Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

仙人、友と語る

2015/02/03 21:08:35
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「あら、あれは……」
 通りをてくてく、今日は宮古芳香を連れて歩く彼女は霍青娥。
 その手にはハンドバック(紅魔館製)。後ろの芳香は両手に一杯荷物を持っている。
「青娥、どうしたんだ?」
「ああ、いえ。
 芳香、ちょっとこっちに」
「うん」
 二人そろって、少し足早に道を歩く。
 そして、
「華扇さま、ごきげんよう」
 彼女は、その相手の後ろ姿へと声をかけた。
 ぴたっと足を止めて振り返るのは、人里で殊更有名なピンクの仙人、通称茨華仙こと華扇ちゃん。
「あら、霍青娥……と、宮古芳香、でしたか」
「はい」
「そんなに荷物を持たせて。かわいそうでしょう」
「いえ、これは芳香が自発的に『お手伝いする』と申し出てきたものです」
「芳香は青娥より力持ちだから、これくらい、大丈夫だぞ!」
 にぱっと笑って、芳香が青娥に言葉を続けた。
 どうやら、青娥が芳香に強制して――というわけではなさそうである。
 ……というか、この青娥が、自ら溺愛しまくっている芳香にこんなことさせるわけないな、と彼女は思い直したようだ。
「まぁ、そうですか」
「本日は人里に?」
「ええ、まあ。
 少し知り合いと」
「あら、そうなのですね。
 すみません、お時間をとらせてしまって」
「いえ、構いません。それでは」
 今日はずいぶん素っ気無く、華扇は道を歩いていった。
 ふむ、と腕組みした後、青娥はぽんと手を叩く。
「芳香、こっそり、後を追いかけましょう」
「ん?」
「ふふっ。華扇さまのお知り合いとはどなたなのか、少し興味が湧いて」
「おう!」
 あまり意味がわかってないらしい芳香は、元気に青娥に返事をした。
 青娥は芳香を連れて、華扇に気取られないよう、少し距離を開けてその後を追いかける。
 華扇がわざわざ『知り合い』と言った相手を見ておきたい、というのがその行動の理由だ。
 彼女の場合、『知り合い』という言葉は使わず、大抵が、その相手の名前を口にするためである。『知り合い』とぼかす相手は、はて、どんな相手なのだろうと興味を持ったのだ。
「華扇さまのお心を射止めた殿方か……。はたまた、己に信仰を抱くもの達の集会か。それとも、それをも超越した、個人的なお知り合いなのか。
 気になるわね」
「そうなのか?」
「うふふ。そうよ」
 もちろん、それを知ったからといって、彼女との話題にそれを出したりするつもりはない。
 己のうちに秘めて隠しておこう、というのが青娥の考えだ。
 何せ、華扇は彼女の尊敬する『一番の仙人』。その相手に対して、無礼や不敬などもってのほかだからである。
「あっ、青娥。あれ、あれ」
「えっと……どれどれ?」
 芳香が通りの向こうを指差した。
 青娥はそちらへと目を凝らし、自分たちが、見通しのいい通りに立っていることを思い出して、念のため、物陰に身を隠す。
 果たして、そちらには華扇の姿。
 その彼女の前には、背の高い女の姿がある。
「……どなたでしょう?」
「見たことないぞ」
「そうね。
 ……危険だけど、もう少し近づいてみましょう」
 華扇は、その相手と、楽しげに談笑しているように見える。
 ――あれは誰だろう?
 青娥は首をかしげ、そうなると、むくむくわきあがる好奇心を抑えられない。
 ひょいと地面を蹴って屋根の上に飛び乗り、芳香と一緒に、そちらへと近づいていく。
 そして、可能な限り、彼女たちへと近づいて、耳を澄まして息を潜ませ、華扇の『お相手』を探った。
 ――二人の会話が聞こえてくる。
「では、今日はこちらにしましょう」
「ええ! はい!」
「……ふむ?」
 最初に聞こえたのは華扇の声。続くのは相手の声だろう。かなり興奮しているのがわかる。
 相手の行動を見てみる。二人は連れ立って、一軒の店の暖簾をくぐった。
 芳香と共に、こそこそ、店の前に移動する。
「……甘味処」
 まぁ、よくあることだ、と青娥は納得する。
 あの華扇が甘いもの好きであることを、青娥は知っている。
 大昔より、甘味というのは貴人の特権と言われている。徳の高い、位の高い仙人も、また貴人と言っていいだろう。
 日ごろ、節制と質素に尽くす仙人が、たまの息抜きに、これらのものに手を出して何が悪いだろうか。
 青娥は芳香と一緒に、ひょこっとお店の中を覗き込む。
 ――ちなみに、その後ろ姿は、かなり異様なものであり、通りを行く人が思わず振り向くほどのものであったのだが、それは今は割愛する。
「最近は、よく、こちらに足を運んだりしているのですか?」
「そうですね。
 私の住んでいるところには、この手の、手の込んだ甘味があまりなくて」
「何という。
 もっと考えて欲しいものです」
「全くその通り……と、言いたいところなのですが、私は、その……立場的に色々とありまして。
 おおっぴらにこういうのが好きと言えないので、むしろ種類が少ない方が欲求が抑えられて……」
「悲しいことですね……。
 しかし、だからこそ、今、この場ではそういうものに縛られることなく楽しみましょう。
 私は口が堅いので。ご安心を」
「助かります」
 何の話をしているのだろうと、青娥は首を傾げる。
 単に『気の合う友人同士のお茶会』というわけでもなさそうだ。
 そうこうしていると、店員がやってくる。
 彼女は「ご注文は?」と尋ねて、
「じゃあ、私は、これとこれとこれと……あと、これとこれ」
「私はこっちのこれと……限定品……! これを二人前!」
「え、ええ。はい。畏まりました。
 ……あの、僭越ではございますが、量が少し多いかなと……」
『大丈夫!』
 二人、声をそろえて店員に笑顔を返した。
 もうそうまでされると反論できない……というか、反論するのも無駄と悟ったのか、店員が店の奥に消えて、しばし。
「お待たせしました」
 次に、その店員が現れた時、手に持っていたお盆の上には大量のお菓子が並んでいた。
「まあ、あれくらいなら、女性ならお腹をすかせていれば……」
 つぶやく青娥は、ふと、隣を見る。
 そこでは、芳香がよだれをたらしそうな顔で、目をきらきらさせていた。
 その視線の先には、華扇たちの頼んだ山盛りのお菓子。
 ――あとで、何か食べさせてあげよう、と青娥は苦笑する。
「それでは」
「はい」
 二人は、手にスプーンを持つ。
 目の前に並ぶ甘いもの一式を前に、まるで神か仏に祈りをささげるように手を合わせた後、

