幻想郷も雨季を過ぎ、今や夏に差し掛かろうとしていた。
恒例のごとく水不足なんて言葉とは無縁な程に雨が降ったおかげで、今年も夏を過ごせそうであった。
人里の田もその恩恵を十分に得て、秋ごろには逞しい稲穂が田の彩りを飾るだろう。
夏の初まりを告げるかのように今日はよく晴れていた。
そんな人里の外れにある上白沢慧音宅では今日も今日とて、家主の私とその親友である藤原妹紅が席を一緒にし昼食を食べていた。
何しろ妹紅が魚を釣って私の所に昼飯時に来たのだから、ごちそうしてやるのが筋という物だ。うまい具合に利用された感じがあるがそれはそれだ。
持ちつ持たれつつの関係は非常に居所がよく癖になってしまう。それに私はこの関係を煩わしく思った事など一度もない。
「今年も雨がよく降ったねぇ」
「ああ、幸いなことに土砂崩れなんかもなくてよかったよ。子供たちにも雨季の間は川に近づくなと言っておいたおかげで怪我人も出なかったしな」
雨季になると川が氾濫し、子供たちが水遊びで入ってしまうと危険なので私は毎年この時期になると注意喚起をしている。
一度男子が足を滑らせてしまい、危ない目にあったことがあるので二の鉄を踏まないようにやっている。
前例があるせいか、良くも悪くも子供たちはちゃんと私のいう事を聞いてくれている。
「あぁそうなんだ。この魚は川魚だから慧音はあまり食べたことないかもね」
「む。そうなのか。初めて口にする味だから知らなかったな」
「そこの川で釣れるんだよ。子供たちと一緒に釣りに行ったりするんだよ」
「だけど、あの川少し危なくないか?」
「私がついてるから大丈夫だって」
「ならいいが、もしものことがあっては大変だからな」
妹紅は焼いた魚をほぐしながら、少しだけ苦笑いをした。
まぁ、子供たちに見られても妹紅だから大丈夫だとは思うが。一応寺子屋の中で最年長としての扱いを子供たちから受けている訳だしな。
事実私よりも年上なわけだしな。何はともあれ、子供たちには注意だけはしておこう。
「なんでもこの魚はバスっていうらしいよ。永琳が教えてくれた」
「なんだ。八意殿に会ったのか」
「釣りしている最中にね。輝夜が二日前の大雨の日に川の様子見に行ってくるって言ったまま、帰ってこないから探してるんだって」
「何やってんだあの姫」
どうせ大方一度は言ってみたいセリフをやっただけだろうがな。
どうにも妹紅とはちがった方面で輝夜は不死であることを利用している気がする。
しかし不死者という物は往々にして、命の無駄遣いをしたがるのか。八意殿はあまりそういうことをする素振りを見せないが怪しいものだ。
それにしてもバスか。幻想郷にも新しい種類の魚が入ってきたという事なのか?生態系が崩れなければいいが。
そんなことを考えながら箸を進めていると、妹紅の方は既に食べ終わってしまっていた。
「ごめん慧音!昼から永遠亭の案内しなきゃいけないから私、先に帰るね!」
「ん、あぁ。気を付けてな」
そういうと妹紅は手を合わせ「ごちそうさまでした」というと、玄関の方へと急いで駆けていった。
私はまだ食べきっていないし、その上予定も特にありはしないのでゆったりと食べ続けた。
「ごめんくださいー」
魚の半分を食べきったところで、玄関から人の声が聞こえてきた。
客人だろうか。今日は別段用事はなかったはずだが。
私は箸を置いて、立ち上がり玄関へと向かう。
玄関のすり硝子越しに珍しいシルエットが浮かび上がっていた。彼女がここに来るとは何事だろうか。
草履を履き、からからと音を立てながら戸を引いた。
そこに居たのは守矢の現人神東風谷早苗がいた。身長は年の割にはやや高く、誰に対しても低姿勢であることはそれなりに噂で聞いている。
碧色の瞳、若草色の髪、カエルの髪留め、そして脇の空いた青と白を基調にした服。この時期に見ていて涼しさすら感じる外見の持ち主だ。
体つきも出るところは出ており、どこぞの貧相な巫女とは非常に対照的な人物と印象を持ってしまう。
そんな東風谷殿の手には見慣れた紅白の模様が入ったリボンが握られていた。
「こんにちは慧音さん」
「ん、こんにちは。東風谷殿。まぁ、聞かなくてもわかるが一応聞こうか」
