Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

蓮子レーダー不感症

2014/10/09 20:28:44
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 後ろから、ちゃりーんという音がした。
「どうしたの?」
「お金。落としてしまったわ」
 見ると、ころころと、足下を銀色の硬貨が転がっていく。
 それをとたとた追いかけるのは、マエリベリー・ハーン――通称、メリーである。
「よいせ」
 それを、彼女、宇佐見蓮子が足でストップさせる。
 転がってきた硬貨を踏みつけた彼女は、その足をよけて、「拾うより踏んだほうが早いよ」と言った。
「ありがとう。あなたもたまには役に立つのね」
「それはどういう意味だ」
「言葉のままの意味よ」
 落ちた硬貨を拾い上げようとする蓮子の手を止めて、メリーは自分から、身をかがめて硬貨を取り上げる。
「そういえば、蓮子。
 あなたは、コインが落ちたとき、どうして音がするのだと思う?」
 取り上げたコインの裏表をくるりくるりと返しながら、メリーは蓮子に尋ねる。
「どう、って……。
 地面と硬貨の金属面が接触して、それで音が……」
「あなたは夢がないわね」
 と、当たり前のことを答えたら、なぜか怒られてしまった。
 肩をすくめた蓮子は、「じゃあ、メリー先生。お答えをどうぞ」と一言。
「たとえば。
 この薄いコイン。この中に、とても薄い音響装置が入っていて、それが地面に落ちた時、『落ちましたよ』って教えてくれるために音を鳴らす――とかはどう?」
「夢があるんだかハイテクなんだかわからないね」
 蓮子は苦笑する。
 しかし、メリーは、『あら、真面目に考えたのに』とぷりぷり怒っていた。
「確かに、ものすごい薄い……これくらいの薄さのオルゴールとかもあるんだし、出来ないことじゃないよね」
「でしょう?」
 蓮子に肯定されると、とたんに機嫌を直したのか、また、くるりくるりとコインを回しながら、「そういうのもありだと思うわ」と笑う。
「人間には夢が必要よ。
 夢を忘れた人類は、額に肉と書いたヒーローに笑われるのよ」
「何のこっちゃ。
 ……というか、メリー。あんたほんとーは日本人よね?」
「……何を言っているのかしら。蓮子」
「いやだって」
 やたらマニアックな知識を披露してきたメリーに、蓮子の頬に汗一筋。
「そもそも、外から内側に入ってくるに当たって、その内側の『文化』を学ぶのは当然のことだわ。
 この国には、郷に入っては郷に従え、という言葉があるでしょう?
 あとそれから、村八分。
 わたしはそういうのに遭いたくないから、ちゃんと、この国の文化を勉強したのだもの」
 そう言われて、耳にヘッドホンかけて漫画読んでるメリーの姿を、蓮子は想像する。
 確かに、あまり違和感はないが、何というか、雰囲気という意味では、違和感ばりばりであった。
 子供の頃から活動的で『男の子みたい』と言われていた蓮子ですら、『女の子』としての気概を忘れたことはなかったのだが。
 しかし、この、どこからどう見ても『理想の女の子』のメリーは、平然と、その気概をフルスイングで場外ホームランしてくれるのである。
「一度、コインを分解してみようかしら」
「やめときんさい。カッターやらバーナーやら、あんたまともに使えるの?」
「間違いなく、指を落としそうね」
「それどころじゃすまないっての」
 笑いながら、「今度はお金、落とさないように気をつけなよ」と言った。
 二人は、またしばらく、歩いていく。
 しばらくすると、メリーが「ねぇ、蓮子。なぜ、靴音はするのかしら」と言った。
「そうだなぁ……」
 ここで、『靴の底面と地面が接触するから』なんて当たり前のことを答えたら、メリーは今度こそ、へそを曲げるだろう。
 この彼女、見た目からはそうは見えないが、かなりの気分屋なのだ。
 先の蓮子の発言に満足してないのだから、下手な回答をすれば、間違いなく、目を三角にするだろう。
「そのたびに、実は靴の中に閉じ込められている音が外に出てくるとか」
「それも面白いかもしれないけど、科学的じゃないわね」
 メリーは少し蓮子より早歩きで歩いて、彼女の前に出る。
 こつこつ、と靴音を鳴らす靴を蓮子の前で動かしながら、
「たとえば、ヒールのある靴なら、内側が空洞になっているから、音が反響する」
「今度はずいぶん現実的ね」
「あら、わたしは、いつからあなたのような空想家になったのかしら」
「それはまた失礼」
 つんとした口調で返してくるメリーに、「だけど、ヒールのある靴で、ヒールが空洞だったら、怪我するよ」と指摘する。
「別に、ヒールだけが空洞とは言ってないでしょう」
「だけど、体重を支えるためには、しっかり、靴の裏側に肉が詰まってないと」
「柱だったら?」
「何それ。足ツボダイエット?」
「そういう靴を作ったら売れるかしら?」
「残念。もうたくさん、その手のグッズは出ています」
 あんなものは歩きづらくてかなわない、と蓮子。
 すなわち、実体験済みということだ。
 それが結果として実ったかどうかは、彼女の乙女のプライドを傷つけるので、この場では封印しておこう。
「音は反響させる空間があると、よく響くわ。
 この靴も、そういうのがあると思わない?」
 蓮子の前に足を伸ばして、こんこん、とそれを鳴らしてみせる。
「ふーん。よくありそうね」
「だけど、どう考えても、歩くのには危険だわ」
「何、メリー。太ったの?」
「あなたよりはスリムだわ」
「やかまし」
 先日、お気に入りのスカートが穿けなくなっていたことに気付き、全力でダイエットに取り組んだ宇佐見蓮子(女子大生歳)は呻く。
「全く。
 言い返されて落ち込むくらいなら、自分より口達者な相手に挑むのはやめたら?」
「うーわ何かむかつく」
 しかし、事実でもあるため言い返せない。
 頭の回転の速さは、残念ながら、蓮子よりメリーの方が数十倍上なのだ。
「よーし、そんなら、メリー。
 私の挑戦を受けてみろ」
「あら、何かしら」
「帽子とは、何のためにかぶるでしょうか」
「蓮子、帽子を新しくしたのね。何でそんな帽子?」
「探偵みたいでかっこいいじゃない?
 美人私立探偵、宇佐見蓮子!」
「10ページくらいで殺されそうね」
 ぐっさ、と蓮子は呻いた。
 普段、かぶっている帽子とは違う、地の薄い、スマートな形状の帽子。
 それを指差し、「いいじゃん、別に」と蓮子はほっぺた膨らませる。
「帽子をかぶる理由ね。
 隠すためかしら」
「私は別にはげてないわよ」
「それを隠すのも、まぁ、さもありなんというところだけど。
 そうじゃなくて、素性を隠すのよ。
 ほら、帽子を深くかぶったり、斜にかぶったりすると、目元が隠れたりして雰囲気が変わるでしょう?」
「ああ、そうね」
「人は目元を隠したりすると、途端に、何を考えているかわからなくなるわ。
 だから、隠すのよ」
「なるほど」
 それはなかなか面白い答えだ、と蓮子。
 帽子はアクセサリーの一つ。アクセサリーは人の雰囲気を変える。
 そう考えると、当然の帰結でもあるのだが、アクセサリーはアクセント。印象を際立たせるものでもある。
 まさか、そうではなく、アクセサリーが『隠すもの』とは。
 考え方一つで、ものに対する印象とは変わるものだ。
「けれど、私立探偵を名乗るのなら、もう少し、まともな服装をしたらどうかしら?
 そんなどこにでもあるシャツとスカートじゃ、子供が背伸びしている以外には見えないわ。
 ここはやっぱり、ぱりっとしたスーツを上下にとか、あるいはあえてだらしない格好とか。
 あと、顔も問題ね。
 あなたみたいな丸顔の愛嬌顔じゃ、犯人が怖がってくれないもの。
 もう少し、大人らしい顔立ちにならないと。目と顎の辺りを少しシャープにして、ああ、あと、もっと上背も欲しいわね。
 そう考えると、蓮子、あなた私立探偵には向いてないわ」
「ええいだからやかましいわ!」
 手厳しくも容赦ない、『メリーさんチェック』に、言い返す言葉を持たない蓮子は、とりあえず、声を荒げたのだった。


