Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

地底妖怪トーナメント・9:『1回戦9・封獣ぬえVS蓬莱山輝夜』

2014/12/19 17:04:02
最終更新
サイズ
11.15KB
ページ数
1

分類タグ

「さて、おさらいでもしましょうか」
 試合開催者である八雲紫は隣に座る橙に話しかけるでもなくあくまで独り言のように呟きだした。
「まずは一回戦を難なく勝ち抜いた者――」
 ――洩矢諏訪子。
 ――紅美鈴。
 ――寅丸星。
 ――物部布都。
 ――少名針妙丸。
 ――伊吹萃香。
 ――八雲藍。
 ――二ッ岩マミゾウ。
「まぁ、一部の例外を除いて残るべくして残ったようなものね。そしてこれから、第九から第十六試合を戦う者達――」
 ――封獣ぬえ、対、蓬莱山輝夜。
 ――上白沢慧音、対、小野塚小町。
 ――豊聡耳神子、対、星熊勇儀。
 ――鬼人正邪、対、黒谷ヤマメ。
 ――魂魄妖夢、対、蘇我屠自古。
 ――今泉影狼、対、聖白蓮。
 ――鈴仙・優曇華院・イナバ、対、八坂神奈子。
 ――藤原妹紅、対、チルノ。
「ほとんどの試合は偏るでしょうけど、それでもあえて楽しみな試合というのなら――」
 八雲紫は手に持つ対戦表で、豊聡耳神子と星熊勇儀、鬼人正邪と黒谷ヤマメの部分を指で指し示した。
「さぁ、もっと私を楽しませてちょうだい。それとも、あなたも参加してみる?」
 左後方を向いた紫には、試合が始まるまで退屈そうに魔理沙と話している風見幽香の姿が映った。

「楽しいのう」
 封獣ぬえと共に、先程とは逆の西側通路に移った二ッ岩マミゾウは不意に笑う。
「本当に楽しい世界じゃよ此処は。儂でさえ歴史としてしか知らぬ者が実在し、更にそれらを混ぜ合わせて皆で戦おうというのだから」
「今更だな」
「お前さんの相手に至っては、あのかぐや姫ときた。鵺とかぐや姫が妖怪の集まる闘技場で戦う。他にも、聖徳太子と鬼、月の兎と神、か。あの世界では、どれだけ過去に遡っても、未来へ進んだとしても、そんな光景は見られんじゃろうな」
 楽しそうなマミゾウに対し、思わずぬえも苦笑してしまう。
「まるで子供だね。それよりあんたは、あと十試合……十一か? 何にせよ二回戦で九尾と戦うんだよ」
「ふぉっふぉ、そうじゃのう。ま、とりあえずはお前さんの戦いを見ておるよ。一対一と道具制限。お前さんの能力上不利に働いておるが、元々のお前さんの力は相当。相手は麗しい月の姫君じゃ。あまりいじめるでないぞ」
「大丈夫だよ。この槍で、あの綺麗な顔に穴を空けるだけさ」
 切先が三つある、体躯と同じ大きさの槍を持ち、ぬえは邪な笑みを浮かべていた。