「えっと、人里でこれ拾ったので、慧音さんにお届けしておこうかと思いまして」
大方急いでいて、外れたのがわからなかったんだろう。全く。時間には余裕を持てと言っているんだがな。
私は軽いため息を吐いて、そのリボンを受け取った。どれ帰っていたら一つお灸を据えてやろう。
「妹紅さんが人里に来ると言ったらここしか用事がないと思いましたので」
「あぁ。大体ここであっているよ。たまに散歩目的でぶらついたりはしているが」
妹紅が人里に来るときは大体は私の元を訪れる。そして訪れた日は大体泊まっていき、寝食を共にする。
それ以外は先ほどの様に釣りなどを嗜んでいるようだ。私と出会ったころの妹紅に比べれば大分丸くなったし、それが影響しているのか年上の風格を最近感じるようになった。
あれでも千三百歳ちょっとという事をたまに忘れるんだが、酒をいっしょに飲んでいると大分哲学的な事を妹紅は言うようになったのだ。
私はそれを肴にいつも妹紅と一緒にあれこれ談義するのが最近の楽しみだ。
やはり気持ちに余裕が出来たのが影響しているのだろう。元来時間は腐るほど余っているから仙人に近い性質を持ち始めてもおかしくはない。
「さっきまで一緒に昼を取っていたんだ。なんでもバスという物が幻想郷入りしたらしいのでそれを話のタネにしていた」
「バスですか。懐かしいなぁ。私も外の世界に居た時は通学の時によく乗っていましたよ」
「なんだと!? 東風谷殿はバスに乗っていたのか!?」
「え? ええ、便利でしたし」
東風谷殿はどこか遠いところを見つめ、感傷に浸っていた。しかし私はそれどころではない。
先ほど妹紅が釣ってきたバスは四十センチ程だったぞ!?あれに東風谷殿は乗っていたというのか!?
信じられん。いや、しかし奇跡を起こす現人神ならば可能かもしれないが……。
私は余りにも信じられなくなり、東風谷殿に質問せざるを得なかった。
「……して、そのバスはどのくらいの大きさだったんだ?」
「詳しい事は私も知らないですけど、十メートルは有ったのではないのでしょうか」
「危険じゃないか!?」
「そうでしょうか?私は安全に通学出来てましたけど」
十メートルのバスだと!? 危険すぎるぞ!? 妹紅もよくそんな生物を相手に釣ってきたものだ。
確かに妹紅は強いが、そこまで魚一匹に命をかけることは無かったんじゃないか……。
しかしそんなものが人里に居るだと……。これは人里の安全を守る私としては聞き捨てならない。
幻想入りしたという事は万が一そのようなものが出てくる可能性だってあるからな。
もう少し詳しく聞いてみるとしよう。
「それで、東風谷殿の乗っていたバスは通学に使っていたというが外の世界ではそれが普通なのか?」
「えぇ、通学に使っている人は多いですね。大体朝にはみんな一つのバスにぎゅうぎゅうに詰め込まれていましたし」
詰め込まれるだと。つまり……バスに飲みこまれていたというのか!? そこまでして勤勉に励むほど外の世界の学徒は意識が高いのか。
ぬぅ……。真似をしろとは言わないが、寺子屋の皆にもその意欲のかけらでもあればいいのだが。外の世界には恐れ入る。
「でも、そのおかげで痴漢とかもあって大変なんですよ。男の人は間違って痴漢しないように手を揚げていましたね」
「確かにその状態で弛緩してしまうと大変だな。命がけなわけだし」
「えぇ、男の人には同情してしまうぐらいです」
口の筋肉が弛緩してしまうと飲みこまれてしまうからな。男手は弛緩しないように手で口元を支えておかないとな。
外の世界の男たちも幻想郷と同じく、女を守るために命を張っているとはな。中々かっこいいじゃないか。
「あ、そうだ。私一度だけバスの事故現場に遭遇したことがありますよ!」
「あまりそういうことで盛り上がるのはよろしくないと思うがな。現場はどんな感じだったんだ?」
「それはもう大惨事でした。いきなりバスが爆発するという事故だったので、もうみんな阿鼻叫喚でしたよ。けが人は奇跡的に出ませんでしたけど」
「とんでもない生き物だな!?」
「え?生き物?」
爆発だと!? 十メートルの体長を誇りながら自爆の手段すらも持っているのか!?