『いただきます!』

 ――かくて、宴は始まった。


 ~人里では、こんな噂がある。

『ピンクの髪の仙人さまがご来店された時、お前の店で一番のものを作れ』

  その理由は不明であるが、曰く、この『ピンクの髪の仙人さま』が来店した店には、その後、幸運と不運と、そのどちらかが、必ず訪れると言われている。
  この仙人さまを満足させることが出来ればよし。
  出来ないならば、店をたたむまで、と。
  なぜ、このような噂が流れたのか。
  それは、この仙人さまが、一説によると『神をも上回る舌を持つ』と言われているから、とされている。
  彼女をうならせることの出来るものを提供した店は、それが自信につながり、果ては『あの仙人さまが!』という評判と共に右肩上がりの来客が約束され、逆に彼女を落胆させた店には、『仙人さまに不敬を働いた罰』がやってくるのだ。

  仙人さまを満足させるため、日頃の精進を怠るべからず。

  これは、人里の店全てが心がけていることである~


 果たして、テーブルの上に積みあがっていくのは空っぽの食器の山。
 店員来客含め、皆が目を丸くする中、彼女たちは全く周囲に気を払うこともなく、次から次へと甘味類を平らげていく。
「やっぱり、この時期は暖かなお茶と、それから、それにあう和菓子がいいですね」
「いえいえ。あえてここは、冷たい冷菓子というのもいいものですよ。
 ここの、これ。これが美味しいんです!」
「じゃあ、次はそれをお願いしまーす!」
「は、はーい! 少々お待ちくださーい!」
 こいつらの胃袋どうなってんだ、や、お前らそもそも金払えるのか、というツッコミはもはや無用。
 いっときの、これに代えられない幸せの前には、そんな些細なことなど丸めてゴミ箱にぽいぽいのぽいなのだ。
「お、お待たせいたしました!」
「これは、確かに! 美味しいですね!」
「でしょう!」
 持って来た端から、食い物が皿の上から消えていく。
 まさにこれぞ華扇ちゃんイリュージョン。新たなスペカとして採用されるのは確定的に明らかと言っていいだろう。
 ――そして、始まりがあれば終わりがある。
 彼女たちはメニューの甘味類を端から端まで平らげて、満足満足、といった表情を浮かべながら、椅子の背もたれをきしませる。
 お茶を食後にたしなみながら、ふぅ、と二人は息をつく。
「次は、また少し後、ですね」
「ええ。お待ちしています。
 その際には連絡をくださいな」
「もちろんです。
 何せ、私は、この辺りの事情には疎いですから。
 よく知っている方にアドバイスしてもらえるのは、とても心強いです」
「はい」
「……しかし、こうして、美味しいものを味わってしまうと……」
 はぁ、と彼女はため息をつく。 

