの腹はカレーではなくまた晩御飯のことなどこれっぽっちも考えていなかった。
「いや違うし…カレーは昨日食べたし…レミリアさんの事なんだけど」
「ふむ、お嬢様が何か…札束で頬を叩いた上でのヘッドハンティングでしょうか? ストーブリーグにはまだ早いかもしれませんが」
「灰になった」
「お嬢様はいつだってHIGHですわ。最高に『ハイ』ってやつだッ! が口癖ですもの」
「咲夜違う。またいつものアレでしょうよ」
「どれですかね…まぁいいです」
パチュリーの言に咲夜はふむ、と頷き、そうして何処かへと消えた。
残された二人は言葉を交わすでもなく、ただ沈黙するのみである。友人の友人と会って、仲立ちしていた友人が席を外した時に感じるあの微妙な空気が、こいしには重い。
何か話さねば。アサルトアーマーの話でもいいがそれではちょっとコアすぎる。こいしは例によって己を納得させる為のメソッドを走らせ、パチュリーを見た。
目が合う。パチュリーもまた、同じタイミングで何か切り出そうとしていたようだ。
「パチュリーさんはラーメン好き?」
「ピスタチオ食べる?」
二人の口から出た言葉は無難と言えば無難であった。
こいしは面白い表情をしつつピスタチオを受け取り、パチュリーは側にあったソファへと腰を下ろして、こいしにも座るよう促す。
「ラーメンと言えば…アレよね」
「どれ?」
う う
ま ま
い い
指先に炎を灯し、その軌跡でそう描けば、こいしもぱっと笑顔を咲かせる。
「あー! うまいラーメンショップうまい!」
「そうそう…地底にもあったりするのかしら」
「あるよ、ネギラーメン美味しいよね」
「ちなみにアレね、ネギラーメンと指定のドンブリさえ使えば、あとは何出してもいいんだそうよ」
「えッマジで…知らなかったそんなの…」
共通の話題さえあれば、どうにか場をしのげる。こいしは安堵し、ピスタチオをコリコリと齧っては、パチュリーが披露する無駄ラーメン知識に耳を傾けた。
姉は引きこもりだし、空は頭が若干ユカイだし、燐はあまり家にいないしで、話が膨らまないことしきりなのである。だからこういった会話もそれはそれで実りがある。
「最近のオススメは台湾混ぜソバかしらね…見つけたら一度食べてみたらいいわ、美味しいから」
「へぇー…」
「エエエエエエエマージェンシー!」
訪れたことも、恐らくこれからも訪れることのない台湾に思いを馳せようとしたその時、咲夜がけたたましく、しかしながら瀟洒なポーズで現れ、そう叫んだ。
いや、あんたがエマージェンシーだろ…とツッコミたくなる気持ちを抑え、二人は何事か、と彼女に尋ねた。
「お、お嬢様がまた灰になっておられる!」
「だからそう言ったじゃない、さっき」
「また、って…よくある事なの?」
「わりとね。でもまぁ闘将! 拉麺男じゃよくあることだし、レミィは吸血鬼だし平気よ。咲夜、灰は?」
「こっここっこ、ここに」
「これにね…」
パチュリーは何故かすり鉢に入れられたレミリア(元)に紅茶を注ぎ、ついでにピスタチオを放り込んではティースプーンでそれをよくかき混ぜていく。
想像を絶する光景ではあるが、今更その程度で動じるこいしではない。ピスタチオを齧りながら、顛末を見守っていく。
「ねるねるレミィは…ふふふ…練れば練るほど色が変わって…こうやって成型して…レミィ!」
「テーレッテレー!!!!!」
レミリア・スカーレット復活!
レミリア・スカーレット復活!