そんなものに外の世界の学徒はなんで自ら飲みこまれているんだ!?もう少し常識を勉強しないのか!?
そうだ。こんな事をしている場合ではない!! 人里の川にそんな危険生物が住み着いているんだ。子供たちが間違って食われないように指導しなくては!!
急いで明日の授業を変更して、川の危険性を改めなければ! そうとなれば資料作りだ!
「東風谷殿忘れ物を届けてくれてありがとう。しかし! 私は貴方の話を聞いてこれから、人里の安全を守るための策を練らねばならない。すまないが今日はここでお引き取りお願いしたい」
「はぁ……」
そのまま戸を閉めて、私は書斎に足を力強く踏み込みながら向かった。
東風谷殿は狐に抓まれたかのような表情をしていたが、私にはそれを気にしている暇はなかった。
人里の安全の為、私は休日でありながらも書斎で本をひっくり返しながら頭を悩ますことになるのだから。
私は上白沢慧音。人里の安全を守る守護者だ。危険生物から無事に守って見せよう!
そう活き込んでその日は休むことなく、資料を徹夜で作成した。
自分の間違いに気が付いたのは翌日の授業後に、八雲紫が意地悪そうな顔で「はたらく自動車」という本を持ってきてからだった。
恒例のごとく水不足なんて言葉とは無縁な程に雨が降ったおかげで、今年も夏を過ごせそうであった。
人里の田もその恩恵を十分に得て、秋ごろには逞しい稲穂が田の彩りを飾るだろう。
夏の初まりを告げるかのように今日はよく晴れていた。
そんな人里の外れにある上白沢慧音宅では今日も今日とて、家主の私とその親友である藤原妹紅が席を一緒にし昼食を食べていた。
何しろ妹紅が魚を釣って私の所に昼飯時に来たのだから、ごちそうしてやるのが筋という物だ。うまい具合に利用された感じがあるがそれはそれだ。
持ちつ持たれつつの関係は非常に居所がよく癖になってしまう。それに私はこの関係を煩わしく思った事など一度もない。
「今年も雨がよく降ったねぇ」
「ああ、幸いなことに土砂崩れなんかもなくてよかったよ。子供たちにも雨季の間は川に近づくなと言っておいたおかげで怪我人も出なかったしな」
雨季になると川が氾濫し、子供たちが水遊びで入ってしまうと危険なので私は毎年この時期になると注意喚起をしている。
一度男子が足を滑らせてしまい、危ない目にあったことがあるので二の鉄を踏まないようにやっている。
前例があるせいか、良くも悪くも子供たちはちゃんと私のいう事を聞いてくれている。
「あぁそうなんだ。この魚は川魚だから慧音はあまり食べたことないかもね」
「む。そうなのか。初めて口にする味だから知らなかったな」
「そこの川で釣れるんだよ。子供たちと一緒に釣りに行ったりするんだよ」
「だけど、あの川少し危なくないか?」
「私がついてるから大丈夫だって」
「ならいいが、もしものことがあっては大変だからな」
妹紅は焼いた魚をほぐしながら、少しだけ苦笑いをした。
まぁ、子供たちに見られても妹紅だから大丈夫だとは思うが。一応寺子屋の中で最年長としての扱いを子供たちから受けている訳だしな。
事実私よりも年上なわけだしな。何はともあれ、子供たちには注意だけはしておこう。
「なんでもこの魚はバスっていうらしいよ。永琳が教えてくれた」
「なんだ。八意殿に会ったのか」
「釣りしている最中にね。輝夜が二日前の大雨の日に川の様子見に行ってくるって言ったまま、帰ってこないから探してるんだって」
「何やってんだあの姫」
どうせ大方一度は言ってみたいセリフをやっただけだろうがな。
