Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

友達以上は恋人かもしんない

2014/07/13 01:52:08
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かすかな音を立て、頬に口付けられる。
続けて、まぶたに、こめかみに、耳に、首筋。
一拍置いて、唇を食まれる。
薄く紅を引いた、柔らかく暖かな唇が私の唇の表面を撫でるたび無意識に吐息が漏れる。
その吐息さえ逃さないかのように、舌が舌を絡めとる。
ぞくぞくと背筋を這い上がるような感覚が、あまりにも気持ちよかった。






「幽々子は紫とキスしたことある?」


ぶっふぉ。


「汚いわね……」

白玉楼は夏でも涼しい。
冥界にある屋敷は幽霊で埋め尽くされ、きっちりと切りそろえられた庭木に奇妙な陰影をつけていた。
春であれば妖怪桜を筆頭に桜の名所となるこの場所だが、夏場の蒸し蒸しとした空気から逃れるにもうってつけの場所である。
とはいえ、今日の訪問は避暑ではなく、冥界の管理者である屋敷の主人に会うためだ。
平素であれば心内を悟らせず、のらりくらりと会話をはぐらかし、とぼけた顔で切れのある発言もする、
そのいかにもお嬢様然とした(実際お嬢様なのだが)桜色の唇から飛び出したのは、自ら点てたばかりの抹茶だった。


「……ごめんなさいね、でも突然なにを言い出すのかしら」

高そうな着物が見事に抹茶である。早く洗わないとシミにならないだろうか。
……まあ、亡霊が着る服が物理的に存在しているものなのかは知らないが。

「何を、って、そのままの意味よ。したことあるの?」
「ないわよ。私と紫はお友達で、恋人ではないもの。それとも、恋人でもないのに接吻するような爛れた仲に見えるかしら」

爛れた……か。
なるほどそれでは失礼にも程がある聞き方になってしまったようだ。

「そういうんじゃないけど。あいつの友人代表として聞いてみただけよ。一応私も紫と友達……なのかしら?どちらにしても、恋人じゃないけど、される、のよ」

幽々子はそう、と言って目を細める。扇子で口を覆っているため、笑っているかどうかはわからない。
というか、カッコつけても抹茶である。

「あの子も覚悟を決めたのかしら。でも恋人でもないのにってことは、特にお互い気持ちを言い合ったわけではないのね?」
「言ってないし聞いてもないわね。これって、からかわれてるってことかしら」
「からかう、ね。どうしてそう思うの?」

油断なく扇子の先から覗き込む瞳が、私を射抜く。
紫も扇子を使うが、幽々子と紫は扇子の使い方が少し違うように思う。
口元を覆う仕草は似ているが、紫は内心を隠し、幽々子は相手の表情を伺っているのだ。

「なんとなく、だけど。私みたいな子供を、紫がそういう…恋愛対象として見るかしら?そうじゃなくても、紫にとって私は、代えの効く雇われ巫女じゃないの?
それに、私が…無意識に、紫をそういう対象として見てしまっていたとして、紫がそれを知っていたら、アイツの事だもん、からかうに決まってる……」
「……本当にそうかしら?」
「え?」

相変わらず扇子で口元を隠したまま、それでも幽々子は笑っているように見えた。

「紫は確かに、『胡散臭く』見えるでしょうけれど、それはそう見えるように振舞っているのだから当然ね。
あの子、あれで結構奥手なのよ。色恋沙汰の話題はほとんどダメ、可愛い物が好きなくせに可愛がっているところを見せるのも苦手なのよ」
「よくわからないんだけど……それがどうしたのよ」
「紫といえど、怖いものの一つや二つ、あって当然ということよ。素直な気持ちを言葉に出して、はっきりと拒否された時のことを思うと怖くて仕方がないの。
紫の本心を知っているわけではないし、知っていたとしても本人が言えずにいることを私が言う訳にも行かないから、これはあくまで私の想像だけれどね」

それはもう殆ど、はっきり言ってしまったことに変わりはないような気はしたが、聞いてしまった以上無視はできなかった。
つまり、紫は私を好いていて、かつ拒絶が怖いから、私が拒まないのをいいことに何も言わずに好き勝手している?

「ふふ、まだわからないって顔してるわね。霊夢、たしかに貴女は誰にも平等で、贔屓も特別扱いもしない代わりに必要以上に拒絶もしない。
でも、いくらそんな貴女といえど、誰にでも接吻を許すかしら?」
「……わからないわよ、求めたことなんてないし紫以外に求められたこともないもの」
「本当に、そう?」

ふと影が差した。顔を上げると、すぐ近くに幽々子の瞳がある。
扇子が私の顎を持ち上げ、唇が触れる、その直前、私は無意識に幽々子の手を弾いていた。
ぱしん、と乾いた音が響き、持っていた扇子が庭に落ちる。幽々子は笑っていた。

「ほら、ね?わかったでしょう」


認めざるを得なかった。ただ認めるわけに行かなかった。でも、遅かった。
顔が熱い。ああ、紫の瞳は確かに、いつも今の幽々子よりも近かった。
流されてしまっていた、わけではなかった。拒絶をしなかったのも、むしろ。
私は、積極的に、受け入れてしまっていたのだ。あの瞳を、指の暖かさを、唇の、舌の熱を。

無意識に唇に触れていた。ここに紫が触れる度、何かが変わっていくような気がしていた。
ひとしきり触れ合った後、離れていく熱が惜しかった。
紫はたまに、帰り際私を振り返って頬を撫で、泣いているような、笑っているような、呆れているような、そんな顔をしていた。
私が、きっとそうさせていたのだ。だって、決まってそんな日は、口づけの間私自ら、腕を伸ばし紫を求めて唇に、触れたのだから。


