「あぁ……」
「なんだ妹紅。まだ輝夜と仲直り出来ていないのか」
日はとっくに沈み、静かな夜の慧音の住居。雲一つない月明かりの空。
卓上に突っ伏す妹紅を慧音は優しげな微笑を浮かべて見つめていた。
このところ親友である妹紅は毎晩のように慧音の元にやって来てはため息まじりに愚痴と弱音を吐く。
その原因は迷いの竹林の中にある永遠亭のお姫様だ。
「やっぱり輝夜と仲良くなんて出来ないんだ……」
「そんなことないさ。妹紅、お前といつまでも憎しみ合っても何の益にはならないことは輝夜だってわかっているはずだ。輝夜だってお前と弾幕勝負に明け暮れる関係をどうにかしたいと願っているに違いないさ」
「でも……」
「もう、そうやってため息ばかり吐いていると幸せは来ないぞ」
勝気な性格の持ち主である妹紅がそう弱気になっていると慧音は寺子屋の子どもたちを相手しているように思えた。
まるでいじめっ子がいじわるしている子にどう謝ったらいいか涙目で先生に訊ねているようで、慧音は笑みを浮かべるのを堪えきれない。
長年憎しみ合った二人。
今では憎しみ合っても何の益にもならないと知ったのか、少しずつ互いに寄り添い合おうとしていたのだ。
だが最後の一歩が遠い。
仲直りをしようと互いに寄り添い合うも顔を見合せば今まで憎しみ合った過去が顔を出すのか、どちらかから無意識に嫌味が口から出て、後は売られた喧嘩を買うように口喧嘩をしてしまい、毎晩のように喧嘩別れをしては慧音の家を訪ねる妹紅だった。
「妹紅。輝夜と仲直りして一緒に遊んだりする間柄になりたくないのか?」
「なりたい……でも」
ゆっくりと顔を上げる妹紅の目は薄らと潤んでいた。人里の人間たちとの交流を持つようになり、寺子屋の子どもたちの前では不器用だがいつも笑みを浮かべる彼女とは違う、慧音にだけみせる妹紅の表情に慧音は目を細める。
「いいか、妹紅。実はこういう言葉があるんだ」
子どもたちに諭すように優しい口調で話しかける。
「そう『愛を語るより口づけをかわそう』、ってな」
「飛躍し過ぎだろ」
「っていうか! 愛って! 愛ってなんだよ!? まるで私が輝夜のことを好きみたいじゃん!?」
「ははは。無理をするな、妹紅。お前が輝夜に『DANDAN心魅かれていく』ってこと、『離したくはない』って思っていることはお見通しだぞ」
「年がバレるよ、慧音」
勢いよく卓上を両腕で叩きつけながら背筋を伸ばした妹紅だが、クスクスと笑う慧音に「はぁ」とため息を吐きながら再び顔を伏せてしまう。だがその顔は真っ赤に染まっていた。
「図星だな。好きなんだろ」
「うー……」
喉の奥からうめき声を漏らしながら妹紅の頭の中に浮かぶのは、永遠亭の縁側で妖怪兎たちに囲まれながら盆栽を愛でる綺麗な笑顔の輝夜であった。
「……自分に素直になったらどうだ。きちんと自分の気持ちを伝えれば輝夜だってわかってくれるさ」
「でも。私たちは今までどれだけ長い間殺し合ってきたか。今さら……好き、だなんて」
その声は弱弱しい。妹紅が慧音に輝夜のことを、恋の相談をするのはこれが初めてだった。以前から妹紅の想い人のことは気が付いていたが、妹紅から打ち明けてくれるのを待っていた。そうして今日打ち明けてくれた真っ赤な妹紅の顔を見つめて、慧音は心の奥でほっとした気持ちになっていた。
「こんな気持ち、輝夜に伝えられないよ」
「そんなことはないさ」
「だって! 私だって伝えたかったよ! でも、顔を見合わせると今まで輝夜にしてきたことを思い出してさ。つい、憎まれ口を叩いてしまうんだ」
「それは輝夜も同じだと思う」
「え?」
妹紅が顔を上げると卓を挟んで慧音が顔を近づけて微笑んでいた。その顔はとても優しくて、温かい視線に包まれたような気持ちになってしまう。
