☆1☆
スクープ取材中の文だったが、写真を撮りすぎてフィルムが切れてしまった。そこへ折良く椛が通りがかった。
「あ、椛さん、ちょっとおつかいをお願いできますか?」
「えー? まあ、構わないけど、めんど臭いなぁ」
さすがにムッとした文は注意した。
「立場は私の方が上なんですから、そういう言葉づかいはいけません。言い直してください」
「…………」
「いきますよ。『ちょっとおつかいをお願いできますか?』」
「丁重にお断りします」
★2★
突然、魔理沙が香霖堂に駆け込んできて言い放った。
「香霖、すごいぞ! さっき屋根よりでかい女の子が歩いているのを見たぜ!」
霖之助はため息をついた。
「魔理沙、そんな少女がいるわけないだろう。まったく……物事を大げさに言うなと百万回は注意したはずだよ」
☆3☆
霖之助がふとつぶやいた。
「魔理沙のようなお客が2、3人いるといいんだけどね」
「褒めても何にも出さねえぞ?」
魔理沙は若干顔を赤らめながら言った。
「自分で言うのもなんだが、私は来たって大抵冷やかしだし、買うとしたって、ほら、ツケもだいぶたまってるだろ」
「まあね」
霖之助は頷いた。
「それでも、魔理沙のような客が2、3人だったらいいなと思うんだよ。でも、残念ながら2、30人いるんだよね」
★4★
油断した。
恐ろしい妖怪が付近をうろついているという噂を、霖之助は一笑に付していたのだが、里からの帰り道にその妖怪に遭遇し、被害に遭ってしまったのだった。
人当たりの良さそうな老人の姿をしていた。穏やかな笑顔をして会釈し、手を差し出してきた。
つい釣られて手を出してしまったのがいけなかった。老人が求めていたのは握手ではなかったのだ。
次の瞬間、霖之助はムンズと股間を握りしめられていた。老人の手の中に霖之助のふぐりがあった。
「な、何をする?! 離せ、コラ!」
怒鳴ったが、老人は黄金の球を握ったまま動じない。そして穏やかな笑みのまま、こう耳元でささやいた。
「足す2か。引く2か」
「え……な……?」
意味もわからず混乱するが、老人はその言葉を何度も繰り返した。
「足す2か。引く2か」
どうやら「足す2」か「引く2」のどちらかを選ぶよう要請しているらしい。答えなければずっと急所を握られたままだろう。
それは困る。こんな場面を誰かに目撃されて、あらぬ評判を立てられたら本当に困る。
「…………『足す2』」
そちらを霖之助が選んだのに深い意味はない。強いて言えば、「引く2」に避けるべき何かを何となく感じただけだ。
老人はあっさりと解放してくれた。
ほうほうのていで香霖堂に逃げ帰ってきたのだが、落ち着きを取り戻した辺りで妙な違和感に気づいた。
確認すべく下半身を露わにすると──
「す、四星球(すーしんちゅう)?!」
睾丸が四つに増えていた。
「何とかしてくれ!」
永遠亭に駆け込んで永琳に泣きつく霖之助。
永琳は患部を興味深そうに触診しながら言った。
「多分、遭遇したのは鬼の一種ね。『こぶとり爺さん』の話は知っているでしょう? 痛みを感じさせず、しかも服越しに肉体を変じさせられるなんて、医者としては嫉妬せざるをえないわ」
「感心している場合じゃないだろう! 手術とかできないのか?!」
「お薦めできないわ。やってやれないこともないけど、危険を伴うし、費用も高額よ」
「そんな……」
「別に生活に不都合がないのだし、気にすることもないんじゃないかしら。どうしてもと言うのなら、もう一度その妖怪に会うことね。今度は『引く2』と言えばいいのよ」
「そ、そうか!」
「『股』だけに『またの機会を』ってとこね、ふふっ」
「…………」
その日から霖之助は、足しげく老人と出会った場所周辺を探索した。そして、あくる日、ついに件の老人と再会したのだ。
近づくと老人は以前と同じようにムンズと股間を握りしめてきた。
(やったぞ!)
