Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

仙人に悪意はない

2015/08/03 21:17:25
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「最近、暑くなってきましたね」
「そうですね」
「少し髪形を変えてみたのです」
「いいんじゃないでしょうか。さっぱりしていて」
「華扇さまは、もう少し、衣装を薄くしてはいかがでしょうか。
 具体的にはこのような」
「ていっ。」
 こういう暑い日には、冷たい冷菓子が実におなかにちょうどいい。しかし、食べすぎ厳禁。おなかを冷やしすぎると大変なことになる。
 太陽さんの日差しが、そろそろ肌に痛くなってくるこの季節。
 甘味処の軒先に出されている長椅子に座るのは、茨木華扇と霍青娥の、いつもの桃蒼コンビである。
「この季節は日差しに気をつけて、日焼けに注意しなければ」
「紅魔館や永遠亭に行けば、いい日焼け止めが売っていますね」
 渡された衣装案を手刀で粉々に切り刻み、ゴミ箱にシュートインした華扇が、手元の水羊羹を一口する。
「仙人とは、時を刻むことを忘れたものとはいえ、美容に気をつけるのは当然ですから」
「確かに」
「露出が多くなると、その辺りのケアも大変になりますね。
 あ、そうだ。華扇さま、ご存知でしたか? 実は目も日焼けってするんですよ。
 年を取ってから白内障などの病気になりたくなければ、サングラスと言うものも必要になるそうで」
「そんなものどこに売ってるんですか?」
「永遠亭にあると聞きました。
 今度、うちのもの達、全員分を買いに行こうかな、と」
「あそこ、何でもありますね」
「紅魔館では、眼鏡は作れるのですが、サングラスは作れないという」
「はあ、なるほど」
 やっぱり技術が進んでいるところは違うなー、と思いつつ、温かいお茶を一口。
 水羊羹などでひんやり涼味を味わってから、温かいお茶で体を温める。この時期にしか出来ない贅沢である。
 通りにふと視線をやれば、暖かい日差しの元、子供たちが楽しそうに笑いながら走っていく。
 暑い季節。外に出るのも億劫になりがちだが、元気の塊である子供たちには関係ない。
「そういえば」
 そこでまた、青娥が手を叩く。
「この季節、水遊びをする子供たちが増えてきますが」
「ええ」
「わたくし、少し、一計を案じておりまして。
 大きなプールを作ろうと思うのです」
「……プール?」
「簡単に言うと、人工の水遊び場ですね」
 何でわざわざ、と華扇は尋ねた。
 昔から、子供たちの水遊びの場といえば、里から少し離れた小川と相場が決まっているのだ。
 青娥はいう。
「川は危険だからです」
「……ふむ?」
「川には流れがございます。
 流れがあるということは、足を取られて転びやすいということでもあります。
 また、一見、穏やかに見えても人間などいともたやすく飲み込んでしまう事だってございます」
「まあ、それはありますね」
「その他に、浅いように見えていきなり足が届かない深さになっていたり、岸から離れてしまったら大変。何も出来ずに流されてしまうことだって」
 そういえば、この季節、そうした水の事故も増えてきていたな、と華扇は思う。
 ならば、流れのない湖などに行けばいいじゃないか、という意見もあるのだが、あいにくと、人里の近くに子供が遊べるような湖も泉もないのである。
 里の外は危険が一杯。大人が一緒でも危ない時だってある。
 幻想郷に生まれた子供たちに、大人たちがまず教えるのは『里を離れて遠くに行ってはいけません』である。
「先日、上白沢慧音さまともご相談させて頂きまして。
 その結果、里の中のお金持ちなどからも資金を募って、そうした施設を作ることになりました」
「あなた、結構、やりますね」
「人を騙す口のうまさも、仙人には必要ですわ」