「まったく二人とも、『BAD COMMUNICATION』だな本当に」
「ビーイング好きだな、おい」
「覚悟を決めて打ち明けたらいいんだ。『さよなら傷だらけの日々よ』、今は『熱き鼓動の果て』に『愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』って思っている、輝夜といると『有頂天』になれるって言ったらどうだ」
「え? 何これ宣伝? バイトでもしてるの慧音?」
「そして輝夜と『いつかのメリークリスマス』を迎えるんだ。これでオーケィ」
「失恋ソングじゃねぇか。何がオーケィだよ、バカ」
睨むような顔つきの妹紅に慧音は「あはは」と笑って手を振った。
「冗談だよ。ついからかってしまった。白線を踏んでしまって自爆スピンをしてしまったな」
「どこのナイジェル・マンセルだよ。というよりマジで年がバレるよ、慧音」
「ま。冗談は置いておいてだな」
「冗談しか言ってないよね!?」
「妹紅。一つ確認したいことがあるだが」
一つ息を吸ってから慧音は笑みを消してしまうとじっと妹紅を見つめる。その視線の真剣さに妹紅も息を飲んで真剣な顔つきで見つめ返す。
慧音の家の中。しんとした空気が張り詰める。
「本当に輝夜のことが好きなんだな」
「……うん」
「いつから気になった? よかったら教えてくれ」
「いつからって。やっぱり霊夢たちにやられて、輝夜も私も竹林の外と交流を持とうと思ったときからかな。覚えているかな? 私が慧音の寺子屋に呼ばれた時に、輝夜がふらっと来たことがあっただろ?」
「ああ」
「輝夜の顔を見た時、何しに来やがったんだって苦々しく思ったんだけど、子どもたちに絵本を読ませている輝夜の顔を見ていたらふっと今までの憎しみが消えるような気がしたんだ」
「うん」
「どこか寂しそうで、でも子どもたちと触れ合えて嬉しそうな顔でさ。その顔を見て思ったんだ。こいつもずっと寂しかったんじゃないかって。無理矢理結婚を迫られて、周りに物好きな目で見られてきて、不死のくせに竹林に隠れるように生きてさ、本当は自由にたくさん人と触れ合いたかったんじゃないかって。輝夜を見ているとまるで私を見ているようでさ。母上を捨てて大金を捨ててまで輝夜を求めた父上に、周りの人間たちに捨てられた私みたいに。ずっと独りぼっちだった私と同じだったんだと思うと、今までの憎しみとか消えてしまったんだ」
「そして、いつの間にか気になってしまったんだな」
妹紅は小さく頷いた。
なるほど、と慧音は目を閉じると両腕を伸ばした。そして妹紅の両肩を強く叩く。
「え? な、何!?」
「妹紅。その気持ち。きちんと伝えるんだ。本当に輝夜のことが好きだったら言葉にして、輝夜に伝えるんだ」
「え? でも……」
「いいか」
慧音は大きく息を吸ってから妹紅をじっと見つめる。
「気持ちっていうのはきちんと言葉にしないと伝わらない。黙ったまま自分の気持ちが相手に伝わることはない。相手が自分に都合よく気持ちを汲み取ってくれることはないんだ。言葉は時に相手を傷つけることもある。言葉ってのはそれだけ重いものなんだ。だからこそ勇気を出して伝えないと、妹紅の真剣な気持ちもその重みも輝夜に伝わらないんだ。だから妹紅、本当に輝夜のことが好きならきちんと伝えるべきだ。これがお前の親友としての助言だ」
しばらく沈黙が続いた。
重々しく妹紅が口を開いた。
「今度は、冗談じゃないよね?」
「ああ。さ、今からでも行って来い。そしてきちんと伝えるんだ。大丈夫。きっと輝夜に伝わるさ」
ふっと慧音は笑みを浮かべると妹紅の後ろ髪をポンポンと優しく叩いた。
