Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

仙人、夏を行く

2014/08/06 21:36:24
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「あつ~い~……!
 ちょっと、小鈴。何とかならないの? この家」
「人の家に上がりこんで麦茶を要求してさらにその態度ってどうなのよ、阿求」
 幻想郷は、今日もせみさん大合唱。
 じりじり日差しは地面を焦がし、子供たちは大喜びで夏を満喫中。
 そんな中、夏を満喫する『子供』のカテゴリに入っているはずのこの二人は、わざと薄暗くした室内で、額に汗を浮かべている。
「だって、うちにいても、暑くてたまらないのだもの」
「阿求のあの家で暑いなら、うちに来たって暑いに決まってるじゃない」
 はいどうぞ、とひんやりひえひえの麦茶を友人に渡すのは本居小鈴。
 そして、麦茶を受け取って、胸元ぱたぱたやっていた手を冷やすのは、その友人の稗田阿求である。
「窓を開けましょう、窓」
「窓を開けても、外気温よりは涼しくならないわ」
「だけど、開けないよりはマシじゃない」
「これでも開けてます」
 空間のあちこちを外とつなぐ窓にはすだれがかけられ、たまにさらさらと音を立てて揺れている。
 それを見て、「じゃあ、玄関、何とかしてよ」と外の日差しを燦々と取り込む、開放された『窓』を示す。
「何言ってるのよ。
 あそこ閉めたら、お客さん、入ってこられないじゃない」
「それこそすだれをかけておくとか」
「そう思って買いに行ったんだけど、どこも売り切れ」
「自分で作るとか」
「材料がありません」
 ひょいと肩をすくめて、小鈴は言う。
 今年の幻想郷は暑い。どれくらい暑いかっていうととにかく暑い。夏を告げる妖精や精霊たちの『幻想郷一ヶ月予報』では、例年よりもかなり気温が高くなるという予報がなされていた。
「……たまんないわね」
「というか、自分でもそう思うんだけど、この格好がいけないと思うのよね」
 小鈴は両手を広げながら、そんなことを言う。
 この暑い中、『暑い暑い』と呻くくせに、二人はしっかりがっちり着込んでいる。
 一応、腕は外に露出させて半そで状態にしているのだが、それだけでは、もはやこの暑さの前には文字通り焼け石に水ぶっかけてるようなものだ。
「んー……。
 じゃあ、お互い、イメチェンしてみるとか」
「イメチェン、ねぇ」
 たとえば? と小鈴。
「この前、早苗さんにもらったんだけど、ミニスカートとか。
 涼しいみたいよ」
「わたし、スカート、あんまり好きじゃない」
「スカート履いてるじゃない」
「ミニスカートって、男性の目が気になるじゃない?」
「早苗さんは『それがいいんじゃないですか』って言っていたけれど」
「それは容姿に自信がある人だけよ」
「あー」
 二人、そろって呻いたりする。
 根本的に、評価するなら『ちんちくりん』のこの二人。
 露出度高くして『色っぽい』格好をしたところで、果たして世の中の男性のどれほどが『おおっ!』と思うことだろうか。
 いやまぁ、そういう類の連中も少なくはないどころか大勢いるのは理解しているが、それはそれである。
「じゃあ、タンクトップとパンツってどう?」
「男の子みたいよ」
「それもそうか」
 これまた、『それなりの容姿の女性』が身に着けようものなら、その破壊力はすさまじいのだが、この二人のように『ぺったんこ』では、『あ、子供が涼しそうな格好してる』としか思われないものである。
 ……『涼しそうな格好』と思われるならそれでいいじゃないか、という説もあるのだが。
「ロングヘアなら、髪の毛をアップにして、うなじを出してみる、とかもあるんだけどね」
「お互い、短髪だしね」
「小鈴は長いじゃない」
「まとめてるもん」
「伸ばすとめんどくさいのよね。手入れ」
「うんうん」
 そもそもさ、と小鈴。
「夏っぽい服装って、半そでと短いボトムよね」
「そうね」
「何か工夫、欲しいよね」
「んー」
 どうせするなら、人の目を集めてみたい。