意識しないようにしていたこと、忘れようと務めていたことまで思い出してしまって動けなくなった私を、幽々子はさっさと帰りなさいとばかりに腕を引いた。





ぐるぐると幽々子の言葉を繰り返しながら、冥界を出ると既に日が傾いていた。
ふらふらと空の色の変わり目を追っていくと、赤に染まった空の端がじわじわとむらさきに侵食されていく。
赤、朱、紅、緋、むらさきにはどんな名前がいくつあるんだろうなどとどうでもいいことを考えながら神社に戻ると縁側に見慣れた顔が幾つか居た。

「よ、おっかえりー」

萃香が針妙丸を頭に載せたまま、ひょうたんの酒を煽る。
落ちかけた針妙丸が何事か言っているが、私は萃香の隣、妙に静かな紫から目が離せないでいた。

「いやぁ針もった小人がいるって聞いてたから、最近はあんまり立ち寄らなかったんだけど、こいつも話してみるとイイヤツだねえ。
ほんとはこのまま宴会に持ち込みたいんだけど、紫がなんか霊夢に大事な話があるって言うからさあ。
私はリュウグウノツカイよろしく空気を読んで、こいつ連れて飲み直してくるから、遠慮なくオハナシしちゃってよ」

べらべらとろれつの回らないまま言って、萃香は頭の針妙丸ごと飛び上がって行ってしまった。
紫は相変わらず一言も発しない。これでなんの『大事なオハナシ』か、ただ悲しいかな私は察してしまったのだ。


「見ていたんでしょう?」

それも、誤解されそうなタイミングだけ。

「……ええ、『見て』いたわ」
「じゃ、何を話していたのかも判るでしょ」
「『見て』いただけ、よ。何を話していたのかなんて判るはずもありませんわ」
「変なとこで気を使うのね。後で聞くくらいなら聞いてたほうが早いでしょうに。それとも聞いていた上で、本当のことを話すかどうか試しているの?」
「そういうことをすることもあるけれど。今は本当に教えて欲しいから聞いているのよ」

紫は扇子を口元に開いたまま、ほとんど伏せた瞼の奥は影になって見えなかった。
体が触れない程度の距離を空けて隣に座ると、紫は逆側を向いてしまった。

「……あんたのことよ。紫のことを聞きに行っていたの」

紫が振り向く。
眉を潜め、それでも私を真っ直ぐ見つめてくる瞳が、日が落ちた暗い境内でもはっきり見えた。

「何故直接紫に尋ねないのか考えているんでしょう?それはあんたの方よ。見ていた癖に話の内容は聞かず、ここで尋ねている。
私には何も言わず、こうして他に誰もいない時に神社に来て、私に……触れるの」

紫は何も言わない。ただまたほんの少し、瞳を伏せてしまった。

「ねえ、どうして?自分は私が何も言わないから触れるのに、私が幽々子と会うのは嫌なの?
私が……幽々子と触れるのは、嫌なの?」
「……そうね」

紫は扇子を置き、くいと私の顎を引いた。いつもの、私と紫の距離になる。
紫の瞳が私を覗きこんでくる。そのむらさきが、いつもとは違う、何か強い感情で占められているのがわかった。
暫く見つめ合ったまま、紫が口を開くのを待った。
だが紫は、何かを言いかけては辞めるを繰り返しては、その口を結んでしまった。

「……言わなくても判ることでも、あえて口に出して言ってほしいことだって、あると思うわ」

微かにため息が漏れた。その吐息が私の髪を揺らす。
あの口づけの時の、甘やかな吐息に似ていた。

「貴女は全てを平等に見て、受け入れること、拒むことを相手によって変えたりはしないけれど。
私を、その例外にしてほしいのよ。私だけを、見てよ、霊夢……」

そう言って、肩に額を埋めてくる。ちらりと覗いた耳と項が、見たこともないくらいにあかかった。
触れている場所が、たまらなく熱い。紫だけじゃなく、私の体温も。

「……最初っから、そう言えば良かったのよ、ばか」



耳に息を吹きかけてやったら、ひゃあと悲鳴を上げて飛び上がる。
その真っ赤な頬を両手で捕まえて、瞳を覗きこんだ。意趣返しのつもりだったのに、どうやら墓穴を掘ったようだ。
そのまま音もなく呟かれた言葉に、私は完全にやられてしまったのだ。


とりあえず、今後は『爛れた』だの『恋人でもないのに』だのと気にする必要は、なくなったようだから、よしとする。
「幽々子様お話がございます」
「あら妖夢戻っていたのね。夕餉は何かしら」
「その奇抜なお召し物の件で一つ」
「あら妖夢、私は少し人里に用が出来てしまったわ」
「ってその着物のままでどうするおつもりですか!すぐお着替えにならないからこんなにシミに!」
「いやいや妖夢、これは人里ふぁっしょんの最先端というものよ」
「なるほ……って騙されませんよ!さあそこにお直り下さい!」
「あーれー」


***
ゆかれいむちゅっちゅが書きたかっただけなのにどうしてこうなった
とりあえずゆかれいむちゅっちゅしろ
紗和
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
良いね
2.名前が無い程度の能力削除
良かったです
3.名前が無い程度の能力削除
ごちそうさまっした。
4.名前が無い程度の能力削除
ゆかれいむはやはり良いものだ
5.名前が無い程度の能力削除
かわいい