妹紅が目を閉じる。
瞼から涙が一筋零れた。
「ありがとう。慧音が親友で、私嬉しいよ」
「……私もだ。さ、行って来い」
優しい慧音の言葉に妹紅はぎゅっと抱きしめるようにしたかと思うと、立ち上がって玄関へと急ぎ歩き出す。永遠亭の姫様、想い人の元へと駆けだしていった。
その後ろ姿を見つめて、慧音は言葉を漏らす。
「妹紅。幸せにな」
※
「おおーい! 早くおいでよ」
「ここでお昼にしましょうよ」
慧音の視線の先、川のほとりで妹紅と輝夜が笑顔で呼んでいた。その二人の手は繋ぎ合っていた。
笑いながら妹紅たちのもとへ歩き出そうとする慧音を永琳が話しかける。
「二人とも、本当に仲良くなって。これも慧音のおかげかしらね」
「いや、なに。私は妹紅の役に立ちたかっただけだ」
にっこりと笑って返事をする慧音の視線の先には仲睦まじげに微笑み合う二人の姿があった。
妹紅の背中を押して一週間が経っていた。あの夜、素直に気持ちを打ち明けた妹紅の告白に輝夜は顔を真っ赤にしながら、いつもは憎まれ口を叩く口からオーケィと答えたのだ。ついに遠かった最後の一歩を互いに踏み出したのだった。
そしてこの日。妹紅と輝夜は慧音と永琳を誘って河原へと遊びに来たのだ。
「ここからはあの二人次第だ。私はここでお役御免ってわけだな」
「ふふ、そうね。輝夜があんなに嬉しそうにしているのを私、初めて見るわ。礼を言うわ、慧音」
「いや、なに。たいしたことないさ」
「そうかしら?」
少し低くなった永琳の声に視線を妹紅たちから移すと、目の前で永琳がじっと慧音を見つめていた。どこか見透かされているような目つき。背中に冷や汗が流れだすのを覚えながら慧音は平然を装った。しかし月の頭脳には全てお見通しで。
「慧音。本当は貴女、妹紅のことが好きだったんじゃなくて?」
その言葉に慧音は頭の血がさぁーっと引いていくのを感じた。
頭の中に自分にだけ見せてくれる妹紅の顔が浮かんだ。
素直に。
自分の気持ちを偽らずに。
言葉にして打ち明けてくれる彼女が。
その彼女は向こうで通じ合った想い人と手を繋いで慧音たちが来るのを待っている。
頭を振って、慧音は妹紅の顔をかき消す。
自分の妹紅への思いを、言葉に出来なかった思いと一緒に。
「そんなの、なかったことにしたよ」
じっと見つめる永琳の視線を振り払うように慧音を空を見上げた。
雲は一つもない快晴。
二人の門出を祝うにはもってこいの天気だ。
「貴女こそ輝夜のことが好きじゃなかったのか」
「ええ。好きよ。でも私は輝夜の従者。輝夜の幸せこそが私の幸せでもあるの」
「そうか。貴女は幸せ者だな。私は貴女みたいになれない……」
「慧音……」
永琳が何か言いたそうに口ごもらせるが慧音は構わず空を見つめ続ける。
いつか。
いつか私は妹紅の元を去るだろう。
いつかは私がいない世界が来るだろう。
それでも妹紅が、貴女が笑っていられるように私は貴女の幸せを願いたい。
それが大好きな貴女へ重すぎる、言葉に出来ない私の気持ち。
貴女の想い人になれない、あくまで親友で有り続けたい私の気持ちなのだ。
遠くで妹紅が手を振った。
「慧音ー。早くおいでよ。ほら! 魚がたくさん泳いでるよ。よし、今日のお昼はこの魚を捕まえよう!」
無邪気に笑う妹紅。
その傍で輝夜が顔を赤らめながら微笑んで妹紅の横顔を見つめている。
そんな妹紅に慧音は右手を挙げると、ぐっと親指を挙げた。
その眼に涙を堪えながら。
「なんだ妹紅。まだ輝夜と仲直り出来ていないのか」
日はとっくに沈み、静かな夜の慧音の住居。雲一つない月明かりの空。
卓上に突っ伏す妹紅を慧音は優しげな微笑を浮かべて見つめていた。