 片方の通路に一人佇む少女は美しい黒髪を靡かせていた。かつて月に住み、とある罰により地上に落とされた姫君――蓬莱山輝夜の背後に一人の人影が現れる。
「どうしたのかしら」
 振り向いた方には、輝夜が大会に出場するきっかけとなった者である藤原妹紅がいた。
「別に大したことじゃないさ。前の席は他の妖怪でいっぱいだからな。ここが一番、お前の負ける姿が見られるんだ」
 輝夜は訝しげな眼をしつつ口元を押さえ、闘技場の方を振り向いた。
「あれ……永琳と兎は?」
「永琳は八雲紫に雇われてるわ。医務室の救護員、だって。ウドンゲはその手伝いでしょう」
「なるほど、適役だな」
 須臾の沈黙が訪れると、今度は輝夜から口を開く。
「私達、面白いように後半の方に固まったわね」
「あ? ……ああ。どころか、慧音はお前と、お前の配下の兎は私と、二回戦で当たるしな。まぁ、兎は一回戦から神と戦うから実際どうなるかは分からないけどね」
「あなたのお友達だって死神と戦うじゃない」
「はは、そうだな。……私達は、結局戦えるのかな」
「あら、あなたともあろう者が弱気なんて」
「慧音と兎はさっき言った通り。それで私とお前が勝ち進んだとして、お前の前には三回戦で鬼が立ち塞がる。それで――」
「それがどうかしたの?」
 振り返った輝夜は本当に不思議そうな表情をしていた。
「私が鬼程度に葬られると思っているのかしら。地上でうろちょろしている小鬼ならともかく、此処の鬼は力しかないというじゃない。殴る事しか能のない鬼の拳なんて受け止めれば、あとはこちらが鬼の首を落とすだけ。簡単でしょう」
 強がりではない。当然のように本気で言っている輝夜を見て妹紅は思わず吹き出してしまう。
「そうだな。お前ならできそうだ。なら、私は心置きなく見てるよ」
 通路の地べたに妹紅は腰を下ろす。
『一回戦第九試合を始めます。封獣ぬえ選手と蓬莱山輝夜選手は入場してください』
 同時に、さとりによる選手入場が促され、輝夜は歩を進める。
「一分で決めてくるわ」
「できなかったら降参しろよー」
 それ以上言葉を交わすことなく輝夜は闘技場に足を踏み入れる。長い着物の裾部分は全て地面に着き土埃で汚れるも、輝夜にとっては客席から聞こえる雑音の方が耳障りでならなかった。
 闘技場には鵺と月の姫君が対峙し、互いを見据える。ぬえには槍が握られている一方で輝夜は道具と言えるような物は未だ見せない。
「試合時間変更などの申立て等、ありますでしょうか」
 映姫の問いに輝夜が一歩前に出る。彼女は袖から、少女の握り拳程の大きさをした、土を固めたような玉が通された首飾りを二つ出した。
「この玉は、このように揺さぶる程度では何ともありませんが、握るなどして全体から力を掛ければ崩れるようにできています」
「……で?」
「これを互いが首に掛け、破壊された方が負け、というのはどうかしら。もちろん、他のルールもそのままで」
 少し考えた後、ぬえはわざとらしく舌打ちした。
「気に入らないねぇ。そんなものいくらでもイカサマのしようがあるじゃないか。試合が始まった途端、私が掛けた方の玉が崩れるようにできてるんじゃないかい?」
「御心配には及ばないわ。もし握ったわけでもなく崩れたというのなら勝敗には関係ないものとすればいい。あくまで『握り潰した』時だけよ。それに、此処にはちゃんとそれを見極めてくれる優秀な審判もいるのだから。あ、でも自分で壊すのは禁止で」
「ふーん……。それならこっちの要求も呑んでくれないかい」
「どうぞ」
「その首飾り二つを『お前の道具』という扱いにして、お前は他に道具を使う事はできない。かつ、これはあくまで装飾品でしかないと言うのだから、この首飾りによる影響で私にとって不利な状況が起きたら、お前は即座に失格。それでいいなら、呑んでやるよ」
「構わないわ」
 即答した輝夜を見て映姫は紫とさとりを見る。追加された規則を拒む者は誰もいなかった。
「蓬莱山輝夜選手の要望により、今回は『両者首飾りを身に着け、飾りの玉を握りつぶされた方の負け』、という規則を追加します。また、今回蓬莱山選手の扱える道具は首飾りという事になり、他の道具を使う事はできません。また、その首飾りによる能力の変化は一切起きないものとします」
 場内に響くさとりの言葉に対し、魔理沙は思わずにやけていた。
「輝夜らしいな。遊んでやがる」
 いなくなった霊夢が座っていた魔理沙の隣席に幽香は座る。
「さて、見せてもらいましょうか。あなたが期待する優勝候補の実力を……」
「はは。とかなんとか言って、薄々感付いてるんじゃないか?」
「えぇ、そうね」
 幽香は微笑む表情からの薄目で輝夜を見据える。
「良い雰囲気ね、あの子」
 幽香の視線から外れているぬえは開始の立ち位置まで歩きながら、首飾りの玉を槍の柄で叩いていた。
 ――触った感じは、見た目通り土みたいだ。しかし異常に固い……。本当に握っただけで潰れるのか?
「……まぁ、いいか」
 振り返ったぬえは槍を構え、輝夜を鋭く見る。
「殺せばそれまでだ」
 輝夜もぬえに聞こえない程の声で呟く。
「では、始めましょう」
 ――一つ目の難題、『龍の顎の玉』。
 一回戦後半の狼煙も、変わらず閻魔の声によって上げられる。
「一回戦第九試合、始め!」
 映姫の宣言と同時にぬえは跳ぶ。瞬き程の瞬間であっという間に輝夜の眼前にいた。
 ――まずは小手調べだ。反応できないならそれまで。
「死ね!」
 顔面を狙い、視界を覆おうとする槍の切っ先を見て輝夜は微笑む。微笑む程の余裕があった。
 しかし、受けることもかわす事もせず、左の額から袈裟懸けのように、三つある槍の切っ先は全て輝夜を貫いた。先手とはいえ、今のぬえが行った踏込は会心のものであり、人間はおろか弱い妖怪ならば気付いた頃には絶命させることができる程の速度だった。
 しかし、ぬえはおぞましい悪寒を感じる。槍を刺した瞬間に一度は力が失われたと思った輝夜の手は、いつの間にか自分の首を掴んでいたのだ。
 ――妖怪というのは、捻くれていて、不思議ね。
「どうして首の玉ではなく頭を狙ったのかしら?」
 頭を貫かれているにも関わらず何事もないかのように動き話す輝夜は、手との間に挟まっている土玉をぬえの喉ごと握りつぶした。
「ひぎゅ……!」
 一瞬だけ奇声をあげたぬえは槍から手を放し、そのまま地面へと倒れていった。
「喉も一緒に潰したから血が付いてしまったわ。永琳から手拭いを貰わないと」
 輝夜はそのまま、選手入場口へと戻るため背を向けて歩く。
「あら、視界が変だと思ったら……」
 頭に刺さっている槍を引き抜くと同時に穴からは血が流れ落ちるも、輝夜が手で二、三度顔をこすると、あっという間にその穴は塞がっていた。
 観客が誰一人声を出さない中、抜いた槍を地面に投げ捨てたと同時に、閻魔が渋い顔をしつつも審判は下された。
「そこまで! 勝負……あり!」
 勝敗が決してなお、余りにも早い決着と輝夜の非現実的な生命力を目の当たりにした静かなままな観客の中、勇儀はさとりに問いかける。
「あの月の奴頭刺されてたけど、あれは『頭部を破壊』された事にならないのかい?」
「え? ええと……。あ、あれは確かに頭に刺さってましたけど、普通に口が聞けて身体は問題なく動いていたので『破壊』という概念までには当てはまらないかと。何より、審判長である閻魔がそれにも関わらず蓬莱山輝夜を勝者としてるのがなによりの証拠です」
「なるほどね。地上の月の民の噂は聞いてたけど、なんにせよ楽しみだ。私が最強の矛だとしたら、あいつは最強の盾みたいなものか? あいつとは……三回戦で当たるのか。こりゃあ楽しみだ」
 ようやく周りも輝夜が勝利した事を理解し、まばらに歓声が上がりだす中、「まて……!」と擦れた声で叫ぶ一人の妖怪がいた。
 輝夜が後ろを振り返ると、力なくもぬえは立ち上がっていた。抉られた喉から鮮血を散らす事も構わず、輝夜へと歩み出す。
「もういし……ど。た……たたかえ」
「勝負は着いたじゃない」
「みと……め……。こ……なの……みとめるか……」
 槍を拾い、ぬえは再び輝夜に向かい跳ぶ。不思議と先程以上の速さを見せ、今度は首飾りの玉がある輝夜の胸を狙う。
 しかし――
「!」
 気が付いた時には、輝夜は、いつの間にか速度が消えたぬえの持っていた槍を奪っていて、それを眼前に突きつけていた。
「これであなたをぐちゃぐちゃにすれば、普通に私の勝ちになるわね」
 輝夜はそのまま槍を前に突こうとする――
「輝夜っ!」
 後ろを振り返り、もう十分だろう、と言いたげな表情で睨む妹紅を見て輝夜は溜息を吐く。
「怒られちゃったじゃない」
 輝夜は槍を地面に投げ捨て、ぬえに背を向けて歩き出す。ぬえは何か恐ろしいものでも目の当たりにしたかのように棒立ちで、再び襲い掛かる事はなく、輝夜はそのまま選手出入り口を後にした。
 通路の脇にいた妹紅に目もくれず輝夜はそのまま通路を進んでいく。
「能力を使う事はないだろ」
「試合が終わった後じゃない。私闘にまで口出しされる筋合いはないわ」
「……それもそうか」
「何より、あなた以外との戦いに価値を見出している暇なんてないわ。負けたら許さないわよ」
「負けるかよ。お前と当たるまでに会う強敵なんて――」
「半人半霊がいるじゃない。一度負けてるんでしょう」
 かつて西行寺幽々子と共に妹紅を倒した事がある魂魄妖夢とは、互いが勝ち上がれば三回戦で当たることになる。
「あ。あー……。まぁ、なんとかするさ」
「頑張れ」
「うるさい」
 あくまでも敵同士である二人はのんびりとした足取りで通路を立ち去って行った。