どうにも妹紅とはちがった方面で輝夜は不死であることを利用している気がする。
しかし不死者という物は往々にして、命の無駄遣いをしたがるのか。八意殿はあまりそういうことをする素振りを見せないが怪しいものだ。
それにしてもバスか。幻想郷にも新しい種類の魚が入ってきたという事なのか?生態系が崩れなければいいが。
そんなことを考えながら箸を進めていると、妹紅の方は既に食べ終わってしまっていた。
「ごめん慧音!昼から永遠亭の案内しなきゃいけないから私、先に帰るね!」
「ん、あぁ。気を付けてな」
そういうと妹紅は手を合わせ「ごちそうさまでした」というと、玄関の方へと急いで駆けていった。
私はまだ食べきっていないし、その上予定も特にありはしないのでゆったりと食べ続けた。
「ごめんくださいー」
魚の半分を食べきったところで、玄関から人の声が聞こえてきた。
客人だろうか。今日は別段用事はなかったはずだが。
私は箸を置いて、立ち上がり玄関へと向かう。
玄関のすり硝子越しに珍しいシルエットが浮かび上がっていた。彼女がここに来るとは何事だろうか。
草履を履き、からからと音を立てながら戸を引いた。
そこに居たのは守矢の現人神東風谷早苗がいた。身長は年の割にはやや高く、誰に対しても低姿勢であることはそれなりに噂で聞いている。
碧色の瞳、若草色の髪、カエルの髪留め、そして脇の空いた青と白を基調にした服。この時期に見ていて涼しさすら感じる外見の持ち主だ。
体つきも出るところは出ており、どこぞの貧相な巫女とは非常に対照的な人物と印象を持ってしまう。
そんな東風谷殿の手には見慣れた紅白の模様が入ったリボンが握られていた。
「こんにちは慧音さん」
「ん、こんにちは。東風谷殿。まぁ、聞かなくてもわかるが一応聞こうか」
「えっと、人里でこれ拾ったので、慧音さんにお届けしておこうかと思いまして」
大方急いでいて、外れたのがわからなかったんだろう。全く。時間には余裕を持てと言っているんだがな。
私は軽いため息を吐いて、そのリボンを受け取った。どれ帰っていたら一つお灸を据えてやろう。
「妹紅さんが人里に来ると言ったらここしか用事がないと思いましたので」
「あぁ。大体ここであっているよ。たまに散歩目的でぶらついたりはしているが」
妹紅が人里に来るときは大体は私の元を訪れる。そして訪れた日は大体泊まっていき、寝食を共にする。
それ以外は先ほどの様に釣りなどを嗜んでいるようだ。私と出会ったころの妹紅に比べれば大分丸くなったし、それが影響しているのか年上の風格を最近感じるようになった。
あれでも千三百歳ちょっとという事をたまに忘れるんだが、酒をいっしょに飲んでいると大分哲学的な事を妹紅は言うようになったのだ。
私はそれを肴にいつも妹紅と一緒にあれこれ談義するのが最近の楽しみだ。
やはり気持ちに余裕が出来たのが影響しているのだろう。元来時間は腐るほど余っているから仙人に近い性質を持ち始めてもおかしくはない。
「さっきまで一緒に昼を取っていたんだ。なんでもバスという物が幻想郷入りしたらしいのでそれを話のタネにしていた」
「バスですか。懐かしいなぁ。私も外の世界に居た時は通学の時によく乗っていましたよ」
「なんだと!? 東風谷殿はバスに乗っていたのか!?」
「え? ええ、便利でしたし」
東風谷殿はどこか遠いところを見つめ、感傷に浸っていた。しかし私はそれどころではない。
先ほど妹紅が釣ってきたバスは四十センチ程だったぞ!?あれに東風谷殿は乗っていたというのか!?