このところ親友である妹紅は毎晩のように慧音の元にやって来てはため息まじりに愚痴と弱音を吐く。
その原因は迷いの竹林の中にある永遠亭のお姫様だ。
「やっぱり輝夜と仲良くなんて出来ないんだ……」
「そんなことないさ。妹紅、お前といつまでも憎しみ合っても何の益にはならないことは輝夜だってわかっているはずだ。輝夜だってお前と弾幕勝負に明け暮れる関係をどうにかしたいと願っているに違いないさ」
「でも……」
「もう、そうやってため息ばかり吐いていると幸せは来ないぞ」
勝気な性格の持ち主である妹紅がそう弱気になっていると慧音は寺子屋の子どもたちを相手しているように思えた。
まるでいじめっ子がいじわるしている子にどう謝ったらいいか涙目で先生に訊ねているようで、慧音は笑みを浮かべるのを堪えきれない。
長年憎しみ合った二人。
今では憎しみ合っても何の益にもならないと知ったのか、少しずつ互いに寄り添い合おうとしていたのだ。
だが最後の一歩が遠い。
仲直りをしようと互いに寄り添い合うも顔を見合せば今まで憎しみ合った過去が顔を出すのか、どちらかから無意識に嫌味が口から出て、後は売られた喧嘩を買うように口喧嘩をしてしまい、毎晩のように喧嘩別れをしては慧音の家を訪ねる妹紅だった。
「妹紅。輝夜と仲直りして一緒に遊んだりする間柄になりたくないのか?」
「なりたい……でも」
ゆっくりと顔を上げる妹紅の目は薄らと潤んでいた。人里の人間たちとの交流を持つようになり、寺子屋の子どもたちの前では不器用だがいつも笑みを浮かべる彼女とは違う、慧音にだけみせる妹紅の表情に慧音は目を細める。
「いいか、妹紅。実はこういう言葉があるんだ」
子どもたちに諭すように優しい口調で話しかける。
「そう『愛を語るより口づけをかわそう』、ってな」
「飛躍し過ぎだろ」
「っていうか! 愛って! 愛ってなんだよ!? まるで私が輝夜のことを好きみたいじゃん!?」
「ははは。無理をするな、妹紅。お前が輝夜に『DANDAN心魅かれていく』ってこと、『離したくはない』って思っていることはお見通しだぞ」
「年がバレるよ、慧音」
勢いよく卓上を両腕で叩きつけながら背筋を伸ばした妹紅だが、クスクスと笑う慧音に「はぁ」とため息を吐きながら再び顔を伏せてしまう。だがその顔は真っ赤に染まっていた。
「図星だな。好きなんだろ」
「うー……」
喉の奥からうめき声を漏らしながら妹紅の頭の中に浮かぶのは、永遠亭の縁側で妖怪兎たちに囲まれながら盆栽を愛でる綺麗な笑顔の輝夜であった。
「……自分に素直になったらどうだ。きちんと自分の気持ちを伝えれば輝夜だってわかってくれるさ」
「でも。私たちは今までどれだけ長い間殺し合ってきたか。今さら……好き、だなんて」
その声は弱弱しい。妹紅が慧音に輝夜のことを、恋の相談をするのはこれが初めてだった。以前から妹紅の想い人のことは気が付いていたが、妹紅から打ち明けてくれるのを待っていた。そうして今日打ち明けてくれた真っ赤な妹紅の顔を見つめて、慧音は心の奥でほっとした気持ちになっていた。
「こんな気持ち、輝夜に伝えられないよ」
「そんなことはないさ」
「だって! 私だって伝えたかったよ! でも、顔を見合わせると今まで輝夜にしてきたことを思い出してさ。つい、憎まれ口を叩いてしまうんだ」
「それは輝夜も同じだと思う」
「え?」
妹紅が顔を上げると卓を挟んで慧音が顔を近づけて微笑んでいた。その顔はとても優しくて、温かい視線に包まれたような気持ちになってしまう。
「まったく二人とも、『BAD COMMUNICATION』だな本当に」
「ビーイング好きだな、おい」