「……にしても、今日のメリーの話題は、何かこだわりでもあったんかね」
 夜。
 家に帰ってお風呂に入って、夕食は近くのスーパーの特売セールで仕入れた食材を丁寧に調理して。
 そうして、ふぅ、と息をついてパソコンの前に座って、今後の『ネタ探し』。
 そうしていると、つと、昼間のことを思い出す。
 メリーと、あの後、一緒に入った喫茶店では、彼女は「そういえば、蓮子。あなたはコーヒーカップの由来は知っている?」と手にしたカップを見せてくる。
 その話はやがてカップの中のコーヒーをかき混ぜるスプーンの話題になり、運ばれてきたケーキにくっついていたフォークの話題になる。
 せっかくだからケーキの話をしようと言えば、『あなたは食器もなしに食べ物を食べるのね』と怒られる。
 店を出て道を歩いていくと、ふと、メリーが足を止める。
 どうしたのと問いかけると、『ねぇ、蓮子。あなたはタップダンスって踊れる?』と尋ねてくる。その視線の先にはダンススクールの看板。
 無理ね、と答えると、『わたしも無理だわ』とメリーは返す。
 ステップを踏むのが苦手なのよ、と履いている靴の踵を見事に鳴らすダンスを披露する。『どこが無理なんだお前は』とツッコミを入れる蓮子。通りを歩くサラリーマンやOLさんから、メリーは盛大な拍手を受けた。
『この靴はダンスにも向いていないし』と高そうなそれをこんこんと指先で叩くメリー。
 だったら、そんな靴、履いてこなければよかったじゃないか、と蓮子が言えば『そうね。だけど、せっかく買ったものなのだし』とメリーは答え――、
「……あ」
 そこで、ようやく、蓮子は気付いたらしい。
 今日の話題として集中していたもの。
 メリーの出してきた話題の数々。
 そして、それらのネタ。
 それを全て統合すると、導き出された答えは一つ。
 慌てて……というより、恐る恐る、蓮子はメリーへと電話をかける。