 妖怪といえど喉を損傷する苦しみは相当であり、封獣ぬえはようやく選手出入り口を潜り通路まで辿り着く。同時に通路の脇に腰を下ろした。
「大丈夫か……」
「は……か……。あ……あのやろ……」
 苦しそうに息をするぬえを見てマミゾウが言葉を詰まらせている時、通路の奥から人影が現れる。
「聖……」
 ぬえ達命蓮寺勢の長といえる僧侶の聖白蓮はぬえの元に駆け付ける。
「ひしり……」
「大丈夫。じっとしていてください」
 白蓮の手をかざされたぬえの喉元は魔力による淡い光りに包まれ出す。
「あくまで応急処置程度ですが」
 徐々にではあるがぬえの呼吸は整い、視界の歪みも収まっていく。
「まけ……しまった」
「まだ喋っては……」
 それでも白蓮の言葉を手で制止し、ぬえはマミゾウの方を見る。
「マミゾウ……。あん……た……見えた……かい?」
「……すまぬ。ただ『動いたんじゃろう』という感覚しか残ってない」
「そうか……。……私は……見えた……強いからな。……私が……もういちどこうげきした……時、あいつは……当たり前のように……めんどくさそうに……槍を……奪い、私に……つきつけた。それでも……なんとなくわかる。こうそくで動いたとか……そういうことじゃない。あいつは……私や……お前たちが動けない時間の中を……動けるんだ。とめるとも少し違う……。確かに試合は……私の油断さ。でも……あいつが本気になったら……聖、お前でも無理だ……。私達の中じゃ……誰も……勝てないよ」
 輝夜の強さによって普段の様子とはあまりにかけ離れたぬえを見せられ、マミゾウと白蓮は言葉を返すことができなかった。