心中でガッツポーズを取る霖之助。老人は微笑みながら耳元でささやいた。
「足す4か。引く4か」
☆5☆
「お、どうした、咲夜。そんな急いで」
「あっ、魔理沙! ちょうど良かったわ! あなた、スピードに自信があるでしょう? 永遠亭まで乗せていってちょうだい!」
「永琳のとこか? どっか具合でも悪いのかよ」
「私じゃないわ! 美鈴が担ぎ込まれたのよ!」
「そうか。でも、お前がそんなに血相を変えるなんて、よっぽど大事に思ってるんだな」
「ええ、もちろん! 美鈴に刺さっているナイフは、お嬢様にいただいたものだもの!」
★6★
パチュリーがレミリアに相談した。
「とてつもなく頭痛がして、息が詰まりそうに苦しくて、気分が悪いのよ。呪いをかけられてるわけでもないし……何なのかしら」
レミリアは神妙な顔を作って述べた。
「気の毒だが、パチェ、あと3ヶ月しか生きられない運命だ」
がっくりきたパチュリーは、いっそそれなら普段やらないようなことをたくさんしてやれと思いっきり行動し始めた。
図書館から飛び出して、あちこちに、天界や地底にまで足を運んだ。いくつかの宴会にも参加した。
直接に体験する風物は新鮮だった。書物や水晶玉を通して見るのと違って、五感を鮮やかに刺激した。
触れ合う人たちもみんな気が良くて、会話を楽しみ、他愛ない冗談に笑った。あとわずかで永遠に別れてしまうのを寂しく感じた。
(こんなことならもっと早くから外出を頻繁にすべきだったわね)
そう思いながら里を歩いていると、ふと仕立屋が目に入った。おしゃれを楽しむのも悪くない。店に入り、店主にオーダーメイドの服を頼んだ。
店主はパチュリーの首周りを測り、サイズ16とメモした。
それを見とがめるパチュリー。
「ちょっと待って。私、いつも14のサイズを着てるのよ」
「あはは、そんなサイズの服を着てたら、」
店主は言った。
「とてつもなく頭痛がして、息が詰まりそうに苦しくて、気分が悪くなっちゃいますよ」
──別の意味で死にそうな思いをしたパチュリーは、ふざけた予言をしたレミリアへ抗議しに走った。
本人の剣幕にも動ぜず、レミリアはしれっと言うのだった。
「実際、生まれ変わったろう?」
☆7☆
確かに私は「運命を操る程度の能力」を持っているからな。お前の望みを叶えることは可能だ。
これからの人生を最期まで幸福でいさせれば良いのだな。
常に上り調子であるようにし、わずかでも下るようなことは全てその途上から排除する、か。なるほど、それなら不幸を感じることは一切ない。幸福しかない人生だ。死ぬときは幸せの頂点で、となる。
ああ、できるぞ。二言はない。一点の曇りなく叶えてやろう。
では、死ね。
★8★
「幻想郷のために何か、こう、斬新なアイデアってないかしら」
紫がふとそんなことを漏らしたので、藍は前々から温めていた考えを話した。
「へえ、それって何か元ネタがあるの?」
「私が一から構築した案です。前例などはありません」
「そんなリスキーなのは採用できないわね」
☆9☆
「私の周りにはイエスマンしかいないのかしら」
「紫様、お言葉ですが、」
「式が口答えしないで」
★10★
深夜まで仕事をしていた永琳は、いつものように輝夜の寝室へ入った。
寝ているだろう姫を気遣って、明りは付けずに暗闇の中で衣服を脱ぐ。
下着姿になって布団に潜り込もうとすると、輝夜から声が掛けられた。
「ごめんなさい、永琳、私ちょっと身体の具合が悪くて……」
確かにやや息が乱れている。熱もあるようで、汗の匂いが鼻先に触れた。
「お薬、持ってきてもらえないかしら。お願い。仕事終わったばかりで本当に悪いと思ってるんだけど……」
既に眠気が降りてきていて、早く輝夜の柔肌を抱き締めて夢見心地に浸りたいという欲求こそあったのだが、永琳は愛する姫のためならと手探りで衣服を取り、着直して、医務室へと向かった。
途中、ばったりと鈴仙に出会った。