 口元に指を当て、ウインクしながら、青娥。
 言葉は悪いが、その意味は、『他人を納得させられるような話術を展開できてこそ』ということになる。
 なるほど、そう考えれば、この彼女、その口のうまさは大したものである。
「今、場所の最終選定作業をしておりまして。
 あと一ヶ月程度で建設を目指しております」
「一番暑くなる季節ですね」
「ええ。
 もちろん、利用料金は無料です。
 ただ、それだと、施設の維持費が捻出できないので、中に売店などを置かせて頂きまして。それの売り上げで、施設維持を行っていくことを考えています」
「難しそうですね」
「正直、そうした経営は苦手ですから。
 ただ、施設の利用にお金を取ると、子供たちが遊べなくなることも考えられますから。
 そこは何とかやっていこうかと考えています」
 珍しい、と華扇は思った。
 青娥がまともに他人の役に立つなんてことが、まぁ、考えてみればそれなりにあるのかもしれないが、これほどまでに、ある意味、露骨にわかるようなことがあるなどということが現実に存在するなどとは。
 何だか言葉がよくわからないが、つまるところ、華扇の中で、霍青娥と言う輩はそのような評価の相手なのだ。
「もう作業も始まっていまして」
「早いですね」
「何事も、急いてはことを仕損じるとは言いますが、思い立ったが吉日、というのもございまして。
 昔の人は、実にいい加減ですわね」
「そうですね」
「華扇さまも、施設が完成したら、ぜひ」
「考えておきます」
「その際にはこのような水着を」
「せいっ。」
 差し出された、胸と股間の一部にシール張るだけとしか見えない水着案を、華扇は正拳突きで華麗にぶち破った。


 月日は流れる。
 季節は移ろい、『夏』が間近に近づき、あちこちからせみの声も目立ち始める。
 華扇は相変わらず、とあるぐだぐだな巫女を『修行』と称して滝つぼに投げ込んだり、人里でお菓子食べまくったり、青娥を『ブレスト華扇ちゃんファイヤー』で吹っ飛ばしたりする毎日を送っていた。
 そんなある日のことである。
「華扇さま。ごきげんよう」
「あら」
「先日、お話をしておりました、プールが完成いたしました」
 今日も今日とて華扇ちゃん。人里の甘味処で『特製クワドロプルクリームあんみつ』か『究極タワーアイス』のどっちを食べようか、腕組みして悩んでいたところに、青娥がやってきた。
 一度、そちらへの意識は遮断して、彼女は視線を青娥に向ける。
「見に来ていただきたいのですが」
「いいですよ」
 二人は里の中を歩いていく。
「今日は、ずいぶん涼しそうな格好ですね」
「少しスカートの裾を上げてみただけなのですけどね」
 しかし、ただそれだけで見た目から受ける印象は変わるのだから不思議なものだ。
 ともあれ、二人がやってくるのは、里の中心から少し外れた広場である。
 そこに、新たに出来た、大きな『プール』。
 入り口は一つであり、両開きのドアを開いて中に入ると、左右に『更衣室』がある。
 正面を歩いていくと、すぐにプールにつながる扉があり、その左手側に休憩室、右手側に売店と言う造りである。
「広いですね」
「たくさん、子供たちが遊びに来てくれればと思って」
 プールはかなり広く、入ってすぐ右手側にシャワーやら何やら、あちこちに休憩場所として長椅子が置かれていたり、遊ぶためのおもちゃも完備されている。
「水は一度沸かして殺菌をしてから、遊んだ後も風邪を引かないように、少し温度を上げて利用しています」
「至れり尽くせりですね」
「この辺りの作業は河童の方々にやっていただきました。
 あと、この空間自体も少し温度を上げておくことで、寒くならないように」
 言われてみれば、少し、この空間は暑い。水も豊富にあるせいか、ただ黙っていてもじわりと汗が出てくるほどだ。
「監視員の方々も大勢雇うことが出来ましたし。
 あとは正式オープンを待つばかりです」
