壁があった。
真っ白な空間に、ただ、壁があった。
それはまごうことなき壁だった。
黒と白の間の、どっちかいうと白かなという色(分かりやすく言うならば白っぽい灰色)の壁。
ずっとずっと続いているようだった。
壁の向こう側には誰かがいる気がして、ノックしてみる。
コッ、コッ、と音がなったが、向こう側に届いている気はしなかった。
拳で叩いてみても音は響かなくて、指が痛くなるだけだった。腹が立ったので妖怪らしく力任せに殴ってみたところ、手からバキッと聞こえてはならない音がした。すぐに治した。
叫んでみた。
「おおぅい」
おおぅいおおぅいと自分の声が響き渡る。
「うるさい」
苦情がきた。
「ごめんなさい」
謝った。
「許す」
許された。
「その声は霊夢ね、壁の向こう側で何をしているんですか」
今度は叫ばず、問いかける。
「壁の向こう側にいるのはあんたで、私は壁のこっち側にいるのよ」
霊夢はそう言ったので、「そういうものか」と思った。
そちらに行っていいか?と問いかけたところ好きにすればと言われたので、霊夢に会いに行くことにした。
私は霊夢が好きだった。
だから会いに行くのだ。
まずはずっとずっと右に行ってみた。ずっとずっとずっとずっと行ってみた。
景色は変わらなくて、真っ白な空間に、灰色の壁があった。
何時間歩いたろうか、端が見えてくる気配はない。
「霊夢、壁は終わらないの?」
「いつか終わるかもしれないし終わらないかもしれないわ」
もしかしたら逆側は壁が短いかもしれない、と、今度は左向きに同じ時間をかけて歩いていってみた。
壁を殴ったときに出た血が床に散っていた。
そうだ、これはスタート地点の目印のために血をつけたんだ。
思い付いて霊夢に言ってみたら無視された。へこんだ。
先程とは逆がわに、進む、進む。
ずっとずっと壁が続いていた。
これではいつまでも霊夢の元にたどり着けない、と壁を見上げる。
そうか、上から、行けばいいのか。
ぐんぐんぐんぐんとんでとんで壁の上を目指す。
ぐんぐんぐんぐん。
ぐんぐんぐんぐん。
壁の果てが見えてくることはなかった。ずっとずっと上に続いていた。
下を見ると地面はずっと遠くに見えた。
右を見ても、左を見ても、ずっとずっと壁は続いていた。
「霊夢。会いに行けそうにないわ」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
瞳から滴が落ちる。
ずっとずっと落ちていって、地面に到達して弾けるのがわかった。
「いいとしして、泣かないの」
頭をぎゅっと抱き締められる。
あまり柔らかくはないけどとてもあたたかい胸に頭が沈められた。
「れい、む?」
「ええ、私は霊夢よ」
顔を見上げると今まで見たことのない優しい笑顔を浮かべた霊夢がいた。
つー、と、頬に川ができた。
「れいむ!霊夢。霊夢、霊夢」
「はいはい。ほら、泣かないでってば」
ああ、これは夢なんだなぁ、と気付いてしまうと涙が止まらなくなって、ぐずぐず泣き続けていた。
+ + +
はっと、目が覚めた。
体を起こして、頬に違和感を感じて手をやると、濡れていた。
「………そういうこと」
布団でがしがし顔を吹いて、立ち上がるといつも通りに動き出す。
朝食を食べていると、大きな、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
無言で針を飛ばす。
「痛いなぁ酷いですよ、霊夢さん」
「あんたがうるさいからよ、文」
あんなにも文が私を好きで、いなくなったら探すと知っていて、文の側からは寿命の壁をどうしようもできないくって。
そして、私もまんざらでもなくて。
すこしちゃんと考えてあげようか、と思えた。
真っ白な空間に、ただ、壁があった。
それはまごうことなき壁だった。
黒と白の間の、どっちかいうと白かなという色(分かりやすく言うならば白っぽい灰色)の壁。
ずっとずっと続いているようだった。
壁の向こう側には誰かがいる気がして、ノックしてみる。
コッ、コッ、と音がなったが、向こう側に届いている気はしなかった。
拳で叩いてみても音は響かなくて、指が痛くなるだけだった。腹が立ったので妖怪らしく力任せに殴ってみたところ、手からバキッと聞こえてはならない音がした。すぐに治した。
叫んでみた。
「おおぅい」
おおぅいおおぅいと自分の声が響き渡る。
「うるさい」
苦情がきた。
「ごめんなさい」
謝った。
「許す」
許された。
「その声は霊夢ね、壁の向こう側で何をしているんですか」
今度は叫ばず、問いかける。
「壁の向こう側にいるのはあんたで、私は壁のこっち側にいるのよ」
霊夢はそう言ったので、「そういうものか」と思った。
そちらに行っていいか?と問いかけたところ好きにすればと言われたので、霊夢に会いに行くことにした。
私は霊夢が好きだった。
だから会いに行くのだ。
まずはずっとずっと右に行ってみた。ずっとずっとずっとずっと行ってみた。
景色は変わらなくて、真っ白な空間に、灰色の壁があった。
何時間歩いたろうか、端が見えてくる気配はない。
「霊夢、壁は終わらないの?」
「いつか終わるかもしれないし終わらないかもしれないわ」
もしかしたら逆側は壁が短いかもしれない、と、今度は左向きに同じ時間をかけて歩いていってみた。
壁を殴ったときに出た血が床に散っていた。
そうだ、これはスタート地点の目印のために血をつけたんだ。
思い付いて霊夢に言ってみたら無視された。へこんだ。
先程とは逆がわに、進む、進む。
ずっとずっと壁が続いていた。
これではいつまでも霊夢の元にたどり着けない、と壁を見上げる。
そうか、上から、行けばいいのか。
ぐんぐんぐんぐんとんでとんで壁の上を目指す。
ぐんぐんぐんぐん。
ぐんぐんぐんぐん。
壁の果てが見えてくることはなかった。ずっとずっと上に続いていた。
下を見ると地面はずっと遠くに見えた。
右を見ても、左を見ても、ずっとずっと壁は続いていた。
「霊夢。会いに行けそうにないわ」
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
瞳から滴が落ちる。
ずっとずっと落ちていって、地面に到達して弾けるのがわかった。
「いいとしして、泣かないの」
頭をぎゅっと抱き締められる。
あまり柔らかくはないけどとてもあたたかい胸に頭が沈められた。
「れい、む?」
「ええ、私は霊夢よ」
顔を見上げると今まで見たことのない優しい笑顔を浮かべた霊夢がいた。
つー、と、頬に川ができた。
「れいむ!霊夢。霊夢、霊夢」
「はいはい。ほら、泣かないでってば」
ああ、これは夢なんだなぁ、と気付いてしまうと涙が止まらなくなって、ぐずぐず泣き続けていた。
+ + +
はっと、目が覚めた。
体を起こして、頬に違和感を感じて手をやると、濡れていた。
「………そういうこと」
布団でがしがし顔を吹いて、立ち上がるといつも通りに動き出す。
朝食を食べていると、大きな、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
無言で針を飛ばす。
「痛いなぁ酷いですよ、霊夢さん」
「あんたがうるさいからよ、文」
あんなにも文が私を好きで、いなくなったら探すと知っていて、文の側からは寿命の壁をどうしようもできないくって。
そして、私もまんざらでもなくて。
すこしちゃんと考えてあげようか、と思えた。