「あれ、お師匠さま、どうして妹紅さんのコスプレなんてしてるんですか?」
スクープ取材中の文だったが、写真を撮りすぎてフィルムが切れてしまった。そこへ折良く椛が通りがかった。
「あ、椛さん、ちょっとおつかいをお願いできますか?」
「えー? まあ、構わないけど、めんど臭いなぁ」
さすがにムッとした文は注意した。
「立場は私の方が上なんですから、そういう言葉づかいはいけません。言い直してください」
「…………」
「いきますよ。『ちょっとおつかいをお願いできますか?』」
「丁重にお断りします」
★2★
突然、魔理沙が香霖堂に駆け込んできて言い放った。
「香霖、すごいぞ! さっき屋根よりでかい女の子が歩いているのを見たぜ!」
霖之助はため息をついた。
「魔理沙、そんな少女がいるわけないだろう。まったく……物事を大げさに言うなと百万回は注意したはずだよ」
☆3☆
霖之助がふとつぶやいた。
「魔理沙のようなお客が2、3人いるといいんだけどね」
「褒めても何にも出さねえぞ?」
魔理沙は若干顔を赤らめながら言った。
「自分で言うのもなんだが、私は来たって大抵冷やかしだし、買うとしたって、ほら、ツケもだいぶたまってるだろ」
「まあね」
霖之助は頷いた。
「それでも、魔理沙のような客が2、3人だったらいいなと思うんだよ。でも、残念ながら2、30人いるんだよね」
★4★
油断した。
恐ろしい妖怪が付近をうろついているという噂を、霖之助は一笑に付していたのだが、里からの帰り道にその妖怪に遭遇し、被害に遭ってしまったのだった。
人当たりの良さそうな老人の姿をしていた。穏やかな笑顔をして会釈し、手を差し出してきた。
つい釣られて手を出してしまったのがいけなかった。老人が求めていたのは握手ではなかったのだ。
次の瞬間、霖之助はムンズと股間を握りしめられていた。老人の手の中に霖之助のふぐりがあった。
「な、何をする?! 離せ、コラ!」
怒鳴ったが、老人は黄金の球を握ったまま動じない。そして穏やかな笑みのまま、こう耳元でささやいた。
「足す2か。引く2か」
「え……な……?」
意味もわからず混乱するが、老人はその言葉を何度も繰り返した。
「足す2か。引く2か」
どうやら「足す2」か「引く2」のどちらかを選ぶよう要請しているらしい。答えなければずっと急所を握られたままだろう。
それは困る。こんな場面を誰かに目撃されて、あらぬ評判を立てられたら本当に困る。
「…………『足す2』」
そちらを霖之助が選んだのに深い意味はない。強いて言えば、「引く2」に避けるべき何かを何となく感じただけだ。
老人はあっさりと解放してくれた。
ほうほうのていで香霖堂に逃げ帰ってきたのだが、落ち着きを取り戻した辺りで妙な違和感に気づいた。
確認すべく下半身を露わにすると──
「す、四星球(すーしんちゅう)?!」
睾丸が四つに増えていた。
「何とかしてくれ!」
永遠亭に駆け込んで永琳に泣きつく霖之助。
永琳は患部を興味深そうに触診しながら言った。
「多分、遭遇したのは鬼の一種ね。『こぶとり爺さん』の話は知っているでしょう? 痛みを感じさせず、しかも服越しに肉体を変じさせられるなんて、医者としては嫉妬せざるをえないわ」
「感心している場合じゃないだろう! 手術とかできないのか?!」
「お薦めできないわ。やってやれないこともないけど、危険を伴うし、費用も高額よ」
「そんな……」
「別に生活に不都合がないのだし、気にすることもないんじゃないかしら。どうしてもと言うのなら、もう一度その妖怪に会うことね。今度は『引く2』と言えばいいのよ」
「そ、そうか!」
「『股』だけに『またの機会を』ってとこね、ふふっ」
「…………」
その日から霖之助は、足しげく老人と出会った場所周辺を探索した。そして、あくる日、ついに件の老人と再会したのだ。
近づくと老人は以前と同じようにムンズと股間を握りしめてきた。
(やったぞ!)