「ヤッターカッコイイー!」
「とまぁ、こんなモンよ。咲夜ってば何度も見てるのにいっつも『またお嬢様が灰になっておられるー!』でねえ。薬師寺天膳じゃないんだから」
「いやいやいやあれはショーシャンクなリアクション芸ですよ」
キリストも舌を巻きかねない、古今例を見ない見事な復活を遂げたというのに、従者や客がそっちのけで談笑をしていれば、面白くもないだろう。レミリアはわざとらしく咳払いをし、手を頭の後ろで組んでうろうろと歩き回る。
「いやー死ぬかと思ったわマジでー! っかー! 吸血鬼じゃなければ死んでたわ! っかー!」
「…すごいねヴァンパイア」
「そう! そうよこいしちゃん! ルーマニアが誇るワラキアンテクノロジーを以ってすれば灰から再生するだなんて赤子の手をこうロールするが如きの朝飯前だわ! つまり救世主の如き吸血鬼! 英語で言うとヴァンパイアセイヴァー」
「うるさいレミィ、カッチでボコるわよ。んで、何で灰になっていたのよ…こいしちゃん興奮すると目から紫外線とか出ちゃうタイプ?」
「いや出ないけど…」
そんな人間及び妖怪など考えもつかないが、ともかくレミリアが灰になった件は有耶無耶になった。
とりあえず、咲夜は夕食の支度をしに厨房へと消え、ここでは何だからと残った三名は応接間へと移動する。
カチャカチャカチャカチャカチャ
チンチンチンチンチンチン
「ねぇ」
「…何」
「これつまらな…」
「シャーラップ! ツクダオリジナルから発売され相手のゴールにボールをシュー! するだけのバトルドームに、言ってはいけない三つの誓い!」
1 つまらない
2 おもしろくない
3 うるさい
「わかりました」
「よろしい」
カチャカチャカチャカチャ
チンチンチンチンチンチン
「ねえ」
「…何よレミィ」
「4人でやりたいのだわ」
「つっても…美鈴はまだ仕事中でしょう」
「定時まであと5分よ、それくらい許すわ…だから呼んできて?」
「嫌よ、寒いし」
外は北風が強く、インドア派のパチュリーには辛い季節であった。
たとえ徒歩数十秒の場所とは言え、絶対に外出したくないでござる、という意思が発言から表情から見て取れる。
「このもやしっ子クラブ! 貧弱! トルネコ!」
「ハイハイいつもの定型はいいから。ていうかこいしちゃん、バトルドーム、つまらなくておもしろくなくてうるさいでしょ? こっちで対戦ぱずるだまでもやらない?」
「テメーッ! バトルドーム三つの誓いを完膚なきまでに破りおってからにー! こうなればオリジナルのツクダオリジナルをけしかける冥王計画(プロジェクト)を実行に移すしかねー! カモン美鈴!」
激昂したレミリアは指をパチンと鳴らし、その名を呼んだ。
だがツクダオリジナルどころか、紅魔館の門番たる紅美鈴すらも姿を現さない。何がどうなっている? レミリアはカリスマが溢れ出すポーズでもって黙考を開始した。
その時である。
重厚な木製の扉が轟音と共に破られては飛来し、その角がレミリアのこめかみの辺りに直撃した。
「お呼びですかお嬢様! ちょっと鉄山なんとかのコマンド入力(6A。タメ可能)に手間取りましたがどうですこの対門宝具こと空手奥義鉄山なんとかの破壊力! ハッキョク・ケンポーのタツジンでありゴッドスピアの異名を持つショブン・リーも愛用していたそうですよ! 門に! そういう訳でお呼びとあらば即身仏! 紅美鈴ここに推参!」
「ハーごちゃごちゃ長くてうるせーこのトンチャモン!! こめかみちょっとへこんだわよ! っかー! 吸血鬼じゃなかったら死んでたわー! っかー!」
「吸血鬼なのですから無事ですよお嬢様! さすが! かっこいい! 惚れる!」
「エヘヘ…さて美鈴、さっそくだけどバトルドームやるわよ」
「マジですか! でもバトルドームはつまらないしおもしろくないしうるさいしで、私としてはちょっと遠慮しておきたいんですけども!」
「おまえーっ! 素人がなーっ! バトルドームをなーっ! ゆるさーん!」
「あとドア直しておかないと咲夜に折檻されるわよ」
直した。
「何でお客にまでドア直させるわけ」
「まぁまぁ! DIYってやつですよ! こいしさんも今はこの紅魔館の一員なワケですし、皆でこう何かして親睦を深めるっていいですよね! バトルドームは御免被りますけど」
「アンタマジでたたくわよ! むッ!?」
美鈴に組み付き、その豊満な胸を16連打していたレミリアが、ふと何かに気づいて手を止める。
芳しい香りが、ゆっくりと部屋に侵入してきているのが、他の皆にもわかった。
「晩御飯の時間だオラァ!」
"!?"