「……月の都に帰りたくなくなります」

 彼女の呟きには、悲しみが満ちていた。
 美味しいお菓子一杯あるここにいつまでもいたい――その思いがあふれている。
「……月には、そんなに?」
「……いえ。あることはあるんです。あることはあるんですよ?
 しかし、月の民は、特にこういうものには進歩を忘れ、過去のレシピオンリーで、要するに、いつお店に行っても『食べたことあるものばかり』なのです!
 それは非常に嘆かわしいとわかっていても、私にはどうすることも出来ない!」
 彼女の叫びには嘆きの色がある。
 やらなくては、誰かがやらなくてはならないとわかっていても、何も出来ない――その、抗いがたい現実を前にした無力感が漂っていた。
「……それは……」
「私がやればいい……それはわかっているつもりです……。
 ……しかし、私の立場が、それの邪魔をする。
 私は、月では姫なのです。誇り高い姫なのです。
 その、『誇り高い姫』が『こういう甘味作ってね♪ 理由? 私が食べたいの♪』なんて言えないじゃないですかっ!?」
「……わかりますっ!」
 華扇は悔しげに唇をかみ締める。
 斯様に、立場というのは厄介なものである。
 ある物事を動かすのに、最も有効な道具がそれであるが、反対に、最も邪魔な障害ともなりうるのだ。
 立場から来るイメージ――存在。
 それが、『えっ? あ、いえ、別にいいですけど……あなたが食べるんですか?』みたいな視線を向けられることを拒絶するのだ。
 見栄と言うがいい。虚勢と嘲笑うがいい。
 しかし、世の中、『雰囲気が一番』な現実に勝てると思うだろうか?
「料理人の、パティシエ達には、わざわざ別の厨房与えて大金つかませて口止めしていても、彼らが新しいレシピを知ろうとしなければ、何も現実は変わらないっ!
 何か志井では『凛とした雰囲気と、しなやかな目つきが素敵』なんて言われている、この私が!
 口の周りにクリームつけて、甘いものをたしなむ女と知られたら!?」
「……ええ」
 ぶち壊しである。
 そりゃもう色んなものがぶち壊しである。
「……姉と一緒に、幻想郷へとやってきて、里を一人で歩いていたら、あなたに出会いました」
「ええ。
 ……ショーウィンドーの前で、見本品に目を輝かせて、だけど暖簾がくぐれなくてうろうろしていたあなたの姿……忘れられません」
 そりゃ忘れられないだろう。
 こんなイケメン美女が、あんみつの見本を見てよだれたらしそうなくらいに目を輝かせながら、しかし、プライドとか立場とかあとなんか色んなもんのせいでお店に入れなくてうろうろしている姿など。
「しかし、しかしです。
 人は、進歩するものです。前に進んでいくものです。
 月に住まうものでも、地上に住まうものでも、それは一緒なのです。
 勇気が必要ということはわかります。
 恥を味わうことを恐れることもわかります。
 ですが、その場で止まっていては、一歩も前に進めないのですよ!」
「なっ……!?」
 ぴしゃーん! と雷のエフェクトが、彼女の背中で輝いた。
 華扇は立ち上がり、彼女の手を握る。
「大丈夫! あなたなら、きっと出来ます!
 理由なんていりません! なぜなら、私が、そう信じているから!」
 同類ゆえに、相手の考えてることはよくわかります、という意味である。
 物は言い様とはこのことだ。
「まずは、そう! 白々しく!
 たとえば、部下のものが、『美味しい甘味が食べたいんだけど、お店にないって言ってたんです。だから、こういうものを作って用意してください』とそれっぽく!」
「なるほど! 部下のせいにする、というのはありですね!」
 この上司最低である。
「続いて、お姉さま!
 確か、あなたのお姉さまも、甘いもの大好きという話でしたよね!
 第二段階として、さりげなく、あなたのお姉さまの名前も出して、『こういうものを用意しろ』と!」
「確かに!
 あのお姉さまならそういうことに利用されても、『あ、わたしも美味しいもの食べられるの? じゃあおっけー♪』って言いますし!」
 家族も利用するとかどこまでも非道である。
「そして、最終段階!
『地上に負けるな』! 競争心を煽って、あなたが、次から次へと美味しいお菓子のレシピをばら撒けば!」
「月にだって、美味しい甘味処が並ぶっ!」
 プロパガンダにアジテーターと、政治犯の才能あり、というところか。
「こういうプランはどうでしょうか!」
「いいですね! 採用します!」
 徳の高い仙人と、高貴なお姫様が、そろって陰謀企ててる姿など、そうそう拝むことは出来まい。
 しかし、彼女たちの顔が、その雰囲気が、それを『陰謀』というには憚られる雰囲気をかもし出していた。
 要するに、子供みたいな顔してるのだ。
 子供が『美味しいお菓子が食べたいな。どうしようかな』と考えて、悪巧みしている、あの顔なのだ。
 微笑ましいのは確か。
 そして、彼女たちがもとより持つ雰囲気が、それを後押しして、何か悪いことじゃなさそうな雰囲気に仕立て上げているのである。
 人間、見た目と肩書きが大事なものなのだ。
「ですが、やはり、それに至るには下地作りが大事です。
 まずはそれから。
 それが終わったら、少しずつ、行きます」
「はい」
「……それまでは、また、ここに来てもいいですか?」
「もちろんです。歓迎いたします」
「……はい!」
 ありがとう、と。
 その唇から小さな呟きがもれると共に、なぜか店内、スタンディングオベーション。
 手を叩くものは、皆、感涙にむせび泣き、さながら一種のやばい宗教のような雰囲気が、そこに醸成されていた。

