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地底妖怪トーナメント・13:『1回戦13・魂魄妖夢VS蘇我屠自古』

2015/02/20 16:48:43
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 幾度の戦いを繰り広げていく地底闘技場。そこからとてつもなく離れた場所。地底の穴から出て、夜空が一面に映る地上の一角にある、紅い館――紅魔館。
「んもう。お姉様も咲夜も何処行ったのよ」
 彼女は当たるように床を強く踏みながら廊下を歩く。数十分前に彼女は声を聞いた。微かに、しかしとてつもなく大きいものなのだと何となく直感する叫び声だった。
 館の主である姉と、その従者がいないことに不服を感じていたが、同時にこれは何かが起きているという確信を得ていた。前も、月がおかしくなった、という理由で姉達は外に出たことがある。月の民をこらしめてきた、という土産話を姉から聞かされ、彼女は話を楽しむと同時に不満を覚えた。どうして自分も連れていってくれなかったのか、と。
 今にも適当な壁を破壊して幻想郷中を飛び回り、姉達を見つけてやろうと思いつつも、彼女はとりあえず館の中にある図書館の扉を開けた。もう慣れた黴臭さと広大な部屋特有の反響音を身体で受け止め、前に進む。すると、彼女が捜していた人物はあっさりと見つかる。
「パチュリー!」
 大きな丸机の側で、紫の魔女であるパチュリー・ノーレッジは安楽椅子に腰掛けながら読書をしていたが、自分を呼び掛けた者が視界に入ったのでそれを中断する。
「珍しいわねフラン。あなたが地下から出てくるなんて」
 パチュリーと言葉を交わす彼女の名はフランドール・スカーレットと言い、レミリア・スカーレットの妹であり吸血鬼だ。
「あなたなら何か知ってるはずよ。あの大声がして、館にはお姉様達がいない。これは絶対に――」
 フランドールは言いながらパチュリーの所まで歩き、ある物に気付く。紅茶のティーカップ以外で丸机に乗っている水晶玉が彼女の興味を引いた。
「これは……」
 行儀悪く両手膝を机に乗せ、フランドールは水晶玉を除き混む。様々な妖怪が中央の地に向かい、座っている様が見えた。
「何これ?」
 問いに応えるようにパチュリーは水晶玉を指でなぞると、映っている視界がぐるりと回る。
「あ、お姉様だ!」
 水晶玉にはレミリアの横顔が映っていた。
「レミィと咲夜は地底にいるわ」
「地底?」
「そろそろ次の試合のようね」
 パチュリーは水晶玉を再び指でなぞる。視界は中央の地面に戻り、さらにその部分が拡大される。そこには二人の人外が映っていた。
「首にかけさせた咲夜の懐中時計を介して、地底の様子を見れるようにしたの、私にはそこまでの行路を行くのが辛いから。暇なら見てなさい。きっとあなたの気に入るものよ」
 水晶玉の光景には、既にいる二人の元に、更に一人の人物が近付いていた。