ドアを足蹴りで破壊し、大きなワゴンを押して入ってきたのは十六夜咲夜である。
「ワーッツ!?」
「いや普通に入れや! なんだこの館!」
さすがに予想していなかったのか、こいしが立ち上がり叫ぶ。
彼女は一人で食事をすることが多く、よってその行為には色々とこだわりがあるようだ。独りで静かで豊かで救われていなきゃあダメな感じなのだ。
今日は仕方ないとは言え、いくらなんでも破天荒が過ぎる。
「まぁいつもは普通だけど…咲夜も何だかんだでテンション上がってるってことなんでしょ。許してあげて」
「ここのメイドはテンション上がるとドア蹴破るの!? 門番もドアぶっ壊したし!?」
「どうどう、落ち着きなさいリトルストーン。匂いを嗅いでごらん、はい吸ってー、吐いてー! 吸い過ぎはあなたの健康を損なう恐れがあるけど吸って吐いて!」
「ああもう…すーはーすーはー、はいこれで…むっ!? この匂い…カレー…」
カレー!
それは陸海空、どの具材をチョイスしても無難に出来上がる奇跡の料理である。こいしは昨晩もカレーであったことをちらりと思い出していたが、そんな逡巡など芳醇かつエキゾチックなスメルの前には赤子の手をこうロールするかの如きであった。
「そうッ! 紅魔館が誇る48の必殺料理のうちの一つ…それがこの咲夜特製なんだか良くわからない肉の入ったカレーよ! あー大丈夫だいじょうぶ、四本足の動物の肉だから」
「本日はお客様用にあつらえました。調合したスパイスに、マカやらウナギやらとろろやらニンニクやら、とにかく精のつくものをこれでもかとぶち込んだ十六夜スペシャルでございます」
「へぇ…美味しそうだね」
「実際美味いので喰らって微笑んで?」
食べた。
「美味しかった!」
「ありがとうございます。作る身としてはその言葉が一番嬉しいですわ」
「咲夜さんの作るカレーは絶品ですからねえ、さてじゃあ私は後片付けをば…こいしちゃんはゆっくりしてて下さいねー」
食器を携え、咲夜と美鈴は部屋を出て行った。
残されたこいしは、同じように残ったレミリアをちらりと見る。
言葉を交わすでもなく、さりとて無視して何かをするというのも違う。かと言ってバトルドームは御免被りたいところだが…と、思案していると、不意にレミリアがこちらを見た。
「…お話でもしましょうか」
「え、あ、はい」
先ほどまでのはちゃめちゃなテンションではなく、どこか神秘的なものを湛えたそのたたずまいに、こいしは思わず姿勢を正し、敬語でもって返答をする。
レミリアが座るソファ、その端っこに腰を下ろしたこいしは、手に持ったティーカップを、所在無げにいじってはレミリアと見比べる。
「サトゥルヌス…いえ、お姉さんからは本当に何も?」
「特に聞いてない…けど」
「そう。彼女ね…言ってたわ、貴女のこと」
ふとこいしの表情に翳がさす。おそらく、何を言っていたのか察したのであろう。ややシニカルな笑みを浮かべ、こいしは紅茶をすすってから言う。
「どうせ、何を考えているのか判らないとか、手に余るとか、そういった類のものでしょう? レミリアさんも妹さんがいるんだっけ、それで愚痴聞かされる相手になっちゃったんだ」
「愚痴ってほどのものじゃないわ。お姉さん、貴女のこと悪く言うことは一度もなかった」
「別に気を遣わなくてもいいから…それで? 性根の腐った私をどうにかして矯正するレミーズブートキャンプの始まりはじまりってワケなんだ?」
レミリアは「上手いこと言うわね」と苦笑し、それから改めてこいしを見た。すわ図星かと、やや身を固くしたこいしに対し、レミリアは変わらぬテンションで言葉を紡ぐ。
「クリケットにはチームワークが必要不可欠だわ…誰か一人が突出して強くとも、それだけじゃあ勝てないものよ」