「あなたにしては、珍しく、他人の役に立つことをしましたね」
「いいえ、そのような」
「ほめてない」
 久々にいい仕事した青娥にコメントして、華扇は彼女を連れてその場を後にした。
「これで、たくさんの子供たちが、楽しく利用してくれれば、わたくしは満足です」
「まあ、そうですね」
「プールの監視のお仕事は大変ですが、それもまた、わたくし達の務めですし」
「……ん?」
 今、一瞬、何かが引っかかった。
 首をかしげる華扇。
 青娥は続ける。
「それに、こうした閉鎖空間ならば、外から子供たちが楽しく水遊びをしているのを眺めている不逞の輩を締め出すことも可能ですし」
「……」
「入り口には警備のものも控えております。
 紳士淑女の気概を持たぬ下郎は、誰一人、中へと入れることはございません。
 ご安心ください、華扇さま」
「……」
「うふふ。それにしても楽しみですね。
 きっと、たくさんの子供たちが利用してくれるでしょう。
 彼らは気が急いてしまうものですから、水着でまっすぐやってきたりとか。かわいらしいですわね」
「……」
「あ、もちろん、中ではカメラ撮影一切厳禁ですので」
「やっぱそこか!?」
 ようやく、青娥の企みが見えた。
 いや、企みというか、ある意味、彼女は無意識でこれをやらかしたのだろう。
 すなわち――、
「これで、子供たちが、水着でも安心して遊べる遊び場が出来ました」
 ということである。
 川とは、確かに危険である。
 流れがある。いきなり深くなってるところもある。水が何に汚染されているかわからない、などなど。
 なるほど、そうしたところで子供たちが遊ぶというのは、危険と隣りあわせということが出来る。
 それを排除するために、安全な遊び場を提供するというのは大人の義務と言えるだろう。
 だがしかし。
 だからといって、『そうした連中』に大義名分与えてどうすんだ。
「どうされましたか? 華扇さま」
「いや、どうされましたか、って!
 色々ツッコミ入れたいところはあるけれど!
 そういう輩がうろつく方が危ないでしょ!?」
「大丈夫ですわ。
 監視員の皆様は、わたくしが面接を行いました」
「安心できる要素がどこにもないっ!」
「人里の景気回復に伴い、求人募集も増えてきておりますけれど、やはり仕事が足りないところもございまして。
 そこに今回の求人、大変、ありがたがられました」
「あんた、それを正当のように言っているけれど、そもそも根本が間違ってるからね!?」
「オープンは明日からですわ」
「ちょっと慧音さんに掛け合ってくるわ!」
「まあまあ、そう仰らずに。
 華扇さまも、是非、此度の一件に。
 あ、ほら。こちらのチラシにもご協力を頂けましたからお名前を入れさせて頂きました」
「消せっ! 今すぐ! また私の評判下がるから!?」
「もうすでに300部ほど配布済みですし、里の中にも掲示させていただいていますし」
「マジで!? あ、ほんとだマジだ! 来た時なかったのに!」
「今日も大変ですわ。お仕事一杯。
 華扇さま、頑張りましょうね」
「一体いつから私を巻き込んだっ!?」
 今頃になってそれに気づく華扇。やはり、まだまだ修行が足りないだろう。
 彼女が巻き込まれていたのは『いつか』などという問いには意味がない。
 強いてあげるなら『最初から』なのだから。


「ねぇ、こすずー。そろそろいこー」
「はーい」
「あれ、水着で行くの?」
「着替えるのめんどくさいし」
「あー、確かに」
 始まった、『人里プール』であるが、やはり青娥の予想通り、子供たちに人気の施設へと一夜にして躍り出た。
 多くの子供たちが、そこを遊びの場として利用する。
 営業時間に区切りを設け、特定の時間帯は『スイミングスクール』や『水泳の大会』が開かれる場としても利用することが出来るようにしたのも、また成功の要因の一つだろう。
「無料だから気楽だよねー」
「ねー。