「覚悟を決めて打ち明けたらいいんだ。『さよなら傷だらけの日々よ』、今は『熱き鼓動の果て』に『愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』って思っている、輝夜といると『有頂天』になれるって言ったらどうだ」
「え? 何これ宣伝? バイトでもしてるの慧音?」
「そして輝夜と『いつかのメリークリスマス』を迎えるんだ。これでオーケィ」
「失恋ソングじゃねぇか。何がオーケィだよ、バカ」
睨むような顔つきの妹紅に慧音は「あはは」と笑って手を振った。
「冗談だよ。ついからかってしまった。白線を踏んでしまって自爆スピンをしてしまったな」
「どこのナイジェル・マンセルだよ。というよりマジで年がバレるよ、慧音」
「ま。冗談は置いておいてだな」
「冗談しか言ってないよね!?」
「妹紅。一つ確認したいことがあるだが」
一つ息を吸ってから慧音は笑みを消してしまうとじっと妹紅を見つめる。その視線の真剣さに妹紅も息を飲んで真剣な顔つきで見つめ返す。
慧音の家の中。しんとした空気が張り詰める。
「本当に輝夜のことが好きなんだな」
「……うん」
「いつから気になった? よかったら教えてくれ」
「いつからって。やっぱり霊夢たちにやられて、輝夜も私も竹林の外と交流を持とうと思ったときからかな。覚えているかな? 私が慧音の寺子屋に呼ばれた時に、輝夜がふらっと来たことがあっただろ?」
「ああ」
「輝夜の顔を見た時、何しに来やがったんだって苦々しく思ったんだけど、子どもたちに絵本を読ませている輝夜の顔を見ていたらふっと今までの憎しみが消えるような気がしたんだ」
「うん」
「どこか寂しそうで、でも子どもたちと触れ合えて嬉しそうな顔でさ。その顔を見て思ったんだ。こいつもずっと寂しかったんじゃないかって。無理矢理結婚を迫られて、周りに物好きな目で見られてきて、不死のくせに竹林に隠れるように生きてさ、本当は自由にたくさん人と触れ合いたかったんじゃないかって。輝夜を見ているとまるで私を見ているようでさ。母上を捨てて大金を捨ててまで輝夜を求めた父上に、周りの人間たちに捨てられた私みたいに。ずっと独りぼっちだった私と同じだったんだと思うと、今までの憎しみとか消えてしまったんだ」
「そして、いつの間にか気になってしまったんだな」
妹紅は小さく頷いた。
なるほど、と慧音は目を閉じると両腕を伸ばした。そして妹紅の両肩を強く叩く。
「え? な、何!?」
「妹紅。その気持ち。きちんと伝えるんだ。本当に輝夜のことが好きだったら言葉にして、輝夜に伝えるんだ」
「え? でも……」
「いいか」
慧音は大きく息を吸ってから妹紅をじっと見つめる。
「気持ちっていうのはきちんと言葉にしないと伝わらない。黙ったまま自分の気持ちが相手に伝わることはない。相手が自分に都合よく気持ちを汲み取ってくれることはないんだ。言葉は時に相手を傷つけることもある。言葉ってのはそれだけ重いものなんだ。だからこそ勇気を出して伝えないと、妹紅の真剣な気持ちもその重みも輝夜に伝わらないんだ。だから妹紅、本当に輝夜のことが好きならきちんと伝えるべきだ。これがお前の親友としての助言だ」
しばらく沈黙が続いた。
重々しく妹紅が口を開いた。
「今度は、冗談じゃないよね?」
「ああ。さ、今からでも行って来い。そしてきちんと伝えるんだ。大丈夫。きっと輝夜に伝わるさ」
ふっと慧音は笑みを浮かべると妹紅の後ろ髪をポンポンと優しく叩いた。
妹紅が目を閉じる。
瞼から涙が一筋零れた。
「ありがとう。慧音が親友で、私嬉しいよ」
「……私もだ。さ、行って来い」
優しい慧音の言葉に妹紅はぎゅっと抱きしめるようにしたかと思うと、立ち上がって玄関へと急ぎ歩き出す。永遠亭の姫様、想い人の元へと駆けだしていった。