「お空が球場を蒸発させちゃえばノーゲームじゃないの」
「そういうのは特殊すぎる例だからノーカンで…長く生きてるとねえ、傍から見れば取るに足らない様に思える娯楽でも、結構マジになっちゃって、それがどうしようもなく楽しいワケなんだけど」
「はぁ…」
「だからねえ、相対するライバルは、少しでも強いほうが燃えるのよ」
いい笑顔でそう言ってのける吸血鬼。そこには古明地姉妹の仲を修復してやろうだとか、そんな打算を含んだ表情は見受けられない。
こいしはなるほど、と前置きして、しばしの沈黙のあと、口を開く。
「でも…こうやって私を連れてきて、食べて遊んで駄弁って、それでどうなるってものでもなくない?」
「そうかしらね? こいしちゃんがどんな食べ物が好きで、どんな遊びが得意で、どんな話題に食いつくか…知っていれば、少なくともデータにはなるわ。そしてそれが勝利のきっかけになることだってある」
「そうまでして勝ちたいってこと?」
その言葉にレミリアはふ、と笑い、腰に手を当て立ち上がる。
「そうよ! クリケットに限らず! 私は勝つのが好きなの! でも世の中そうそう上手く行かないってのも真理よ! だから!」
「…だから?」
レミリアはぼふっとソファに身を沈める。忙しいことだがこいしは特に気にしていないようで、言葉を待つ。
「色々学んで帰ってね? こいしちゃん」
「…ええ~…」
「フ、フフ…そんな顔をしないで…寿命が迫っている私からのお願いだから…」
Q.急に寿命が来た?
急や
「は…? え、いや、ちょっと何言い出したの?」
「気にしないで…500年も生きていれば結構あるから…こういうのって…」
気にするなと言われればそうですか、と返すことも出来たかもしれないが、先ほどまでの落ち着いた雰囲気を覆すまさかの急展開に、こいしは明らかに動揺していた。
レミリアの演技である可能性も否定は出来ないが、そんな安手を打つ相手だろうか。こいしはあたふたと周囲を見回しながら、レミリアの肩を掴んでは揺さぶる。
「さっき灰になったみたいにすぐ復活できるんでしょ?」
「どうかしらね…度重なる死と再生の巡り巡るウロボロスが事象地平に干渉し、結果アクシズが押し返されたりELSと対話成功したり神ではなく光だったりしても、私の命が以前と同じ…今貴女と話しているレミリア・スカーレットと同じ命である保障なんて何処にもないのだから」
「簡単に説明しろや! えーとつまり…?」
「ガンダムグシオンに秘められたギミックって…何なのかしらね…それだけは知りたかったわ…それより…もう最期だから…今のあなたの気持ちを『あね』という単語を使って表して?」
「あなたの顔はアーネスト・ホーストに似ている」
「…フフ…よく言われ…るわ…」
どら焼きドラマチックパークに潜む魔物、永遠に幼き紅き月…その死に顔は笑っているようにも、泣いているようにも見えた(こいし談)
「似てる…かなあ…」
こいしは灰になったレミリアをそこらにあったプリングルスの空き缶に入れ、それを仏壇に安置すると、帽子を目深にかぶっては、ふわりと飛び上がった。
なすべきことは為した。この場に留まる必要はもうない。カレー、ご馳走様でした。にんにくが効いていて美味しかったです。
その後しばらくして春になり、リーグが始まるのだが…
筒状になったまま元気に暴れまわるレミリア・スカーレットを見て、こいしは引退を決意したという。
おわり。
相変わらずわけがわからなくて大変よろしゅうございました。
催促してごめんなさい
一つの文章に二つ以上の面白さをぶっこんでくるながいけん並の脚本…
「ACの話はあまりにもコアすぎる」の辺りで変な笑いが出ました
東京ドームのくだりとか凄いと思います
富野エミュレータの完成いつまでも待ってます!