コメント



1.ぬえ好き削除
ああぁぁ!ぬええええ!ぬえええええ!!ぬうぅぅぅええぇぇぇぇぇ!!!
…うん 分かってた
まさに信長御前試合一コマで負ける小次郎ポジだって…(古いか?)
貴様よくもぬえ様を!  姫様!姫様ぁぁぁ!!姫ぇぇぇぇぇ!!!
2.名前が無い程度の能力削除
実際の強さより相手に油断をついたり逆に実際より強くみせて相手をビビらせたりする駆け引きの方が、リアルじゃ重要になりそう 物理的な戦いに限らず
相手の油断や怯えをついてチャンスをものに出来たら案外なんでもアッサリ勝てそう 言い換えたら相手が油断も怯えもせず、又は自分がチャンスをつけなければアッサリは勝てないってことかもね
もっと言えば相手の力量を正しく測るのが勝利への鍵でさらに言えば相手に自分の力量を悟らせないのが勝利への鍵というわけですかね
商売も結局認識違いに利潤を漬け込むのが普通ですし

だから正体不明はExな強さなんですが逆にやられてしまったらアッサリ負けちゃったわけですね
皮肉というかまあ大概皮肉というのは物事の骨のことなんでしょうが、
能力があって攻めるには強いと言っても守るに強いとはちょいと別問題ってことかも知れませんね
ぬえは相手に自分を悟らせない無敵の能力の持ち主だからこそ予想外の強さに対して脆かったのかも知れません
寧ろ恵まれ過ぎた攻めの能力は慢心から守りの弱さを誘発するかも知れません

ていうか姫様って事前に強さを知られなきゃ見た目もあって無敵過ぎるじゃん 初見殺し過ぎる
3.非現実世界に棲む者削除
姫様は戦い方までもが美しいと改めて思いました。