 地底闘技場では、間もなく第十三試合が始まろうとしていた。幾度となく繰り返されてきた閻魔と対戦者のやりとりを紫は今でも楽しそうに眺めている。
「隣、いいかしら」
 声をかけてきたのは彼女の友人である亡霊の西行寺幽々子だった。
「どうぞ」
 答える前から動いていた幽々子は既に座っていた化猫の橙と、紫を挟むように座った。
「負けちゃったわ」
「安心なさい。妖夢と私が何とかするわ」
「あなたが?」
「少名針妙丸が鬼に勝つような事があれば、藍の代わりに私が三回戦を戦う」
「藍が可哀想ねぇ」
「あなたを可哀想と想っての友人の気心よ。まぁ、もしかしたら妖夢が何とかしてくれるんじゃないかしら?」
 微笑みながら言う紫と幽々子は共に、間もなく戦うため対戦者である蘇我屠自古と距離を離す魂魄妖夢を見る。
「妖夢ったら大人しいわねぇ」
「大丈夫よ。あなたの弟子だもの」
「一応、剣術の師匠だけどね……」
 闘技場では、妖夢と屠自古は一定の距離で静かに互いを見据えていた。両者は共に一回戦で主が敗退した者同士である。妖夢は道具である長刀の『楼観剣』を一度顔の前に構え、祈るように目を瞑っていた。屠自古は誰もいない自分側の通路を見る。主である神子は未だ眠っていて、布都はその看病と自らの傷の治癒を兼ねて救護室にいる。神子が敗退した今、自分達は何が何でも勝利せねばならない。そう思った屠自古が、見送ろうとしていた布都に治療の優先を命じたのだ。
「さぁ、余所見は厳禁よ」
 副審である紫が闘技場をきちんと見据え、閻魔は宣言する。
「一回戦十三試合、始め!」
 九十九神の堀川雷鼓が大太鼓を鳴らす。同時に屠自古が技を放とうと構えた。しかし突然、彼女は何故か大きく後ろに下がる。十分に広い間合いを更に広げた。大雑把に見据えていた妖夢に対し彼女は言い知れぬ不安を感じる。妖夢はこの間合いでありながら、正に正確な間合いを図ろうとしている眼差しをしていた。屠自古は試合が始まった瞬間、広い間合いにより少しだけ油断していた。それをもう少し続けてしまっていたら攻撃を喰らっていたような気さえした。
 妖夢は長刀を両手で斜め下に向けて持ち、屠自古に向かいゆっくりと歩く。それに合わせるように屠自古は下がり、大きい間合いを保とうとする。観客達はそれを見て困惑するものの、下がる屠自古を非難する者は少ない。妖夢からは静かでありつつも不気味に溢れている闘気を感じる。そして、そんな妖夢と十分な間合いを離しているにも関わらず目を一切逸らさない屠自古の緊迫さが伝わっていた。
 しかし、これが戦いの間合いなのか、と戸惑わずにはいられない。屠自古の方は不明であるものの、妖夢の道具は刀と、どう見ても遠距離攻撃を行うものではない。
 それでも屠自古は下がり続け、遂に壁に背中が着く。不気味な間合いの謎から逃れようと飛び上がろうとするも、その瞬間、神子と布都の顔が浮かび上がった。二人はこんな情けない戦いをしたか、という自問に思わず苦笑いしてしまう。布都は地獄烏を相手に深手を負うも勝利を掴み取り、神子は敗北こそしたものの地底の鬼から地底妖怪の歓声を自らに向かせるという素晴らしい勝負をした。布都と共に決意した鬼を打ち倒す思いを偽りになどしないため、屠自古は前に進む。その右手に雷光を走らせて。
「やってやんよ!」
 妖夢に向けた指先から稲妻が放たれる。その見紛う事なき遠距離攻撃は妖夢に向かい襲いかかる。
 しかし妖夢はそれを両断した。
 その手に持つ長刀で稲妻を二つにする。それらは妖夢の背後にある壁にぶつかり焦げ跡を残し消えた。
 しかしそれは屠自古の思惑通りだった。軽々と屠自古の技を一蹴したものの、刀を振った妖夢から放たれる闘気の間合いは明らかに小さくなっていた。屠自古はすぐに妖夢に向かい飛ぶ。妖夢の持つ射程を意味するであろう闘気が自分の持つ射程を上回る前に勝負を決めるために。
 妖夢は振った刀を再び構え、それは一瞬だった。妖夢の尋常ならざる集中力は、その射程を一瞬で元の広さに戻し、屠自古を飲み込む。自分の身体がゆっくり動くようになる錯覚を覚えると同時に彼女が見据えている妖夢は消えた。
 観客が気付いた時には、妖夢は屠自古の後ろ側にいた。刀は既に振られていて、屠自古は横一文字に斬られていた。
「人鬼『未来永劫斬』」
 こんな所で終わるわけにはいかない。まだ倒れるわけにはいかない。という思いも叶わず、妖夢の斬撃に堪えきる事ができなかった屠自古の亡霊としての身体はゆっくりと透けていき、消えていった。
「そこまで! 勝負あり!」
 鵺と月の民が戦った第九試合程ではないが、分かりやすい短期決戦に客席からは感心の声が上がる。十人十色に歓声が上がる中、一際満面の笑みと拍手で称える幽々子に妖夢は目を向けず、黙って闘技場を立ち去って行った。
「あら、せっかく勝ったのに嬉しくなさそう」
「あなたと違って、のんびりしていられないんでしょう。神速的剣技と、相手に時が遅くなっていると錯覚させるほどの人智を越えた圧倒的集中力。半人前のあの子は、今ので全ての集中力を使い果たしたんじゃないかしら。でも、二回戦はすぐにやってくるわ」
「そうねぇ。……妖夢と藍、決勝で戦えるといいわね」
「無理よ。鬼がいるもの」
 冷たく言い放つ紫はふと、北側の選手入場口に向けて耳を澄ました。