「……芳香。帰りましょう」
「うん! 青娥、芳香もおなかすいた!」
「……そうですね。帰って、美味しいおまんじゅう、食べましょうね」
「うん!」
 青娥は、そっと、その場を去った。
 頭押さえて、頭痛をこらえながら。
 いやまぁ、華扇さまも人の子……というのはおかしいけれど、まぁ、人の子ということでここは収めて、そういうことだし、色々と、普段から大変なのだから、たまには羽目を外してはっちゃけたいと考えて、何がおかしいだろうか。そうよ、そういうことにしときましょう、霍青娥。ほら、わたくしだって、常日頃から、仙人モードじゃないわけだし、これくらいはいいじゃない、ね、ね、ね?
 ――と、自分で自分に言い聞かせながら歩いていく彼女の後ろから、声が聞こえてくる。

「依姫さまー! 依姫さま、どこいっちゃったんですかー! わたし、また怒られちゃいますよー! 出てきてください、依姫さまー!」

 幸薄い顔と雰囲気のうさぎの少女が、必死に、誰かを探して歩いている。
 彼女は周囲の人に、誰彼構わず声をかけ、探し人を見つけようとしているようだが、
「あ、あの、すいません。
 あの、依姫さま、見ませんでしたか?
 えっと、背の高い女の人で、お姫様で、かっこいい方なんですけれど」
「……あちらに行きましたよ」
「あっちですね!? ありがとうございます!
 依姫さまー! 依姫さまー!」
 ぱたぱた、少女は走っていく。
 青娥が示した方向――あさっての方向へと。
「青娥? どうして、嘘をついたんだ?
 青娥、芳香に『嘘をついちゃいけませんよ』って言ってるのに」
「……いい? 芳香。
 確かに、嘘をつくことはいけません。
 だけど、世の中には、『嘘も方便』という言葉があるの」
「……?」
「……帰ったら教えてあげるからね」
 はぁ、と。
 何かもう色々疲れきった青娥が、家にたどり着くのは、また少し後のことである。
後日、月の都に出店計画を立てる咲夜さんとアリスの作戦会議が開かれたとか開かれていないとか。
haruka
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.絶望を司る程度の能力削除
最低だwコイツらほんとに最低だw
だがそれが良い。面白かったです。
3.名前が無い程度の能力削除
地上の甘味は宇宙一ィィィィィ!

普段凛としている、そんなよっちゃんが見せる可愛らしさっていいですよね……。そして華扇ちゃんが今回も楽しそうで何よりです
4.名前が無い程度の能力削除
いかな醜態を見せつけられようと揺るがぬ青娥さんの華扇ちゃんへの敬意に乾杯
5.名前が無い程度の能力削除
昨日は節分の日だからよけいストレスが溜り発散してしまったのでしょうか?
6.名前が無い程度の能力削除
とてもよかったです^^