 ちょっと色気づいてくる年齢のこの二人には、その『感情』というか『想い』は割りと重要であった。
 異性に注目されるのはいやだけど、注目されてみたい――相反するこの感情は、しかし、共存するのである。
「夏らしい服装でそれっぽいものって、何かない?」
「えーっとねー」
 立ち上がると、小鈴は、部屋の中から一冊の本を持ってきた。
『これで夏の視線は独り占め! 夏のおしゃれスペシャル!』というタイトルの本である。
 装丁とその作りから、幻想郷の誰かが作った本ではなさそうだ。
「色々あるけどねー」
「こんな服、幻想郷に売ってないものね」
「アリスさんに作ってもらう?」
「紅魔館でもいいかも」
 などと、わいきゃい、少女二人、本を眺めながら楽しそうに会話をする。
 そうやってかしましくしていると、夏の暑さも忘れられるから不思議である。
 ちなみにその間、何名かの客がやってきて、『すいませーん。本を貸してください』と声を上げていた。
「何かいまいちだよねー」
「というより、幻想郷は物が少ないのよ」
「仕方ないじゃない。そういうところなんだから」
 本に載っている『おしゃれ』を実行するには、幻想郷には、あまりにも選択肢が少ない。
 こんなカラフルな衣装を身に纏ってみたい、こんなしゃれた格好をしてみたいと思っても、売ってないのだ。
 ならばと糸と針を手に作ってみようと思っても、今度は彼女たちには技術がない。
 誠、世の中とはそううまく回らないものなのである。
「いっそさ、イメチェンしたらお客さんが増えるものがいいよね」
「ああ、そういうのってあるのかな?」
「あったら、阿求、手伝ってね」
「面倒だからやだ」
「まあ、そう言わずに。麦茶に水羊羹をつけてあげよう」
「うーむ」
 そんなこんなで、少女二人のかしましいお話は続く――。

「……ふぅ。今日も暑いですわね」
 とたとたと、片手にハンドバックを提げて人里を歩く女が一人。
 邪仙として名乗る霍青娥である。
 今日は、自分が面倒を見ているもの達から、『この頃暑くて食欲がないから、晩御飯はそうめんにしよう』という提案を受けて、晩御飯の材料を買いに来たのである。
「こう暑いと、お肌や髪の毛のケアが大変です」
 額を流れる汗をハンカチでぬぐう仕草、うなじを同じようにハンカチで押さえる仕草、ついでに胸元ぱたぱたやる仕草。
 その一つ一つに里の野郎どもが目を見張り、思わず身を乗り出し、女房や恋人からひねりのきいた右ストレートを叩き込まれるのが、このところの人里の日常である。
 なお、青娥はそんな様をしっかり横目で見ており、誘っているのは言うまでもない。
「ごめんくださいな。そうめんをいただけますでしょうか」
「おお、青娥のお嬢ちゃんじゃないか。
 暑い中、よぅ来たなぁ。まぁ、入れ入れ。ちょっと涼んでいけ」
「まあ、お嬢ちゃんだなんて。お上手ですわね」
 人里の製麺所。長年続くそこの主人が、人のよさそうな笑顔を浮かべて、しかししっかりと青娥を口説いていたりする。
 青娥も、そんな彼の言葉は軽く受け流し、「いつもお世話になっております」と頭を下げる。
「はいよ。
 しかし、今日も暑いねぇ」
「本当ですね」
「そうめんと冷麦ばっか売れてさぁ。困ったもんだな、はっはっは!」
「まあ、うふふ」
「ちょっと、あんた。若い娘に色目使ってんじゃないよ」
「なぁに言ってんだ。悔しかったら、お前もこっちのお嬢さんくらい美人になってみろ」
「何言ってんだい、このバカたれ。
 どうも、いつもお世話になります。暑い中、大変だったでしょう? はい、どうぞ」
「まあ、ありがとうございます」
 何だかんだ人当たりのいい――それが表の顔かどうかはわからないが――青娥である。人里のあちこちで、彼女の顔は知られ、このように、顔見知りも増えている。
 勧められた麦茶をありがたく頂き、商品を受け取って、「それでは」と頭を下げて、彼女はその店を後にした。
「本当に、こう暑いと困りものですわね。
 けれど、お布団とかがすぐに乾くし、悪いことばかりではないけれど」
 そうめんだけでは栄養が足りないため、近くの八百屋で野菜を買ったり、卵や鶏肉を買ったりして、『よし』とうなずき、家に帰るために踵を返す。