 選手入場口という名称はあるものの、北側と南側の出入口はあまり使われない。主に主審、副審が通る道としてだけ存在しているその通路は、人目につきにくい場所として適任だった。そんな北側の選手入場口通路に一人の妖怪が腰を下ろしていた。それは長身の鬼である星熊勇儀だった。盃に入っている酒をちびちびと飲みながら、腹部を擦っていた。そんな人気がないはずのその通路に、突如別の人影が現れる。
「勇儀」
 振り向くと、そこにいたのはもう一人の鬼である伊吹萃香だった。
「す……萃香?」
「いつまで経っても戻って来ないと思ったら、こんな所でくつろいでたのか」
 苦笑いを返す勇儀の隣に萃香は腰を落とす。勇儀の腹部に目を向けると、衣服には穴が開いていて、その肉体はいくらか再生しているものの未だ赤く染まっている事に萃香は驚いた。
「あの野郎、普通のレーザーとは違うものを使ったんだ。どうやら本気で私に勝つつもりだったらしい」
「やっぱり、そういう力に私達は弱いからねぇ」
「ま、酒でも飲んでれば治る治る」
 謂れのある武器や技に対し妖怪は弱い。下手をすれば致命傷になるほどだ。
「しっかし。そんなんじゃ、あの天邪鬼にやられちゃうんじゃないの?」
「大したことないさ。お前も小人をあっさり倒して、一緒に三回戦までほいほい進めるはずだよ」
 萃香の頭にはもう小人は乗っていなかった。
「そうだね。でも針妙丸は幽々子に勝った。私に勝つ可能性はもしかしたら零じゃないかもしれないね」
 ここまでで、一回戦は十三試合を終えた。戦いを好む萃香にとっても驚く試合は幾つかあった。しかしもちろん、鬼である彼女にとっては負ける不安よりも様々な者と戦える興奮が勝っている。
「楽しみだよ。今からでも、色んな波乱が起きないかねぇ」
 一人言のように言い、萃香は瓢箪の酒を一口飲んだ。

 北東控え室の扉が強く開かれる。
 壁に映る映像から試合を見続けていた早苗と神奈子、チルノがその方に顔を向けると、そこには長い青髪の少女が一人立っていた。
「まだ試合をしてない人、みぃつけた」
 薄ら笑いを浮かべる、天人である比那名居天子の瞳には、これから一回戦を戦う八坂神奈子とチルノが映っていた。



コメント



1.非現実世界に棲む者削除
流石妖夢。一瞬の内に決着をつけてあっという間に去る姿はとてもかっこよかったです!
そして天子は震源地となるのだろうか・・・
楽しみです。
2.名前が無い程度の能力削除
成仏!
いやいやいやまずいでしょー屠自子消えちゃったよ!
剣豪で達人なら勝負は刹那だけど。み、見せ場すら貰えなかった屠自子ファンは泣いていい!
実はてんこの乱入は少し予想していた。そしてついに来た舞台裏脱落フラグ
神奈子が不覚を取るとも思えない(早苗もいる)
チルノvs妹紅の好カードを作者が潰す筈も無い(メタ)
そこから導き出される答えは つまり・・・?
3.ネガティブフェイス(土着神)削除
すごく面白い!これは神作ですよ!