 阿求、早く着替えてきてよ」
「はーいはい」
 入り口には、ごっつい体格の歩哨が二名、直立不動で立っている。
 彼らは周囲に鋭い視線を配りながら、しかし、声をかけてくる子供たちには破顔した笑顔を見せる。
 ……ちょっと不気味だが、子供たちには『警備のおじさん』として至極人気である。
「あとで何飲もうかなー」
 売店にはジュースやお菓子、ちょっと変わったところではおにぎりやサンドイッチなども売っている。
 そこで売り子をしている、20歳そこそこの超美人の女性は、子供たちに『お店のお姉ちゃん』として大人気だ。そんな彼女の視線は、特に男の子へとよく向けられるらしいのだが、意味はわからない。
「お待たせー」
「よし、いくぞー」
 ドアを開いて中に入れば、プール特有の熱気が迎えてくれる。
 響き渡る、子供たちの歓声。
 彼らを油断なく見つめているのは、何かトラブルが起こった際に、迅速にそれを解決する監視員の皆々様方。
「隊長!」
「どうした」
「実は――」
「……なるほど。
 外のものに伝えろ。3時の方角。逃がすな、とな」
「はっ!」
 一段高い、階段つきの椅子に座る、40代くらいのがっしりした体格の男性が、何やら報告に来た男性へと指示を下す。
 何かがあったのだろう。何かはわからないが。
 なお、後日、『人里で少年少女保護協定に違反する男捕まる』というニュースが流れるのだが、それはまた別の話である。
「今日こそ、向こうまで泳げるようになるんだから」
「出来るかな~?」
「あ、むかつくー。小鈴、今日こそ追い越してやるんだから覚悟しなさいよ!」
 平たい体をビート板で支えながら、阿求が頑張ってプールの端から端まで泳ごうと足をばたばたさせる。
 小鈴曰く、『阿求は体力がないから体が弱いのよ。水泳やって体力つけよう!』ということである。
 そんな小鈴はバタフライ泳法すらこなすほどの猛者であった。起伏のない(だがそれがいい)、その肢体は水の抵抗を華麗に受け流し、『阿求~、こっちまで来てみろ~』とあっさりプールの反対側へと到達している。
「しかし、青娥殿が言い出すまで、我々はそれに気づかなかったな」
「はい」
「水場は子供たちの大切な遊び場だ。
 だが、そこには危険がある。その危険とは、やはり、『管理されていない危険』だ」
 それを満足して見つめるのは、本日、寺子屋の『水泳授業』で子供たちを連れてきた上白沢慧音である。
 その隣には青娥が佇んで微笑んでいる。
「あなたの子供たちへの愛情、見事だ」
「ありがとうございます」
 そんな慧音は、青娥のことを信頼している。
『心から子供たちを愛する女性』として。
 いやまぁ間違っちゃいないのだが、色々鋭い慧音すら欺く、それは見事な仙人としての腕前であった。
「この施設なら、冬も使って水泳の授業なども出来るし、子供の遊び場としても使える。
 もちろん、大人たちもだ。
 いいものを作っていただき、感謝する」
「いえいえ。
 ぜひとも、皆様で楽しく利用してくださいね」
「こちらこそ。ありがとうございます」
 プールの向こうから、「阿求は足の動かし方が下手よね!」「何をー!」という声が響いてきた。
 あちこちで子供たちが遊ぶ、楽しい声が聞こえる新しい空間をじっと見つめて、青娥は満足した笑みで微笑むのであった。
紳士淑女として、眺めて愛でることが出来ないものはにゃんにゃんに蹴られて彼の世に行くべき
haruka
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.名前が無い程度の能力削除
序盤の淡々としたツッコミに華仙ちゃんも慣れたものだと思いましたが、やはりそうもいかないようですねw
にしても、青娥さんの企画力と実行力がすごい......
3.絶望を司る程度の能力削除
全身迷彩だろこの警備員w
4.ペンギン削除
監視員たちのスペックすごいな
売店のお姉さんには吹いたw