「あ、ナズーリン」
「どうしたんだいご主人、冴えない顔をして。今度はどんな宝塔をいくつ失くしたんだい」
「失礼ですね。私がとにかく宝塔を失くす奴というような安易なキャラ付けは不本意です」
「事実だろう。現に今こうしている間にもご主人が次から次へと宝塔を失くしているんじゃないかと、私は気が気じゃないよ」
「次から次へととは大げさな。だいたい今は失くそうにも宝塔を持っていませんよ」
「当たり前だよ。持っていたら失くしていないんだから。持っていないのなら失くしたんじゃないのかい」
「えっと。頭がこんがらがって来ました。とにかく、今は宝塔は部屋にあるのです」
「しかし、今手元にないその宝塔は本当に部屋にあるのかな。そもそもその宝塔は本当に宝塔なのかな」
「ちょっと待ってください。ホウトウ、ホントウ。宝塔っていったい何なのかわからなくなってきました」
「ほら見ろ。ご主人は宝塔どころか、宝塔という言葉の意味すら失くしてしまったじゃないか」