 ――と、
「……あら?」
 何やら、人の並んでいる店を見つける。
 人里には人の並ぶ店が多々あるが、普段、この店に人が並んでいるところを、彼女はあまり見たことがなかった。
「……『鈴奈庵』。何か面白い本でも入ったのかしら」
 人里の片隅の貸本屋。
 本の値段がそこそこな幻想郷で、庶民が手軽に本を手に入れることのできるということで、重宝される店ではあるが、人が並んでまで『手に入れたい』ものを並べている店ではない。
 ――青娥は、ちなみに、その店を気に入っている。
「少し見ていきましょう」
 彼女は列の後ろに並び、しばし、炎天下の日差しと格闘する。
 今度、天気のいい日に外に出る時は日傘を持って来よう――そう決意して、ハンカチ片手に頑張ること、およそ10分。
 順番が来て、店の中に入った青娥は、およそゼロコンマの世界で列の理由を理解した。
「いらっしゃいませ~」
「……ごっふ」
 危なく吐血するところだった。
 しかし、耐えた。ぎりぎりのところで。
 彼女を出迎えたのは、本居小鈴。そしてその隣では、彼女の友人、稗田阿求が「えーっと、返却は二週間で……」とレジをやっている。
 青娥は、理解した。
 理屈ではなく、魂で理解した。
「あ、青娥さん。いつもご利用ありがとうございます」
「い、いえいえいえいえいえいえいえいえ!
 そんな、ええ、はい!」
「面白い本が入りましたよ」
 と、屈託のない笑顔で近寄ってくる小鈴。
 やばい。
 これはやばい。
 半径5メートル以内に近寄られたらやばい。
 やばいが、耐えるしかない。
 耐えるしか、青娥には、手段がない。
 後ろに並んでいる連中から『ええい、早くしろ! 早く俺(私)も店の中に入れろ!』という熱い想いがほとばしる。
「?
 どうされたんですか?」
「い、いいえぇ! 何でも!」
「そうですか。
 あ、こっちです、こっち」
 青娥はぎりぎりの、己の中の理性と格闘しながら小鈴の後についていく。
 ――さて、なぜにこのようなことになっているのか。
 一言で言うと、青娥は淑女である。
 淑女とは、すべからく少女を愛する存在である(誤用)。
 そうであるからして、つるぺたロリ少女の小鈴と阿求は、青娥にとって慈しむべき愛の対象である。
 ちなみに彼女のストライクゾーンは5~12歳である。見た目。
 さてそんな見た目の少女が二人、ここにいる。
 それだけで、青娥がこの店の常連となるのは言う必要もないのだが、今日はそこにクリティカルな要素が一つ。
「ああ、あれです、あれ。よいしょ。
 ……ん、っと」
「ごふっ」
 吐血した。
 とりあえず耐えられなかった。
 ハンカチが真っ赤に染まってしまったので、とりあえず、これは後で捨てるしかなさそうだった。
 端的に言うと、小鈴と阿求が、スク水だった。
 阿求が紺色、小鈴が白。マニアックである。
 しかし、『ロリっ娘』にスク水は最強の神器である。
 むちむちの女性にスク水とか邪道である。そりゃもう。
『こすず』と書かれたワッペン胸に貼り付けたスク水ロリっ娘が、お尻のラインに食い込んだ水着をそっと直すその瞬間など、もはや神ですら見ることの出来ない奇跡の瞬間である。
 だから青娥は吐血した。ちょっと色々やばくなりつつも耐えた。
「これです、これ。
 ……どうしたんですか?」
「ふ、ふふ……い、いえ、大丈夫、大丈夫ですわ……」
「何か顔色真っ青なんですが……」
「ちょっと、暑かったので」
「気をつけてくださいね。何でしたら、うちで休んでいきますか?」
「だ、大丈夫です!」
 一瞬、『是非とも!』と言いそうになった。
 だが、青娥はこらえた。
 なぜか。
 それは、青娥が淑女だからである。
 淑女たるもの、少女は『眺めて愛でるもの』なのだ。
 たとえいっときであろうとも、己の中の下劣な感情に負けてはいけないのである。
 ここで首を縦に振ってしまえば、青娥は淑女ではなくなってしまうのだ。
 淑女であるためには、鋼鉄の自制心が必要なのだ。それを鍛えるべく、彼女は仙人となったのだから、まぁ、ありおりはべりいまそかり。
「き、今日は、どうしてそのような?」
「あ、これですか?