心中でガッツポーズを取る霖之助。老人は微笑みながら耳元でささやいた。
「足す4か。引く4か」
☆5☆
「お、どうした、咲夜。そんな急いで」
「あっ、魔理沙! ちょうど良かったわ! あなた、スピードに自信があるでしょう? 永遠亭まで乗せていってちょうだい!」
「永琳のとこか? どっか具合でも悪いのかよ」
「私じゃないわ! 美鈴が担ぎ込まれたのよ!」
「そうか。でも、お前がそんなに血相を変えるなんて、よっぽど大事に思ってるんだな」
「ええ、もちろん! 美鈴に刺さっているナイフは、お嬢様にいただいたものだもの!」
★6★
パチュリーがレミリアに相談した。
「とてつもなく頭痛がして、息が詰まりそうに苦しくて、気分が悪いのよ。呪いをかけられてるわけでもないし……何なのかしら」
レミリアは神妙な顔を作って述べた。
「気の毒だが、パチェ、あと3ヶ月しか生きられない運命だ」
がっくりきたパチュリーは、いっそそれなら普段やらないようなことをたくさんしてやれと思いっきり行動し始めた。
図書館から飛び出して、あちこちに、天界や地底にまで足を運んだ。いくつかの宴会にも参加した。
直接に体験する風物は新鮮だった。書物や水晶玉を通して見るのと違って、五感を鮮やかに刺激した。
触れ合う人たちもみんな気が良くて、会話を楽しみ、他愛ない冗談に笑った。あとわずかで永遠に別れてしまうのを寂しく感じた。
(こんなことならもっと早くから外出を頻繁にすべきだったわね)
そう思いながら里を歩いていると、ふと仕立屋が目に入った。おしゃれを楽しむのも悪くない。店に入り、店主にオーダーメイドの服を頼んだ。
店主はパチュリーの首周りを測り、サイズ16とメモした。
それを見とがめるパチュリー。
「ちょっと待って。私、いつも14のサイズを着てるのよ」
「あはは、そんなサイズの服を着てたら、」
店主は言った。
「とてつもなく頭痛がして、息が詰まりそうに苦しくて、気分が悪くなっちゃいますよ」
──別の意味で死にそうな思いをしたパチュリーは、ふざけた予言をしたレミリアへ抗議しに走った。
本人の剣幕にも動ぜず、レミリアはしれっと言うのだった。
「実際、生まれ変わったろう?」
☆7☆
確かに私は「運命を操る程度の能力」を持っているからな。お前の望みを叶えることは可能だ。
これからの人生を最期まで幸福でいさせれば良いのだな。
常に上り調子であるようにし、わずかでも下るようなことは全てその途上から排除する、か。なるほど、それなら不幸を感じることは一切ない。幸福しかない人生だ。死ぬときは幸せの頂点で、となる。
ああ、できるぞ。二言はない。一点の曇りなく叶えてやろう。
では、死ね。
★8★
「幻想郷のために何か、こう、斬新なアイデアってないかしら」
紫がふとそんなことを漏らしたので、藍は前々から温めていた考えを話した。
「へえ、それって何か元ネタがあるの?」
「私が一から構築した案です。前例などはありません」
「そんなリスキーなのは採用できないわね」
☆9☆
「私の周りにはイエスマンしかいないのかしら」
「紫様、お言葉ですが、」
「式が口答えしないで」
★10★
深夜まで仕事をしていた永琳は、いつものように輝夜の寝室へ入った。
寝ているだろう姫を気遣って、明りは付けずに暗闇の中で衣服を脱ぐ。
下着姿になって布団に潜り込もうとすると、輝夜から声が掛けられた。
「ごめんなさい、永琳、私ちょっと身体の具合が悪くて……」
確かにやや息が乱れている。熱もあるようで、汗の匂いが鼻先に触れた。
「お薬、持ってきてもらえないかしら。お願い。仕事終わったばかりで本当に悪いと思ってるんだけど……」
既に眠気が降りてきていて、早く輝夜の柔肌を抱き締めて夢見心地に浸りたいという欲求こそあったのだが、永琳は愛する姫のためならと手探りで衣服を取り、着直して、医務室へと向かった。
途中、ばったりと鈴仙に出会った。
「あれ、お師匠さま、どうして妹紅さんのコスプレなんてしてるんですか?」
まあ魔理沙は仕入れ業者としては素晴らしいから少しはね
クスクス笑いながら読ませていただきました。
良作でした