信じられん。いや、しかし奇跡を起こす現人神ならば可能かもしれないが……。
私は余りにも信じられなくなり、東風谷殿に質問せざるを得なかった。
「……して、そのバスはどのくらいの大きさだったんだ?」
「詳しい事は私も知らないですけど、十メートルは有ったのではないのでしょうか」
「危険じゃないか!?」
「そうでしょうか?私は安全に通学出来てましたけど」
十メートルのバスだと!? 危険すぎるぞ!? 妹紅もよくそんな生物を相手に釣ってきたものだ。
確かに妹紅は強いが、そこまで魚一匹に命をかけることは無かったんじゃないか……。
しかしそんなものが人里に居るだと……。これは人里の安全を守る私としては聞き捨てならない。
幻想入りしたという事は万が一そのようなものが出てくる可能性だってあるからな。
もう少し詳しく聞いてみるとしよう。
「それで、東風谷殿の乗っていたバスは通学に使っていたというが外の世界ではそれが普通なのか?」
「えぇ、通学に使っている人は多いですね。大体朝にはみんな一つのバスにぎゅうぎゅうに詰め込まれていましたし」
詰め込まれるだと。つまり……バスに飲みこまれていたというのか!? そこまでして勤勉に励むほど外の世界の学徒は意識が高いのか。
ぬぅ……。真似をしろとは言わないが、寺子屋の皆にもその意欲のかけらでもあればいいのだが。外の世界には恐れ入る。
「でも、そのおかげで痴漢とかもあって大変なんですよ。男の人は間違って痴漢しないように手を揚げていましたね」
「確かにその状態で弛緩してしまうと大変だな。命がけなわけだし」
「えぇ、男の人には同情してしまうぐらいです」
口の筋肉が弛緩してしまうと飲みこまれてしまうからな。男手は弛緩しないように手で口元を支えておかないとな。
外の世界の男たちも幻想郷と同じく、女を守るために命を張っているとはな。中々かっこいいじゃないか。
「あ、そうだ。私一度だけバスの事故現場に遭遇したことがありますよ!」
「あまりそういうことで盛り上がるのはよろしくないと思うがな。現場はどんな感じだったんだ?」
「それはもう大惨事でした。いきなりバスが爆発するという事故だったので、もうみんな阿鼻叫喚でしたよ。けが人は奇跡的に出ませんでしたけど」
「とんでもない生き物だな!?」
「え?生き物?」
爆発だと!? 十メートルの体長を誇りながら自爆の手段すらも持っているのか!?
そんなものに外の世界の学徒はなんで自ら飲みこまれているんだ!?もう少し常識を勉強しないのか!?
そうだ。こんな事をしている場合ではない!! 人里の川にそんな危険生物が住み着いているんだ。子供たちが間違って食われないように指導しなくては!!
急いで明日の授業を変更して、川の危険性を改めなければ! そうとなれば資料作りだ!
「東風谷殿忘れ物を届けてくれてありがとう。しかし! 私は貴方の話を聞いてこれから、人里の安全を守るための策を練らねばならない。すまないが今日はここでお引き取りお願いしたい」
「はぁ……」
そのまま戸を閉めて、私は書斎に足を力強く踏み込みながら向かった。
東風谷殿は狐に抓まれたかのような表情をしていたが、私にはそれを気にしている暇はなかった。
人里の安全の為、私は休日でありながらも書斎で本をひっくり返しながら頭を悩ますことになるのだから。
私は上白沢慧音。人里の安全を守る守護者だ。危険生物から無事に守って見せよう!
そう活き込んでその日は休むことなく、資料を徹夜で作成した。
自分の間違いに気が付いたのは翌日の授業後に、八雲紫が意地悪そうな顔で「はたらく自動車」という本を持ってきてからだった。