 この頃、暑いから、何か涼しい格好+イメチェンでお客さん呼べないかな~、と思って。
 そうしたら、阿求が、『そういえば、暑い時期は水着っていいわよね』って言いだして。
 布の面積多めのこれなら、ちょっとした半そで短パンの延長だと思いません?」
「そ、それは……えっと……」
 ちょっと、小鈴の感覚というものが不思議に思える発言であったが、まぁ、他人の感覚にケチつけてもしょうがない。
 それに、それのおかげで、このように素晴らしい光景に出会えたのだ。
 まさに『奇跡』のコラボレーションとはこのことである。
「おかげで、お客さんがすごく一杯で。
 今日だけで、一ヶ月の売り上げ行きましたよ。
 夏はまだ長いから、これはもう徹底的に稼げるな、と」
「そ、そうですか。
 しかし、お金に溺れてしまわないよう、お気をつけくださいね」
「そりゃもう。
 ああ、阿求。青娥さんのお会計、お願い」
「はいはい。小鈴、後でバイト代、ちょうだいね」
「もっと頑張ったらね」
 多くの紳士淑女がぎりぎりのラインで己を抑えている中、会計は進んでいく。
 青娥も一冊の本を受け取り、次の来店を約束して、店を後にする。
 後にして、真夏の熱気の直撃を受けて倒れそうになるが、こらえた。血が足りない。晩御飯にお肉一杯入れよう、と青娥は決意する。
「……明日も来ないと。っていうか、毎日、来なければ!」
 青娥は決意した。
 もう毎日通って、少女たちのお店の売り上げのお手伝いをしようと決意した。
 そのついでに、少女たちのスク水姿を目に焼き付けておこうと決意した。
 カメラ持ってこないとと思う己を押しのけた。欲望丸出しで、彼女たちにレンズを向けるような行為は、淑女たりえない。
 やはり、目という永遠の録画機能つき映写機をフル活用して、彼女たちの姿を脳裏に焼き付けておかなくては。それが出来てこその淑女なのだから。
 こうして、青娥は人里を立ち去った。
 彼女が人里を去った後も、鈴奈庵の列は途切れることはなかったという。


 ちなみに翌日、某カラスの新聞に『ただいま、鈴奈庵でスクール水着接客中!』という特集記事が掲載され、鈴奈庵の待ち時間が『最短8時間』となったのはご愛嬌である。
なお、店内は写真撮影禁止です。
守れない人は紳士淑女ではありませんので、以後、鈴奈庵への出入り禁止となります。
ご注意ください。
haruka
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
行きたい
2.絶望を司る程度の能力削除
うはw行きたいw
3.名前が無い程度の能力削除
なんで、幻想郷にはこんなに紳士淑女が多いんだ!?(驚愕)
いや、幻想郷では常識に捕らわれてはいけないんだから、つまり、
なんで、幻想郷に紳士淑女以外が存在してるんだ!?(混乱)
4.名前が無い程度の能力削除
こんな負け気味なにゃんにゃんは、はじめてみた。

はたてに頼んで念写してもらおう(提案)
5.非現実世界に棲む者削除
そうだ、鈴奈庵に行こう(使命感
6.名前が無い程度の能力削除
皆遅いぞ!もう俺は4時間ならんで拝んで…ゲフンゲフン本を借りてきたぜ!フヒヒ、毎日並ぼっと。