その後ろ姿を見つめて、慧音は言葉を漏らす。
「妹紅。幸せにな」
※
「おおーい! 早くおいでよ」
「ここでお昼にしましょうよ」
慧音の視線の先、川のほとりで妹紅と輝夜が笑顔で呼んでいた。その二人の手は繋ぎ合っていた。
笑いながら妹紅たちのもとへ歩き出そうとする慧音を永琳が話しかける。
「二人とも、本当に仲良くなって。これも慧音のおかげかしらね」
「いや、なに。私は妹紅の役に立ちたかっただけだ」
にっこりと笑って返事をする慧音の視線の先には仲睦まじげに微笑み合う二人の姿があった。
妹紅の背中を押して一週間が経っていた。あの夜、素直に気持ちを打ち明けた妹紅の告白に輝夜は顔を真っ赤にしながら、いつもは憎まれ口を叩く口からオーケィと答えたのだ。ついに遠かった最後の一歩を互いに踏み出したのだった。
そしてこの日。妹紅と輝夜は慧音と永琳を誘って河原へと遊びに来たのだ。
「ここからはあの二人次第だ。私はここでお役御免ってわけだな」
「ふふ、そうね。輝夜があんなに嬉しそうにしているのを私、初めて見るわ。礼を言うわ、慧音」
「いや、なに。たいしたことないさ」
「そうかしら?」
少し低くなった永琳の声に視線を妹紅たちから移すと、目の前で永琳がじっと慧音を見つめていた。どこか見透かされているような目つき。背中に冷や汗が流れだすのを覚えながら慧音は平然を装った。しかし月の頭脳には全てお見通しで。
「慧音。本当は貴女、妹紅のことが好きだったんじゃなくて?」
その言葉に慧音は頭の血がさぁーっと引いていくのを感じた。
頭の中に自分にだけ見せてくれる妹紅の顔が浮かんだ。
素直に。
自分の気持ちを偽らずに。
言葉にして打ち明けてくれる彼女が。
その彼女は向こうで通じ合った想い人と手を繋いで慧音たちが来るのを待っている。
頭を振って、慧音は妹紅の顔をかき消す。
自分の妹紅への思いを、言葉に出来なかった思いと一緒に。
「そんなの、なかったことにしたよ」
じっと見つめる永琳の視線を振り払うように慧音を空を見上げた。
雲は一つもない快晴。
二人の門出を祝うにはもってこいの天気だ。
「貴女こそ輝夜のことが好きじゃなかったのか」
「ええ。好きよ。でも私は輝夜の従者。輝夜の幸せこそが私の幸せでもあるの」
「そうか。貴女は幸せ者だな。私は貴女みたいになれない……」
「慧音……」
永琳が何か言いたそうに口ごもらせるが慧音は構わず空を見つめ続ける。
いつか。
いつか私は妹紅の元を去るだろう。
いつかは私がいない世界が来るだろう。
それでも妹紅が、貴女が笑っていられるように私は貴女の幸せを願いたい。
それが大好きな貴女へ重すぎる、言葉に出来ない私の気持ち。
貴女の想い人になれない、あくまで親友で有り続けたい私の気持ちなのだ。
遠くで妹紅が手を振った。
「慧音ー。早くおいでよ。ほら! 魚がたくさん泳いでるよ。よし、今日のお昼はこの魚を捕まえよう!」
無邪気に笑う妹紅。
その傍で輝夜が顔を赤らめながら微笑んで妹紅の横顔を見つめている。
そんな妹紅に慧音は右手を挙げると、ぐっと親指を挙げた。
その眼に涙を堪えながら。
あいかわらず世界観ぶっこわしたネタいれるね
あなたの趣味をまんまキャラに言わせてるから、キャラクターにらしさがないんだよ。
>「年がバレるよ、慧音」
もうさ、現代の忘れていった物が流れ着く幻想郷でさ。この2人のセリフとしてどれだけ違和感があるかわかんないんでしょ?
ここじゃ当たり前すぎることを言うけど、東方の世界観とキャラクターを頭にいれて創作してくんないか?それをしないならオリジナルでどっかで書きゃいいだろ。