「……あー……もしもし? メリー?」
『あら、蓮子。こんな夜遅くに電話なんて、あなたは本当に非常識ね』
「あ、いや……その……。
 ……ね?
 その……もしかして、今日、マニキュアと靴……変えた?』

 恐る恐るの問いかけに、メリーは返してくる。

『あら、ようやく気付いたのね。全く、鈍いったら』

 その時の声のトーンで、蓮子はメリーの表情を想像する。
 見なくてもわかる。
 彼女は、今、満面の笑みを浮かべていることだろう。

「あはは……いや、その……うーん……」
『わたしは、あなたの帽子のこと、真っ先に言ってあげたのにね?
 それとも、わかりやすいものとわかりづらいものの違いがあるんだ、って言い訳する?』
「いや、その……致しません、はい」
『そう。ならいいのよ。
 じゃあ、そうね。蓮子。お詫びに、あなた、明日、わたしにケーキをおごってちょうだい。
 デパートの中の、いつもの喫茶店。ケーキバイキングがあるらしいわよ?』
「……お手柔らかに」

 たはは、と笑いながら、蓮子は電話を切った。
 そうして、『やっちゃったー』と頭を抱えてしまう。
「うーむ……。普段なら、っていうか、メリー以外の相手なら、絶対にそういうのに気付くのになぁ」
 それどころか、今日の化粧の濃さや髪型のカールのかけ具合にまで、目ざとく気付くのが蓮子であるのに、なぜかメリーに対しては、そのレーダーが働かない。
 それはなぜだろうと考えても、答えは浮かばず、『次からはもっと気をつけよう』というところで、考えは落ち着いた。
 ――大方、メリーは美人だから、それに周りの雰囲気が呑まれてしまうんだろう。
 彼女はそう考えて、とりあえずの現実逃避を終了する。
「……いつもの喫茶店……ケーキバイキング……。
 ……げっ。お一人様3000円からですか……」
 これはお高い『勉強代』になってしまったな、と。
 苦笑する蓮子は、やっぱり、相変わらず、『宇佐見蓮子』なのであって、メリーの考える『蓮子』なのである。
これで充分、メリーさんは嬉しいのです。
haruka
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
面白かった
2.名前が無い程度の能力削除
メリーめんどくさい可愛い
3.Yuya削除
会話文に改行が多くて読みづらい。